三回戦。相手は予想通りに爆豪。であればアイツの性格からして持久戦はアイツの得意分野だから、なるたけ短めで決着を狙うか?だが、これまでの試合映像を確認したが、ほぼ全試合において長期戦かつ弱点を割り出してそこを狙う、嫌な戦法を取ってきている。
じゃあそこでどうするか?
爆発の威力にもよるが、麗日戦で見せたあの大爆発は流石に耐えられない。一度焦凍と戦い、炙られたおかげである程度自分の中で熱に対する裁量が出来上がっていたのが幸いね。
とは言え、熱と衝撃波を伴う爆発に対処するには避けるか受け止めるか、はたまた使わせないか。ゾウムシとサソリ系統の重ね掛けで炎には耐えられたけど爆発で割れない保証は無いし、それをやると機動力は否が応にでも落ちてしまう。
爆破で空を跳べる程度のアイツに、自由自在に飛べる私が空中戦で引けを取る訳がないが、煙による目眩まし等があるために油断は出来ない。
そう言えば、今までは正面切っての殴り合いばかりしていたわ。瀬呂みたいに奇襲が許されるのなら、私のやり方だって正攻法になる。
「ま、そっちの方が私の本懐だわ」
▼▽▼
『準!決!勝!ここまで勝ち上がってきた二人に敬意を!そして熱いバトルの期待を!』
『爆豪 勝己 対 夜蜘 文香!!』
最速。両手首から放つ糸が爆豪の手と脚に巻き付き封じる。
「……は?」
「お生憎。私って小細工の方が得意分野なの」
『おおっ!?ここに来て夜蜘、まさかまさかの不意討ち、奇襲を仕掛けたぁ!?』
仕上げとばかりに全身を拘束していく。爆豪の顔は修羅が如くに歪んでおり、段々と見えなくなっていく。動きはするが抵抗は出来ない。暫くそうしてミッドナイト先生の審判を待つ。
「駄目そうね。爆豪くん行動不能!夜蜘さんの……!?」
審判が下され、勝利を確信し焦凍との決勝に思いを馳せた途端、大爆発。余りの衝撃に会場が崩壊する。
「誰が行動不能だぁ……?」
土煙の中から、修羅が現れる。
「糸に巻かれたくれぇで動けなくなるかよカスがぁ!!」
「あなた本当に口が悪いのね」
体に着いた糸を取りながら、爆豪が叫ぶ。
「んだコラ虫女!クソみてぇな手を使いやがって!」
「私の勝ち……って訳じゃ無さそうね」
「爆豪くんはまだ動けているわ、試合は続行よ!」
爆破にゾウムシの鎧を着て耐え、接近してくる爆豪の伸ばされた手をヘラクレスで掴み、逆の手の爆破をギラファで挟んで逸らす。両手を封じられたままで蹴りが飛んでくるが、バッタの脚力で蹴りをカウンターして吹き飛ばす。
ギリギリの所で復帰して、再度相対する。
自爆覚悟だったのか、彼の身体は既に傷だらけだった。だが、それよりなにより優先すべき事がある。
「私、前に言わなかったかしら?」
「あ?」
「次は無いって」
ギガインセクトパーツ。
「テノデラ・アリディフォリア!!」
『常闇との戦いでも出したデッケェカマキリの斧!あの爆豪が逃げる位にヤベーイ攻撃だぁぁ!』
振り下ろすは蟷螂の斧。地面へと突き刺さると同時に爆豪が避けて、横に跳んだのを見て更に攻撃を加える。
バッタ+クワガタ+トンボ。
「キメラインセクト!」
『間髪入れずに追撃!今まで攻勢で仕留めてきた爆豪が、夜蜘に押され気味か!?』
跳び、飛翔し、爆豪の背後に回りその横腹に蹴りを入れる。吹き飛びながら爆破を浴びせて来たが、クワガタでもこの程度なら耐えられる事を知り、追撃する。
「私、やられたらやり返さないと気が済まない質なの」
「知るかんなこと……!」
両手に発現した顎をさながら剣の如くに使って爆豪を殴る。横、袈裟、胴体、背中。飛んでいる私にとって、空中で爆破を避けながら攻撃を叩き込む事なぞ造作も無い。
「っぜぇなあぁ!その羽根ぇぇ!」
しかしやられっぱなしの爆豪ではなくて、攻撃のタイミングに合わせて遂にカウンターを合わせてきた。しかも背中の羽根を狙った一撃で、私は途端に飛翔力を失った。
「しまった……!」
「とでも、言うと思ったかしら」
サソリ+シャコ+ハチ+カブトムシ。
サソリの下半身と鋏、シャコの腕、ハチの顎、カブトムシの筋肉と角。
重厚に着地した私の攻撃半径から飛び出て、ヒトの形から逸脱した私を爆豪が睨み付ける。
「それが本気か?」
「どうかしら。私、本気出せる相手に会ったのは二度しかないの」
まぁ。
「その二度とも、あなたでは無いのだけれど」
飛び掛かってきた爆豪を尾で牽制し、鋏で防御し、顎で懐への跳び込みを防ぎ、角の一撃を狙う。甲殻に覆われたこの身体は爆破で傷付きはすれど、中に届くことはない。鋏の表面が幾度と無く焼かれるが、それだけだ。焦げ付くだけだから、私はまた鋏を振り上げ爆豪の首を狙う。
「効かないって分からないかしら?それとも、私にも弱点があるって言いたいの?」
爆破で跳躍、迎撃の尾を爆破で逸らし、鋏を踏み台にもう片方の鋏を掻い潜り、角の内側に入ると顎を掴んで上に、私の元へ上がってくる。
「お前の弱点なんて端っから分かってんだよ」
爆最終防衛線であるシャコパンチは爆破によって私の背面に跳ぶ事で避けて、パンチは空振りに終わる。
「慢心して隙がデケェんだよ、虫女」
今までに無いくらいの爆発。余りの威力にキメラインセクトが解除されて地面に転がる。しかしそれは爆豪も同じだったようで、右手を押さえながら相対する。お互いに傷付いての仕切り直しになったようだ。
「残念だったわね、弱点らしい弱点が無くて」
「テメェのその余裕ブッこいた面を爆破してるだけで勝てるからな」
立ち上がり、砕けた会場を挟んだ向かい側に爆豪を見る。次に使う手は?相手は長引く程にエンジンかかるスロースターター。
じゃあ、私は?長期戦だろうと短期決戦だろうと、場所すら関係無しに全力を発揮出来る。
奇襲は失敗、殴り合いは五分。
「……良いわ」
バグアーマー。
ゾウムシ+ハエ+ゴキブリ。
人の形のまま、甲殻に覆われていく。複眼が形成され、死角が無くなっていく。両手の指まで甲殻に覆い尽くされ、筋肉は液体となり人間の領域を遥かに越えた速さに進化する。
「殴り合いましょう」
仕掛けたのは私。人間のスピードを越えた右ストレートを、勘か実力か、掠めながらも身を捻った爆豪のカウンターの爆破を耐えて横薙ぎに脚を振るう。
直撃したと見えたが、当たる寸前に爆破で吹き飛ばされる方向に跳ぶ事で威力を軽減させ、受け身を取ってダメージを抑え、転がりながら立ち上がり、駆けて来る。
爆破、跳躍、再び爆破で加速をした所でサマーソルトキック。起点である腕を弾かれ、空中でバランスを崩した爆豪の顔を掴み、反射的に私の腕を掴んだのを見て腹目掛けて膝を落とし、重力に任せて着地する。
「っが……ぁ……!」
バウンドして衝撃を逃がしたりはしない。突き刺さる様な着地をした爆豪は動かなかった。まぁ、ここまでやって動くのであれば化け物以外の何者でもないか。
「まだ……だ……」
ナゲナワグモの粘液球を形成して振り下ろす。しかし、直撃よりも早く爆発が起こり粘液球が燃えて無くなる。
燃えた段階で手を離し、爆発と炎に紛れて飛び上がる。先程まで居た場所を大規模な爆発が吹き荒れ、爆豪と目が合う。
「スタミナお化けめ」
「まだ終わって……ねえぇぇ!」
急降下、直角に曲がってフェイントをかけて体当たりで場外を狙うが、ギリギリの所で耐えられる。息が上がっていたのに気付き、距離を取りつつ呼吸を整える。
「息が上がってるみてぇだな」
「そうね。久しぶりだわ」
「そりゃそうだろうなぁ……」
フラッと、身体が揺れる。
「昔のバカデケェ虫が、なんで小さくなったか知ってるか?」
頭痛がする。
「酸素濃度の低下だよ。今の虫程度ならまだしも、テメェみたいな大きさじゃ、今の空気は薄すぎる」
目眩がして、膝をつく。
「お前、今酸素が足りてねぇんだよ」
息が荒い。虫の"個性"が解除される。
「なんのためにあんな規模の爆破をしてたと思う」
「酸欠で倒すため?……陰湿で迂遠な愚行だわ」
深呼吸。ここですべきは警戒だ。
「それに、お前無理しすぎたろ」
「無理?いいえ。無理なんて……ええ、そうね。無理だってするわよ」
ギガインセクトパーツとキメラインセクト、バグアーマーの多用と連続使用、複眼による神経系への負荷。申し訳ないが無茶なのだろう。この頭痛は酸欠のせいだけではないのは目に見えている。
「お前、その虫みたいなのが本当の姿かよ」
そう言われて、初めて気付く。いつの間にか、口元が昔の様になっていた。ああ、そうか……もう隠す必要も無いのか。それに、私は焦凍に約束したんだった。
「そうヨ。私は昔はこんな姿だったから虐められてたノ。ま、今じゃどうでもいい過去だワ」
バグタンク。
「スコロペンドゥラ・ギガンティア」
5m近くのオオムカデとなって爆豪に襲いかかる。余りにも巨大なムカデの姿を見て、観客席などから小さく悲鳴が聞こえる。しかし、それを気にもせずに爆破を越えて正面から牙で捉える。しかし、爆破で勢いをつけた蹴りで根本から牙が割れて折れる。
「あら、牙を折るなんて酷いのネ」
「黙りやがれ虫女!」
キメラインセクト。
クワガタ+カブトムシ+ハエ+アリ+サソリ。
「今度は折れないワ」
何があっても、ね。どんどんと醜く、多数の虫が無理矢理融合させられたかのような姿に変貌し、爆豪を押し潰さんと蠍の鋏を振り下ろす。崩壊した会場は更に割れて破片が舞う。破片を鋏で弾いて散弾を放ち、叩き付けられる尾と破片は爆破に薙ぎ払われ、続く角も避けられる。
顎で挟もうとすれば上半身を反らして避けられ、鋏もスルスルと間を抜ける。一度下がり、加速して再度顎と鋏で捉える。
「来た……!」
「クソがっ!離せっ!」
右の鋏で掴んだ爆豪を、蜘蛛糸で鋏ごと固定して場外狙いで急いで運ぶ。しかし、鋏の腕が千切れる程の爆発により失敗に終わる。
お互いにボロボロ。鋏は一つ失ったが、まだ角と顎と尾と蜘蛛糸がある。まだ戦える。
爆豪が煙の中から現れ、一歩踏み出す。
「限界だろ、テメェ」
身体は動かない。
「自分の顔を拭ってみろよ」
言われた通りに、右腕で拭うと鼻血が出ていた。どころか血涙まで流していた。爆豪を見やれば、その目は私を射貫き、油断も慢心も無く次の一手を見ていた。
「……やるじゃない」
身体から力が抜ける。虫の身体を維持出来ずに、人間の姿へと戻る。仰向けに転がり、空を見る。青く、どこまでも青い空の下。だんだんと落ちていく目蓋に抗いも出来ずにその意識を手放す。
結んだ約束、破るには早すぎたかしら?