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父親の用意した飲み物を受け取り、マキは竜たちのもとへと向かう。
飲み物の用意を待っている間にある程度落ち着いたのか、赤くなっていた顔ももとに戻っている。
「はぁ、自分で聞き間違えちゃったことだけど、気をつけないと・・・・・・」
飲み物を運びながらマキは小さく呟く。
聞き間違いによってドキッとしてしまったが、その相手は自分の友人たちが好きな相手。
そんな相手を好きになるわけにはいかなかった。
まぁ、その相手を好きになっている後輩が今日増えたのだが。
そんなことを考えながら竜たちの座っているテーブルに向かうと話し声が聞こえてきた。
竜たちがなにか話しているのかとも考えたが、どうにも声の数が1つ多いように聞こえる。
不思議に思いながらマキはテーブルに近づいていった。
「でね、マキちゃんったらこう言ったのよ。『お母さん。私スーパーグレートでウルトラファイヤーなギタリストになりたいっ!』って」
「お母さぁぁあああん?!?!」
聞こえてきた声にマキは思わず大きな声をあげる。
1人分多く聞こえていた声の主はマキの母親であった。
しかも自分の恥ずかしい話を話していたらしい。
マキは慌てて持っていた飲み物をテーブルの上に置いて母親に詰め寄った。
「ちょ、ちょちょちょっと?!なにを話してるの?!」
「なにって・・・・・・、マキちゃんの話よ?」
詰め寄って来たマキの言葉に母親は不思議そうに首をかしげながら答える。
母親からすれば自分の可愛い娘であるマキの話をマキの友だちと共有したいと思っての行動であり、恥ずかしいことだとは思っていないのだ。
むしろ、自分の娘はこんなに可愛いのだと布教したいとすら思っていたりする。
「もう!お母さんはあっちに行ってて!」
「えー、でもまだマキちゃんのことを話し足りないのよ?」
「 い い か ら ! 」
母親の背中をぐいぐいと押し、マキは竜たちから母親を遠ざける。
少しでも自分の恥ずかしい話を聞かせないために。
マキに押され、母親は名残惜しそうにしながらも離れていった。
「・・・・・・疲れた」
「お疲れさまです」
母親が離れたことを確認したマキはガックリと肩を落としてポツリと言葉をこぼした。
そんなマキにゆかりは苦笑しながら労いの言葉をかける。
ゆかりはすでにマキの母親とは面識があったので、マキの心情をある程度は理解できたのだ。
ゆかりの言葉にマキは小さく頷き返した。
そしてマキはテーブルの上に置いた飲み物を各自に配っていく。
「たしか、ゆかりんと茜ちゃんが紅茶で、オレンジジュースが葵ちゃん。で、マキ茶が竜くんだったね」
「ええ」
「せやで」
「そうだね」
「合ってるな」
竜たちは自分たちの前に置かれた飲み物を見て、自分たちが注文したものであることを確認する。
確認のためにカップに顔を近づけると、それぞれの飲み物の良い香りがフワリと鼻に届いた。
「やっぱり良い香りですね」
「おー、マキマキの父ちゃんは紅茶を淹れるのが上手いんやな」
紅茶の香りを感じたゆかりは柔らかく微笑む。
紅茶にとって重要なコツが5つある。
1.良質な茶葉を使う
2.ふた付きのティーポットを使う
3.茶葉の量はティースプーンで正確に量る
4.お湯は新鮮な水をしっかり沸騰させる
5.時間を計り、茶葉をきちんと蒸らす
これが美味しい紅茶を淹れるためのコツだ。
また、最後の1滴がもっとも美味しいと言われており、
「あ、このオレンジジュースもちゃんとしぼって作ったものなんだね?それでも酸っぱすぎなくて飲みやすい」
オレンジジュースを口に運んだ葵は少しだけ驚きながら言う。
市販のオレンジジュースとは比べ物にならない味の濃さと、それでいて酸っぱさを感じないその味に感心するように頷くのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ