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きりたんの案内のもと、竜は東北家のトイレに到着した。
さすがにきりたんでもトイレの中へと運ばれるのは恥ずかしいようで、竜の腕から降ろしてもらおうとワチャワチャと体を動かし始めた。
きりたんが動き出したのを確認した竜はきりたんを床にそっと降ろす。
「ありがとうございました。ちょっと待っててください」
一方的にそう言ってきりたんはトイレの中へと入っていった。
きりたんがトイレの中に入っていくのを見送った竜は軽く肩を回す。
そして、竜はキョロキョロと周囲を見渡した。
東北家の家に限らず初めて来た家というのはいろいろと気になるもの。
きりたんに待っているようには言われたので移動することはできないが、その代わりとして周囲を見渡してどんなものがあるのかを竜は見ていた。
「やっぱり和風建築ってのは良いな」
自分の家が和風建築ではないことから新鮮さを感じている竜はしみじみと呟く。
もともと、竜は和風のものを好むことが多く、急須で淹れたお茶やお煎餅などを食べながらテレビや本をのんびりと見たりするのも好きなのだ。
といってもお茶を飲むのは基本的に冬、もしくは早くても秋の終わり近くのやや寒くなってきてからなため、それ以外の季節ではほとんど関係ないのだが。
「この家のことを気に入ってくれたのでしたら私としても嬉しいですわ」
「おわ?!い、イタコ先生?!」
キョロキョロと周囲を見ていた竜は不意にかけられた声に驚いて肩をビクリと震わせる。
人の家の中を見回すのがあまり良いことではないと理解しているため、竜は恐る恐ると声をかけてきた人物、イタコ先生の方を見た。
「えっと、すみません」
「いえいえ、盗もうだとかそういった悪い視線でしたら咎めましたが、公住くんは純粋に家のことを見ていたようなので構いませんわ」
イタコ先生の姿を確認した竜は少しだけ目を泳がせてから頭を下げた。
頭を下げた竜にイタコ先生はとくに怒っているわけではないと伝える。
「そういえば公住くんはどうしてここにいますの?他のみんなは居間にいるようですけど」
「あ、俺はきりたんを運んできたので」
「きりちゃんを、ですの?」
イタコ先生は竜がなぜトイレの近くにいるのかが気になり、理由を尋ねる。
まぁ、その理由を聞いてもどういうことなのかいまいち分からなかったのだが。
イタコ先生が竜の答えに首をかしげていると、トイレから水の流れる音が聞こえてきた。
「あ、タコ姉さま」
「なるほど、きりちゃんが入っていましたのね」
「うん?」
トイレから出てきたきりたんはイタコ先生に気がついて名前を呼んだ。
きりたんがトイレから出てきたのを見たイタコ先生は竜の言っていた意味をようやく理解できたのかしきりにうなずいた。
きりたんの呼んだ“タコ姉さま”という呼び方と、イタコ先生の呼んだ“きりちゃん”という呼び方。
どちらも最近聞いたような気がした竜はどこで聞いたのかを思い出そうと首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「ん、いや、なんでもない」
首をかしげている竜の姿を見たきりたんは不思議そうに尋ねる。
きりたんに尋ねられ、竜は首を軽く横に振って考えるのを一旦止めた。
そして、居間に戻るためにきりたんを持ち上げて今度は肩に乗せた。
「おー、いつもの視点より高いです!」
「それはよかったなー」
「・・・・・・ちゅわぁ」
おとなしく竜の肩に乗ったは普段よりも高い場所から見える景色に楽しそうな声をあげる。
楽しそうなきりたんの声が聞こえた竜は小さく笑みを浮かべながら答えた。
仲の良さそうな2人の姿にイタコ先生はポカンとした表情を浮かべてしまう。
ずん子からきりたんが竜のことを嫌っているようだと聞いていたため、きりたんが竜に肩車をされている姿を見るとは思いもしなかったのだ。
そして、イタコ先生が呆けている隙にイタコ先生の中からキツネが現れて竜に飛び付いた。
飛び付いてきたキツネの姿に竜は少しだけ驚いたが、優しくキツネの頭を撫でるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ