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“cafe Maki”の椅子で寝ていた生き物が目を覚ましたので近くの椅子に座らせた竜は、生き物のことがよく見えるように顔の高さを生き物に合わせる。
椅子に座らされた生き物は突然のことに驚いているようだったが、自身を椅子に座らせたのが竜だと気がつくと、ジッと竜の顔を見つめた。
「お前は何て生き物なんだろうな?」
「ぎゅんぎゅーん!」
当然ながら生き物に聞いてみても答えるはずがなく。
竜の言葉に生き物は鳴き声をあげるだけだった。
「ぎゅーう・・・・・・、ぎゅーん!」
「うぉっと、けっこう人懐っこい生き物なのか?」
竜が生き物を見ていると、生き物はなにを思ったのか勢いをつけて竜に向かって飛びついた。
生き物がいきなり飛びついてきたことに竜は驚きつつも、どうにか反応して優しく抱きとめることができた。
抱きとめられた生き物はそのまま竜の腕をよじ登っていき、竜の頭の上に到着した。
竜の頭の上に到着した生き物は嬉しそうに体を動かす。
自身の頭の上で嬉しそうにしている生き物に、竜は首を動かさないように気をつけながら立ち上がった。
「よっ・・・・・・と。大丈夫か?」
「ぎゅん!」
頭を動かさないように気をつけたといってもそこは機械ではなく人間。
まったく首を動かさずに立ち上がるというのはどうやっても不可能なこと。
少しだけ動いてしまって揺れたことを竜は生き物に確認をする。
竜の言葉に生き物は竜の頭にしがみつきながら返事をした。
「とりあえず店長にどうしたら良いかを聞くか」
「ぎゅんっ?!」
立ち上がった竜がマキの父親のいるキッチンに向かおうと歩き始めると、生き物は驚いたような鳴き声をあげた。
生き物の鳴き声を聞きつつ、竜はキッチンの入り口にまで移動した。
そのままキッチンに入ろうとしたところで竜はふと立ち止まる。
「・・・・・・毛玉みたいな生き物なわけだし、料理を作るキッチンに入れたらまずいか?」
毛玉のような生き物と言うことは抜け毛の可能性があり、そんな生き物をキッチンに入れて良いのかと竜は考えた。
普通の人間ですらキチンと手を洗ってからでないとキッチンに入ることは許されないのだから、毛玉のようなこの生き物がキッチンにはいるのも許せるものではないだろう。
「あの、店長ー!」
「うん?どうかしたのかい?」
キッチンに入るのをやめた竜は頭の上に生き物を乗せたままキッチンにいるマキの父親を呼ぶ。
竜がキッチンに向かって声をかけると、マキの父親が不思議そうにしながらキッチンから出てきた。
「どうかした・・・・・・。あー、この子はどこで見つけたのかな?」
「えっと、店内の奥の方の席で寝ているのを見つけました」
「ぎゅぎゅん・・・・・・」
キッチンから出てきたマキの父親は、竜の頭の上に乗っている生き物に気がついて困ったような表情を浮かべた。
マキの父親の表情の変化に竜は首をかしげそうになるが、頭の上に生き物が乗ったままなことを思い出して首をかしげるのを止める。
マキの父親に見つめられ、生き物は気まずそうな鳴き声をあげる。
「そうかいそうかい。とりあえずこの子に関しては店の中を自由にさせていて良いよ」
「あ、分かりました」
「ああ、ちょっと待った。少し気になることがあるからこの子は一旦ここに置いていってくれるかい?」
「ぎゅんっ?!」
そう言ってマキの父親は竜の頭の上から生き物を持ち上げた。
マキの父親の言う気になることと言うのがなんなのかが気にはなったが、新しいお客の来店があったため、席に案内するために竜はお客のもとへと向かっていった。
「ぎゅー、ぎゅー、ぎゅーん・・・・・・」
「・・・・・・日差しが暖かいからって気を抜きすぎだよ?知られたくはないんだろう?」
「ぎゅん・・・・・・」
「それじゃあ、仕事に戻ってね。それと、眠っちゃっていたことは今回だけは見逃してあげるからね」
マキの父親の言葉に生き物はしょんぼりとした様子で鳴き声をあげる。
そして生き物を床に降ろしたマキの父親はキッチンに戻っていくのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ