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トントンと包丁の音が聞こえ、それと一緒になにかを焼くような音も聞こえる。
調理する音を聴きながら竜は椅子に座っていた。
竜が今いるのは弦巻家の食卓。
目の前に座っているマキの父親からの視線に竜は気まずさを感じていた。
「・・・・・・えっと」
「竜くん、仕事には慣れてきたかな?」
ジッと見てくる父親に竜が冷や汗を流していると父親が話しかけてきた。
バイト中にマキが聞いてきたことと同じことを父親は聞いてきた。
まったく同じことを聞いてきたマキと父親に、竜は親子なんだなぁと思わず笑ってしまう。
「どうかしたのかい?」
「いえ、すみません。仕事をしてるときにマキも同じことを聞いてきたもんで・・・・・・」
急に笑った竜に父親は不思議そうに声をかける。
父親の言葉に竜は謝り、つい笑ってしまった理由を答えた。
竜の言葉から、自分が娘であるマキと同じことを聞いたということを知り、父親は少しだけ嬉しさと恥ずかしさの混ざったような表情を浮かべて顔を逸らす。
「そ、そうかい・・・・・・」
「えっと、仕事についてですけど大分慣れてきたとは思ってます」
マキにも言ったことと同じことを竜は父親に言う。
竜が仕事に慣れてきていることは仕事ぶりからも理解はしていたが、それでも本人の口からちゃんと聞くことにも意味はある。
なお、マキの父親が竜のことを見ていた理由はバイトとして働きが気になるから。
というわけではなく、マキに不埒なおこないをしないかの監視として見ていたからだ。
「慣れてきたなら良かったよ。それに、マキに変なこととかもしてないみたいだしね」
ここ数日の竜の仕事の様子からマキに対しても普通に友人として接している姿を見ており、父親の中では竜に対しての警戒心が少しだけ下がっていた。
竜とマキの父親が会話をしていると、いつのまにか調理をしている音が聞こえなくなっていた。
そしてマキとマキの母親が料理を持ってきた。
「お待たせー」
「マキちゃんが手伝ってくれたからとても楽だったわぁ」
マキとマキの母親が両手にそれぞれ持ってきたのはオムライスだった。
しれっとケチャップでハートマークが描かれている辺り、勘違いしても仕方がないだろう。
まぁ、マキからすれば可愛いかと思って描いただけなのだが。
「私とお母さんの特製オムライスだよー」
「おお、かなり旨そうだな」
そう言ってマキは自分と竜の前にオムライスを置いていく。
それと同時にマキの母親も自分と父親の前にオムライスを置いた。
マキが竜の前にオムライスを置いたことに父親はピクリと眉を動かしたが、とくになにかを言うことはなかった。
「ハートを描いたのか。俺じゃなかったら勘違いしてたかもな」
「えへへー、可愛いでしょー?」
「マキちゃんはオムライスだといつもハートを描くものね」
「・・・・・・・・・・・・うん。そうだ、マキにハートを描いた深い意味はないんだ・・・・・・」
オムライスに描かれているハートに竜は思わず苦笑しながら言う。
竜に言われ、マキは自慢気に笑った。
どうやらマキがオムライスにハートを描くのはいつものことなようで、母親は微笑ましそうにマキのことを見ていた。
その隣では父親が自分に言い聞かせるように小さく呟いていたが、誰も気にしていない。
「さ、冷めちゃう前に食べよう」
「それもそうだな」
「そうね。ほら、食べるわよ?」
「ん、ああ、分かったよ」
そして4人は手を合わせて食事を始めるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ