復讐虫のヒーローアカデミア   作:アリガートル

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第十六話:いつぞやの願い

 目が覚める。頭痛、再生に伴う痛み、外傷、その他諸々。

 

「目は覚めたかい?」

「ええ」

 

 何処か既視感を覚えるやり取りをする。出張保健室の様な場所で、衝撃で窓が揺れている。決勝戦であれば、爆豪と焦凍の二人だったかしら。

 

「今はどんな状況ですか?」

「全身に打撲、全身122箇所に傷、その他諸々」

「神経系も。特に視神経ね、目の前が真っ暗だわ」

「救急車呼ぶかい?それとも再生の方が早いかい?」

「そうね、再生させるわ。手を貸して頂けるかしら」

 

 リカバリーガールの手を借りて全身を再生させる。激痛と、身体が再生する音が響き、段々と視界に光が戻る。しばしばする目を瞬かせ、視界を改善させる。身体の隅々まで神経を巡らせて異常を確認する。

 

「……大丈夫。全部治ったわ、治したわ」

「本当、無茶するね。一応異常無いか検査させてもらうよ」

 

 精密な検査、とは言えなかったがその場で出来る限りの検査を行い、怪我もおかしな部分も無い身体が保障された。血に塗れた体操服の代わりを受け取り、着替えながら話に応える。

 

「……無茶するね、あんた」

「そうかもしれませんね。私、負けたくなかったので」

「だとしても"個性"を使用していた部位の血管、筋肉、神経の損傷とそれに伴う出血多量。最初から見てたけど、あんたじゃなきゃ死んだと判断したさね」

「あら。太鼓判と受け取ってよろしくて?」

「好きにするんさね。あんたみたいな"個性"は死ななきゃ安いが罷り通っちまう。だからこそ気を付けなよ。死んだら最期だ」

 

 そう言うリカバリーガールの後ろ姿は何処か寂しそうで、その経験故の言葉だと受け取る。着替え終わり、表彰式があるから、行けるならと聞かれ、無論と応えて表彰式へ歩を進める。

 

「文香!」

 

 私を見た焦凍は目の色を変えて駆け寄って来た。先程までの試合の名残か、所々煤けて傷が出来ている。そんな彼を制止する。

 

「焦凍、私は貴方と約束したわ」

「……ああ」

「約束を破ったことは謝るけれど、そんな顔される覚えはないわ」

「わかった」

 

 心配されるほど弱くない。言葉少なにそう言い聞かせると、どこか不安そうなままに了承してくれた。一方の爆豪も見た目だけなら傷だらけだが、闘志未だ収まらずといった顔で焦凍を睨み殺さんとしていた。どちらが勝ったのかなど、すぐに分かるのだから聞かないことにした。

 

「それでは、これより表彰式を行います」

 

 促されるままに三位の表彰台に昇る。隣には爆豪、その奥には焦凍がいた。少し驚いたが、焦凍は何を言うでもなく前を見据えていた。

 ミッドナイトが言うには、委員長も本来私と共に三位で表彰される予定だったが、都合により早退したらしい。

 

「さぁ!メダル授与よ!」

 

 オールマイトが颯爽と登場し、しかしミッドナイトの司会と被って、段取りの危うさを匂わせる。しかし、すぐに銅のメダルを持ってオールマイトは正面に立った。

 

「おめでとう夜蜘少女!素晴らしい技の数々だった!」

「ありがとうオールマイト」

 

 頭を少し下げてメダルを掛けて貰う。小声でハグはOK?と聞かれたのでオールマイトならと返す。力強く、しかし優しさ溢れるその抱擁は、いつかの襲撃の記憶が微かに脳裏をよぎった。あの時はほぼほぼ覚えていないが。

 

「しかし!しかし、だ!君は無茶をし過ぎるきらいがある。自分の身を顧みる事だ。実戦では君が再生できるといっても、君自身が無事でなければならない。いいね?」

「今後の課題にしておくわ」

 

 続いて銀色のメダルを焦凍の首に掛けていく。同じように抱擁し、聞こえはしなかったがアドバイスを送っているのだろう。

 最後に爆豪。素直に首に掛けられたが、不服そうに焦凍を見る。

 

「お前、あんなもんじゃねぇだろ」

「俺は全力で撃ち合った。俺の力はまだまだこんなものって事だ」

「まぁまぁ爆豪少年。見事なフラグ回収だったよ」

 

 焦凍は自身の左手を握り締めながら考えている様だった。爆豪もそれ以上何も言わなかったが、何処か思うところがあったようだ。

 

「さぁ、今回ここに立てたのはこの三人だ!しかし、その権利は今この場の誰にも等しくある!それを証明して見せてくれたのは紛れもない彼ら彼女らだ!競い、協力し、更に高く遠く!次代のヒーローの姿がここにはある!!」

 

 ああ、そうか。

 

 私は。

 

「やっとだわ」

 

 あいつらはこれを画面越しに見ることしか出来ないのであろう。あの日の夜蜘 文香はもういない。今ここにいるのはヒーローを目指した夜蜘 文香だ。故に、私は勝ち誇り、更なる高みを目指す。

 

 観客席のチビ達に手を振って、表彰台を降りる。私の復讐はまだ続く。しかし、その行程を一つ終えた。ああ、なんと素晴らしい事だろうか!

 

 今日はなんとも激動の1日だった。桐生さんに先に帰るように告げて焦凍の隣を歩く。

 

「オールマイトと何話してたの?」

「……俺はまだこの力を上手く使えていない。まだ、先は長い」

「あら、それならエンデヴァーにでも頼めばいいじゃない」

「そんな軽く言える間じゃねぇ」

「残念。親子ってもう少し気楽なものだと思ってたわ。それに、少しは話せるようになったと思ったのだけれど」

「…………まぁ、考えてみる」

 

 電車に乗って、隣り合う。電車の揺れが心地良い、今日は無理をしすぎたようだ。段々と瞼が重くなっていく感覚と共に、未だ焦凍と今日の事を話していた。

 

「文香?」

「ぅん……?」

「駅に着く時に起こす。寝てていいぞ」

「うん……」

 

 うつらうつらとしていると焦凍が優しく肩を貸してくれる。それに甘えて肩に頭を預け、遠退く意識を完全に手放す。

 

▼▽▼

 

 

「文香、文香。駅に着くぞ」

「……んぅ……」

 

 瞼がとても重い。しかし、現状を顧みて直ぐ様に意識が覚醒する。焦凍にしなだれ掛かり、肩に頭を置いて熟睡していた。だが、ここで跳ね起きる程幼くは無い。顔が熱いが、何事も無いかのように鞄を手に取り、伸びをして立ち上がる。

 

「肩借りてたわ、ありがとう」

「ああ。またな」

「ええ。また」

 

 電車を見送り、顔を覆う。ここで挫ける私じゃないと帰路に着く。桐生さんやチビ達が待つ木蓮院へ。

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