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テーブルの上に咲いていた花の近くに水を入れた容器を置いたあと、竜は風呂の準備をするために風呂場に向かった。
風呂場に向かった竜を見るかのように、テーブルの上の花は花びらの部分を傾ける。
「わっ、わわぁ」
竜が近くに置いた容器の中の水に葉の部分を入れると、水をすくって花の部分にかけていく。
水がかかると花は嬉しそうに揺れながら声を発する。
そんな行動を数回繰り返し、花は揺れるのを止めた。
「わぁ・・・・・・」
どことなく寂しげな声を発し、花はしんなりと垂れてしまった。
どうやら竜が戻ってこないことで寂しくなってしまったらしい。
花はキョロキョロと花びらの部分を動かして周囲を見回すと、意を決したかのように花びらの部分を頷くように動かした。
「わぁ、わぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁわぁ!!」
謎の掛け声を発しながら花は机に潜り始めた。
どう考えても潜ることのできないテーブルに花は潜ってその身を見えなくしていく。
そして花は完全にテーブルに潜ってその姿を完全になくしてしまった。
不思議なことに花の消えたテーブルに穴などはなく、ついさっきまで花が咲いていたと言われても信じられないほどに痕跡はなかった。
そもそもとしてテーブルに花が咲いているという状況が現実的ではないのだが、この際それは気にしないことにしておこう。
そして、花の消えたテーブルの上には水の少なくなった容器だけが残されていた。
◇ ◇ ◇
ところ変わって竜の家の風呂場。
ここでは竜が風呂に入るために浴槽を洗っていた。
「燃え上がるような熱い鼓動が~」
最近になって気に入っている曲を口ずさみながら竜は浴槽を洗う。
先ほどの花には驚かされたが、花だけあって移動などはできないはず。
すでにテーブルの上に花の姿がないことも知らずに竜はそう考えていた。
「溶けそうなほど恋したら~」
「わわ~わ、わ~わ、わ~わわわぁ!」
「な、なにいぃッ?!?!」
歌いながら浴槽を洗っていると、竜の歌に続いて先ほど聞いたばかりの声が聞こえてきた。
まったくの予想外の声に竜は驚きのあまり声が裏返ってしまう。
手に持っていたシャワーを落としそうになりながら竜は声の聞こえてきた方を見る。
そこにいたのはテーブルの上に咲いていたはずの花。
花が移動する。
あり得るはずのない事態に竜は驚きのあまり固まってしまった。
が、すぐに花が喋っている時点であり得ない事態だということを思い出して浴槽を洗うのを再開した。
「っし、これで終わり」
「わぁ!」
浴槽の泡を流し、竜は洗うのを終わらせる。
竜が浴槽を洗い終えたことが分かり、花は嬉しそうに声をあげた。
嬉しそうな花の声に竜は小さく笑う。
「どうやって移動したのかは分からんが、わざわざこっちに来たのか」
「わ~ぁ、わぁ」
テーブルの上で待っていても良かっただろうに、わざわざ風呂場に来た花に竜は笑いかけながら花びらの部分を撫でた。
竜に撫でられ、花は嬉しそうにパタパタと葉の部分を動かす。
花を撫でながら竜はチラリと花の根本を見る。
今、花が咲いているのは風呂場に置いてあった
どう考えても根が生えるはずのない場所だった。
「ん~・・・・・・。まぁ、いいか」
「わ、わぁ?!」
きっと深く考えたとしても答えはでない。
そう理解した竜は考えることをやめた。
竜が自身の根本を見ていることに気がついた花は恥ずかしく感じたのか、葉の部分で自身の根本を隠した。
「っと、風呂桶は使うから他のところに移動してくれるか?」
「わ?・・・・・・わぁ!」
竜の言葉に花は花びらの部分を傾けて頷くような動きをした。
そしてテーブルの上から移動したときと同じように風呂桶の中へと潜っていった。
花の移動方法に竜は興味深そうに花が見えなくなるまでその様子を見ていた。
「・・・・・・ペーパーマリオのパックンフラワーみたいな移動方法なんだな」
「わぁ?」
花の姿が見えなくなり、竜は見覚えのある花の移動方法に呟く。
移動直後で竜の言葉が聞き取れなかったのか、花は
ちなみに肩といっても服の上であり、肩の皮膚から直接咲いているわけではない。
皮膚から直接咲くことはできない、とも言わないでおこう。
「って、俺の肩に移動することもできるのかよ?!」
完全に不意を突かれた竜は驚きの声をあげる。
驚く竜の姿に花は楽しそうに揺れるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ