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茜に促された竜は葵とゆかりのいるリビングへと移動する。
手伝いをなにもしないと言うのは正直なところ、違和感と言うか、もどかしいと言うべきか、とにかく言葉にできない感覚が竜の中にあった。
「あ、戻ってきましたね。竜くん、このゲームをやってみませんか?」
「お前な・・・・・・」
キッチンからリビングに戻ってきた竜に、ゆかりは1本のゲームを見せた。
どうやらそのゲームは恋愛ゲームのようで、桜の花びらが舞っているパッケージに数人のヒロインらしきキャラクターが描かれていた。
茜に晩御飯を作ってもらうことが当たり前かのように振る舞うゆかりの姿に竜はやや呆れ混じりの視線を向ける。
「ちょっとは手伝った方がいいんじゃないかとか悩まないか・・・・・・?」
「茜さんのことですか?」
竜の言葉にゆかりはキッチンへと視線を向ける。
キッチンでは茜が晩御飯の調理を進めており、包丁の音などが聞こえてきていた。
「そうですね。手伝いを申し出たときに大丈夫と言われましたので。それに、茜さんは料理にこだわりがある様子。それなら私は手伝わずに信じて待った方がいいと思ったんですよ」
「ゆかり・・・・・・」
キッチンで茜に言われた言葉からそこまで読み取ることができたのか、ゆかりはハッキリと言った。
ゆかりの言葉に竜は少しだけ驚いた表情になった。
「さ、晩御飯は茜さんに任せて竜くんはこれをやってください」
「・・・・・・分かったよ。んで、これは?恋愛ゲームっぽいが・・・・・・」
「あ、それお姉ちゃんがこのあいだ買ってきたやつだよ」
ゆかりの言葉に竜は短くため息を吐き、受け取ったゲームを見る。
竜は恋愛ゲームを基本的にやらないため、テレビのCMで見たことのあるやつくらいしかタイトルを知らない。
そのため、竜は受け取ったゲーム“Voice Love Memory”を見たことも聞いたこともなかった。
竜の持っているゲームのパッケージを見た葵は、そのゲームが茜の買ってきたゲームだということに気づく。
「まぁ、とりあえずやってみるか。葵、PS4借りるぞ?」
「うん。ボクもどんな内容か気になるから大丈夫だよ」
恋愛ゲームを基本的にやらないだけに逆に興味が湧いたのか、竜は葵にPS4を借りて良いか確認する。
葵自身も茜の買ってきたゲームが気になっていたため、断る理由もなかった。
「えっと、まずは主人公の名前か・・・・・・。これはデフォルトでいいか」
「それで良いんじゃないかな?」
「いえ、主人公とはプレイヤーの分身。ここは竜くんの名前にするべきなのでは?」
「え、マジで?」
ゲームが始まり、主人公の名前設定の画面が開かれる。
凝った名前にするのもめんどくさいので、デフォルトの名前で進めようとすると、ゆかりがそれに待ったをかけた。
ゆかりの言葉に竜は驚いて確認をする。
主人公を自分の名前にするということはヒロインたちに自分の名前が呼ばれるということ。
竜はできるならそれは避けたかった。
「いいから、竜くんの名前で始めましょう」
「あ、ちょ・・・・・・。しゃーないか・・・・・・」
主人公の名前に悩んで止まっていた竜の手からコントローラーを取ると、ゆかりは素早く竜の名前を入力してしまった。
しかもそのまま確認決定まで進めてしまったため、修正するにはゲームを再起動するしか方法はない。
ゆかりの行動に竜は不思議に思いながらも、ため息を吐いてそのまま進行する。
「へぇ、登場ヒロインはクール系に双子、元気系に後輩の5人なのか」
「・・・・・・ゆかりさん、もしかして分かってて竜くんの名前をつけました?」
ゲームのオープニングに登場したヒロインの容姿を見てあることに気がついた葵はゆかりを見る。
恐らくは茜もその事に気がついてこのゲームを買ってきたのだろう。
葵の視線から逃れるようにゆかりは顔を逸らす。
そんな2人の様子に気づかずに竜はゲームを進めるのだった。
もうそろそろでアンケートを締め切ります。
投票していない方はお早めにお願いします。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ