至って普通の高校の授業後、ランチラッシュの食堂で焦凍と共に昼食を食べる。
「男連中とは話さないの?」
「構ってる暇無いだろ」
「気負いすぎじゃない?」
「そんなことねぇ」
「そうかしら。まぁ、いいわ。あなたの生き方にとやかく言えるほど、高潔な人生送ってこなかったもの」
蕎麦を啜る彼の正面で、うどんを啜る。ここの油揚げ、下手な店より美味しいわ。
「……私とは一緒に帰ったり、お昼を食べたりする余裕はあるのね」
「帰る方向が同じで、昼はたまたまだ」
「そう」
厳しく育てられたお陰で、お行儀の良い彼との昼食を終え、ついにこの時間がやって来た。
「わーたーしーが!普通にドアから来た!」
シルバーエイジコスチュームに身を包んだオールマイト。初めて生で見たが、私たちとは次元が違う。はち切れんばかりの筋肉に、どんな時も変わらぬ笑顔、一切不明の個性に、人を惹き付ける人柄。ああ、まさか本当にこの学校にいるなんて!
「ヒーロー基礎学は私が受け持つ!そして、今日のヒーロー基礎学は……これだ!」
屋内戦闘訓練。そして、ヒーローコスチューム。個性の関係上、私の髪の毛を使用している。衣服以外の、髪の毛不使用の物は複眼を模したゴーグルと靴ぐらいだ。巨大なマントに、動きを阻害しないコスチューム。
「似合ってるじゃない」
「そうか。似合ってるぞ」
「そういうのは、先に言うものよ。オウムじゃないんだから」
「わりぃ。綺麗だぞ」
「違うのよ。そういうことじゃないわ」
キョトンとした顔で頭の上に?を作る。これだから天然イケメンは。
「うむ、皆似合っているぞ!これから戦闘訓練のルール説明に入る!」
シチュエーションはアメリカのB級映画みたいなもの。核爆弾を巡って二対二でヒーローとヴィランに別れての攻防。くじ引きでチームを決め、私は芦戸と一緒になった。
「私は夜蜘 文香。あなた、出来ることは?」
「芦戸 三奈だよ。酸が出せるの」
「ふぅん……」
攻撃側なら、壁を溶かしてショートカットも出来そうね。防御側なら、毒の沼みたいに避けて通る他無いトラップも用意できるかしら……。
「夜蜘さんは?」
「虫よ。虫の一部を発現させて能力が使えるわ」
出来ることなら防御側に回りたいわね。蜘蛛の巣と酸を使用して、進路妨害と遅滞は同時にできるし……。考えるのは、これだけにしておきましょう。それより、今は他の奴等の戦い方を見るべきね。
「……うわぁ」
爆豪の単独突撃、これで爆豪と個性の制御ができないと聞いたあのデク……?とやらの一騎討ち。麗日はアウト・オブ・眼中ね。こうなると飯田と麗日の一騎討ちだけど……浮かばせる個性相手に、飯田の走る個性で立ち回るとすれば、ヒットアンドアウェイ……死角からの奇襲と即時離脱……とかかしら。
その時、衝撃が私達を襲った。顔を上げれば、ビルを半壊させるほどの爆発が起きていた。それの主犯は爆豪と推測し、事の成り行きを見守る。
言い争う爆豪とデク、最上階では麗日が飯田に追い詰められていた。先程と同程度の衝撃、今度はデクが衝撃波を最上階まで届ける。すると、その破片を崩壊した柱の一部を使って飯田に打ち込む。その隙に、麗日が核爆弾を確保して終了。
続く焦凍達のチーム。見る必要も無いわ、こんなもの。だって、どうせ凍らせるだけだもの。
幾つかのチームを越え、最後に私達の出番。ヒーロー側で、ビルに侵入して核爆弾を確保することが求められる。相手はちっちゃい奴と八百万だっけ。
「どうする?」
「派手に行くわ」
触覚を生やして何処に二人がいて、何処に核爆弾があるのかを把握する。5階、西側の部屋、入り口の反対。
「ちゃんと捕まっていなさい、落ちるわよ!」
「えっ?うわっ、うわわわわわ!」
クモ+アリ+サソリ。外壁を登り、尻尾で芦戸を掴まらせつつ西側の最上階へ。
「この部屋に爆弾があるわ。あなたは隣の部屋に降りて引き付けて」
「わかった!」
「静かに。それと、ここに穴を開けてもらえるかしら」
穴を開けて、芦戸を運ぶ。出来るだけ視線を集めるようにと言って先ほどの穴へと戻る。
「やっほー!芦戸 三奈、来ちゃいましたー!」
「来ましたわね……峰田さん!」
「偶然ぶつかっても文句は言われねーよな!?」
頭から千切った球体や、八百万が作り出す物を溶かして二対一だと言うのに善戦している。精々デコイを頑張ってほしいものね。蜘蛛糸を垂らして、核爆弾を確保する。屋上まで引っ張り上げて、オールマイトの審判を待つ。
「ヒーローチーム勝利!」
八百万と峰田の顔が驚愕に歪む。振り返って、大穴と私を確認して敗けを認めた。
「ごめんなさい、後ろがお留守だったもので」
「完敗ですわ」
「ズリィよ!屋上からなんて考えられねーよ!」
「へっへーん、作戦勝ちぃ~!イェーイ!」
ハイタッチを求められたので素直に応じておく。モニタールームに戻ると、オールマイトが立っていた。
「さぁ!反省会だ、問題点を挙げれる人は?」
焦凍が手を上げて、オールマイトに発言を促される。
「文香、お前なら最初から奇襲して核を確保できたはずだろ」
「あら、私なりに考えたのだけど。あのまま核を回収して、下ろした部屋でペアを回収して離脱……完全ステルスでしょう?」
視線が交差するが、あえて無視する。オールマイトが若干慌てながら反省点と良かった点を伝える。
「まずはヴィランチーム、夜蜘少女への警戒が足りなかったことと、数の有利を生かせなかったことだね」
「わかりました」
「どうしろってんだ」
「次に、ヒーローチーム。夜蜘少女、個性を生かしての奇襲は実に良かった。そして、芦戸少女も効果的に陽動をしていて素晴らしい。それに、その次の事を考えている点も評価できる」
「オールマイトに誉めてもらえて光栄だわ」
「ありがとうございまーす」
そつなく授業は終了し、オールマイトは凄まじい早さで帰っていった。
授業終了後の更衣室で、先程の私は根掘り葉掘り聞かれることとなった。
「轟とはどういう関係なの!?」
「どういうって……昔顔合わせた事があるだけよ」
「いつも一緒に帰ってるよね!」
「帰る方向が一緒なのよ」
「轟ってどんな人なの?」
「そうね……クールイケメンな天然ボケかしら」
「スリーサイズは?」
「私が言うなら道連れよ」
やいのやいのと話しつつ、先に着替え終えて教室に戻る。
「きゃっ」
「っ……」
尻餅をついたまま見上げて、相手を確認する。
「ごめんなさいね、爆豪だったかしら」
「………わりぃな、虫女」
……あ゛?
「取り消しなさい、今の言葉」
「は?」
「謝って」
「っだコラ!謝っただろうがよ!」
「虫女って言ったことを謝れ!」
「虫女だろうがよ!」
「許しはしないわよ、こればかりは」
「っざけんな!退け!」
「謝れって言ってるの!」
お互いに個性発動の一歩前。そこで、ふと気付く。彼の目は涙ぐみ、その手は震えていた。
「……はぁ、なんか冷めたわ。お互いに個性使ってまで殴り合いなんて、馬鹿みたいだわ」
「あ?やるやら俺はやるぞ」
「私、泣いてる人と殴り合う趣味はないの」
「泣いてねぇ」
道を空けて歩き出す。冷めたのは本当だし、そんな趣味が無いのも本当だ。
「あら、そう。言っておくけど、次は無いわよ」
振り返ると、歩き出している爆豪を見送り、教室へ戻ったときに、保健室から帰ってきたデクも戻った来た。
「爆豪ならさっき帰ったよ。止めたんだけどさ」
「え!?」
「あー、爆豪ならさっきすれ違ったわね。用があるならまだ追い付けるんじゃない?」
「ありがとう、えっと……」
「夜蜘 文香」
「ありがとう、夜蜘さん!」
……確か、爆豪とデクってあだ名で呼びあってたわよね。幼馴染みかしら。ああいう関係が、焦凍とだったらなぁ。
そんなこんなで帰り道。さも当然のように一緒に歩く。
「今日の訓練、凄かったわ。本当に氷だけでNo.1になれるかもしれないわね」
「……なれるかもじゃねぇ、なるんだ」
「へぇ?なら、氷だけで私を倒さなきゃね。私もNo.1になるんだし」
「それは……難しいかもな」
「あら、意外ね。いつもみたいにやれるって言わないの?」
「文香は強いからな」
「当たり前でしょう?」
虫は火にも寒さにも弱いのに。変なところで自信を無くすのだから訳が分からない。
「そうね、もし焦凍と戦う事になったら……機動力と腕力で殴りに行くわね」
「それなら俺は、死角を氷で防御して範囲攻撃だな」
「飛べることを忘れてないかしら」
「……時と場合によるな」
「ま、いつかは本気でやりやってみたいわね」
「まぁな」
今日の日記は焦凍への対策で埋まりそうだわ。