Infinite Stratos Easy Day 作:キングオブ不死身さん
少しずつ彼女の歯車は進んでいった。グリスが多少こびり付いてはいるが着実にそれは回り始めたのだ。尋問室を出たモードレッドは一直線に指揮官室へと向かう。体はボロボロ、涙も枯れ果てた。泣くだけ泣いた。ならば自分に残すものはもう何も無いはずだ。だから、自分に何も悔いは無い。
指揮官室のドアの先にいたのは、自分の上官になる筈だった人。今でこそ目は柔和だが昔は相当な腕を持った狙撃主だったと聞く。
「どうも、マクミラン中佐」
毛むくじゃらの司令官マクミランは手元のエンフィールドをガンラックへと仕舞い、モードレッドのほうへと向き直る。
「やあ、モードレッド・プライス・ペンドラゴン少尉。こうして顔を合わせるのも1週間ぶりだな。それにしても顔色が悪いようだが大丈夫か?ゆっくり休め」
ほんのりとはにかむマクミランに対照的に顔をしかめたモードレッド。歴戦の風格が新兵に一層の焦燥感を募らせた。
“何を焦っているんだ…?”
自分でも理解出来ない焦燥感にモードレッドは困惑する。何故自分はこの男の目の前で焦る事があるのだろうか。全部、リセットすると決めたはずなのに。
「モードレッド少尉。君がここに来たという事はある程度覚悟を持っているという認識で構わないかね?」
「…はい」
覚悟、と聞かれてモードレッドは一瞬言葉を詰まらせる。SASは恐らく最終訓練課程で不合格は確実だ。父親の目の前で醜態を晒して見せたのだから、しかるべき結果が下されるだろう。終わりだ。だから自分にはこの結末を終わらせるだけの覚悟はある。
「本日付で選抜試験の辞退。及び原隊の除隊申請を行います」
不思議とマクミランを見つめている内に双眸がじわりと水滴で満たされる。どうしてあの時自分覇気づかなかったのか?全ては自分のおこがましさにあった。自分は傲慢だった。何よりも理想を高く持ち、それにあたかも自らがあやかれるような妄想を抱いて自分はそこに居た気分になっていた。
「そうか…残念だったね。最後まで死力を尽くして君はここまでやってきた。誰よりも立派で勇敢だった君を失うのは英国陸軍至上の損失だ。悲しいね」
毛むくじゃらの司令官は無言で不合格通知と書かれた書類をモードレッドへと手渡した。
「お父さんの事は嫌いかい?」
「大嫌いです」
ふと、モサモサとした感触が頭を伝った。涙を拭うとそこには毛むくじゃらの司令官が柔和な笑みで撫でている。
「そうか…あの御老体も随分と娘に嫌われたもんだな。まだ現役を務めているだけはある。しかしモードレッド少尉。君に言わなければ為らないことがある」
マクミランは続ける。
「君は理想を求めた。だけどちょっと棚が高かったようだ。理想は自分の背丈にあった高さの物を求めるといい。あまり高くしすぎるとひょんなことで倒れてしまう」
自分にちょうどいい高さの理想はこの業界にあるのだろうか。
察したマクミランはモードレッドへと一冊の本を手渡した。そこには民間軍事会社求人リストと書かれている。
「モードレッド。子供の時間は終わりだよ。自分の理想は、自分で決めるんだ」
理想、脳をフル回転させてその語句に当てはまる条項を検索する。しかし何処にもそれは当てはまらない。行動原理も全てが初期化された自分はまず考える事から始めた。自分が今まで行ってきた事が、嘘ではないと証明したい。何もかもが無駄ではなかったのだと。死力を尽くして試験を戦い抜いた事も、その時の自分の気持ちも、プライスに理想を砕かれた事も、忘れない。風化させてまた同じ事を歩むのは、馬鹿のすることだ。忘れないで再び道を歩いていこう。だから――
自分の歩いたその道を、後悔はしたくない。
工兵と飛ばされてが盛況なようです。こっちも地味ながら続けていきますよ