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なかなか鼻血の治まらない竜はキョロキョロと保健室の中を顔を下に向けないように気をつけながら見回す。
体調の悪い生徒が横になるためのベッド。
身長を計るための身長計。
体重を計るための体重計。
他にも見覚えのあるものから見覚えのないものまで、様々なものが保健室には置いてあった。
保健室にはそこまで頻繁に来ることもない竜は、それだけで物珍しく感じてしまうのだ。
「どうかしましたの?」
「いえ、ちょっと保健室の中が珍しくて・・・・・・」
竜がキョロキョロと保健室の中を見ていることに気がついたイタコ先生は不思議そうに竜に声をかける。
イタコ先生に声をかけられ、竜は自分がそんなに保健室の中を見回していたのかと思い、少しだけ恥ずかしくなった。
「それにしても、公住くんが保健室に来るのは珍しいですわよね?」
「あー、まぁ、なるべく怪我はしたくないですからね」
竜が保健室を利用した回数は今まででおおよそ2桁にもいかない程度。
それほどまでに利用回数が少ないために、イタコ先生は逆に竜のことを記憶していた。
「ほぼ毎日のように保健室に来る子もいますのに。偉いですわ」
「それ、先生のことを目的として通ってる生徒ですよね?」
大したことのない怪我で保健室に来る正直に言って迷惑な生徒たちのことを思い出しながらイタコ先生は竜の頭を撫でる。
年上の美人な保険医の先生であるイタコ先生に頭を撫でられ、竜はさらに恥ずかしそうに顔を赤く染めた。
「私を目的として、ですの?」
「そこで首をかしげますか・・・・・・」
竜の言葉にイタコ先生は不思議そうに首をかしげる。
事実として、イタコ先生に治療してもらうことを目的とした生徒がほぼ毎日のように保健室に来ることがあり、ときには教師ですら保健室に来ることもあるのだ。
これだけでイタコ先生を目的として保健室に通っている生徒がいると理解できるだろう。
しかし、どうやらイタコ先生からしてみれば怪我をすることの多い生徒としてしか認識していなかったようだ。
「そういえば、前から気になってたんですけど・・・・・・」
「なんですの?」
ほぼ毎日通っているのに理由を理解されていなかった生徒のことを記憶から消し去り、竜はイタコ先生を、正確にはイタコ先生の頭を見る。
「えっと、なんで頭に
「へ・・・・・・?ちゅわぁっ?!?!」
竜の質問の内容が意外だったのか、イタコ先生は驚いて飛び上がり、慌てて近くのベッドに敷いてあった掛け布団を頭にかぶった。
イタコ先生の反応に竜は驚き、聞いてはいけなかったのかと考える。
「き、公住くん?本当にこれが見えていますの?」
「え?ええ、まぁ、先生の髪の色と同じキレイなキツネの耳ですよね」
掛け布団のすき間から、イタコ先生は恐る恐るといった声色で竜に尋ねる。
イタコ先生の言葉に竜は不思議に思いながら答えた。
竜の言葉にイタコ先生はブツブツと掛け布団の中でなにかを呟いている。
「髪も・・・・・・いえ、まだ・・・・・・でも・・・・・・」
「イタコ先生?」
掛け布団の中でブツブツとなにかを呟いているイタコ先生に竜は首をかしげる。
どうやら竜の聞いたキツネの耳はイタコ先生にとって重要な事柄だったらしい。
と、ここで竜は自分の鼻から血が垂れなくなっていることに気がついた。
「ん、止まったか。授業に戻って・・・・・・良さそうかな?」
掛け布団を頭からかぶってしまっているイタコ先生をちらりと見、竜は小さく呟く。
一先ず鼻血も止まっており、授業も終わっていないため、竜は保健室を後にした。
「コホン・・・・・・。公住くん、ちょっとお話が・・・・・・って誰もいないですわ?!」
竜が授業に戻ってからしばらくした後、保健室にイタコ先生の驚く声が響くのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ