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イタコ先生の中に染み込むようにキツネが消えていった次の瞬間、イタコ先生の体に変化が起きる。
先ほどまで美しい黒色だった髪の毛が、竜にとって見慣れていた白銀色へと変わっていったのだ。
そしてイタコ先生の髪の毛の色が完全に白銀色に変化すると、最後にキツネの耳がピョコンと生えてきた。
イタコ先生の姿が見慣れたものになったことに竜はホッと小さく息を吐く。
「・・・・・・ちゅわぁ」
「イタコ姉さま、どうかしたんですか?」
キツネが自身の中に消えていく際に目を閉じていたイタコ先生は困ったような声を上げて顔を隠してしまう。
イタコ先生の行動にずん子は不思議そうに尋ねた。
「実はこの子の感情が少しばかり流れ込んできてしまいましたの・・・・・・。公住くんはどうやら動物にかなり好かれるみたいですわ・・・・・・」
ずん子の言葉にイタコ先生は顔を隠してしまった理由を答えた。
どうやらキツネはかなり竜に対して懐いていたようで、その感情がイタコ先生にまで流れ込んでしまっていたようだ。
手で顔を隠してしまっているためにハッキリとは見えていないが、イタコ先生の耳はほんのりと赤く染まっていた。
「ん、んん!・・・・・・さて、改めて話をしましょうか」
「あ、はい」
軽く咳払いをしてイタコ先生は竜を家に呼んだ理由を話し始めた。
イタコ先生はどうにか普通にしようとしているが、それでも頬がやや赤くなっているために竜は何とも言えない気持ちになってしまった。
「公住くん。私の髪の毛の色と耳が他の人には見えていないことはもう分かっておりますわよね?」
「はい。他の人には黒髪に見えていて、耳は見えていないんですよね?」
イタコ先生は話をする前に自身の髪の毛と耳についてのことを簡単に竜に確認する。
竜の目にはイタコ先生の髪の毛は白銀色に、そしてキツネの耳が生えているように見えるが、他の生徒たちには普通の黒髪に見えており、キツネの耳も見えてはいない。
イタコ先生の言葉に竜はうなずきながら答えた。
「そうですわ。私はこれを霊力をもちいた術、“霊術”でおこなっておりますの。これは普通の人にはなんの違和感もなく隠蔽する術なのですが・・・・・・」
「なぜか俺には効いていないんですね?」
イタコ先生の口から霊力というオカルト染みた発言が出てきたが、すでにキツネがイタコ先生の中に消えていくのを見ていた竜はとくに疑問も持たずにそのまま話を聞く。
「まぁ、その原因もすでに分かっておりますの」
「本当ですか?!」
「ええ。“霊術”の隠蔽はある程度の霊力を持っている人間には効果がありませんの」
どうして竜には“霊術”による隠蔽が効いていないのか。
その理由は、竜に霊力が宿っているというものだった。
霊力、それは巫女や宮司などがお祓いをしたりする際に使われる力で、これを多く持っている人間はいわゆる霊感というやつが強い人間だったりする。
「公住くん、心霊現象とかに出会ったことはありませんか?」
「心霊現象、ですか?」
イタコ先生の言葉に竜は記憶を振り返った。
竜の姿をイタコ先生は自信満々に見ており、キツネの耳はピコピコと動いている。
「・・・・・・とくにはないですね」
「ちゅわ?!」
竜の言葉にイタコ先生は驚いて声をあげる。
それに合わせてキツネの耳もピーンッと固まってしまった。
“霊術”による隠蔽を突破できるほどの霊力を持っているのならば霊感があるのは確実。
そのはずなのに心霊現象に会ったことがないというのはイタコ先生からすればあり得ないことだった。
「ほ、本当にないんですの?!こう、うっすらと半透明な人がいた、とか。絶対に人がいるはずがない場所に人がいた、とか」
「ない・・・・・・です・・・・・・ね!・・・・・・」
心霊現象に会ったことがないという竜の言葉に驚いたイタコ先生は竜の肩を掴んでガクガクと前後に揺らす。
イタコ先生に揺らされ、途切れ途切れになりながらも竜はハッキリと答えるのだった。
霊力に関しては独自の解釈ですので、この小説ではそうなんだくらいに考えてください。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ