復讐虫のヒーローアカデミア   作:アリガートル

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第七話:血戦の轟家

「……………………はぁ」

 

 わ、和風だわ……しかもかなり大きい……。駄目よ、気圧されては駄目、門の時点で気持ちで負けていたらこの先どうやっていくの。気張りなさい!

 

 憂鬱にも近い気持ちのまま、それを振り切りながら門へ手を掛け――。

 

「お、来てたのか。悪ぃ」

 

 ようとして、門は内側から開いた。しかも開けたのは私をここへ呼んだ原因となった彼だった。若干出鼻を挫かれた気分だが、ここで凹んでも仕方ない。

 

「いいわ。私も今来たところよ」

「そっか、入ってくれ」

 

 今時珍しい純和風な家までの道を歩き、玄関へ。深呼吸を一つ、No.2ヒーローの自宅でもあり、焦凍の家でもあるこの家に、一歩踏み入れる。

 

「おじゃまします」

「あ、いらっしゃーい!って、女の子だったの!?」

 

 えげつないくらいの美人の人が出迎えてくれた。白い髪に赤いメッシュの入った女の人――焦凍の呼び方から姉――は私を見て驚愕している。

 

「やだ、焦凍が彼女連れてきた!」

「はぁ!?焦凍に!?あの焦凍に!?」

 

 ドタドタと顔を出したのは体育会系イケメンの――恐らく焦凍の兄――が、驚いたような顔を出す。その目は私を写すと、驚愕に目を見開いた。

 

「うおっマジだ!」

「ちがっ、違います!」

「ちげぇよ。文香はまだ彼女じゃねぇ」

「まだ!?まだって言った!?」

 

 焦凍が珍しく『あっ』みたいな顔をした直後に、何食わぬ顔して訓練場を借りると言って歩き出した。余りの出来事に面食らって、止まっているとニヤニヤしながら焦凍の姉兄に囲まれる。

 

「お名前は?」

「夜蜘 文香……です……」

「私は轟 冬美。で、こっちが夏雄」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

「ねぇ、焦凍とどんな関係?」

「クラスメイトです」

「本当にぃ?」

「本当です!」

 

 茶化されつつも、着替える場所を借りてジャージに着替える。お互いに着替えた状態で外へ出る。にしても、まだ、かぁ……。

 

「で、どこまでやっていいの?」

「全力で来い」

「あら、私が全力出すのにそっちは出さないの?」

「……全力だ。これは俺の全力だ」

「あっそ。なら一つだけ教えて挙げる。私の全力はね、人が死ぬわよ」

 

 準備運動しながら、軽く話かける。ストッパーとして焦凍の兄姉がついてくれている。

 

「じゃ、死なねぇ程度に手加減頼む」

 

 氷が私へ辿り着くより早く、焦凍の眼前に迫る。バッタの脚力で迫り、ドロップキックのような体制になる。が、寸での所で避けられて、お互いに体勢を崩している。

 

「ほらっ!」

「くっ……!」

 

 羽を広げて急旋回、勢いそのままに回し蹴り。氷を盾にされるも、盾ごと吹き飛ばす。

 

「油断してるんじゃない?氷を過信してるか、私を甘く見てるのかしら」

「文香が強すぎるだけだ」

「あら。なら、少し位は火を吹いてもいいのよ?」

 

 焦凍の顔が若干曇る。それを気にしている暇があれば、こんなことにはなってないので飛翔する。氷の壁が張られるが、それを粉砕して余りある大顎を発現する。

 

「甘いわね!」

「どっちがだ」

 

 両断された氷壁の内側から、氷の塊が飛んでくるのを視認、クロカタゾウムシを発現して耐える。しかし、そこで足が凍ったのを確認する。

 

「無理に動くなよ」

「甘々だわ。本当にっ!」

 

 バッタの脚力で氷を砕きながら距離を詰める。モンハナシャコで腕力を強化して胴体を狙う。体を反らして手を沿えて軌道がずらされる。加えて、膝が飛んでくるのを見て、甲殻を胴体に作る。

 

「ぐっ!?」

「貰ったわ!」

 

 膝が跳ね返されて怯んだ隙に、伸ばした右手を焦凍の顎へ押し付け、足を払いながら地面へ叩き付ける。蜘蛛の糸で拘束し、カマキリの鎌を突きつける。

 

「勝ちよ、随分余裕な全力ね。No.2の息子が聞いて呆れるわ」

「……舐めんなよ……!」

 

 反射。本能的な反射で飛び退くと、蜘蛛の糸を燃やしながら引きちぎる焦凍がそこにいた。

 

「文香、もう手加減は無しだ」

「あら、本気ね。嬉しいわ」

「どうなっても知らねぇぞ」

「本望だわ」

 

 ああ、彼が私を見ている。大好きな人が私を見ている。手加減なんて、出来るわけが無い。体育祭なんて忘れてしまいましょう、彼との一騎討ちがこんなにも楽しいだなんて。

 

 ゾウムシ+ゴキブリ+バッタ+クモ+サソリ+クワガタ+シャコ。ゴキゴキと姿を変え、焦凍を見下ろす。炎と氷を放出しながら迫る彼へ鋏を、顎を、尾を、捕脚を向ける。

 

「アハハハハハ、もう止まらないわ!」

「俺もだ。来い、文香!」

 

 巨大な鋏で両側から攻める。一つは氷付けにされ、もう一つは軽く炙られてしまった。

 

 大顎でその動きを止めるべく増加した体重を利用してのし掛かるように顎を閉じる。が、閉じるより早く凍らされた。

 

「フフフ、容赦無いわね」

「お前が手加減するなっつったんだ」

「ちょっと、二人とも!それぐらいに……」

「あら?そうだったかしら?」

「ああ、そうだよ」

 

 毒針を抜いた尾でド突く。酷く炙られて、少々焦げ臭くなった。

 

 正真正銘、本命の捕脚。いつもの私が発現させるよりも倍以上でかいそれがどれ程の威力なのかは分からなかった。

 

 何処かで理性が勝っているのか、捕脚を何時でも殴れる状態にした上で逸れた場所を狙ってジリジリと近づく。脚が氷結しようと砕き、甲殻に甲殻を重ねた鎧は熱くはなるが火傷はしない。

 

 ああ、この一撃の為に生きている。そう錯覚する程に力が溜められている。

 

「ちょっと!本当に、駄目だって!」

「焦凍!止まれ!」

 

 お互い、全力の一撃を放つ――

 

 

 

 

「ショウトオオオオオオオオオオオオオ!!ようやく分かってくれたかぁぁ!」

 

 ――所だったが、思いもよらぬ横槍に勢いとやる気を削がれた。火を消して氷も納めた焦凍の隣に、個性を解除して並ぶ。

 

 エンデヴァー、No.2ヒーロー。盛大に炎を散らしながら歩み寄ってくるその姿に、焦凍は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

「ようやく、ようやく己を受け入れたか」

「チッ……良いところだったんだ。止めるな」

「二人とも、止めても全然聞かないんだから!」

 

 焦凍に向けられていた視線は横に滑り、私へ。訝しげ、というか採点するかのような視線に体が強張る。そんな私を見かねたのか、冬美さんが助け船を出してくれた。

 

「あ、この娘は焦凍の彼女さん」

 

 ヴァッ。

 

「彼女?」

「そう。将来のお嫁さん候補」

 

 ニッコニコの笑顔でそう言い放つお姉さん。目が合えば、してやったり顔である。しかしその言葉にエンデヴァーの顔色は険しくなる。

 

 話が飛躍しすぎてついていけない。だが、誤解を解かねば色々と危ない。主に私の心臓と精神が。抗議の言葉を出そうとした時、エンデヴァーに先を越された。

 

「お前、個性は」

「個性?個性は……あー、虫……です」

 

 ポン、と右手人差し指と親指にクワガタの顎を発現させてカチカチと鳴らす。それを見て凄く眉間にシワが寄った。

 

「……焦凍、少し話がある」

 

 家へと歩くエンデヴァーの後ろを不本意というか不機嫌丸出しの顔で焦凍が続く。

 

「ごめんね、お父さんっていつもあんな感じで……」

「あ、いえ、大丈夫です」

 

 縁側に座り、お茶を貰う。先程の訓練で、久しぶりにあれだけの重ね掛けをしたせいか、心地好い疲労感に包まれる。

 

▼▽▼

 

「あれは何だ」

「クラスメイトだ」

「冬美は彼女だと言っていたが?」

「あれは冬姉が勝手に言ってるだけだ」

 

 重く淀んで、沈みきった空気。他者が入る隙間も無いほどに空気が悪い。そう錯覚しているのか、それとも本当に空気が悪いのか、どちらにせよ当事者二人にはどうでもよかった。

 

「言ったはずだ。友人、特に恋人は慎重に選べと」

「お前に決める権利は無ぇだろ」

「だとしてもだ。あんな雑魚個性の女なぞ」

「関係無ぇ、俺の人生だ。お前の野望だとか、そんなもんは知らねぇ」

「焦凍!お前は俺の最高傑作なんだぞ!」

「俺はお前のモノじゃねぇ!」

 

 慟哭や嗚咽にも似た、息子の叫びに一瞬気圧される。自分の息子が見せた、余りに悲痛な表情は父親としてのエンデヴァーに届いた。

 

「俺は、俺だ!お前の息子で、母さんの子だ!」

「お前には俺を越える義務がある!」

「そんな義務なんか、お前の身勝手だろ!」

「お前はNo.1になる器なんだぞ!」

「器なんて、勝手にお前が言ってるだけだろうが!」

「何故だ、何故分からんのだ焦凍!」

「お前、今まで自分が何をしてきたのか分かってるのか!?」

「何を……」

「母さんを追い込んで、冬姉や夏兄を失敗作呼ばわりして、今ここじゃ文香を馬鹿にしやがった!」

「それは……」

「言い訳なんて聞きたくねぇ。俺は、てめぇを親父とは認めねぇ!」

「何て口を利くんだ焦凍!」

 

 エンデヴァーは、焦凍をはたいた。たたらを踏んだ焦凍は、驚愕しながら理解する。理解してしまった。

 

「こうやって母さんも殴ったのか?」

「……。」

「そうやって、人を傷付けねぇとヒーローになれねぇのかよ!大事な人を殴って、望まない様な失敗作は知らぬ存ぜぬで関わらないで、最高傑作が思い通りにならなきゃ殴るのか!?」

「……焦凍」

「お前を否定するためにヒーロー目指して、俺はまた誰かに同じことするのか?そしたら、俺は……俺は……!」

 

 父を振り返りもせず、部屋を走り去っていく。自分を見失う程に激昂し、立ち直る自分すら見失った息子の後ろ姿に父親として、ヒーローとして、何も言えずにただ立ち尽くすのみだった。

 

▼▽▼

 

 家の奥から怒鳴り声がする。それに驚いて振り返ると、申し訳なさそうにお姉さんが頭を下げる

 

「ご、ごめんね?うちの家庭、ちょっと厳しくて……」

「やっぱり、彼女って言ったのが原因じゃ……?」

「まー、多分そうだろうね」

「悪いな。内の親父、変なんだ」

 

 ケタケタと笑うお兄さんの表情は何処か違和感を感じるものだった。何処か他人事というか、お姉さんの表情と比べて実感のような物が無かった。

 

「でも、焦凍とお父さんが話で怒鳴るなんて……」

「珍しいよな。いつも焦凍がガン無視して終わるからな」

「そんなに仲悪いんですか?」

 

 一般家庭の親子関係が分からない私にとって、これが普通なのかの判断はつかない。

 

「悪い……っていうか、ちょっと変っていうか」

「仲は最悪だよ、あんなもの」

 

 ドタドタと走る足音がする。それは段々と近付いてくるよう……いや、確実にこっちに来ている。

 

「焦凍?どうし……!?」

 

 見えた焦凍は俯きがちで、かなりの勢いで私に抱き着いてきた。当の本人が私を痛い程に抱き締めていることから、慌てる間も無い。

 

「なぁ……教えてくれ……」

「しょ、焦凍」

「俺は、俺は何なんだ?」

 

 その問いに、私は言葉に詰まった。震えている、彼が。クラスでも飛び抜けて実力者である彼が、自分自身の存在意義と理由に不安と恐怖を覚え、彼にとって守られる側であるはずの私に、その答えを求めているのだ。

 

 だからこそ、ちゃんと真っ正面から受け止めなくてはならない。受け止めて、壊れてしまわない様に立たせる必要がある。彼の背中に手を回して、私は意を決した。

 

「焦凍。よく聞いて。私にとって焦凍はヒーローなの。あの時、私を助けてくれたヒーロー、私の……大事な人。冷静だけど天然で、周りの人より大人びてると思ったら、抜けてるところがあって……。あなたの過去がどんなものであれ。でも、それでも焦凍は……焦凍だよ」

「そうだよ、焦凍!お前は俺の弟だ!」

「私の弟だよ!焦凍!」

「……悪ィ……少し、肩借りるぞ……」

「いいわよ」

 

 嗚咽が聞こえてくる。肩が濡れていき、私を抱き締める手に更に力が入る。それだけでなく、お姉さんとお兄さんまで焦凍を抱き締めるものだから、押し潰されそうになった。

 

「ごめんな、ごめんな焦凍、助けてやれなくて……駄目な兄貴で……!」

「私も、お姉ちゃんなのに、何もしてあげられなくて……ごめん、ごめんね……」

 

 暫くして、本音を打ち明けて、泣き疲れたのか三人とも寝てしまった。

 

「……寝たのか」

「そうね。何処へ運んだら良いかしら?」

「案内する」

 

 お姉さんお兄さんを自室へ運び、最後に焦凍を抱き上げる。

 

「焦凍の目が覚めるまで、隣にいてやってくれ。俺はしばらく留守にする。冬美にも伝えておいてくれ」

 

 そう言って、廊下を歩いていく姿にNo.2ヒーローとしての面影は無く、ただ酷く小さく見えてしまった。だが、どうしても言わなきゃならない事がある。

 

「エンデヴァー」

「……何だ」

「私が何か言える立場じゃないことを承知で言うわ。エンデヴァー、あなたは一度で良いから家族と話す必要があるわ。今日みたいな焦凍なんて、初めて見たの。あなたがNo.2に登り詰める間、なった後も蔑ろにして来たことだわ」

「……分かっている」

「いいえ、分かっていないわ。あなたがNo.1に執着する理由なんて知らないけれど、それでも焦凍にとっては父親なのよ。彼だってヒーローを目指してる、彼だってNo.1を目指してるのに、あなたがそれを妨害してるのよ」

「……そうかもな」

 

 自嘲気味に笑ったエンデヴァーは私へ向き直った。

 

「焦凍のあんな顔は初めて見た。思い出せば、笑っている焦凍なんて見たことがなかった。いつも、俺に怯えていた」

「なら、何で」

「俺は、俺だけでは奴を……オールマイトを越えることは出来なかった。ヒーローになってから、どれを犠牲にしても越えられず、何をしてもまだ上にいた。訓練し、鍛練を積み、事件があれば即座に動いた」

 

 噛み締める様にして、過去を振り返るエンデヴァー。

 

「家族を蔑ろにして、世間からは罵倒され、それでも俺はアイツを越えようとした。だが、今も今までも、俺は……!」

 

 ああ、そうか。この人は本気でオールマイトを越えようと努力してきたんだ。だから、だからエンデヴァー(努力)なんだ。

 

「そう。そうね、勘違いしていたわ、私。あなたは、あなただけは本気でオールマイトを越えようとしていたのね」

「……ああ」

「でも、それでも、あなたが家族にしてきた事は変わらないわ。どうか、どうか家族に戻ってあげて」

「そう……だな。だが、お互いに時間が必要だ。俺はしばらく事務所に泊まる。冬美に伝えてくれ」

「分かったわ。さようなら、エンデヴァー」

「ああ。……君の名前を聞いていなかった。名前は?」

「夜蜘 文香、いつかNo.1ヒーローになる者よ」

「ふっ……No.1は焦凍が取る、せいぜい頑張れよ」

 

 エンデヴァーを見送り、焦凍の部屋へ戻る。少しだけ、出来心で頭の下に膝を入れて頭を撫でる。憧れたヒーローの、大切な人の、気になるクラスメイトの、無防備な寝顔に少しだけクスリ、と笑う。

 

 どうか、彼らに平穏を。

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