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マキに渡されたお弁当のおかずを口に運ぶ。
最初に口に運んだのは卵焼き。
以前にもマキの卵焼きは食べたことがあり、そのときの卵焼きはほんのりと甘さを感じられるものの卵本来の味を殺さずに見事に調和がとれており、ほどよい固さで見た目もとてもキレイな卵焼きだった。
しかし今回の卵焼きも同じかと言われれば首を横に振るのは間違いないだろう。
その理由として、以前の卵焼きがほんのりとした甘さだったのに対して今回の卵焼きは甘さの種類が異なっていたのだ。
以前の卵焼きは砂糖や出汁、卵本来の甘さを使ったものだったのだろうが今回の卵焼きは違う。
今回の卵焼きの甘さは“野菜”を使った甘さなのだ。
卵の色を変えてしまわない程度に野菜の量を抑え、それでいて野菜本来の甘味を逃さないように調理する。
マキは普通にお弁当に入れているが、どう考えても簡単に作れるような卵焼きではなかった。
「たぶんだが・・・・・・、ニンジンか?」
「あ、正解だよ。一応、他にも入れてるんだけど分かるかにゃぁ?」
卵焼きの味から入っているであろう野菜を言うとマキは嬉しそうに笑った。
食感で分かるのではないかと思うかもしれないが、どうやら野菜はすべてミキサーで細かくしているようで食感ではどんな野菜が入っているのかがまったく分からないのだ。
マキの言葉に竜は残りの入っている野菜を当てるために目を閉じて卵焼きの味に集中するのだった。
「むむむ・・・・・・、なにやらマキさんと竜くんが良い雰囲気のような・・・・・・」
「せやね、マキマキは竜のことは友だちと思ってるって言うとったんやけど・・・・・・」
「正直、お弁当を作ってるのを見ると信じられないよね・・・・・・」
竜とマキの会話を聴きながらゆかり、茜、葵の3人は顔を見合わせる。
あかりに始めて会ったときに言われた言葉は否定していたが、今の状況を見るとその言葉を信じることはできなかった。
「・・・・・・とりあえず様子見、ですかね?」
「まぁ、マキマキがどう思ってるのかは分からんしな」
「それしかないよね・・・・・・」
卵焼きに入っている他の野菜の味を探そうと目を閉じて集中している竜の頬をプニプニとつついて楽しそうにちょっかいをかけるマキを見ながらゆかりたちはひとまず様子見をすることに決めた。
そして、3人は竜とマキの様子を見ながらお昼御飯を再開するのだった。
「ぬぅ・・・・・・、た、玉ねぎとか入ってないか?」
「うん。またまた正解だよ」
マキに頬をつつかれながら卵焼きに入れられている野菜を考えていた竜は、先ほど挙げたニンジンとは違う野菜を言う。
どうやらその野菜も正解だったようで、マキはパチパチと軽く拍手をした。
はたから見るとカップルのようなやり取りにゆかりたちは思わず使っている箸を握り折ってしまいそうになる。
まぁ、茜や葵も知らず知らずのうちに似たようなやり取りをしていることがあるのだが、本人たちにその自覚はなかった。
「正確には炒めてあめ色になった玉ねぎなんだよ。残りは1つだけど、分かった?」
「・・・・・・いやぁ、無理だな。最後って言われてもぜんぜん分かんないわ」
チョキチョキと指を2本立てて動かしながらマキは竜に最後の野菜が分かるかを尋ねる。
マキの言葉に竜は少しだけ考えるように首を傾けるが、最後の野菜が思い浮かばなかったのか降参して手をあげた。
「ふふふ、最後の野菜はね。でけでけでけでけでけでけでけでけ・・・・・・じゃじゃん!キャベツでした!」
「キャベツ?!」
卵焼きにマキが入れていた最後の野菜がキャベツだと知り、竜は驚いて卵焼きをまじまじと見る。
野菜が入っているということは分かっていたが、それでもキャベツが入っているというのは本当に予想外だったのだ。
驚いて卵焼きを見る竜の姿にマキは嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ