UA90000を越えたので番外話です。
マキの母親が死んでいる世界線での話となっております。
ヤンデレといっても作者のイメージするヤンデレですので好みが分かれるかもしれません。
それでもよろしければ読んでください。
なお、本編のネタバレも含まれますので気をつけてください。
・
私が幼稚園の頃、お母さんがいなくなってしまった。
それは離婚でいなくなったのではなく、病気で死んでしまったからだ。
むしろ離婚でいなくなったであった方がどれだけよかったか・・・・・・
離婚であったのなら会おうと思えばいつでも会える。
でも、お母さんは死んでしまった。
死んだ人はもう会うことはできない。
それは成長した今の私なら分かる当たり前のこと。
でも、幼稚園に通っていて小さかった私はお母さんが死んでしまったことが分からず、お父さんに『どうしてお母さんは寝てるの?』と聞いてしまっていた。
そのたびにお父さんはさみしそうに笑って『ちょっと、お母さんは遠いところに行くために眠っているんだよ』って言っていた。
それから少しして、家には私とお父さんしかいなくなってしまった。
私はなにかあるとすぐにお父さんに『お母さんに会いたい!』って言って困らせてしまっていた。
けっこう頻繁に言っていたと思うから当時のお父さんには相当なストレスが溜まってしまっていたのではないかなと思う。
それでもお父さんは私に優しくしてくれて、そんなお父さんが私は大好きだった。
◇ ◇ ◇
「はい!今日の分のお弁当!」
「おう、ありがとうな」
いつものようにマキは竜にお弁当を手渡し、竜はお弁当の材料費としていくらかのお金をマキに渡す。
もはやこの光景も見慣れたもので、最初の頃のようにクラスメイトたちに驚かれるようなこともなくなっていた。
「今日のお弁当も自信作だからね!」
「それ毎日言っとるやんな?」
「つまりマキさんは毎日自信作を作れているってことなんじゃないかな?」
マキの言葉に茜がツッコミを入れ、葵が推測交じりにマキの言いたいことを言う。
茜と葵の言葉にマキはやや頬を赤く染めつつ、ふにゃりと笑みをこぼす。
「えへへ、誰かに食べてもらえるのが嬉しくて張り切っちゃうんだよね。家だとお父さんが食べてくれるんだけど、次の日の料理の準備とかで一緒のタイミングでは食べられないから料理の感想も聞けないからさ・・・・・・」
「マキさん・・・・・・」
マキの家はカフェをやっており、店の名前は“cafe Maki”と言って、マキの父親がいかにマキを大切にしているかが分かる店名となっている。
カフェなのだから仕込みなどが必要なものは少ないのではないかと思うかもしれないが、食器を洗うのはもちろんのこと、店内の清潔さの最終チェック、次の日に出す飲み物を作るための水の確認、調理器具の不備がないかのチェックなどなど、やらなくてはいけないことがなかなかに多いのだ。
そのため、マキは父親と一緒に晩ご飯を食べることがほとんどできず、少しだけ寂しい思いをしていた。
マキの言葉にゆかりはどう声をかけたらいいか分からず、名前を呼ぶことしかできなかった。
「あ、ごめんね!しんみりとさせちゃって!ほらほら、お昼ご飯を食べよ~!」
「そう、だな。それじゃあ食べようか」
「ですね」
「せやね、ご飯やご飯や~!」
「失礼しまーす!って、あれ?まだ食べ始めてなかったんですか?」
竜たちがやや落ち込んだような雰囲気になってしまったことに気がついたマキは空気を切り替えるようにパチンと手を叩き、お昼ご飯を食べ始めようとうながす。
マキの言葉に竜たちもうなずき、お昼ご飯を食べ始めた。
それと同時に今日は少しだけ教室に来るのが遅くなっていたあかりが教室に入ってくるのだった。
◇ ◇ ◇
時間は進んで放課後。
竜はマキと一緒にバイトをするために“cafe Maki”に向かっていた。
竜と一緒に歩いているマキは鼻歌を歌っており、だれがどう見ても上機嫌なことが分かる。
「そういえばマキはどうして今も俺にお弁当を作ってくれるんだ?」
「どうして、って、それは前に言ったでしょ?」
ふと、竜は気になっていたことを尋ねる。
竜の言葉にマキは鼻歌を歌うのを止めて竜の疑問に答えた。
「パンとかばっかで栄養バランスが悪いって話だろ?でも今はいなに作ってもらってるから栄養バランスはそこまで悪くないと思うんだよな・・・・・・」
マキが竜にお弁当を作るようになった理由、それは竜がパンや麺類、コンビニなどのおにぎりばかりをお昼ご飯として食べていて栄養バランスが悪いとマキが気になったからである。
しかし今は竜の家にはついながおり、多少なりとも竜の食生活は改善されていっていた。
そのことからお昼をまたパンとかに戻していいのではないかと竜は考えたのだ。
「だから、もう無理してお弁当を作らなくても――――」
「 ダ メ だ よ 」
ビクリ、と思わず竜は体を強張らせる。
お弁当を作るというマキの手間を減らそうと考えていた竜は自分の言葉を遮ったマキの言葉に体を強張らせつつ、隣を歩いているマキを見た。
「無理してお弁当を作っているわけないんだよ。私が作りたいから竜くんにお弁当を作ってるの。本当なら毎日3食私が全部作りたいのに我慢してるんだよ?それなのに無理して作らなくてもいい?だめ、だめだめだめだめだめだめ。竜くんのお弁当は私が作るの私だけが作るの。もしかして他の誰かからお弁当を貰う約束をした?誰?誰なの?私から竜くんにお弁当を作る権利を奪おうとするのは誰なの?許さない。私からそれを奪おうとするなんて絶対に許さないんだから・・・・・・」
「ま、マキ・・・・・・?ひぇっ・・・・・・」
ぶつぶつと小さな声で呟き続けるマキに竜は恐怖を感じつつ、声をかける。
呟いているマキは目を見開いており、その瞳は暗く、光がないようにも見える。
竜に名前を呼ばれ、マキはグリンと顔を回して竜を見る。
「なーに?どうしたの竜くん」
「い、いや、何でもない。それにマキのお弁当は美味しいからな。食べられなくなると困るしこれからも作ってくれると嬉しいかな」
「ほんとっ!」
マキの視線に冷や汗を流しつつ、竜は誤魔化すようにマキのお弁当を褒め、これからも作ってほしいということを伝える。
竜の言葉を聞いた瞬間、マキの瞳には光が戻り、いつも通り、いやいつも以上にキラキラとした瞳で嬉しそうにしていた。
マキの様子が元に戻ったことに竜はホッと息を吐き、“cafe Maki”へと歩みを進めるのだった。
◇ ◇ ◇
とくに何の問題もなく、むしろ上機嫌のマキがいつも以上に働いてスムーズに“cafe Maki”でのバイトは終わった。
「それじゃあお父さん、竜くんと一緒に家に行ってるね!」
「うん。お店の方が終わったら帰るから家の方は頼んだよ」
店の中の清潔さの最終チェックをしている父親に声をかけ、マキは竜の腕を掴んで家へと向かう。
竜がマキの家に行くのは“cafe Maki”でバイトを始めてから恒例となっており、抵抗しても意味はないと理解している竜は抵抗することなく弦巻家へと連れ込まれていった。
「それじゃあ晩ご飯を作るけど、竜くんはなにか食べたいものとかある?」
「食べたいもの・・・・・・、食べたいものかぁ・・・・・・」
マキの言葉に竜は腕を組んで頭を悩ませる。
食べたいものを聞かれてどれくらいの人がすぐに答えられるのかは分からないが、少なくとも竜はすぐには答えられなかった。
「うーん・・・・・・。決められないからマキのオススメで頼むよ」
「オススメ?んー、まぁ分かったよ。ちょっと待っててね」
竜の言葉にマキは少しだけ考えるような仕草を見せ、冷蔵庫から食材を取り出していった。
そんなマキの後ろ姿を竜は見つめる。
「・・・・・・エプロンを着けた後ろ姿ってのもいいもんだよなぁ」
もしかしたら新婚とかはこんな気持ちなのかなぁと考えながら竜はマキの作る料理を楽しみに待つのだった。
◇ ◇ ◇
竜の視線を感じながらマキは料理を作っていく。
作っていくのはハンバーグで、ひき肉に様々な材料をマキは混ぜ込んでいった。
「・・・・・・っと、いけない。いつもの隠し味を忘れるところだった」
ひき肉をかき混ぜる手を止め、マキは竜から見えない角度で小さめのナイフを取り出した。
ナイフはとても鋭く砥がれており、軽く触るだけでも切れてしまいそうに見える。
「えっと、お父さんの分のお肉はこっちに。私の分はこっちに。それで、竜くんの分はここに、っと」
秘密の隠し味を入れるのは竜のハンバーグだけ。
間違えてしまわないように気をつけつつマキはひき肉を三等分にしていった。
そして、竜の分のひき肉が入ったボウルにナイフを持った手を近づける。
「ッ・・・・・・」
プツリ、とマキの指にナイフが刺さり、血が流れだす。
うっかり声が漏れてしまわないように気をつけつつ、マキは竜の分のひき肉が入ったボウルに出てきた血を流し込んでいった。
「ふふふ、秘密の隠し味。私入りの料理をおいしいって言ってくれているんだもん。これって、運命だよね」
自分の血を入れたことを竜に気づかれないようにしながらマキはハンバーグを作っていく。
そうしてできたハンバーグは竜の前に並べられ、それを竜は知ることなく食べるのだ。
その光景を思い描きながらマキは笑みを浮かべる。
自分から出たものが相手を作っていく。
それがなによりも嬉しいことだと感じながら。
やがて、マキの料理を食べ続けた竜はいつしかマキの料理以外では物足りなくなってしまうだろう。
マキの作った料理を。
マキの血液が混ぜ込まれた料理を。
気づかぬうちに竜の味覚はマキに侵されていく。
じわじわと広がる毒のように。
このことに竜が気付くことは・・・・・・、おそらくないだろう。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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