「焦凍、マスコミだわ」
「オールマイト目当てだろ」
「ならあそこで捕まってる1-Aの生徒は何?」
「……裏門とかねぇのか」
「んー……そうね、手を」
「何すんだ?」
「そうね、口は閉じておいた方がいいかも」
しっかりと抱き寄せて、跳躍する。人集りと門を悠々と飛び越えて着地し、焦凍を下ろす。が、そこで厄介者にみつかった。
「そんなことに個性を使うな」
「ごめんなさい先生。彼、ああいうの苦手で」
「……ハァ、今回だけだぞ」
「ありがとうございます」
自分のせいにされた焦凍は、不服そうな目でこちらを見てきたが、敢えて無視する。その程度じゃ私は怯えないわよ。
因みに、このあとあった委員長決めでは、票を自分に入れておいた。焦凍は自分以外の誰かにいれていたようだが、詮索する事でもないだろう。
「また蕎麦?いい加減に飽きないのかしら」
「ここの蕎麦は美味しいぞ」
「そう?次に食べてみようかしら」
カウンターで隣合い、またいつも通りに他愛の無い話をしている。あら、ここのカツ丼結構美味しいのね。私も焦凍も食べ終わったので、教室に戻ろうかと思った時だった。
耳が痛くなる程にけたたましく鳴り響く警報と、慌てて避難を始める上級生と、それに感化されてパニックに陥る下級生。人波みに呑み込まれ、焦凍とはぐれる。
「ちょっ……ああ、もう!」
バッタの脚力で上へと飛び上がり、天井から人の少ない二階へ移る。上から、もみくちゃにされてる赤と白のツートンカラーを見つけ出して、クモの糸で引っ張り上げる。
「わりぃ、助かった」
「どういたしまして。で、このパニックをどうする?」
「……凍らせるか」
「出来るかもしれないけど止めた方が良いわね、動きを急に止めるとかえってパニックになるかもだわ」
「じゃあ……そこに飯田達だ。何か考え付くかもしれん」
「引き上げてみるわ」
糸を飛ばして飯田、緑谷、麗日な三人を回収する。
「助かった!ありがとう夜蜘くん!」
「潰されるところやった……」
「あ、ありがとう……」
「お礼はいらないわ。このパニックを沈める方法を思い付かない?」
「……俺に考えがある。麗日くん、俺を浮かしてくれ。夜蜘くん、俺を出入り口の上まで投げてくれ」
麗日がその肉球で触れ、私が糸を巻き付けて放り投げる。すると、彼は非常口みたいな体勢で壁に張り付き、声を張り上げた。
「皆さん!大丈夫!」
侵入してきたのはマスコミだと叫び、そのパニックを終息させる。
「非常口やん」
「非常口だわ」
「非常口だな」
「仲良いんだね」
下を見れば、赤い髪や黄色髪もパニックを治めようとしていたようだ。たった二人でよく頑張るわね。その後、委員長に当選した緑谷は、それを辞退し飯田へ委員長の座を明け渡した。どうやら、彼の中で、飯田の行動に思うところがあったみたい。ま、私には関係なかったのだけれど。
▼▽▼
マスコミ侵入事件から数日。余りに広すぎる雄英の敷地を徒歩で移動するわけには行かず、バスに乗ることになった。委員長の座に着いた飯田は、その責務を果たすべくして統率しようとしていたが、空回りに終わっている。
「窓側が良いか?」
「大丈夫よ。ほら、詰めなさい」
前に爆豪がいるので、余りいい気分はしないが、仕方ない。この前の事はまだ根に持つ事にしたので、彼にはいつか謝ってもらうわ。……ま、焦凍が隣にいるからいいわ。
……にしても、この胸騒ぎは何かしら。朝からずっと嫌な感じがするのよね。
「ねぇ、夜蜘さん、轟とはどんな関係なの?」
「どうって……この前言ったでしょう」
「だって、そんな隣に座るんだもん。気になるよね」
「あのね、葉隠。私はコイツの事をそんな風には見てないの」
「そうなのか?」
「え?」
「え?」
……え?
「俺は文香の事を大事な人だと思ってるんだが……」
「…………ヴァッ……」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!と、轟が!夜蜘に!」
「と、轟さんが、夜蜘さんに!」
「「コクった!!」」
顔が熱い、俯いて、顔を覆う。ああ!もう!
「だ、大事な人って……」
「幼馴染みは大事な人だろ?」
……ほら。
「ほら!これだからそんな風には見れないのよ!」
「イケメンの天然は罪だねぇ~!」
「応援しますわ、夜蜘さん!」
「おい……いい加減にしろよ」
鷹の如き眼光で、最前列からこちらを睨み付ける担任の存在もあり、私達は顔を見合わせて静かにすることにした。ただ、まだ心臓はバックバクだし、顔は真っ赤だと思う。
「暑いのか?冷やすぞ?」
「いらないわ」
▼▽▼
「デケェとは思ってたが、近くで見るとよりデケェな」
「ドームの中に建物とか、見たこと無い!」
「USJみてーだ」
「テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるな~」
「その通り、ようこそ、1-A諸君」
聞き覚えの無い声が響く。声のした方へ顔を向ければ、宇宙飛行士が着ているようなコスチュームが飛び込んでくる。
「ここは雄英でも最大規模の災害救助訓練施設、その名も
「「「USJじゃねーか!!!」」」
……思いの外USJね。こんなドーム作るなんて、雄英も凄い資金力ね。どっから持ってきたのかしら。
「コホン、えーでは、私の方から伝えたいことが一つ……いや、二つ……三つ?」
「1-Aの皆さん。君たちは、雄英の狭き門を潜り抜けて無事にヒーロー科へ入学しました。その努力は誉められるべきで、私達は君達の入学を大いに歓迎します」
「しかし、入試の時に既に気付いているかもしれませんが、僕や君達の個性は使い方を誤れば、これを人に向ければ簡単にその命を奪ってしまうことができます。僕の個性はブラックホール、全てを塵にしてしまうような個性です」
「君達の中にも、強力な個性を持つ人もいるでしょう。ここで学んでほしいのは、その力を人を救ける事に使う事と、その力を背負う事の重さ。この二つを、どうかここで学んでいってください。どうも、ご清聴ありがとうございました!」
その言葉に、1-Aから歓声と拍手が沸き起こる。そんなこと、百も承知よ。と思いながらもその言葉の重みを考える。人に向ければ簡単に命を奪う、か。そうね、個性なんて大体そんなものよ。あいつらだって、今は忘れてるかもしれないけど、個性を私へ向けた時は軽く死を覚悟したわね。
「んじゃ、まずはグループに別れて……」
嫌な予感、今朝感じていた、虫の知らせ。ああ、こういう事だったのね。
「先生、あれを!」
ドーム中央の広場には、黒い霧が広がっている。明確な敵意と悪意を満たしたそれは、次々と人を吐き出している。
「な、なんだあれ、もう始まってるパターンか?」
「……いや、そうじゃねぇみてぇだ」
「一塊になって動くな!あれは敵だ!」
長い一日になりそうだ。