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心霊現象に会ったことがないという竜の言葉に驚いたイタコ先生が竜の肩を掴んでガクガクと揺らす姿に、ずん子は苦笑しながら竜を“視た”。
普通の人ならば目で見えるのはそこに実際にあるものだけ。
しかし霊力を持っている人間は意識をすることで霊などを“視る”────つまりは“霊視”をすることができる。
意識をしないでも見える霊は確かにいるが、ある程度の力を持っている霊であれば“霊視”をしない限りは見えない状態になることができるのだ。
「うそ・・・・・・」
「どうかしましたの?」
竜を“視た”ずん子は驚いた表情を浮かべて口もとに手を当てた。
竜のことを揺らしていたイタコ先生はずん子の様子に気がつき、竜から手を離して不思議そうにずん子に声をかける。
一方で、イタコ先生から解放された竜は膝をついて体調をもとに戻そうとしていた。
「い、イタコ姉さま・・・・・・。公住くんのことを“視た”ことはありますか・・・・・・?」
「“視た”って、“霊視”ですの?いえ、とくには“視た”ことはありませんわね」
「“視た”方がいいです。絶対に・・・・・・」
ずん子はイタコ先生に竜のことを“霊視”したことがあるかを尋ねる。
ずん子の言葉にイタコ先生は首を横に振って答えた。
イタコ先生の言葉に、ずん子は竜の周囲の空間に手を向けながら“霊視”をすることを勧めた。
「いったいどうしたというんですの?・・・・・・ちゅわぁ」
ずん子に言われてイタコ先生は竜を“視る”。
“視た”瞬間に飛び込んできた光景にイタコ先生は思わずといった様子で言葉を漏らした。
イタコ先生とずん子が“視た”光景、それは竜の周りに大量に集まってきている動物霊たちがジッと観察するようにこちらを見ている光景だった。
通常、動物霊というものは現世に残り続けることはほとんどなく。
だいたいが死んでからすぐに転生をするために死後世に向かうため、ここまで動物霊が集まっているというのは滅多にないことだ。
しかもそのすべてが1人の人間に集約しているとなれば異常事態と言っても過言ではないだろう。
「これは、いったいどういうことですの・・・・・・?」
「分かりません。私もついさっき“視て”知ったので・・・・・・」
竜の肩に乗りながら2人を見る二股の尻尾を持った猫。
時おり火の粉を散らしながら竜の近くで羽の手入れをしている赤い鳥。
角に樹の蔓や蕾などをつけた薄い緑色の鹿。
竜の腕に絡み付きながらチロチロと舌を動かす薄い青色の蛇。
竜の近くで丸くなりつつも、しっかりと周囲を見ている灰色の大きな狼。
竜の頭の上で耳をピクピクと動かして周囲の音を聴いている白いウサギ。
これらが竜の周囲に集まってきている動物霊たちの中でもとくに強い力を感じとることができる存在だった。
ただでさえ動物霊というのは数が集まると手に負えないことがあるので、2人はもはや泣きたいような気持ちになっていた。
「・・・・・・ふぅ。どうかしたんですか?」
どうにかイタコ先生に揺らされたことから回復した竜は、2人が驚いた表情で自分を見ていることに気がついた。
“霊視”のやり方を知らない竜はとくに気にした様子もなく2人に話しかける。
「ええと・・・・・・、ちょっと竜くんのことを“視て”みたのですが。どうやら公住くんを守ってくれている霊がたくさんおりますの」
「守ってくれる・・・・・・。守護霊、みたいなものですか?」
イタコ先生の言葉に竜は聞き覚えのあった言葉で確認をする。
守護霊とはその名の通り守ってくれる霊のことで。
竜のことを守ってくれる動物霊たちも一応はここに含んでも良いのではないだろうか。
竜の守護霊という言葉が嬉しかったのか、動物霊たちは思い思いに鳴き声をあげ始めた。
1匹1匹の鳴き声は小さいものの、数が集まればそれは大きなものになる。
動物の鳴き声にイタコ先生とずん子は思わず耳を押さえた。
いきなり耳を押さえた2人に竜は首をかしげるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ