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いつも通りに朝の支度を終え、家を出た竜はふと家の向かいに工事の幕がかかっていることに気がついた。
昨日、“清花荘”から帰ってきたときにはなかったはずなので、夜のうちに設置したのだろうか。
一般的な一軒家にしては大きすぎる幕に竜は首をかしげながら学校へと向かうのだった。
「あ、竜くん。おはようございます」
「うん?ゆかりか。おはよう」
学校へと向かう道の途中で声をかけられ、竜は不思議に思いながら振り向く。
するとそこには制服姿のゆかりがいた。
登校途中でゆかりに会ったのは初めてのことで、竜は不思議に思いながら挨拶を返した。
「いつもこの道を使って登校してるのか?」
「ええ、今までは偶然時間が合わなかったみたいですね」
竜の質問にゆかりは頷いて答える。
ゆかりの言葉に竜は、ゆかりがいつも自分よりも先に教室にいることを思い出した。
「それなら今日はどうしたんだ?寝坊?」
「まぁ、そんなところですね。ですが、竜くんと会えましたし、これからはこの時間に登校してもいいかもしれませんね」
なぜ今日はこの時間に登校しているのかが気になった竜は首をかしげながら理由を推測して尋ねる。
竜の言葉にゆかりは曖昧に笑って答えを濁し、ニコリと微笑みかけながら答えた。
ゆかりが答えを濁したことに気づきつつも、竜はゆかりの微笑みにうっすらと頬を染めつつ頬を掻くのだった。
「あ、そういえばゆかりはみゅかりさんって知ってるか?ちょっと変わった猫?みたいな生き物なんだけど」
「みゅかりさん、ですか?ええ、よく知っていますよ」
「そうか!撫で心地がよくてつい撫でちゃうんだよ。しかも結構なつっこくて可愛くてな!」
ゆかりがみゅかりさんのことを知っていると知り、竜は嬉しそうにみゅかりさんのことを話す。
竜はペットなどを飼っていないため、自身に懐いてくれる生き物がいて非常に嬉しいのだ。
「そ、そうなんですね」
竜の言葉にゆかりはどこか嬉しそうに答える。
嬉しそうなゆかりに首をかしげながら竜はスクールバッグに着けているアクセサリーを見せる。
「これもみゅかりさんに貰ったんだ、ってこれは前に言ったか?手首に着けるとなぜか茜たちが怒るからとりあえずバッグに着けてるけど」
「そうなんですか。私は気になりませし、手首に着けても良いと思うんですけどね」
竜のスクールバッグに着けられているアクセサリーを見ながらゆかりは言う。
手首に着けることを勧めていることに他意はない、はずだ。
「そういえばゆかりが髪に着けてるのと同じだよな」
「ええ、私も自分以外では着けてる人は見たことがないですね」
ふと思い出したように竜はゆかりの髪を見ながら言う。
今日のゆかりの髪型はポニーテールで、竜がスクールバッグに着けているアクセサリーと似たものによって纏められていた。
「へぇ、そうなるとみゅかりさんは数少ない同じアクセサリーを着けている仲間になるわけだな」
「ふふ、そうなりますね」
「あ、ゆかりんだ!」
竜とゆかりが会話をしながら学校に着き、校門をくぐろうかというところで声をかけられる。
聞こえてきた声に2人が振り向くと、マキが嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。
その際に大きく揺れるものが視界に入ってしまい、竜は慌てて視線を少しだけ逸らした。
「おはようございます。マキさん」
「おはよう」
「2人ともおはよう!今日は2人で学校に来たの?」
挨拶をし、マキは竜とゆかりが一緒に歩いていることを不思議そうに見ながら尋ねた。
マキの言葉にゆかりは笑みを浮かべる。
「ええ、偶然出会いまして。そのまま一緒に来たんです」
「へぇ、うちとは反対方向だからゆかりんと一緒に登校できるのは羨ましいなぁ」
「はっはっは、羨ましかろう」
ゆかりの言葉に不貞腐れたようにブーたれているマキに竜はふざけた調子で言う。
3人はそんな会話をしながら校舎の中へと入っていくのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ