目が覚める。頭痛、再生に伴う痛み、外傷、その他諸々。
「目は覚めたかい?」
「ええ」
何処か既視感を覚えるやり取りをする。出張保健室の様な場所で、衝撃で窓が揺れている。決勝戦であれば、爆豪と焦凍の二人だったかしら。
「今はどんな状況ですか?」
「全身に打撲、全身122箇所に傷、その他諸々」
「神経系も。特に視神経ね、目の前が真っ暗だわ」
「救急車呼ぶかい?それとも再生の方が早いかい?」
「そうね、再生させるわ。手を貸して頂けるかしら」
リカバリーガールの手を借りて全身を再生させる。激痛と、身体が再生する音が響き、段々と視界に光が戻る。しばしばする目を瞬かせ、視界を改善させる。身体の隅々まで神経を巡らせて異常を確認する。
「……大丈夫。全部治ったわ、治したわ」
「本当、無茶するね。一応異常無いか検査させてもらうよ」
精密な検査、とは言えなかったがその場で出来る限りの検査を行い、怪我もおかしな部分も無い身体が保障された。血に塗れた体操服の代わりを受け取り、着替えながら話に応える。
「……無茶するね、あんた」
「そうかもしれませんね。私、負けたくなかったので」
「だとしても"個性"を使用していた部位の血管、筋肉、神経の損傷とそれに伴う出血多量。最初から見てたけど、あんたじゃなきゃ死んだと判断したさね」
「あら。太鼓判と受け取ってよろしくて?」
「好きにするんさね。あんたみたいな"個性"は死ななきゃ安いが罷り通っちまう。だからこそ気を付けなよ。死んだら最期だ」
そう言うリカバリーガールの後ろ姿は何処か寂しそうで、その経験故の言葉だと受け取る。着替え終わり、表彰式があるから、行けるならと聞かれ、無論と応えて表彰式へ歩を進める。
「文香!」
私を見た焦凍は目の色を変えて駆け寄って来た。先程までの試合の名残か、所々煤けて傷が出来ている。そんな彼を制止する。
「焦凍、私は貴方と約束したわ」
「……ああ」
「約束を破ったことは謝るけれど、そんな顔される覚えはないわ」
「わかった」
心配されるほど弱くない。言葉少なにそう言い聞かせると、どこか不安そうなままに了承してくれた。一方の爆豪も見た目だけなら傷だらけだが、闘志未だ収まらずといった顔で焦凍を睨み殺さんとしていた。どちらが勝ったのかなど、すぐに分かるのだから聞かないことにした。
「それでは、これより表彰式を行います」
促されるままに三位の表彰台に昇る。隣には爆豪、その奥には焦凍がいた。少し驚いたが、焦凍は何を言うでもなく前を見据えていた。
ミッドナイトが言うには、委員長も本来私と共に三位で表彰される予定だったが、都合により早退したらしい。
「さぁ!メダル授与よ!」
オールマイトが颯爽と登場し、しかしミッドナイトの司会と被って、段取りの危うさを匂わせる。しかし、すぐに銅のメダルを持ってオールマイトは正面に立った。
「おめでとう夜蜘少女!素晴らしい技の数々だった!」
「ありがとうオールマイト」
頭を少し下げてメダルを掛けて貰う。小声でハグはOK?と聞かれたのでオールマイトならと返す。力強く、しかし優しさ溢れるその抱擁は、いつかの襲撃の記憶が微かに脳裏をよぎった。あの時はほぼほぼ覚えていないが。
「しかし!しかし、だ!君は無茶をし過ぎるきらいがある。自分の身を顧みる事だ。実戦では君が再生できるといっても、君自身が無事でなければならない。いいね?」
「今後の課題にしておくわ」
続いて銀色のメダルを焦凍の首に掛けていく。同じように抱擁し、聞こえはしなかったがアドバイスを送っているのだろう。
最後に爆豪。素直に首に掛けられたが、不服そうに焦凍を見る。
「お前、あんなもんじゃねぇだろ」
「俺は全力で撃ち合った。俺の力はまだまだこんなものって事だ」
「まぁまぁ爆豪少年。見事なフラグ回収だったよ」
焦凍は自身の左手を握り締めながら考えている様だった。爆豪もそれ以上何も言わなかったが、何処か思うところがあったようだ。
「さぁ、今回ここに立てたのはこの三人だ!しかし、その権利は今この場の誰にも等しくある!それを証明して見せてくれたのは紛れもない彼ら彼女らだ!競い、協力し、更に高く遠く!次代のヒーローの姿がここにはある!!」
ああ、そうか。
私は。
「やっとだわ」
あいつらはこれを画面越しに見ることしか出来ないのであろう。あの日の夜蜘 文香はもういない。今ここにいるのはヒーローを目指した夜蜘 文香だ。故に、私は勝ち誇り、更なる高みを目指す。
観客席のチビ達に手を振って、表彰台を降りる。私の復讐はまだ続く。しかし、その行程を一つ終えた。ああ、なんと素晴らしい事だろうか!
今日はなんとも激動の1日だった。桐生さんに先に帰るように告げて焦凍の隣を歩く。
「オールマイトと何話してたの?」
「……俺はまだこの力を上手く使えていない。まだ、先は長い」
「あら、それならエンデヴァーにでも頼めばいいじゃない」
「そんな軽く言える間じゃねぇ」
「残念。親子ってもう少し気楽なものだと思ってたわ。それに、少しは話せるようになったと思ったのだけれど」
「…………まぁ、考えてみる」
電車に乗って、隣り合う。電車の揺れが心地良い、今日は無理をしすぎたようだ。段々と瞼が重くなっていく感覚と共に、未だ焦凍と今日の事を話していた。
「文香?」
「ぅん……?」
「駅に着く時に起こす。寝てていいぞ」
「うん……」
うつらうつらとしていると焦凍が優しく肩を貸してくれる。それに甘えて肩に頭を預け、遠退く意識を完全に手放す。
▼▽▼
「文香、文香。駅に着くぞ」
「……んぅ……」
瞼がとても重い。しかし、現状を顧みて直ぐ様に意識が覚醒する。焦凍にしなだれ掛かり、肩に頭を置いて熟睡していた。だが、ここで跳ね起きる程幼くは無い。顔が熱いが、何事も無いかのように鞄を手に取り、伸びをして立ち上がる。
「肩借りてたわ、ありがとう」
「ああ。またな」
「ええ。また」
電車を見送り、顔を覆う。ここで挫ける私じゃないと帰路に着く。桐生さんやチビ達が待つ木蓮院へ。