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イタコ先生についなと、ついなの鬼のお面についての話をし終えた竜は保健室から出て教室に向かう。
昼休みの残り時間も少なく、少しばかり早足気味に竜は廊下を歩いていた。
「とりあえずつい・・・・・・じゃなくて、“いな”のことはなんとかなって良かったな」
「せやね。これで心置きなくご主人って呼べるっちゅうもんやなぁ」
竜の制服のポケットからちょこんと顔を覗かせているついなのことを見ながら竜は言う。
竜が聞きなれない名前を呼んでいることが気になるかもしれないが、これは九十九神であるついなの名前を簡単には知られないようにするためにつけた
なお、
「ねぇねぇ、お兄さんは視える人なん?」
「ちょ、なにいきなり話しかけとるん?!」
「・・・・・・はい?」
渡り廊下を歩いていた竜は不意にかけられた声に首をかしげながら声のした方を見る。
分かっていることだが、竜がいるのは平日の学校であり、竜よりも年下の存在は基本的には1学年下の後輩くらいしかいない。
そのため、竜のことをお兄さんと呼ぶような存在は基本的にはいないのだ。
まぁ、もしかしたら後輩で1つしか年が違っていなくてもお兄さんと呼ぶような生徒がいるかもしれないが。
「・・・・・・聞き間違い、か?」
「え、でもさっきの声はうちにも聞こえたで?」
声のした方を見てみたがそこには誰もおらず、キレイな梅の木がヒラヒラと花びらをこぼしている光景が広がっていた。
昼休みの終わりが近づいてきているのは分かっているのだが、それでも目の前に広がる光景に竜は思わず足を止めてしまう。
先ほど耳に届いた声は聞き間違いだったのかと竜は首をかしげるが、同じように声が聞こえていたついなはそれを否定する。
仮に竜の聞こえた声が気のせいや幻聴の
「・・・・・・ご主人、はよ教室に戻らな」
「あ、そうだな」
竜が歩くのを止めて梅の木に見惚れていることに気がついたついなは、竜に教室に戻るように言う。
ついなとしてもこのままここで竜と一緒に梅の木を見てのんびりとするのも悪くはないのだが、それをしてしまっては竜が教師に怒られてしまうと分かっているのでしなかった。
ついなに言われ、竜は教室に戻っている途中だったことを思い出して歩き始めた。
「ありゃー、行っちゃったばい。なして止めたと?」
「むしろなんで止めんと思ったと・・・・・・」
歩いていく竜の後ろ姿を梅の木の枝の上から2つの影が見ている。
片や桃色、片や青色の2つの影の大きさは小さく、どう見ても竜たちと同じ学生には見えなかった。
「むぅ、でもあのお兄さんは大丈夫と思うんよ」
「それを決めるんは僕らじゃなか。そのへんはイタコさんに聞いてみんと」
「それじゃあ、聞きに行ってみるばい!」
「あ、ちょっ・・・・・・」
桃色の影の言葉に青色の影は呆れたようにため息を吐きながら言う。
青色の影の言葉からこの2つの影がイタコ先生と関わりのある存在だということがうかがえた。
そして、2つの影は溶けるように梅の木に消えていくのだった。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
「公住、遅刻だぞ・・・・・・」
「すみません。梅の木を見てたら遅れました・・・・・・」
「間に合わんかったかぁ・・・・・・」
梅の木を見ることに時間をかけてしまっていた竜は見事に授業にギリギリのところで遅刻をするのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ