Infinite Stratos Easy Day   作:キングオブ不死身さん

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新キャラ登場です。とはいってもリメイク前のモノを見ている人はお分かりになるでしょう。

それでは、はじめていきます


壊れた幻想

 

辛いといえば恐らく今この時が一番辛いと感じる事だろう。どんなに戦場を渡り歩いても、どれ程の銃弾を受けようとも、自分にとってはこの時が一番辛かった。この時期の16歳の多感な少女はアイドルの夢を見るものはいない。だが彼女は違っていた。確かにそれとは対象が異なるものの、羨望という点ではそれと似ていたのかもしれない。自分が目指したのは、自分が最も敬愛していた父親と同じ道を歩む事。それは即ち特殊部隊として後を継ぐという事でもあった。幾度と無く降りかかる現実。それに対して何度も何度も乗り越えた。乗り越えたつもりだった。選抜試験にもパスした。CQBの訓練も受けた。山岳訓練も乗り越えた。だがそれでもオレが最も敬愛している父親は自分とは正反対に全く自分を見ようとはしなかった。むしろそれを拒絶している風にも感じられた。何故振り向いてくれないのかとどれ程父に請うたことか分からない。

目を開けた先は薄暗い尋問室。SASの最後の試験だ。捕虜となった際に耐性を付けさせるのが目的なのだが、彼にとってはそうではないのがはっきりと伝わった。

 

「起きろ。モードレッド」

 

その声に従って彼女は目を上げる。そこには彼女の最も敬愛しているはずの父親が立っていた。SASの伝説とも言われる男。ジョン・プライス・ペンドラゴン。鎖に繋がれているのは彼の娘のモードレッド。

皮肉な親子の再会モードレッドは思わず嘆息を漏らした。

 

「お前に対しては軍事機密何ぞ吐かせるつもりなど毛頭無い。それだけは言っておく」

 

妙なものだ。尋問で答える事は軍の所属番号と部隊名のみ。だがそれすらも無いという事は一体彼は何を考えているというのか。答えは想像が付く。

まずプライスの乾いた拍手が尋問室に木霊する。おだてているのでもなく、淡々と、事務的な形でプライスは目の前の娘を見つめた。決して自分のことを見下しているわけでもなく、ただ哀れな子兎を見つめるかのような視線を自分の娘へと向けている。

 

「ここに来た事は認めよう。お前には選抜訓練を乗り越えられる体力もあるし、特殊技能も戦闘工兵部隊出身だけあって申し分無いレベルだ。だが、お前を娘とは認めてもSASとしては断固とし

て認めない」

 

ああ、いつもの台詞だ。とモードレッドはしみじみとその言葉を聞き流した。何度も聞いた台詞、何度も聞いた理由。どれをとっても16歳の少女には納得がいかない答えばかり、いや、答えすら彼は出そうとはしていない。

 

「何でだよ……、どうしてアンタはそうやってオレを否定するんだ?せめて意味くらい教えろよ!」

 

 

 

「お前は戦争を中世の騎士同士の戦争としか考えていない節があまりにも多い。戦争をコールオブデューティーか何かと勘違いしていないか?目の前で誰かが死ぬんだ。それが俺かもしれない。ギャズかもしれない。それが現実だ。いい加減に自分を改めろ。今のうちに。手遅れになる前に!」

 

「現実?戦場?そんなものは何度も見てきた。自分がこうなったのはアンタのせいだってのに!」

 

「ふざけるな…この英雄気取りの青二才が!」

 

抑えようも無い怒り、それはやがて純粋な感情へと変化していった。ごちゃ混ぜになった思考回路から一転し、目の前がプライスの髭面が淡く輝いた気がした。

 

“ああ、なるほどね…”

 

そういう事だったのか。

 

自分の椅子が砕け散るような感覚がモードレッドの頭に去来し、身動きも取れないままゆっくりと深淵へ堕ちていく。これでようやく分かった。自分の夢が。自分が望んだ理想も何もかもが。うっすらと緑の双眸から涙が零れ出る。理解すると同時にその幻想は醜く砕け散った。この時彼女は自分自身で自分の夢を否定したのだ。嗚咽が喉から溢れ出る。どうしようもないほどの虚脱感と絶望感に打ちのめされて呆然とした眼で自分の父親を見つめ返した。相変わらず何も変わっていないその父親に対して炎が燻ぶるのをはっきりと感じ取った。

だが、何も出来ない。出来るはずがない。自分に出来る事はこの無力感と絶望感に打ちのめされている事だけ。

 

「暫くの間はそっとしておけ。ここの尋問室は使うな。他の部屋を使ってくれ」

 

「分かりました」

 

そうして他のSAS隊員が退出した。たった一人取り残された部屋に彼女の嗚咽が漏れるのみであった。

 

 

 

プライスは尋問室から戻った後に煙草を口にした。ライターのカチリという音と共にバーナーに火が灯される。薄っすらとした紫煙が悠揚に立ち上り、消えていく。

 

「言い過ぎたか…」

 

モードレッドの絶望と憎悪に満ちた表情がまざまざと浮かんでくる。彼女のあの時の絶望感は死に等しかっただろう。分かっていても彼には言わねば為らぬ訳があった。どうしても、彼女をあの時点で止めなければ為らなかった。

 

「大丈夫か?プライス?反抗期の子供を育てるのは大変だな」

 

ふと、自分の横にかつての上官が肩を並べて立っていた。数多くの激戦を若き頃のプライスと共に駆け抜け、そして今は司令官の椅子にどっかりと座っている。

 

「モードレッド、叛逆の騎士ねぇ…。経歴を見たが何処までも直情的で、誰よりも前へ出る。そして誰よりも多くの功績を求めた…」

 

「騎士の功名に憧れてな」

 

プライスが粛々と彼の言葉を継ぐ。

 

「そして彼女は本物の騎士を目指した。自分の理想像をひたすらに求め続けて、そしてこの日その夢は崩れ去った。か…」

 

ヘレフォード陸軍基地の司令室を悠揚の光に照らされて淡く輝いた。そんなロマンチックな光景に相反するかのように二人の騎士はお互いに叛逆の騎士の書類を見つめている。

 

「良い子なのにな」

 

「そう思えるあんたが羨ましい」

 

良い子、という表現にプライスは多少首を傾げるものの、すぐに笑い飛ばして煙草を灰皿へと弾き飛ばした。

 

「いいや、俺個人の感想だ。だが兵士としてはこの子は非常に秀でた才能がある。SASは不合格になるが、ちょっと試してみたい事がある。だがこの子の才能は恐らくイギリス軍では生かされないだろう。ならば…やる事は一つ」

 

彼は先ほどのジョークではなく、真剣な表情でプライスへと詰め寄った。

 

「あんた…正気か?」

 

「正気だ。十分に考えてある。彼女のメンタルを重要視する事が何よりも大切だ。せめて、希望を見出してくれればそれだけでも彼女の力にはなるはずだ」

 

上官からこんな言葉が出るとはプライスには夢にも思っていなかった。ただただ、目の前の上官をまじまじと見つめていた。まるで彼女の本当の父親と接しているかのような表情にプライスはニヒルな笑いを浮かべる。

 

「まあ、自分の道は自分で決めるさ。そうでなくては務まらんよ。あの程度で精神が病むほど柔なガキじゃない。徹底的なまでに反抗する馬鹿娘だからな」

 

そうしてプライスは自らの娘の事を想った。自分の道を決めるのは良い。それで彼女が満足するならそれでも良い。人それぞれというものがある。しかしだ――

 

――決してその道を振り返らないという覚悟があればのことだが

 

 

 

 

 

一人残された部屋に一人の少女の嗚咽が漏れる。それは決して生半可な理想ではなかった。それのみを目指して今日という日を迎えてきたというのに、現実というものは何処までもサディスティックに自分を追い詰めた。彼は自分の思考などとっくにお見通しである事は分かっていた。他の隊員の尋問訓練では耐えられただろうとモードレッドは今更ながら僅かばかりの理性を回転させて思い返す。他の誰かに理想を否定されてもモードレッドは怖気つかない腹積もりでいた。そんなものは自分の勝手だ。お前らに言われる筋合いは無いと全力で否定できた。だがそれが――

 

“理想そのものに否定されたら?”

 

自分は最後までその一点に気づかなかった。プライスが言い放った言葉、英雄気取りの青二才。その言葉の意味を理解できなかったらどれ程自分は幸せだっただろう?その未来の幻想に薄ら笑いを浮かべたモードレッドは一人虚空を見つめていた。

 

“これで…終わりだ”

 

自分でも反吐が出るほどのメンタリティの低さだ。現実に打ちのめされて、前に進む事を諦めた大馬鹿者がここにいる。

 

“嗚呼…”

 

不意に尋問室の扉が開き一点より光が差し込み、モードレッドの全身を包み込んだ。その光の先に立っていたのはプライスではなかった。ベースボールキャップを被り、薄い髭を生やした30代の男がそこに立っていた。

 

「ギャズ…?」

 

ギャズと呼ばれたSAS隊員はモードレッドに慈愛の笑みを投げかけた。決して皮肉面ではない。この最悪なまでの親子関係を見かねてわざわざ尋問室まで駆けつけたのだ。

 

「随分と親父さんに絞られたそうだなぁ。大変だっただろう」

 

「…」

 

モードレッドはそれでも口を開こうとはしない。既に頭の中が混沌に支配され、それを行う命令系統すら動作していない。

 

「ごめんな。辛い思いをさせてしまって…」

 

“ごめんなさい?”

 

モードレッドの中で何かが弾け飛ぶ音がした。衝動に駆られてモードレッドはギャズへ一直線に飛び掛った。

 

「ふざけんなよ!!何がごめんなさいだ!何が辛いだ、オレの気持ち何ざどうせ何も分かってないくせに!」

 

それは遠吠えだった。現実を頑なに見つめようとせず、自分の理想像を未だに追い求めている負け犬は唯一の味方にすら牙を剥いた。

 

「それが君の最大の甘えだよ。他者に自分勝手な憎悪をぶつけて、君は何一つ成長しない。その結果、得られたはずのものを自分の手で引き離しているんだ!」

 

「じゃあ、どうしろっていうんだよ!」

 

抑えようの無い怒りで涙で目の前が滲む。モードレッドは自分の体力の続く限り吼え続けた

 

「自分で決めるんだ!自分の道を!」

 

そうしてモードレッドの視界が少しずつ開けてきた。何か、希望にしては小さいが、それはモードレッドの思考を動かす活力となった。頭が満ちていく。

 

「ギャズ…オレは、行くよ」

 

何処へ?自分でもそれは分からない。だがここから踏み出すことが彼女の道への一歩。そこから、彼女の物語が始まろうとしていた

 

 

 

 




心なしかISの世界に飛ばされてのほうが閲覧数がすごい多い気がします。気のせいでしょうか

次からはセシリアと一夏に視点を移していきたいと思います。
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