・
両親から竜が働く許可を得たマキは竜たちの座っているテーブルに小走りで駆け寄ってきた。
嬉しそうにマキが駆け寄ってきたことに不思議そうに首をかしげながら竜たちはマキを見る。
ちなみに、あかりはすでにサンドイッチを食べ終えて、残りはパフェだけとなっていた。
「竜くん、お父さんがバイトとして働いてもらっても良いって!」
「マジか!」
マキの言葉に竜は思わず立ち上がって声をあげてしまう。
そしてすぐに目立ってしまっていることに気がついて椅子に座り直した。
「ん、んん!えっと、本当にオッケーが出たのか?」
「本当だよ。あ、でもお父さんが話したいことがあるから呼んできてほしいって」
咳払いをして先ほどの目立ってしまったことをどうにか誤魔化そうとしつつ、竜はマキに再度確認をとる。
誤魔化そうとする竜にマキは苦笑し、頷いて肯定した。
そして父親に竜を呼んでくるように言われたことを説明する。
「分かった。どこに行けばいいんだ?」
「それじゃあ私についてきて!」
マキの説明に竜は頷き、席から立ち上がる。
今度は普通に立ち上がったのでそこまで目立つことはなく、静かに立ち上がることができた。
そして、マキの案内のもと、竜はマキの父親の待つキッチンへと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
マキと竜がキッチンに向かっていくのをゆかりたちは何処と無く恨めしげな瞳をしながら見ていた。
「まさか、マキさんのお父さんが許可を出すとは・・・・・・」
「この間の話を聞いた感じでは絶対に男は採用せえへんと思っとったんやけど・・・・・・」
「なにか他の理由がある、とか?」
「えっと、そんなに竜先輩がバイトできそうなことが意外なんですか?」
唯一マキの父親の溺愛っぷりを知らないあかりはゆかりたちの言葉に不思議そうに首をかしげる。
「せやで、マキマキの父ちゃんはマキマキのことをかなり溺愛しとるんや」
「ですのでバイトとして働くことを許可したことは本当に意外なんですよ」
「そうなんですね」
ゆかりと茜の説明に納得したのか、あかりはパフェを口に運びながら頷いた。
どうやらこのパフェが最後だということで、あかりはゆっくりと食べている。
「でも、それならどうして竜先輩が働くことを許可したんでしょうね?」
「本当にそこなんですよね」
「普通に、『男は採用しない』とか言いそうだと思ったんやけどね」
「ぜんぜん理由が思いつかないね・・・・・・」
説明を聞いたあかりは改めて、なぜ竜に働く許可が出たのかが不思議になって呟く。
あかりの呟きに同意するようにゆかり、茜、葵の3人も頷くのだった。
◇ ◇ ◇
ゆかりたちが会話をしている頃。
竜はマキにつれられてキッチンに来ていた。
竜の目の前にはマキの父親が立っており、複雑そうな表情を浮かべながら竜を見ている。
「さて、とりあえず働くことは構わないんだ・・・・・・」
竜を見ながら父親はゆっくりと口を開く。
言葉の端からしぶしぶといった雰囲気が感じられ、竜は少しだけ表情が固くなった。
「ただし、マキに対して不埒なおこないをした場合には即座に辞めてもらうからね!これがここで働くための条件だよ!」
バイトとして雇う際の条件を父親は言う。
おそらくだがこれでも父親としては最大限の譲歩なのだろう。
そんな父親の様子に母親は少しだけ困ったような表情を浮かべている。
「えっと、とりあえずマキとは普通に接していれば良いんですよね?」
「まぁ、そうなるな・・・・・・」
父親の言う不埒がどの程度のものなのか分からず、とりあえずは普通に接してもいいか竜は尋ねる。
竜の言葉に父親は少しだけ考え込みながら頷いた。
竜としても特段セクハラ染みた行動などをするつもりもなく。
むしろ働くことのできる環境を用意してくれたマキには感謝しかない。
父親の出した条件を受け入れ、竜は“cafe Maki”で働くことを決めるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
-
佐藤ささら
-
鈴木つづみ