Infinite Stratos Easy Day 作:キングオブ不死身さん
政府軍キャンプより北30キロ地点
クリームヒルト・ローゼンシュタイン少佐
作戦開始 0:30
南米特有の粘つくような風が歴戦の戦士の顔を撫で付けていく。
川は浅い。せいぜい膝につかる程度だろう。自分の足元の状況を確認し、次に武装をチェック。
SR-47にM203グレネードランチャーが銃身下部に装着されている。マガジンは全部で7個。足りなくもないがこれだけでは少々不安が残る。
目の前には鬱蒼とした熱帯雨林が一面に広がる。常人ならばこの奥地にたどり着く事は不可能に近いだろう。だがここにいるのは常人ではない。幾多もの戦場を駆けた古兵たちだ。彼らはベトナムのジャングルを潜り抜け、アフガニスタンではムシャビディンと共にソ連を追い払い、そして今はニカラグアにて年端もいかない少年を従えてジャングルを駆け巡る。従われている少年は確かにまだあどけなさが見られるが、銃の腕も心も兵士のそれと変わらない。詰まる所広義で言う少年兵とでも呼ぶべきだろうか。しかし彼はアフリカの貧相な少年兵とは違いAKではなくM4の改良を施したHK416A5と腰に掲げるP226、そしてジャングルに適したAOR2(グリーンデジタルカモ)迷彩を着込み、周囲を一部の隙も無く警戒して泥を蹴立てて進んでいく。
「まだ名前を聞いていなかったな。坊や、名前は?」
ごくありふれた質問をありふれた感情を持ってウッズは口にした。特に質問の意味はない。ただ単純に彼の名前が聞きたかった。それだけのことだ。
「クリームヒルト・ローゼンシュタインです」
ケツァルコアトルが上空へと巨大な翼を翻して飛び立っていく。静寂がジャングルを覆った。
「名前から察するにドイツ系だな。あの時はずいぶんと手慣れていたようだが」
バーでの襲撃事件の折、彼はとても常人とは思えない身のこなしで突入してきたニカラグア警察の特殊部隊を圧倒した。通常、CQBの動作は極めて複雑でさらにチームでの戦闘となるとそれぞれが互いを把握した状態で適切な連携が取れていなければならない。それを体得する事が出来るのは訓練を積んだ兵士でも3カ月以上はかかる。阿吽の呼吸と言われるまでに息が合わなければできない業なのだ。とっさのチームであのような動きが出来る可能性はほぼゼロに近い。チームを把握してこそ連携だというのにこの少年はたった1分でそれをやってのけた。
ウッズはこの少年に対する畏敬の念と同時にほんの一握りの恐怖を感じた。それは戦いの中で感じるような死の恐怖ではなく、得体の知れない相手に対しての恐怖感なのかもしれない。それも恐怖の一種であるのだが。
「いつもの事ですから」
とクリームヒルトはにこやかに笑って見せた。
「それは凄いな。頼りにしてるよ」
そんな他愛もない会話を二言三言交わした後に、再びジャングルを前進する。先へ先へと進むごとに視界は開けていき、日の光が少しずづ地面へと照り返してくる。恐らく敵地が近いのだろう。ウッズは視線を逸らさずにそっとSR-47を肩へ寄せた。もう悠長などしていられない。セーフティーを解除。周りの状況に最大限警戒しつつジャングルを抜けていく。
ジャングルを抜けた先は沼地の集落だった。カジノ街のネオンなど見る影も無く高床式の家が8件程立ち並んでいるのみだった。しかし、その集落こそがサンディニスタの拠点の一つだった。それを示すかのようにAKを持った兵士が数人集落の道路を哨戒している。だがどの兵士も皆15か16ここにいるクリームヒルト程の年齢の兵士ばかりだ。ウッズはSR-47の照準を一人の少年兵へと合わせる。
そこでウッズはふと周囲を見渡す。几帳面に折りたたまれたAOR2迷彩のシャツが脱ぎ捨てられていた。何事かと思って視線を照準へと戻すと、そこにはつい先ほど隣にいた筈が堂々と敵地の真ん中を歩いているではないか。あろうことか、非武装で。おい、やめろ。と制止しようとしたがもう時は遅い。声を張り上げて制止させようとすれば確実に自分たちの存在が気づかれる。しかし彼はそばにいた少年兵へとフレンドリーに話し始めた。初めは怪訝な顔を見せていた少年兵も次第に陽気な性格を見せてくる。恐らく彼らはクリームヒルトの事をバックパッカーと思っているのだろう。少しして彼らは近くの川へと向かっていった。自分の土地を誇らしげに話す少年兵。
「なら最初から観光客だって言ってくれれば僕たちだって歓迎会を開こうと思ったのになあ。 まあ、こんなところだけど好きなだけ見回って見てくれよ」
「うん。ありがと」
そこでクリームヒルトは本性を見せた。川を見せようと少年兵がかがんで彼へ背を見せたその隙にクリームヒルトはナイフを取り出し少年兵の首筋へ当てた瞬間、赤い液体が茶色く濁った川の水を赤く染めていく。
「嫌だぁぁぁっ!助けてよ!誰か、誰か、お願いだ!助けてよぉぉぉぉ!!」
それからの出来事はウッズの眼にはにわかに信じ難かった。少年兵をナイフで倒した後クリームヒルトはあろうことか放火して見せたのだ。その家は無残に焼け落ち黒煙が辺りを覆う。突然の出来事に少年兵達は体中を炎に巻き付かれて断末魔の絶叫を上げて地面へと倒れていく。クリームヒルトは彼らの死亡確認だけを行うと、生き残りの村人へと銃を乱射し始める。彼らから奪ったAKを使って。容赦も無く、慈悲も無く、ひたすらにマガジンの弾がなくなるまで彼は撃ち続けた。
「何てザマだ…」
不思議とウッズは冷静な表情でその光景を眺めていた。目の前で住人とサンディニスタとも見分けがつかぬ者達を年端も行かない少年が眉一つ動かさずにAKを乱射しているのだ。常人ならば頭に血が上っている事だろう。しかし先程の通り、考えてみれば彼らだってサンディニスタの可能性だってあるのだ。ならば、とせめてもの言い訳をつくって逃れようと画策する。所詮言い訳に過ぎないが。
「行くぞ。攻撃はもう始まってる」
抱えたSR-47と揺らぐ愛国心を胸にウッズは村へと駆け出すのであった。
結果を話せば、ここの一帯のサンディニスタの拠点はほぼ壊滅的なまでの被害を被った。ウッズたちの活躍もあってのことだが一番の原因はクリームヒルト・ローゼンシュタインその人にあった。理由は簡潔。一般市民に扮して彼らへ近づき、そしてある程度まで接近出来たら本性を発揮し容赦の無い虐殺劇を繰り広げる。その際は決して生存者を残さない。非人道的だが効果的な戦術。米陸軍でも似たような事は戦術としてベトナム戦争時に一部の部隊が好んで使用していたと聞く。
あまりに非人道的な戦術にメイソンは憤慨し、問い詰めた
「お前さん。いい加減に正体を明かしてくれ。どこでそんな戦術を習った?」
しかしいくら問い質したところで彼は全く口を開こうとしない。ハドソンに報告した時には「そんな戦術をCIAの工作部隊が教えるはずが無い」と真っ向から否定される始末。残りは彼だが、どうもあの戦術から見るにただの部隊の出身ではないのは明らかだ。
「……」
ダメだ。反応がない。
「ウッズ。トライデント・セキュリティーに問い合わせてみてくれ。この子の所属を調べたい」
「成程ねえ……つくづく謎の多い坊やな事だ」
こうしてニカラグアにおけるサンディニスタ民族解放戦線掃討作戦は一応の幕を閉じたのであった
次は新登場人物の視点ののちに織斑一夏の視点に戻そうと思います