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葵が“清花荘”の扉の中に消えてからしばらく、暇になっていた竜たちはスマホのアプリで遊び始めていた。
ティン、ティン、ティン、と軽快な音と共にドロップの消えていく音がする。
「おー、リーダースキル込みで10コンボやん」
「落ちコンなしの無効貫通をやった上でここまでコンボを繋げられるのは強いですね」
「コラボキャラで闇属性だから大体のダンジョンに行けるしな」
竜のスマホ画面にクリアの表示とチーム画面が写る。
竜がやっているのはスマホアプリのゲーム、パズル&ドラゴンズ。
暇なときに簡単に遊べるため、竜がメインでやっているゲームの1つだ。
「にしても葵は時間がかかっとるなぁ・・・・・・」
「といっても5分くらいですし」
「そんなに散らかしてたのか?」
竜のスマホ画面から扉へと顔を向けて茜は呟く。
茜の呟きにゆかりは自分のスマホを取り出して経過した時間を確認した。
といっても5分ほどあれば簡単に片付けて誤魔化せるレベルにはなると思えるので、そう考えれば時間がかかっているとも言えるかもしれない。
「・・・・・・うし、2人とも入ってええで」
「え、良いんですか?」
「かまへんかまへん」
待つことに飽きたのか、茜は扉を開けて手招きをする。
茜の行動に竜とゆかりは驚いて顔を見合わせる。
確認するゆかりの言葉に茜はヒラヒラと手を振りながら答えて扉の中へと入っていった。
扉の中に入っていった茜の姿を見て、竜とゆかりは顔を再び見合わせる。
「えっと・・・・・・、まぁ、入るか?」
「そうですね。まぁ、葵さんには茜さんから許可を得たと言いましょうか」
扉の前で立っていても仕方がないため、ゆかりに確認を取る。
竜の言葉にゆかりはそこまで気にした様子もなく扉を開けた。
そして竜たちは茜たちの暮らす部屋へと入っていった。
「ん?」
「ぅぁ~~・・・・・・っ?!」
部屋に入ると同時に竜とゆかりの耳にどたばたと慌ただしい音が聞こえてくる。
どうやら葵はまだなにかをやっているようだ。
その証拠に葵の言葉にならない叫びのようなものも聞こえてきている。
竜とゆかりが入ってきたことに気がついた茜はリビングへと続く扉の前で竜とゆかりを待つ。
「2人ともリビングで待っとってや」
「え、これ入っても大丈夫か?」
「・・・・・・ええんちゃう?」
リビングの扉の向こうから聞こえてくる葵の声らしきものに、竜は茜に振り返って尋ねる。
竜の言葉に茜はとくに深く考えずに答えた。
どうせリビングに広がっているものは葵のだらしない生活によって広げられたものだけ。
そんなことまで茜が面倒を見る義理はないのだ。
まして常日頃からキチンとするように茜は葵に言っている。
つまり、ハッキリと言ってしまえば葵の自業自得なのである。
そして、躊躇している竜のことなど気にせずに茜は扉を開けた。
「ッッ~~!!お、おまたせ!!」
リビングの扉が開くと同時に葵は部屋の隅へと手に持っていたものを放り投げる。
葵が放り投げたものは部屋の隅の壁に当たって床に落ちた。
パッと見たところ床に物は落ちておらず、綺麗な部屋に見える。
が、そのせいで部屋の隅に放り投げられたものが逆に目立っていた。
ちなみに葵が放り投げたものは黒い大きなビニール袋で、中になにが入っているのかはまったく分からなかった。
「葵~・・・・・・、あれはちゃんと片付けるんやで?」
「う、うん・・・・・・」
部屋の隅に放り投げられたものを指差しながら茜は言う。
茜の言葉に葵は目を軽く逸らしながら頷いた。
「ほな、うちは晩御飯の準備をするで」
「少しくらいは手伝えると思うけど・・・・・・」
「ご飯を炊くのなら任せてください」
腕捲りをして調理の準備に入ろうとする茜に竜は手伝いを申し出る。
食費を出すことで納得はしたが、それでも全て茜に任せてしまうのは申し訳なく思ってしまうのだ。
「大丈夫やって。2人は向こうで葵とゲームでもしててや」
「分かりました」
茜の言葉にゆかりはあっさりと葵のもとへと向かっていった。
あっさりとしたゆかりの行動に竜は少しだけ呆気にとられるが、すぐに意識を戻して茜を見た。
「ほれ、竜も行ってきい」
「だがなぁ・・・・・・」
「悪いと思うんやったら晩御飯を食べたときに一言言ってくれへんか?」
「一言・・・・・・?」
なかなか納得のできない竜に茜は優しく微笑みかけながら言う。
「せや、『美味しかった』。そう言ってもらえるだけでうちは幸せなんよ」
そう言ってにこりと笑う茜に竜は胸をドキリと高鳴らせるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ