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お昼休み。
それは学生にとっての至福の時間。
例えるのならば本当に天使と言ったところだろうか。
仲の良い友人たちとお昼を囲み、何てことのない話から授業での気になった点などを自由に話しながら食事を楽しむ時間。
マキからお弁当を受け取った竜もいつものメンバーでお昼ご飯を食べようとしていた。
「なぁ、やっぱり材料費ぐらいは出したいんだが・・・・・・」
「んー、でもおかずに使った材料は私が自分で買ってきたやつだし、気にしなくても良いんだよ?」
お弁当箱を開ければ中に入っているのはバランスを考えて作られたであろうおかずたちの姿が目に入ってくる。
正直なところ、ここまでのクオリティのお弁当をただ貰うだけというのを竜は申し訳なく思っていた。
竜の言葉にマキはお弁当の材料は自分が買ってきたものだから気にしなくて良いと言う。
マキは気にしなくても良いと言うが、誰が買ってきたものにしても材料費や調理をする過程で電気代などがかかってしまっているので、その時点で竜が申し訳なく思ってしまうことに変わりはないのだ。
「なぁ、マキマキ。竜が気兼ねなくお弁当を食べるためにも少しでもお金を貰っときぃ」
「そうですね。多少なりともお金を払えれば竜くんも気分は楽になるでしょうし」
「ううん、そうなのかなぁ?」
茜とゆかりの言葉にマキは納得がいかなそうに首をかしげる。
マキからすれば自分が勝手に作っているという認識なために対価を貰うという考えがないのだろう。
それでも竜が気兼ねなく食べるためという言葉に仕方ないといった様子で竜から少しだけお金を受け取った。
「別に良いのに・・・・・・。それじゃあ、食べよっか」
受け取ったお金を財布にしまいながらマキは小さく呟く。
そして、竜たちはお昼ご飯を食べ始めた。
「んむ・・・・・・。やっぱ旨いな」
「えへへ~、そうでしょ~」
「むぅ・・・・・・」
「むむむ・・・・・・」
お弁当のおかずを口に運び、竜はしみじみと呟く。
当然のことだがマキの料理の腕は竜よりも上であり、竜が自分で作る料理よりも数段は上の旨さを持っている。
竜に誉められ、マキは嬉しそうにはにかむ。
マキの嬉しいという感情に連動しているのか、マキの頭の頂点から生えているアホ毛がピョコピョコと揺れていた。
竜がマキの料理を誉めたことに、茜とあかりは少しだけ頬を膨らませた。
「うう・・・・・・、ボクもお菓子さえ作っていれば・・・・・・」
「葵さんは私よりマシですよ・・・・・・。私なんてなにも・・・・・・」
料理ができる組の様子にお菓子作りの方が得意な葵は披露するタイミングがなかったことを悔やんでいた。
といっても葵は披露するものがあるだけまだマシなのではないだろうか。
このメンバーの中でもっとも料理のできない人物、ゆかりは暗い影を背負いながらもそもそとお昼ご飯を食べるのだった。
「なぁ竜、うちのこれも食べてみぃ」
「うん?・・・・・・うん。茜の料理も旨いな」
そう言って茜は自分のお弁当に入っているおかずを竜の持っているお弁当に入れた。
茜の行動に首をかしげつつ、竜はもらったおかずを口に運ぶ。
食べなれた美味しい茜の料理に竜はうなずきながら言った。
「・・・・・・なぁ、マキマキとうち、どっちが旨かったんや?」
「え゛・・・・・・」
竜が茜の作った料理を食べ終えると、茜はどっちの料理が美味しかったのかを聞いた。
茜の言葉にマキだけでなくゆかりたちも竜の顔をジッと見る。
全員に見られ、竜は思わず表情が強張ってしまう。
茜やマキからすれば自分の方が美味しかったと言われたいのかもしれないが、それを聞かれた竜からすれば答えにくいことこの上なかった。
茜とマキ。
どちらも料理が得意で、竜からすればどちらも美味しいと答えられるほどの腕を持っている。
そのため、仮に同じ料理を作って食べ比べたとしてもどちらが美味しいかの答えを出すことはできないのだ。
もしも出すことができる答えがあるとすれば、それはどちらの味つけなどが好みかぐらいだろう。
「・・・・・・どっちも美味しくて優劣をつけらんないわ」
「むぅ・・・・・・。まぁ、竜ならそう答えるかぁ・・・・・・」
竜の答えに茜とマキはは小さくため息を吐くのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ