復讐虫のヒーローアカデミア   作:アリガートル

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第六話:一難去って

「……。」

 

 あら、知らない天井だわ。周りを見渡して、ある程度を把握する。ここは保健室と見た。

 

「あら、起きたのかい」

「ええ」

 

 体を起こして、何処にも不具合が無いことを確認する。どうやら、上手く再生したようだ。

 

「全く。普通なら死んでるような怪我だったのに、何もしてない内から再生するからビックリしたよ」

「私の個性です。……あ、オールマイトはどうなりました?相澤先生、13号先生や皆は!?」

「落ち着きな。生徒はあんたと緑谷を除いて無事、相澤や13号は怪我こそしたが、命に別状は無いよ。オールマイトもほぼ無傷さね。あんたが体張って時間稼いだお陰だよ」

 

 ああ、良かった。あれだけ、文字通りに命を賭して戦って、最悪は回避できた。それだけで十分だ。

 

「応急処置したの、あんただろ」

「応急……あ、はい。私です」

「なってないね。個性使って応急処置しようした気概は認めるけど、余りにも雑すぎる。今度叩き込んでやるから、覚悟しておきな!」

「は、はい!」

「着替えて、体調が良さそうなら帰りなよ。心配してる人がいるんだから。あと、明日は臨時休校だよ」

「休校……しかたないですね」

 

 コスチュームは無事、相手が打撃で良かった。若干血が滲んでいるだけで、洗えば何とかなりそう。制服に着替えて、立ち上がる。

 

「帰れそうかい?」

「ええ」

「気を付けて帰りなよ」

「ありがとうございました」

 

 校舎を出ると、焦凍が待っていた。こちらを見付けると、駆け寄って来て肩を掴んで捲し立てる。

 

「文香、体は大丈夫か?何処か痛い所は?怪我は?」

「大丈夫よ。あの程度、再生するわ。にしても、こんな時間まで待ってたの」

「連絡はした。それに、緑谷が来たのに文香が来なかったから」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。私、こう見えても強いのよ」

「あんなことになってて、死んだらどうしようって……」

「あんなこと?」

「……体がぐちゃぐちゃだった。もう、助からないんじゃねぇかって」

「焦凍らしくないじゃない。どうしたのよ」

「不安だったんだ、また、大切な人を失うんじゃないか……」

 

 ああ、もう、そうやってすぐに……。あなたの過去を知っているから、強く出れないじゃない。

 

「……大丈夫。私は死なないし、離れないわ」

 

 また、二人で帰る。心配した焦凍に鞄を奪われたので、手ぶらだ。閑散とした電車に乗ってから、焦凍が思い出したように口を開く。

 

「強いな、文香は」

「こう見えても強いって言ってるでしょ?」

「そういう話じゃねぇ。中身の話だ」

「中身?」

「あの黒いヴィラン、俺達が正面切って戦ってたら死んでた。でも、お前は……立ち向かった」

「私は再生できるからよ」

「だからって……」

「それに私がやらなきゃ、誰かが死んでた。私はね、ヒーローになりたいの。誰かを救いたいとか、そういう夢を見たわけじゃないけど、曲がりなりにもヒーロー科なのよ」

 

 私をいじめた奴等は、あの時動けるだろうか。私を見捨てた奴等は、あの時立ち向かえただろうか。あいつらも、ヒーローを目指していた筈だ。……まぁ、もう過ぎたこと、私が気にしすぎていてはダメね。

 

「……ヒーロー、か」

「焦凍も、父親に拘ってないで自分のなりたい自分になればいいんじゃない?ま、私が言えた義理じゃないけどね」

 

 本当に、私が言えた義理じゃないわね。周りの奴等を見返したくてヒーローになろうとしてるわけだし。

 

「ほら、降りるから鞄」

「……悪ぃ」

「じゃあね」

「ああ、じゃあな」

 

▼▽▼

 

 文香を待とうとした緑谷達を帰したのは俺だ。どうしても、今の俺を見せたくなくて帰るように言った。察してくれたのかもしれねぇが、何も言わずに帰っていった。そして、何より文香との会話だ。

 

 ――父親に拘ってないで自分のなりたい自分に――

 

 かつて、母に言われた事と重ねてしまう。あの時、守るべき存在だった彼女は、数年の内に肩を並べる所か一歩先にいる。

 

 左手と右手を見比べる。何の違いもなく、俺の両手がそこにあった。少しは、この力や親父について考えてみるべきだろうか。この自問自答で出る答えは大抵、毒にも薬にもならないものばかりだった。

 

「……ただいま」

「おかえり、焦凍。ご飯出来てるよ」

「あとで食べる」

 

 自分の部屋に入り、一人考える。考えている内に、ふと文香がヒーローを目指した理由を聞いたことが無い事を思い出した。

 

 今度、聞いてみよう。

 

▼▽▼

 

「ただいま」

「おかえり、体は大丈夫かい?」

「大丈夫よ。チビ達は?」

「寝てるよ」

「そう」

「……学校から電話があってね。あの子達も心配していた。明日の朝、元気な顔を見せてあげてくれ」

「わかったわ」

 

 シャワーを浴びて、ご飯を食べて、桐生さんが寝て、私も寝るために部屋へ戻ってきた。日記を開き、今日の出来事を書いていく。USJへ向かうバス、USJ襲撃、戦った事、焦凍との会話。

 

 色んな事があった。今でもあれに立ち向かった事が嘘みたいだ。あのヴィランに殴られて、体の感覚がなかったのは幸いなことだったのかもしれない。毒を使った戒め、あれを使わなければ、勝てなかった。私の実力不足、まだまだ精進できる伸び代がある。

 

 ……寝よう。また、明日がある。

 

▼▽▼

 

 臨時休校が開け、学校が再開された。教室に着くなり急に声をかけられる。

 

「夜蜘くん、大丈夫だったか!」

「あれぐらい平気よ」

「それは良かった!何かあればすぐに言ってくれ!」

「ケロ。あれだけの怪我をしたのに、よく無事だったわね」

「時間かければ再生位するわよ」

 

 一昨日の怪我を知っている面々から、やんややんやと聞かれるが、時間もあれだからと蹴散らしていく。話題はどんどんと移って行き、先日負傷した担任の話題へ。

 

「相澤先生って、怪我で入院中でしょ?」

「今日は来れるのかなぁ」

 

 タイムリーな話題だった。入ってきたのは包帯ぐるぐる巻きの相澤先生。余りにも早い復帰に、クラス中が声を揃えた。

 

「「「相澤先生、復帰早ぇ!!」」」

 

 しかし、その声を俺の怪我はどうでもいいと一蹴し、深刻な面持ちで言葉を発した。

 

「先日の事件、過程はともかくとして、全員無事で良かった。だからといってまだ気を抜くなよ」

 

 相澤先生が、イレイザーヘッドの面影を見せる。それを見て、またヴィランかと勘繰る生徒すらいる。しかし、それは良い意味で裏切られた。

 

「雄英体育祭が迫っている」

 

 

 

「一大イベントキタアアアア!」

 

 余りの声量に、相澤先生も複数の生徒も耳を塞ぐ。余韻冷めやらぬ中で、何人かの生徒が疑問や不安の声を挙げる。

 

「待て待て待て待て、またヴィランが来たらどうするんだよ」

「ヴィラン如きで中止して良いイベントではない。警備は例年の五倍にするそうだ」

「そこは中止にしようぜ……?」

 

 相澤先生は更に続けた。プロのヒーロー達が来ること、かつてのオリンピックに代わるイベントであることを理由に、中止には出来ないとした。なにより、この後に控える職場体験の指名はこの体育祭の後に控えているために、ここで活躍すれば、それだけ指名が来る、と言うことだ。

 

「ヒーローになりたいんだったら、気張っていけ!」

「「「「「はい!!」」」」」

 

 時は過ぎて昼時、いつも通りに焦凍とお昼ご飯である。顔を付き合わせていただきます、と言った直後に何でもない風に焦凍が口を開いた。

 

「文香、一回戦ってくんねぇか?」

「唐突ね。どうしてよ」

「……あの時、USJで文香は戦った。俺は雑魚を散らしただけだった」

「それが心残りだから私と殴り合いしたいの?」

「心残りなのは事実だ。体育祭の練習にだってなるだろ」

「ふーん……まぁ、良いわ。場所は?」

「俺の家かここの訓練場、どっちが良い?」

 

 ……え?家?家に呼ばれた?家に呼ばれたわよね。と、年頃の男女で、男の家に呼ばれたって、つまり、そ、そう言う事よね?

 

 いや、待って、落ち着きなさい文香。焦凍は選択肢を出しているわ。家と学校の二つを出しているって事は拒否権があるのよ。それに、私達そういう間柄じゃないでしょう。何を舞い上がってるのかしら。

 

「そうね、都合が付けば学校の方が良いわ。コスチュームだって使えるでしょうし」

「わかった。申請してみる」

 

 何食わぬ顔して、お互いにお昼ご飯を食べ進める。先程から心臓はバクバク鳴ってるし、正直食べ物の味も分からない。ただ、こういう時でも素直に動いてくれる体に感謝だわ。

 

 因みに、この後に相澤先生の元へ申請をしに向かった結果、ものの見事に予約で埋まっており無事に轟家行きが確定したわ。

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