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竜たちの注文を聞いていたマキは顔を赤くしたまま固まっていた。
動かなくなってしまったマキを竜たちは首をかしげながら見ている。
「おーい、マキー?」
「どないしたんやろうね?」
反応のないマキに竜は目の前で手をヒラヒラと動かす。
しばらくすると、再起動を果たしたのかマキは動き始めた。
それでも動きにややぎこちなさは残っているが。
「え、えっと・・・・・・、竜くん。もう1回聞いてもいいかな?」
「おう、俺が注文するのはマキ茶とオススメだよ」
「だ、だよね!・・・・・・・・・・・・焦ったぁ」
竜の注文を再確認し、マキはようやくすべての注文を聞き終えた。
注文内容を聞き終えたマキは慌てた様子で竜の言葉に頷く。
その際にマキは小さく呟いていたが誰の耳にも届くことはなかった。
「それじゃ、私はお父さんに注文を伝えてくるね!」
「頼んだでマキマキ~」
「お願いね~」
「お願いしますね、マキさん」
注文を書き終えた伝票を片手にマキはキッチンへと向かっていく。
そんなマキの姿を竜たちは見送るのだった。
◇ ◇ ◇
キッチンへとやって来たマキは竜たちから見えていないことを確認すると顔を隠してしゃがみこんでしまった。
手で隠れているために見えにくいが、その顔は真っ赤になってしまっている。
「私はなんて聞き間違いを・・・・・・」
マキの頭の中に先ほどの自分がしてしまった聞き間違いの言葉が甦ってくる。
────『マキちゃん』とオススメで頼む。
ボンッ、と音が聞こえてきそうなほどにマキの顔はさらに赤く染まる。
本当は『マキ茶』と言っていたのだが、マキは聞き間違えて自分のことを注文しているのかと勘違いしてしまったのだ。
「う、うああぁぁぁああぁあぁ?!」
頭を手で左右から挟んでマキはブンブンと首を振る。
竜のことは最近仲良くなった友だち程度にしか認識していなかったのに、いきなり自分のことを注文されたと勘違いしたことによって変に意識をしてしまっていた。
マキの頭の中では先ほどの自分を注文した言葉が勝手に繰り返されていた。
「落ち着け、落ち着くんだ私。竜くんは友だち。それ以上でもそれ以下でもない・・・・・・、うん、大丈夫・・・・・・」
キッチンの壁に頭を押し付けながらマキはブツブツと呟く。
マキは竜のことを友だちだと言っているが、そもそもとしてただの友だちとしか思っていないのであればこのような状態になどならないとも言える。
と言ってもその辺りのことは個人によって考え方が異なるので一概にそうとも言えないのだが。
まだ少し顔の赤さが残っているものの、どうにか立ち直ったマキはキッチンにいた父親に伝票を手渡した。
「マキ、さっきはなにか悶えていたみたいだけど何かあったのかい?」
「お父さん。ううん、大丈夫。ちょっと私が聞き間違いをしちゃっただけだから・・・・・・」
マキから伝票を受け取った父親は、先ほど聞こえてきたマキの声などが気になり、マキに声をかける。
父親の言葉にマキは首を横に振りながら答えた。
自分のさっきの声で心配させてしまったことは分かっているが、それでもそうなった理由を話すのは少しだけ恥ずかしかった。
マキの言葉に父親は聞くのをやめて伝票に書かれたメニューを準備していく。
それでも気になっているようでチラチラとマキの方を何度も見ているのだが。
「おや、マキ茶を頼んだ人がいたのかい」
伝票を見て注文を確認していた父親はマキ茶が注文されていることに気がついた。
なにを隠そう、マキ茶とはこの“cafe Maki”の看板メニューにするためにマキの父親が考案したメニューなのだ。
そのため、マキ茶が注文されてることを知って嬉しそうに準備を進めていくのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ