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朝、竜は布団から起きて伸びをする。
昨日はあかり草がいなくなるまでずっと撫でたり会話をして眠るのが少しだけ遅くなってしまったため、頭がまだ少しボーッとしてしまっている。
「んっ・・・・・・、はぁ、起きるか」
小さく息を吐いて竜は制服へと着替え始めた。
朝の支度を終え、朝食も食べ終えた竜は家から出る。
家の向かいには変わらず工事の幕がかかっており、まだしばらくは完成しそうには見えなかった。
完成するのがまだ先なのだろうと考えた竜は工事の幕から興味を失くし、学校へと向かうために足を踏み出した。
「おはようございます、竜くん」
「お、ゆかりか。おはよう」
学校へと向かうために足を一歩踏み出した直後、背後からかけられた声に竜は振り返って返事をする。
そこには昨日も登校する際に出会ったゆかりの姿があった。
ゆかりは竜の返事に嬉しそうに手を振りながら近づき、スンスンと香りを嗅ぐように竜に顔を近づけた。
「ん・・・・・・、竜くん。女の子と会いましたか?」
「いや、とくには会ってないはずだが・・・・・・」
竜からしてきた甘い香りにゆかりは少しだけ不満そうにしながら竜に尋ねる。
ゆかりの言葉に竜は首をかしげる。
昨日、ゆかりたちと別れてから女性と会った覚えはなく、どうしてゆかりがそんなことを聞いてきたのかまったく分からなかった。
「すみません。なにか香水のような香りがしまして・・・・・・」
「香水?・・・・・・・・・・・・あ、もしかしてアレか?」
ゆかりの言う香水のような香り。
その言葉に竜はもしかして、と昨日のことを思い出す。
竜の呟きにゆかりは竜の顔を見ながら言葉の続きを待った。
「昨日、変わった花に会ってな。もしかしたらそれの香りが残ってるのかもしれない」
「花に
竜の言い回しにゆかりは首をかしげる。
普通に考えて花に“会った”という言い回しはあまり使われないように思える。
花が対象ならば“見つけた”や“咲いていた”と言う方が一般的なはずだ。
とは言っても“会った”という言い回しが間違っているとも言えないのだが。
「ああ、とりあえず学校に向かいながら話そう。遅刻はしないだろうけど一応な」
「そうですね」
首をかしげるゆかりの姿に竜は歩きだしながら言う。
まぁ、昨日のあかり草の姿を見ていなければゆかりの反応は仕方のないことだろう。
竜の言葉ももっともなので、ゆかりも頷いて竜の後を追った。
「それで、花に“会った”とはどういう意味なんですか?」
「ん~、まぁ言葉通りの意味でな。昨日、家に帰ったらしゃべって動く花に会ったんだよ」
「・・・・・・・・・・・・えっと、冗談ですか?」
あまりにも突拍子のない竜の言葉にゆかりは苦笑しながら聞き返す。
ゆかりの反応に竜はポリポリと頬を掻いた。
「冗談ではないんだがな。『わぁ』としかしゃべれないらしい花でな。地面、と言うよりも自身の咲いているところに潜って移動することができるんだ」
「にわかには信じがたいですね・・・・・・」
竜の話し方から嘘ではないのだろうと思いつつも、ゆかりは完全に信じることができずにいた。
竜自身も実際に見せなければ信じてもらうのは難しいだろうと考えていたので、ゆかりの反応に仕方がないと曖昧に笑うことしかできなかった。
「それで、その花と竜くんからしてくる香りにどんな関係が?」
「えっとな、その花、あかり草って言うんだが────」
「ストップです」
竜の口から聞こえてきた花の名前にゆかりは思わず待ったをかける。
ゆかりに待ったをかけられ、竜は軽く驚きつつゆかりを見た。
「話を遮ってすみません。何て言う花の名前でしたっけ?」
「あ、ああ。あかり草って言う名前だが・・・・・・」
確認をするように竜に尋ねれば、聞こえてきたのはやはり聞き覚えのある名前。
名前から連想するのは1人の後輩の姿。
頭に思い浮かんだ後輩の姿にゆかりは苦いものでも食べたかのような表情を浮かべるのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ