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あかりが取り出したのは裕に10人分ほどは入っていそうなほどに巨大な重箱。
あまりにも大きなサイズで広げた重箱の端が机の上からはみ出してしまっている。
「・・・・・・え?」
重箱のあり得ないほどの大きさに竜は、いやクラスにいるあかり以外の全員が呆気に取られた。
そもそもとして先ほどまではどこにもそんなものがあるようには見えなかったはずなのに、いきなり重箱が出現していることもおかしいのだが。
「これは・・・・・・、みんなで食べてくださいとかそんな感じなのか?」
どうやって取り出したかの疑問は置いておいて、竜は一先ず量について尋ねる。
もしも分けて食べるように考えられた量なのであればこの多さでもおかしくはない。
竜の問いにクラスメイトたちも納得がいったのか、一様になるほどと言った様子で頷いていた。
そんな竜の問いにあかりは首をかしげる。
「・・・・・・?いえ、全部私のご飯ですよ?」
竜の言葉が心底不思議だと言うかのようにあかりは答える。
それはつまりこの重箱のお弁当を1人で食べきることが可能だと言うことに他ならない。
あまりにも衝撃的な言葉に一瞬だがクラスの中から音が消え、無音になった。
「えっと・・・・・・、食べきれるのか?この量を・・・・・・?」
「当然じゃないですか!うちの料理人が丹精込めて作ってくれたお弁当ですよ!」
念のための確認も込めて竜が尋ねると、あかりはエッヘンと胸を張るように答えた。
その際に後輩だとはとても思えないほどに立派なものが体の動きに合わせて揺れる。
しいて擬音を付けるのならば“たゆんっ”辺りが妥当ではないだろうか。
ちなみにマキの場合は“どたぷ~ん”でいいと思われる。
「・・・・・・もげればいいのに」
「大丈夫や。あれは将来的には垂れるんや・・・・・・」
「胸なんて脂の塊なんだよ・・・・・・」
「あの子も肩凝りとか辛そうだなぁ・・・・・・」
揺れたあかりの立派なものに対して何人かの生徒から暗いものが見え隠れする。
また、それとは別に何人か、本当に数人ほどではあるが、あかりに対して同情するかのような視線を向けているものもいた。
「ま、まぁ、食べきれるなら良いけど・・・・・・。とりあえず食べるか」
「はい!いただきます!」
竜の言葉に合わせてあかりは勢いよく手を合わせる。
パンッ、と小気味良い音にクラスにいた何人かはそのままあかりが錬金術をおこなってお弁当をホムンクルスに錬成する姿を幻視したが、そんなこととは関係なしにあかりはお弁当に手をつけ始めた。
「ぅんま~い!」
頬に手をあて、幸せそうな表情であかりはお弁当を食べていく。
その表情からは本当にお弁当が美味しいのだろうと言うことが理解できた。
あかりの食べる姿に竜は思わず唾を飲み込む。
竜のお昼は今日も買ってきたパンなので、目の前で手間暇をかけられたであろうお弁当はとても魅力的に見えるのだ。
「本当に美味しそうに食べるんだな」
「はい!」
先輩であることのプライドと、嬉しそうに食べている邪魔をするわけにはいかないと言う謎の使命感から竜はあかりのお弁当を食べたい欲を抑え込む。
あかりの食べるスピードは落ちることはなく、どんどんお弁当を食べ進んでいく。
この調子であれば本当に1人で食べきることは間違いないだろう。
「ん・・・・・・。竜先輩、もしよかったら食べますか?」
「・・・・・・いや、あかりのために料理人が作ったんだろ?俺はいいよ」
竜の視線に気がついたのか、あかりは食べることを一旦止めて竜に尋ねる。
食べたいと思っていることがバレたことを恥ずかしく感じ、顔を逸らしながらやんわりと断る。
竜の言葉にあかりは少しだけ考える表情になると、竜へと顔を近づけた。
「竜先輩、こっちを向いてください」
「なん────むぐっ?!」
あかりに呼ばれ竜は顔をあかりの方へ向ける。
それと同時に竜は口の中へと何かが入ってくるのを感じた。
口の中に広がるのはジュワッとした肉の旨味。
そして2本の細長い棒状のものが口の中に入っているのが分かった。
見ればその棒状のものの反対側をあかりが持っている。
どうやらあかりはお弁当のおかずの唐揚げを竜の口へと運んだようだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ