ヒーローになる原点なんて、他の誰かみたいに大層なものじゃない。比べるべくも無いほど、醜くて、薄汚れていて、低俗なものだ。
親へ、いじめた側へ、今まで私を見下してきた奴等へ。私はここまで登り詰めたのだと証明するために、私はお前たちよりも高位にあるのだと言い返すために。敵へとなる道もあったが、それでは私の美学と法に反する。相手が許しを請うような、へりくだって媚び諂うよつな、比較した全てにおいて勝利するような、圧倒的で法に反さず、美学に沿い、なおかつ社会的に認められるような復讐を。
私の名前は
▼▽▼
賽は投げられた、そう言いましたね。アシダカグモ+サソリ+バッタ+アリ+ハチ+トンボの個性重ねがけで5m近い醜い異形の姿となりながら、市街地へと入り込む。顎で粉砕し、鋏で砕き、少なくなれば飛んで探す。
笑う。虫の合体したような私を見て、醜悪に顔を歪ませた他の受験生が動きを止めたのを良いことにポイントを横取りする。ああ、楽しい、楽しいわ!
試験が終わって、これほどまでに自由に個性を使ったのは初めてだと高揚する。興奮を隠しながら帰路につく。筆記は自己採点でも余裕の合格判定、実技のポイントは75点。例年で言えば合格ライン越えだろう。
気分は上々で帰宅する。
「ただいま」
「あ、文香おねーちゃん!おかえり!」
ドタドタとちびっ子に囲まれて、どうだっただのなんだのと聞かれる。
「文香、おかえり」
「ただいま、桐生さん」
返事はするが、一瞥する。苦笑いにも等しい表情で、桐生さんは肩をすくめる。
「……ごめんなさい」
「ふふっ、文香のペースで慣れていけばいいさ」
桐生さんは、この木蓮院を運営する人で、元はヒーローだったが、引退してヴィランや災害によって身寄りを失った子を引き取っている。
かく言う私も、虫の個性を気味悪がり、物心つくまえに捨てられていた。暫くは施設にいたが、虫が人間と合体するような個性で、たらい回しにされた。精神衛生上、よくないらしい。この個性は人から気味悪がられ、気持ちが悪いと言われ、人によっては接近や同じ空間にいることさえ拒否される。
そこで、私を拾ったのは桐生さん。虫の個性を持つ私をここまで育ててくれた恩人だ。だが、それでも、私は大人を警戒してしまう。捨てられる事を、拒絶される事を。
最年長の特権である個室へ戻ってきて、私は日記を綴る。試験内容、出た問題、高揚感、同じ会場の人達。ある程度書き終えて、収まりつつある昂りと共に疲労感を覚える。今日はもうお風呂に入って寝よう。
▼▽▼
「おねーちゃん!おねーちゃん!おねーちゃん!」
「何よ……」
少し、寝過ごしたらしい。試験から数日、久し振りにこれだけ寝たなぁ、なんて思いながら、扉を開ける。
「……どうしたってのよ」
「これ!」
雄英からの手紙……。なにか入ってる?
封筒を開けると、机の上に手紙と機械が転がる。すると、機械が机の上に画面を投影する。
『わーたーしーが!投影された!』
「わぁ!オールマイトだ!」
「シッ。静かに」
『結果から言おう!おめでとう、夜蜘少女!君は合格した!』
「……。」
『筆記、実技、共に申し分ない点数だった。そして、その強力な個性、雄英は君を受け入れる。ここが、君のヒーローアカデミアだ』
映像が終わったのか、プツンと画面が途切れる。
「……合格したみたいね」
「やったー!」
「桐生さん!文香おねーちゃん合格してた!」
口々に歓声を上げながら、5人でわちゃわちゃと走っていく。その背中を見送りながら一人、拳を握る。ついに、ここまで来たのだと。
「見ていなさい……」
一人、決意を固めるが、戻ってきた5人に連れられて合格祝いに引っ張り出されたのは、また別のお話。