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とくに何事もなく時間は進み、午前の授業がすべて終わってお昼休みになる。
クラスメイトたちは仲の良いグループで集まって話しながら昼食を食べたり、学食に行って食事をしたり、購買に向かうために2階から1階に向かって廊下を跳んだりと、思い思いの場所で過ごしていた。
そして竜もまた昼食として買ってきておいたパンを取り出した。
そんな竜のもとに1人の女子生徒が近づいていった。
「こんにちは、公住くん」
「ん、
声をかけられ、竜は女子生徒────結月ゆかりを不思議そうに見る。
竜とゆかりはクラスメイトではあるものの、今まで会話らしい会話をしたことはほとんどなかったため、竜はゆかりが話しかけてきたことを珍しく思ったのだ。
また、それは他のクラスメイトたちも思ったことなのか、何人かのクラスメイトたちも物珍しそうに竜とゆかりのことを見ている。
「結月が話しかけてくるのは珍しいな。なにか用か?」
「そうですね、用と言えば用になります。公住くん、一緒にお昼を食べませんか?」
ほとんど会話をしたことのないクラスメイトが話しかけてきたのだからよっぽどの用件なのかと思いながら、竜はゆかりにどんな用で話しかけてきたのか尋ねる。
竜の言葉にゆかりは手に持っていたお弁当箱を見せながらイタズラっぽく笑って答えた。
「え?」
「ということでこちらに来てください」
驚いて固まる竜の手を引き、ゆかりは竜を立たせる。
突然のことに茜や葵、クラスメイトたちも1人を除いて言葉を発せずにいた。
「ゆかり~ん、早くごはん食べよ~!」
「はいはい、ちょっと待ってください」
手を大きく振り、胸を大きく揺らしながらゆかりの友人────弦巻マキはゆかりを呼ぶ。
揺れるマキの胸を見る男子生徒の目線は熱く、それに比例するように女子生徒の目線は冷たくなっていった。
そんなマキのもとにゆかりは竜の手を引きながら向かう。
「お待たせしましたマキさん。ごはんにしましょうか」
「うんうん、腹が減ってはなんとやらだし食べよー」
「え、ちょ、えぇ・・・・・・」
マキはゆかりが竜をつれてきたのを見つつ、嬉しそうにお弁当を広げ始めた。
楽しそうにお弁当の用意を始める2人に竜は困惑したまま近くの椅子に座るのだった。
「むぐむぐ・・・・・・それでさ、ゆかりん。なんで急に竜くんをつれてきたの?あ、竜くんって呼ばせてもらうね。私のことはマキでいいよ」
「そうですね。親睦を深めるためとでも言っておきましょうか。私もゆかりでいいですよ」
「お、おう・・・・・・」
マキはお弁当を口に運びながら気になったことをゆかりに尋ねる。
マキの疑問に関しては竜を含めてクラスにいる全員が思っていたことなので、その瞬間クラスの音が少しだけ小さくなったような気がした。
マキの質問にゆかりはにこりと竜に微笑みかけながら答えた。
ゆかりの微笑みを受け、竜は少しだけ赤くなった顔を逸らしつつパンを口に運ぶ。
「そういえば竜くんはお昼はパンだけなの?」
「まぁな。弁当を作るのはめんどくさくてな」
ふと、マキは竜の食べているパンを見ながら尋ねる。
マキの質問に竜は持っている食べかけのパンをフリフリと振りながら答えた。
「でも栄養バランスとか悪くない?」
「それはわかってはいるんだけどな・・・・・・」
つれてこられた時の困惑はどこにいったのか、いつのまにか竜はマキと普通に会話をしていた。
これはマキの持っている接しやすい雰囲気のお陰だと思われる。
似たような雰囲気を持っているのは竜の友人では茜が挙げられるだろう。
「それなら私のおかずを分けてあげるよ。少しでも栄養をとらないとね」
「なら私も分けてあげますね」
「それはありがたいんだが、食べさせようとしないでいいんだからな・・・・・・」
自分のお弁当のおかずを箸で摘まんで差し出してくるマキとゆかりに竜は手で制しながら答えるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ