復讐虫のヒーローアカデミア   作:アリガートル

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第十三話:燃え上がる決意

 大人しく控え室で待っていようと廊下を歩く。

 

「あら緑谷」

「あれ?夜蜘さん?」

 

 チラリと控え室の番号を確認してみれば、私の控え室とは異なる番号であった。間違えた謝罪を述べて去ろうと思った矢先、緑谷に止められた。

 

「夜蜘さん、答えたくなかったら、答えなくて良いから。……君は、何でヒーローに?」

「……無粋な質問だわ。下賤で、低俗で、余りにも冒涜的ね」

「ごめん……」

「答えてあげる。復讐よ、私を馬鹿にした奴らを、捨てた両親を、過去の私を。それら全てに今の夜蜘 文香が全力全霊で報復を殴り付けるのよ」

「それって、かっちゃんとかが言ってた虫女ってやつのこと?」

「何?あなたって人の地雷を踏み抜く趣味でもあるの?」

「ご、ごめん!そんなつもりじゃ……轟くんと少し話して……」

「焦凍と?……何か入れ知恵でもされた?」

「……君も、轟くんも、僕からしたら凄く強い人達だから。強いだけじゃないけど、それでも"個性"でも人間的な面でも、強いと思ったんだ」

「それで?」

「轟くんに宣戦布告された。さっき、廊下ですれ違ったんだ。全力で潰すって。だから、全力で応えたい」

「あら、そう。……実力は完全に焦凍が上よ。胸を借りるつもりでぶちかましなさいな」

「あはは、そうするよ。それと、もし夜蜘さんに会ったら伝えてくれって」

「伝言?」

「俺の決意を見ていてくれ。そう言っていた」

 

 ……馬鹿ね。私が見に行かないのを知っていてそんなことを。

 

「ありがとう緑谷。間に合って良かったわ、行くところが出来たわ。じゃあね」

 

 返答も聞かずに観客席へ走り出す。暑い方へと進んでいき、エンデヴァーの元へと辿り着いた。

 

「エンデヴァー」

「夜蜘か、何かあったか」

「焦凍の決意を見届けるわよ」

 

 エンデヴァーの手を引っ張り、観客席の最前列までやって来る。丁度緑谷と焦凍の戦いが始まる直前で、入場する焦凍と目が合う。

 

 しかし、目を緑谷へと向けた焦凍。エンデヴァーには目をくれなかったが、それでも焦凍は分かっているのだと思う。

 

 始まった瞬間、焦凍は予想外の動きをした。場を覆うように氷を張り、場内の温度は急激に冷えていく。そして、自身の背後に氷壁を作ると、満を持したかのように氷結を放つ。

 

 それで決まるはずも無く、緑谷は人差し指を犠牲に氷結を弾き返した。氷点下の強風が会場を撫で、観客は悲鳴を上げる。

 

 続いて、二度同じく事が繰り返され、緑谷の右手は機能を喪った。しかし、焦凍もそれは同じで身体に霜が降り始めた。焦凍は叫ぶ緑谷を近距離での氷結なら避けられないと考えたのかその距離を詰めた。

 

「右足が上がった瞬間に……!」

 

 思わず口から出た。緑谷は氷結を封じるべく、起点である右足が上がったタイミングでその左手を引き絞った。焦凍の顔が、苛立ちや焦りに似た表情に変わり、緑谷の反撃かと思われた。

 

 だが、ここで焦凍の決意を見た。

 

 小規模の爆発か起きた。衝撃波に目を覆い、再び見た時には焦凍と緑谷はお互いに最も遠い位置で氷の壁に場外を阻まれていた。爆心地の氷は気化したのか、既に無く、冷えた空気を更に会場に送り出していた。

 

 そこからの焦凍は速かった。

 

 左手――即ち炎を行使した。焦凍は温度を上げるためか左半身から炎を吹き上げながら氷結を放つ。放たれた氷結は全て左手の犠牲により防がれたが、既に会場の一部が氷始める程にまで凍えた場所で、焦凍はその炎を白く染め上げた。

 

「いかん、会場が吹き飛びかねん」

「え?」

「伏せろ夜蜘!」

 

 瞬間。大爆発が起きた。反射的にクロカタゾウムシを発現させ、蜘蛛糸で地面を捉えて耐える。エンデヴァーが盾になってくれたこともあり、やがて風が止んだ事を感じとり立ち上がる。

 

「何が……」

「熱膨張だ。凍り付く程に冷やされた空気が、焦凍の大規模な炎により瞬間的に熱せられた」

「それでこの爆発って、威力がおかしくないかしら」

 

 緑谷は壁まで吹き飛び、自身を氷で固定していた轟の場外勝ちだった。コンクリートの壁が複数層に分かれて場内を覆い、爆風を抑えていたが、抑えてこれだ。威力が桁違いすぎる。

 

「これが……焦凍の……」

 

 余韻も束の間、氷を溶かしていく轟を横目に、エンデヴァーを連れて出入口へと向かう。

 

「夜蜘、先にいいか」

「ええ」

 

 左側のジャージが所々燃え尽きた焦凍を、エンデヴァーが出迎える。

 

「焦凍、これがお前の決意か」

「そうだ」

「……コントロールがベタ踏みだ。細かい操作がなってない」

 

 そう言われた焦凍は不服そうな表情を隠しもせずにエンデヴァーを見つめていた。

 

「ようやく、"個性"を使う気になったか」

「過去は覆らねぇ。あんたへの恨み、左側への憎しみ、忘れた訳でも、捨てた訳でも無い。でもな、この"個性"は、俺は、お前には縛られない。お前を踏み越えて、俺の意志でNo.1を目指す」

 

 左手に拳を作り、焦凍は宣言する。

 

「俺はなりたい自分になる。その為にお前を、この"個性"を利用する。見てろ、俺は俺のやり方で進んでやる」

 

 エンデヴァーの横を通り過ぎ、焦凍が私に向かってくる。

 

「文香」

「何かしら」

「ありがとう」

「どういたしまして」

「見ててくれたか」

「身に沁みる程ね」

「そうか……決勝で待ってる」

「ええ」

「全力でやるぞ」

「そうね」

「……楽しみだ」

 

 それだけだった。それでも、私には分かる。これでいいのだと。彼の決意は見届けた。であれば次に会うのは試合の相手としてだ。それが、お互いに望むことだ。

 

「私、行くわ。エンデヴァー、焦凍の事を見ててあげなさいな」

「言われるまでもない」

「あらそう。それならいいわ」

「……済まないな。俺と焦凍で解決すべき事だというのに」

「気にしないで、これでも役得だと思ってるのだから」

 

 エンデヴァーと控え室に向かう。次の相手は常闇だ。闇が相手なのなら、こちらにも手段はある。待っていなさい焦凍。私と決勝で会うまでね。

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