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何度もキッチンと竜たちのテーブルを往復していたマキは、サンドイッチとパフェをゆっくりと食べ始めたあかりの姿を見てフゥと息を吐く。
マキはお昼休みの時のあかりの重箱を知っているだけに、もしかしたら喫茶店の食料をすべて食べ尽くしてしまうのではないかとも思っていた。
喫茶店への売り上げとしては助かるかもしれないが、それでも他の客の迷惑になるような事態にならないで済んだことにホッとしていた。
「ちょっと大変だったね・・・・・・」
「いやぁ・・・・・・、ここまで食べるとはねぇ・・・・・・」
「本当にビックリねぇ」
キッチンから竜たちのテーブルを見ながらマキの父親と母親はやや疲れた表情を浮かべていた。
今までにないレベルの注文だったため、マキだけでなく両親も含めて疲れていた。
「あ、お父さん。竜くんがバイトを探してるんだけど・・・・・・、うちでどうかな?」
「竜くんって言うとあの子だろ?ううん、男を働かせるのはなぁ・・・・・・」
運ぶものもなくなり、余裕のできたマキは父親に竜をバイトとして働かせることができるかを聞く。
マキの言葉に父親はチラリと竜の方を見、腕を組んで唸った。
店としては人手が増えることは歓迎なのだが、それが男となると娘をもつ父親としてはどうにも簡単には頷くことができなかった。
「あら、私は働いてもらうのは歓迎よ?」
「いや、しかしだなぁ・・・・・・」
「もう・・・・・・、ちょっと来てちょうだい」
母親の肯定する言葉を聞いても父親は渋い表情を浮かべている。
乗り気ではない父親にしびれを切らしたのか、母親は父親の手を引いてキッチンの奥へと行ってしまった。
キッチンの奥に消えていってしまった両親の姿にマキはコテンと首をかしげる。
「やはり・・・・・・おと・・・・・・・・・・・・」
「いえ・・・・・・・・・・・・だから・・・・・・むしろ・・・・・・」
「なにを話してるんだろ?」
途切れ途切れにかすかに聞こえてくる両親の言葉にマキは興味を示しつつ、店内にいる客にいつ呼ばれても大丈夫なように待機している。
しばらくすると、母親は楽しそうにニコニコと笑みを浮かべながら、父親はまだどこか納得していないような表情を浮かべながら戻ってきた。
「マキちゃん、バイトの件はオッケーになったわよ」
「え、ホントに?!」
「・・・・・・・・・・・・ああ、本当だよ」
母親の言葉にマキは父親を見る。
さっきまではそこまで乗り気ではなかったのにいったいどんな心変わりがあったのか。
マキが父親を見れば父親は少しだけ苦いような表情になりながらもしっかりと頷いた。
「ちゃんと竜くんとも話をしたいからつれてきてくれるかい?」
「うん。分かった!」
父親の言葉にマキは嬉しそうに竜たちのいるテーブルへと向かっていった。
小走りにテーブルへと向かっていくマキの姿を見ながら父親は小さくため息を吐く。
やはり娘をもつ父親としては納得ができていないのだろう。
「はぁ・・・・・・」
「もう。さっきも言ったでしょう?他の変な人が近づいてくるよりも先に信頼できそうな子を近くに置いておけばマキも安全なのよ?」
「そうは言ってもなぁ・・・・・・、あぁ、マキぃ・・・・・・」
ため息を吐く父親に母親は先ほどキッチンの奥に行ったときにした話をもう一度する。
娘が心配であるならば先に護衛役として信頼できる人間を置いておけばいい。
そうすれば自然と変な人間などから娘を守ることができるだろう。
そう言って母親は竜が“cafe Maki”で働くことを認めさせたようだ。
「・・・・・・・・・・・・それに、あの子とマキちゃんってあなたと私に似てる気がするのよねぇ」
うめく父親から顔を逸らし、竜に話しかけているマキを見ながら母親はポツリと小さく呟くのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ