一気に冷えてきました。
皆さまも体調に気をつけてください。
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マキの父親の運転する車の中、竜は家にまで送ってもらっている。
竜を家にまで送るのにマキもついてこようとしていたのだが、学校で出された宿題があるために父親と母親に止められて泣く泣く手を振って竜のことを見送っていた。
女友達の父親と2人きりという普通の人であればなかなかに気まずいような状況だったが、竜はバイトをしているのと、何回か家で晩御飯を御馳走になっていることからそれほど気まずさは感じていなかった。
「そういえば、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「聞きたいこと、ですか?」
不意にマキの父親が口を開いて尋ねる。
マキの父親の言う聞きたいことというものがなんなのか分からず、竜は首をかしげながら聞き返した。
「うん。竜くんは学校を卒業したらやりたいこととかはあるのかな、って思ってね」
「やりたいこと、ですか・・・・・・」
マキの父親の言葉に竜は少しだけ考える。
学生時代において将来の夢というものをハッキリと考えているものはそれほど多くはない。
むしろ、明確になにかをやりたいと思っている人間はすでにその夢に向かって止まることなく努力をし続けているだろう。
では、そういったことを踏まえた上で竜はどうかと聞かれれば、将来の夢に関してそれほど考えていない人たちの部類に入るのだ。
まぁ、それが悪いというわけではなく、そういったやりたいことなどがなくても結局は大人になればやりたいこと、やりたくないことに関係なく仕事をしなくてはいけない。
それでも少しでも楽しく、快適に仕事をしたいのであれば自分のやりたいと思えることを仕事にできるように努力をした方がいいだろう。
「えっと、いまのところはとくにないですね」
将来のことを考えるよりもいまは友だちと楽しく遊んでいる方が楽しい。
やりたいと思えることがまだ思いつかないから友だちと遊びながらそれを見つけられたらいいかな。
そういった考えから竜は卒業してからやりたいことはいまのところないと答えた。
竜が、というよりも竜ぐらいの年齢の学生がそういった答えを出すのだろうと予想していたのか、マキの父親は静かにうなずく。
「そうかい。なら、そうだね・・・・・・。選択肢の1つとして考えてもらえたらいいんだけど、学校を卒業したらうちで働いてみないかい?」
「“cafe MAKI”でですか?」
竜の答えを聞いたマキの父親は1つの提案を竜にした。
マキの父親の思わぬ勧誘に竜は驚き、念のための確認のために聞き返す。
竜の確認にマキの父親はしっかりとうなずく。
「うん。竜くんさえ良ければ、だけどね」
「えっと、でも・・・・・・、俺、男ですよ?男がマキと一緒に働くのは嫌だったんじゃ・・・・・・?」
困惑しながら竜はマキの父親がバイトを始めてしばらくしてから言っていたことを思い出しながら言う。
マキの父親はマキがどこの馬の骨とも言えるような男がマキの近くで働くことを嫌っていた。
そのことを竜は覚えていたためにマキの父親の言葉は本当に意外だったのだ。
「そうだね。その考えはいまも変わっていないよ。でもね、竜くんがバイトに入っている日のマキはとくに嬉しそうな表情をするんだ。その表情を見たら、ね」
竜の言葉にマキの父親は嬉しそうなマキの表情を思い出したのか、嬉しそうに口角を上げながら答えた。
バイトとして採用してもらったときの警戒されていたときとはまったく違うマキの父親に、竜は思わずポカンと口を開けてしまう。
「こんなことを言うなんて意外だったかな?でも、君にならマキを任せてもいいかもしれない。そう思えたんだよ。っと、ここかな?」
「あ、はい。ここです・・・・・・」
「それじゃあ、おやすみ。さっきも言ったけど、卒業後のことは選択肢の1つとして考えてくれると嬉しいかな。それじゃ!」
そう言ってマキの父親は帰っていった。
残された竜は思考がうまくまとまらず、しばらくのあいだ家の玄関の前で立ち尽くすのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ