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絶望。
その言葉を聞いてどんなイメージをするだろうか。
目の前で自分の愛する人間が死んでいるとき?
自分の信じていた人間に裏切られたとき?
楽しみにとっておいたスイーツが誰かに食べられていたとき?
絶望とは様々な種類があり、それをどう感じるかはその人次第だ。
そして、今ここにも瞳から光を失い、表情も動かなくなってしまっている少女がいた。
もしも仮に今の少女────葵にタイトルをつけるのならば“絶望”とつけるのがもっとも正しいように思える。
「・・・・・・あ、葵?」
「ナニカナ、竜クン」
葵の様子に竜は思わず声をかけるが、葵はやや片言の言葉で答えるのだった。
そんな葵の様子に、茜とゆかりは竜の頬を左右から押しながらニヤリと笑う。
「さぁ、コントローラーはこちらにありますので」
「2人でがんばってや~」
「お、おう」
「ウン・・・・・・」
茜とゆかりからコントローラーを受け取りながらテレビの前に移動する。
竜はバイオハザードをプレイすることに問題はないのだが、葵は違う。
すでに分かっていることだが葵はホラーが苦手で、バイオハザードレベルですら先ほど竜にしがみついたように怖がってしまう。
そんな葵がまともにバイオハザードをプレイすることができるのかが竜は気になっていた。
「まぁまぁ、言うてもセーブはしてあるから気負わずやるとええよ」
「余程のことがないと死なないと思うので頑張ってください」
表情のなくなった葵に茜とゆかりは竜の頬をプニプニプニプニプニプニプニプニと連打しながら言う。
左右から頬を連打されているために微妙に顔を揺らされながら竜はバイオハザードの操作を始める。
竜が操作を始めたことに続いて葵も操作を始めた。
「っと、先に何体かゾン────」
竜が画面内に最初のゾンビの存在に気づき、葵に一言声をかけようとすると同時に数発の銃声が画面から発せられた。
そして次の瞬間、現れたゾンビたちはすべて地に倒れ伏してしまう。
「────ビが・・・・・・」
あまりにも早いゾンビの退場に、竜を含め、竜の頬を連打していた茜とゆかりも驚きで固まってしまう。
今の銃声を出したのは竜の操作しているキャラクターではない。
ましてやイベントが発生してNPCが射撃をしたわけでもない。
3人は驚いた表情のままギギギギと葵に顔を向けた。
「目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・、目標をセンターに入れてスイッチ・・・・・・」
「あ、葵・・・・・・?」
どこぞの汎用人型決戦兵器に乗っているパイロットの少年のような言葉を言いながら葵は画面内に映るゾンビたちの有無を確認する。
やがて画面内にゾンビたちがいなくなったことが分かると、言い続けていた言葉を止めて竜の近くに寄っていった。
「えっと、葵・・・・・・、大丈夫なのか?」
「ん・・・・・・」
竜の言葉に葵は竜の膝を叩きながら頷く。
葵の行動の意図が分からず、竜はひとまず叩かれた膝を伸ばした。
「ちょ、葵?!」
「あ~、あれだけでもギリギリだったんやな・・・・・・」
「まぁ、これは仕方がないのかもしれませんね」
竜が膝を伸ばすと、葵は躊躇することなく竜の膝の上に座った。
突然の葵の柔らかな感触に竜は驚きの声をあげる。
そんな葵の行動に茜は仕方がないと竜の頬をつつきながら言う。
茜の言葉に同意するようにゆかりも竜の頬をつつきながら頷くのだった。
「いや、でも、これは・・・・・・」
「竜くん、このままでお願い」
膝に感じられる葵の体温と柔らかさ、具体的に言うなら葵のお尻の感触に竜は思わず汚れたバベルの塔が立ち上がってしまいそうになる。
慌てて葵を膝の上からどかそうとするが、涙目でこちらを見上げてくる葵の顔を見てどかすことができなかった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ