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竜の口から聞こえてきた花の名前にゆかりは苦い表情を浮かべる。
ゆかりがなぜそのような表情を浮かべているのかが分からず、不思議そうに首をかしげていた。
「あかり草・・・・・・、ですか」
「ああ、あかりと名前が同じなんだよ。すごい偶然だよな」
ゆかりの呟きに竜は頷きながら言う。
竜自身もあかりの名前とあかり草の名前が同じことには気づいていた。
といっても名前が同じだけでなんの関係もないだろうと竜は考えていた。
「そうですね・・・・・・、すごい偶然ですね・・・・・・。それで、その花と竜くんからしてくるこの香りにどのような関係が?」
「えっと、昨日あかり草にちょっかいかけてたら頭を思いきり咥え込まれてな。その時に蜜?の香りがついたみたいでな。洗い流したけど落ちなかったんだよ」
「そうでしたか・・・・・・、とりあえずその香りは私以外の方も気になってしまうと思いますので早めに落ちるといいですね」
昨日のことを思い返しながら竜は自身について落ちない香りの理由を言う。
時間が経てば香りも落ちるかと思っていたのだが、以外にも香りが残ってしまっているのだ。
竜の言葉にゆかりは小さく息を吐いて納得はしてないまでも理解はした。
「そうだな。早めに落ちてくれればいいんだが」
「なんでしたら私の持っている香水でもつけますか?少なくとも私はそれで気にならなくなりますから」
竜は自身の前髪をいじりながら自身に着いた香りのことを考える。
そんな竜の姿にゆかりはスクールバッグの中から小さな小瓶を取り出した。
小瓶の中に入っているのはゆかりのお気に入りの香水。
学校に行くのだと言うのになぜ香水を持っているのかが気になるかもしれないが、体育の授業があるときには必須レベルのものであり、汗の臭いが気になる女子生徒の中ではほぼ常識のようなものなのだ。
「ん・・・・・・、まぁ、他に何人からか聞かれたら借りようかな」
「そうですか。でしたら、先に香りを知ってもらう意味も込めて・・・・・・」
ゆかりの提案に竜は少しだけ考えて答える。
竜の答えにゆかりは自身の手首に軽く香水をかけた。
ゆかりが手首に香水をかけたことによって、フワリと香りが竜の鼻に届いた。
「どうですか?」
「そうだな。何て言ったらいいんだろ、月みたいな香りでゆかりにすごく似合ってると思う」
ゆかりに尋ねられ、竜は自身の鼻に届いた香りの感想を言う。
香りの感想としてはいまいち合ってないように感じられるかもしれないが、竜にとってはそう表現するしかできないほどにゆかりに似合っている香りだった。
竜に似合うと言われ、ゆかりは嬉しそうに頬を薄く染める。
「あ、ゆかりんに竜くん。2人ともおはよー!」
「マキさん、おはようございます」
「おう、おはよう」
学校の校門が近づいてきたとき、反対側の道を歩いていたマキが竜とゆかりの存在に気づいて手を振りながら駆け寄ってきた。
マキの言葉に2人は手をあげて答える。
2人の近くに着いたマキは不思議そうな表情を浮かべて竜に顔を近づけた。
「んぅ・・・・・・?竜くん、なにかつけてる?」
「ほら、やっぱり気になるんですよ」
「そ、そうみたいだな」
スンスンと竜の近くで臭いをかぎ、かぎなれない香りがしたことをマキは竜に尋ねる。
マキの言葉にゆかりは仲間を得たとばかりに頷く。
突然マキが顔を近づけてきたことに照れながら竜は頷いた。
「あ、ゆかりんもやっぱり気づいたんだ?」
「当然ですね。こんなにハッキリとした香りならすぐに気づけますよ」
ゆかりの言葉からゆかりも気づいていたのだとマキは理解して言う。
マキの言葉にゆかりは自信満々に頷いた。
「だから私の香水を貸してあげるって言ってるんですよ」
「いや、でもなぁ・・・・・・」
香水の入った小瓶をもう一度取りだしてゆかりは竜に差し出す。
差し出される香水を竜は煮えきらない態度で見ていた。
「・・・・・・・・・・・・マーキング、かな?」
竜からしてくる香りを自分のお気に入りの香水で上書きする。
そんな竜とゆかりのやり取りを見ながらマキはポツリと呟くのだった。
誰のヤンデレが読みたいですか? その16
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佐藤ささら
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鈴木つづみ