Infinite Stratos Easy Day   作:キングオブ不死身さん

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工兵介入シリーズの方が閲覧数おおいなぁって思ってます。それでは


物騒な入社式

ベルギー 空港エプロン

 

 

ベルギーの国際空港から降り立つ人影があった。SASを叩き出されて途方に暮れたモードレッド・ペンドラゴンを雑多で荘厳なビル群が彼女をブリュッセルへと迎え入れる。ロンドンならこのような風景は日常的なのだろうが生憎彼女はヘレフォードに寿司詰めだったから久しぶりに見る都会の雰囲気だった。リクルートスーツを着ているおかげか、周りの雰囲気とは逸脱はしていない。ホッと胸を撫で下ろしたところで、その雰囲気から逸脱したものがモードレッドの視界へと入ってくる。一見すれば銀髪のスーツ姿のサラリーマンのそれに見えなくも無いがその目が自分達と同種である事をはっきりと示していた。

 

間違いない――あいつがそうだ。

 

彼に声をかけようかと思ったその刹那、彼は既にモードレッドに触れるか触れないかの位置にまで接近していた。

 

「…テメェ、何者だ」

 

モードレッドの警戒に全く意に返さない様に、彼は無表情で口を開いた。

 

「車を用意してある。付いてこい」

 

彼について行くしかないと分かっていても、あの冷気で包み込まれたような男と共に行くのは多少気が引けた。だがこのまま居ても迷子になって9割方警察のお世話になるだろう。とりあえず彼にホイホイ付いていく。人混みを掻き分けながら彼は先へと進んでいく。人混みに押しつぶされそうになりながらもモードレッドは必死で彼の後を追う。黒塗りのリムジンに彼が乗り込んだのを確認して、自分も同席する。

 

「すまないな。こんな車しか無くて」

 

乗った直後に彼はモードレッドに向けて謝罪の言葉を口にする。謝る事でもないだろうに。と言っても彼女は尻が落ち着かない様子でそのリムジンの中をじっくりと観察した。中は黒塗りだからさぞかし豪華なものだろうと思っていたがどう考えても大都市における市街地戦を想定しているとしか思えない造りだった。ドアの厚さはRPGに耐えられるレベルの装甲であると推定できるし、車内にはM4カービンがせいぜいと思ったが、ジャベリン対戦車ミサイルまで搭載してある。それに運転席にはサーマルイメージ(熱光学探知システム)が投影可能なHUDまで備えられている。何となくだがこの会社がどういった場所で作戦行動を行うのかは俄かに理解できたような気がする。

そしてその想定が確信へと変わったのは、彼が目に入ってからであった。

 

「こいつはなかなかの曲者でね。ヤル気になれば東側のT-72を撃破することも可能だ」

 

成程、と感心している場合ではない。どんなリムジンだ。

 

「アンタ、さっきの顔からして只者じゃないな。トライデント・セキュリティー社っていうのは、アンタみたいなクールガイばっかりなのか?」

 

「いや、ホット・ボーイもいるし、バット・ボーイだっている。俺が一際突出しているだけだ」

 

相変わらず眉一つ動かさない。ただ会話をするだけのマシンであるかのような口ぶりにモードレッドは憤慨する。

 

「はぁ…何なんだよここは?」

 

「聞いての通り、特殊作戦課だ。着くまでに色々話しておこう。そのほうが手っ取り早いだろう」

 

彼の会社ガイダンスを聞くには過去に様々な作戦に参加している名のある部署である事、更にここには元特殊部隊であるかあるいは選抜に最終段階で落第した者しか入る事は不可能だという事。つまり落第が確定した時点でマクミラン中佐は特殊作戦執行部に連絡してトライデント・セキュリティー社への斡旋を図っていたという事になる。

それはそれで就職にはあり難いがブラック企業どころかブラッド企業の臭いがするのは気のせいではなかろう。

 

「そう言う訳だ。つまり君は本日を持って王立英国陸軍を退役し、トライデント・セキュリティー社警備部特殊作戦課のIS特殊部隊FASTへ配属される事になる。だけど、どうしても腑に落ちないんだ。君を受け入れろと言われたからこっちもそれ相応の対応をしている訳であって、本来ならば君は原隊に復帰するはずの人材だ。まだ伸び白がある分、SASに落ちたとしてもまだ道は残されているからね」

 

もうあの場所に未練は無い。英雄への道も閉ざされた今、戦闘工兵部隊に居る意義も無い。だからオレはこうしてここに居る。だが、自分は今ボートとオールのみを渡されて大洋を航行している様なものだ。道筋など、何処にも無い。

 

「オレはこれからどうすればいい?」

 

そんな言葉が口をついで零れ落ちる。何も考える事無く命令に従ってきたオレにとっては、自分で考えて行動する事にどうも不安を覚えてしまう。

 

「それは自分で決める事だ。誰かが命令する事じゃない。この俺でもな」

 

――人生は命令によって決められるようでは、それは人間ではなく、機械だ

 

かつて自分が嫌っていた父親の言葉が脳裏より去来する。

 

「分かった……」

 

オレは機械じゃない。人間だ。どこも変わらない、16歳の、普通の人間だ。

その言葉をお守りのように、幾度と無く繰り返す。自分の存在価値はそこにあるとでも言いたい様に。ジョン・プライスにとって、モードレッド・ペンドラゴンの存在価値はどれ程だったのだろうか?それは今となっては遠い過去の中の話に思える。『英雄気取りの青二才』と称するほどにオレの存在には価値が無かったのだろうか。

英雄の武功に手を伸ばし、かくや自分もこうでありたいと云う思春期の馬鹿馬鹿しい崇高な思想にオレはその言葉のままを実行した。

 

“それで、オレはどうなった?”

 

何かが、変わったか?所属は確かに変わった。肩書きも変わった。だが自分の中で未だに『英雄への渇望』がとぐろを巻いて渦巻いている。それだけは変わらない。

 

――変わっては、いけない。それが自分の生きている証なのだから

 

「それじゃあ、俺の部署について少し説明を入れておく。特殊作戦課のFASTチームが俺の指揮下に入る。実質的な不正規戦部隊だから戦闘訓練はDEVGRUやデルタフォースが行っているものとは大差無い。SAS出身の君にとっては造作も無い事だろうけど。装備に関しては向こうに着いた時に装備リストを渡して、武器装備管理担当の人に渡してくれ。一式揃えて君の分を用意する」

 

――了解です

 

大まかな事は耳に入っているが、モードレッドは大層退屈そうに車窓の景色を眺めている。

 

「こんな都会に出るのは久しぶりそうな顔をしているな」

 

「別に……」

 

「最初に会って分かった。どう見ても田舎から出てきた若者にしか見えん」

 

“え…?”

 

次第に顔が紅潮していく。完全に見透かされた。と言うより丸分かりだった…という表現が正しいだろう。まずビルを物珍しげに見つめていたのがまずかった。それに人混みに流されたときには妙に不安になったものだ。それを総合してそこまでの結論に思い当たるならば、彼は相当の技量を持った兵士だったのだろう。

 

「い、いやオレは一応都会は慣れてるし!」

 

「頑張れよ女子高生」

 

初対面の指揮官にこの言われようだ。これでは先が思いやられると言うか予想が全くつかない。別段女子高生である事に否定はしないが。

 

「ベルギーチョコをあげよう。こっちに来た土産だ」

 

そうフランクな笑みを浮かべて彼はベルギーチョコを差し出した。

 

「じゃあ、ありがたく……受け取っておきます」

 

ベルギーチョコを一口。なかなかいける味だ。イギリスのチョコレートに比べれば甘みととろみが良い具合にマッチしている。アレに比べてはいけないかもしれないが。

 

「そろそろ支社に着くな。降りる準備をしておいてくれ」

 

窓を見渡せば先程までのビルの風景とは打って変わり、軍の基地である事を示す広大な有刺鉄線と鉄塔が見えてきた。格納庫があるから恐らくは空軍基地、いや戦車もある。陸軍基地と空軍基地が統合して出来たのか。いや、まさか基地警備隊などという事はあるまい。

 

「着いたから話しておくが、此処はベルギー空軍の空軍基地だ。トライデント・セキュリティー社は警備部特殊作戦課が間借りさせてもらっているという感覚に近いな。指揮管制ビルは都市部にあるが、実行部隊の拠点は主に此処だ」

 

ヘレフォードより広いなこりゃ……空軍基地なんだから当然か……とすればFASTの規模自体はそこまで大きくは無いという事なのか。

リムジンは基地のゲートを抜けて一角へと入っていく。その一角の施設こそがトライデント・セキュリティー社警備部特殊作戦課FASTチームの拠点だった。

 

「車を降りてくれ。これから装備一式を支給する」

 

車を降りて、彼は慣れた足取りで廊下を進んで行く。モードレッドも負けじと彼の横にひっつくようにしてともに進んだ。モードレッドとて伊達にヘレフォードにいた訳ではない。

 

「ここだ」

 

室内は閑散とした空気に包まれていた。装備品だけが置かれて、人間の気配はモードレッドと彼を除いて他にはいない。ただ装備品のみが列をなして置かれている。

 

「あれ…?あんたが言ってた火器担当の係は何処に居るんだ?」

 

「向こうだ」

 

少し進んだ先には膨大な銃火器と装備品が大量に置かれた小部屋があった。そこにキャップを被った厳つい兵士が一人。

 

「本日よりFASTに着任しましたモードレッド・プライス・ペンドラゴンです」

 

「サイズは28XSサイズでいいな?」

 

「了解です」

 

袋詰めになった装備品を受けとって中身を開封した。中身は全地形対応迷彩(マルチカム)のコンバットシャツとパンツ、それにJPCプレートキャリアとOPS-COREヘルメットとなかなかに豪勢な装備だ。だが全装備を装着してもまだ軽い。

 

「装備はマクミラン中佐が送ってきたお前の身体データーを元にサイズを合わせてある。問題があったら言ってくれ。俺は外で待ってよう」

 

何故外で待っている…?と思いかけたところでモードレッドはごく常識的な観点が頭からすっぽり抜け落ちていた事に気がついた。

 

「ああああああ分かったから!出ていってくれ!!!」

 

赤面するモードレッドを尻目に早々に部屋から退散する彼。部屋に一人残されたところでモードレッドはリクルートスーツを脱ぎ捨てて装備一式を着込む。マクミラン中佐が身体データーを渡してくれたおかげかシャツもパンツもしっかり密着する。重いかと思っていたプレートキャリアは機動性を重視するためか非常に軽い。ヘルメットには特徴的な4つ眼のナイトビジョンが取り付けられており、完全に特殊作戦を前提に装備を調達している。

 

「ん……」

 

それなりに似合ってはいる。装備を全部揃えれば、女のオレでも様にはなるか……

 

「着替えたな。じゃあ、ついて来てくれ。装備はそのままでいい」

 

再び彼に付いていき、施設のエレベーターを下っていく。

 

「こんなに近代的なんだな。ここの施設」

 

「機密性を重視しているからな。施設のほとんどは地下だ」

 

地下深くまで降りたところでエレベーターのドアが開かれる。廊下は地上といたって変わらない。彼はさらに先へと進んで行く。暫くすると突き当たりに司令室と書かれた扉に行きあたる。

 

「ここが司令室。ビルの方とは多少異なるが、ここもFASTの指揮が出来る。入れ」

 

言われるがままに司令室へとモードレッドは足を踏み入れ、一角のソファへと座りこんだ。

 

「さてと、モードレッド・ペンドラゴン少尉。大方の事は話したが、一番重要な事をまだ話していなかったな。先ほど俺はこの部隊がIS部隊である事は説明した」

 

そうだ。確かにIS部隊だという事は聞いた。だが他に話す事があるとすれば……

 

「それともう一つ。この部隊はそれ以外に不正規戦を行うデリケートな部隊である事も分かって頂きたい」

 

再び頷く。成程、道理で機密性が高いわけだ。

 

「まあ、簡単に言えば君が他の奴にFASTだと広めなければ良いという事だ。口が固ければ、それでいい」

 

「それで、オレのISは?」

 

モードレッドの問いに彼は無言で手元のタブレットを操作し、彼女へと差出す。ISの装甲を見ると、極めてステルス性を重視した曲線系のISだという事が分かった。

 

「これが、うちの部隊のISだ。ラプターと呼ばれている機体でね。ステルス性と機動性に富み、なおかつ歩兵用の装備も充実した特殊作戦向けのカスタマイズ機だ」

 

「それにオレが乗ると」

 

「そういうわけだ。それと、FASTのメンバーを紹介しよう」

 

一呼吸ついて、彼は再び口を開いた。

 

「まずは俺から、ジークフリード・ローゼンシュタイン。それと俺の弟のクリームヒルト・ローゼンシュタイン。俺たちが主な実行部隊だ。バックアップチームは他にいるがそれはまた今度という事にしておこう。少し休んでおいてくれ」

 

そうして彼、ジークフリードは司令室を退出し、後には後にはモードレッドのみが残された。

 

古臭い時計の鐘が11時を告げている。

 

 




続きは多分工兵シリーズはひと段落ついた後になります。
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