海行く君らに祝福を   作:瑞穂国

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お久しぶりです。久々の秋イベ巡洋艦sです。

今回も四人がわちゃわちゃしているだけのお話です。


雨降る日々にまじないを

 雨の多い季節がやって来ました。

 日本の子たちが、ツユ、と呼ぶ季節。春と夏の間、日本では停滞前線が多発して、よく雨が降るそうです。

 そうは言っても、ここ数年は梅雨が短かったり、ほとんどなかったりと、特筆して雨が多いわけでもなかったそうで、どちらかといえば、季節の境目として楽しむ艦娘がほとんどだとか。

 そういうわけで、初めて経験するツユという季節を、私――ヒューストンは、アジサイなど眺めながら、楽しんでいました。

 ただ、今日という日は、珍しいことに――

 

「じめじめしてる……なんか、気持ち悪い」

 

 出撃もなく、暇を持て余していた私は、三時のコーヒーブレイクにしようと、食堂にてお湯が沸くのを待っているところでした。そんな私を、キッチンを覗けるカウンターから、アトランタが見ています。天板に頬杖をつく彼女は、どこか不満気です。

 コポコポと小さく音をたて始めたやかんから一瞬目を離し、アトランタの方へ目を向けます。お饅頭のように柔らかい頬を一杯に膨らませる彼女は、やや重厚感の増したツインテールの毛先を弄り、窓の外を見遣っていました。

 同じ方へ、私も目を移します。外の景色を映す、食堂の大窓。いつもなら、穏やかな昼下がりの陽光を室内へ取り入れるガラスも、今日は白く霞んでいました。それは、今まさに外で降っている、雨のせいです。

 しとしと、ぱたぱたと、細く小さな雫が、窓を叩きます。海上で遭遇するような、スコールみたいな激しさはありません。どこか儚げで、優しい雨。こんな降り方もするんだなと、私は朝から見惚れていました。

 でも、アトランタはあまり、好きではないみたい。

 

「なんで、ツユなんてあるのさ、この国は」

「梅雨前線が停滞するんですって。ニュースで言ってたわ」

「……いや、そういうことじゃなくて」

 

 外ばかり眺めていたアトランタが、ようやく、私の方へ顔を向けます。さっきよりも膨らみの増した顔に微笑んで、やかんの火を止めました。

 

「雨は気が滅入るって話」

「髪のお手入れも大変よね」

「……ま、そゆこと」

 

 毛先を気にする、乙女モードのアトランタ。ふふ、恋する女の子は大変ね。

 挽きたての豆は四人分。湧いたお湯を、フィルターに敷いた豆に回しかけると、きめ細かい泡がいくつも湧いてきます。まるでカップケーキみたいに膨らむ泡を、零れないように気をつけながら、お湯を注ぐ。ぽたりぽたりと滴るコーヒーの雫から、梅雨の季節に負けない香りが漂いました。

 ……うん、そろそろかな。

 

「んー、いい香りー」

「間に合ったみたいね」

 

 食堂の入り口から、待ち人の声がしました。ひょっこり現れて、やや駆け足にカウンターへやって来る、二つの影。演習を終えて、シャワーを浴びていたロイテルとパースでした。

 

「お疲れ様」

「お疲れー」

 

 アトランタと揃って、二人を迎えます。頬杖をつくアトランタを挟むようにして、ロイテルとパースがカウンターに並びました。アトランタを真似て、組んだ手の上に頭を乗せる二人。可愛い顔が三つ並んで、コーヒーを淹れる私を見ています。なんだか、電線に並ぶ小鳥みたいです。

 

「お茶請けはなあに?」

「クッキー。二人が演習いってる間に、焼いたんだ」

「……アトランタ、あなた執務は?」

「午前中に終わらせたから、午後暇だったの」

 

 さも当たり前みたいに言うアトランタへ、二人が感心したように声を漏らします。ダウナー気味で、言い方も少し適当なところのあるアトランタだけど、基本的にはとても優秀な子です。器用で、要領もいい。秘書艦のお仕事も、もう随分、手慣れてきたみたいですね。

 

「それで?もしかして、提督と一緒に作ったの?」

「……ん、まあ、ね」

「きゃー、もうっ!惚気クッキーじゃーん!」

「ち、違うから」

「私、知ってるわ。アオハルって、言うのよねっ」

 

 両側から、息の合った連携攻撃を繰り出す、ロイテルとパース。細い指が、真っ赤に膨らんだアトランタの風船を、つつき回しています。拗ねた様子で眉間に皺を寄せながらも、されるがままになっていました。

 

「――さ、コーヒーが入ったわ。準備をしてくれる?」

「はーい」

 

 四人分のコーヒーカップを乗せたお盆を、ロイテルが運びます。ミルクとお砂糖を持って、パースもカウンターを離れました。顔を真っ赤にしたアトランタも、手作りクッキーを大事そうに抱えて、テーブルにつきます。

 最早日課になりつつある、四人揃ってのコーヒーブレイクです。

 

 

 

「――あ、そうそう。ねえ、皆に相談があるんだけど」

 

 おかわりした二杯目のコーヒーに息を吹きかけながら、ロイテルがそんなことを言い出しました。カップを置いた彼女は、何やらごそごそと、ポケットを漁り始めます。何が出てくるのかと、皆興味津々です。

 ロイテルがポケットから取り出したのは、白くてふわふわした、人形のようなものでした。とはいっても、とても簡単なつくりをしています。大きくて丸い頭に、手も足もないひらひらの体。マーカーで書き入れられた、丸くてキラキラした目が印象的な、可愛らしい人形です。

 

「何、これ?ロイテルが作ったの?」

 

 ひらひらの体を指でつつきながら、アトランタが尋ねます。ロイテルはそれにうんうん頷いて、得意げに胸を張って答えました。

 

「てるてる坊主だよっ」

「て……テウテウドール……?」

 

 聞きなれない響きに、パースが首を傾げます。

 

「ああ、そういえば、雨除けのおまじないだっけ?駆逐艦どもが作るって言ってたね」

 

 一方、アトランタは、てるてる坊主のことを知っていたみたいです。へー、と興味深げに、ロイテルの持つ人形を矯めつ眇めつしています。

 

「そう、それそれ!やっぱり、雨ばっかりだと気が滅入るからさー。てことで、皆で作ろうよ、てるてる坊主」

 

 そう提案して、ロイテルはまたもごそごそ、今度は材料らしいティッシュを取り出しました。それから、たくさんの色がある、マーカーも。

 面白そうですね。日本のおまじない……興味があります。

 

「いいわね、やりましょう」

 

 一も二もなく、瞳を輝かせて、パースが賛同します。鼻息を荒くして、興奮気味のパース。いつだって、好奇心旺盛なのは、彼女です。

 

「私も乗った。雨降ると、じめじめしてヤなんだよね」

「いよっし。ヒューストンもやる?」

「ええ、もちろん」

 

 私も頷くと、ロイテルは嬉しそうに笑って、早速、作り方を教え始めました。

 何枚か取ったティッシュをふんわりまとめて、もう一枚のティッシュでくるむ。首のところを止めて、顔を書けば完成です。たったそれだけの、とても簡単なつくり。

 簡単、なのですが……これが、実際にやってみると、存外にコツがいるものです。ぱっぱと、器用に一体を作ったロイテルの、見様見真似で同じようにして見ますが……。

 

「む、難しいのね」

 

 むむむ、と唸りながらパースは悪戦苦闘しています。彼女の言う通り、このてるてる坊主というのは、綺麗に作ろうとすると、とても難しいです。顔が綺麗に丸くならないのです。

 そうして、四苦八苦している私とパースとは裏腹に。

 

「ああ、なるほど。こんな感じか」

「わあ、アトランタ、さっすが。器用だね」

 

 手先の器用な二人組は、さくさく、綺麗なてるてる坊主を作ってしまいます。早速完成させたアトランタに、ロイテルはマーカーを渡して、「次は顔だよっ」と今度は顔を書くお手本を見せていました。

 

「見て見て、てるてるパースだよー」

 

 顔を描き終えたロイテルが、こちらへズズイっと、完成したてるてる坊主――いえ、てるてるパースを見せてきます。サラサラの前髪と、キラキラした紫の瞳、キリッとした目元、リボンは紙で作ったのでしょうか。

 ふふ、本当に、パースが小さな人形になったみたい。とっても可愛いですね。

 

「へー、可愛いじゃん」

「似てるでしょー?可愛いでしょー?」

「似てる似てる。パースそのまんまって感じ」

「……も、もう。からかってるの?」

 

 頬を赤くしてそっぽを向くパースに、三人分の「可愛い」がぴったりシンクロしました。

 

「それなら、私はロイテルのてるてる坊主を作ろうかしら」

 

 ようやく形になったてるてる坊主のシルエットを整えながら、私はそんなことを考えました。ロイテルほど上手にできる気はしないけれど――

 

「えー、ほんとに!?嬉しいーっ!」

 

 彼女はきっと、それは素敵な笑顔で、喜んでくれると思うのです。

 

「なら、私はテウテウ・アトランタを作るわね」

 

 いまだ悪戦苦闘中のパースが、そう言ってアトランタの方を見遣ります。すでに顔を描き始めていたらしいアトランタは、「もう描いちゃったんだけど」と言いながら、私の方を見ました。

 

「それじゃ、あたしはヒューストンだね」

 

 そこからは、お互いに一層、それぞれのてるてる坊主作りに集中します。

 アトランタは、またティッシュの塊を取って、二体目のてるてる坊主を作り始めます。もう慣れたもので、手早くティッシュをまとめて、バランスの取れたシルエットにしていました。

 パースはというと、一体目のてるてる坊主をダメにして、拗ねてしまっています。涙目の彼女に苦笑しながら、ロイテルは付きっきりで、手取り足取り教えていました。アドバイスに頷きつつ、パースは二体目を作り直します。

 私はといえば、マーカーを手にして、じっと、ロイテルの横顔を見つめます。普段から見慣れた友人の顔とはいえ、折角描くのなら、実物をよく見て、本物のロイテルと同じくらい、可愛くしたいですから。

 朝焼け色の、緩いウェーブのかかった髪。溌溂とした、大きなレモン色の瞳。とてもよく笑う、薄紅色の唇。

 

「……な、何かな、ヒューストン?」

 

 ロイテルに声を掛けられて、我に返ります。どうやら私は、いつの間にやら、ロイテルに見惚れてしまっていたようです。

 

「ご、ごめんなさい。てるてるロイテルを描くから、あなたの顔を見てたのよ」

「あ、あー、そうだったんだー。……な、何だか照れるなあ」

 

 えへへと、染まった頬をロイテルが掻きます。同じように私も照れくさくて、加熱してきた頬に手を当てました。

 呼吸を一つ。改めてペンを取り、真っ白なてるてる坊主に向き合います。今はうっすらと、そこへロイテルの顔が重なっている気がしました。

 

「で、できたわ」

 

 十分程すると、パースもてるてる坊主を完成させました。ツインテールをしたてるてる坊主を、得意げに見せるパースに、ロイテルがパチパチと拍手を送ります。

 

「ね、ね、皆で作ったの並べて、写真撮ろうよっ」

 

 支給品のスマホを取り出して、ロイテルが提案します。四人が作った、お互いのてるてる坊主。それを、机の上に並べます。随分と小ぢんまりした私たちが、そこにはいます。

 手先の器用な二人のてるてる坊主は、本当に綺麗な出来です。今にも動き出しそうな、パースと私の人形。それに比べると、私とパースが作った人形は、やや不格好ですね。

 だけど――

 

「皆可愛いーっ」

「ふ、ふーん。結構いい出来じゃん」

「並べて飾ったら、きっと素敵ね」

 

 各々取り出したスマホで、並んだてるてる坊主を撮り続ける、私たち。これが本当に、可愛らしくて仕方ないのです。友人が作ってくれた、私のアバターみたいな、てるてる坊主。子供のような、というのはおかしいかもしれませんけど、宝物のように思えてならないのです。

 

「ね、ね、アトランタ。あなたのてるてる坊主と、一緒に写真を撮ってもいい?」

 

 アトランタが作ったてるてる坊主――ロイテル風に言えば、てるてるヒューストンを胸に抱えて、私は尋ねます。

 

「ん、いいよ。ほら、スマホ貸して」

「あなたも一緒に撮るのよ、アトランタ。生みの親でしょう?」

「生みの親て……。まあ、いいけど」

 

 ロイテルにスマホを渡して、撮影をお願いします。私の胸元に、てるてるヒューストン。隣には、カメラに向かって目線を向ける、アトランタ。

 

「二人とも、いい笑顔だよー。そのまま、そのまま」

 

 ロイテルが二、三とシャッターを切ります。確認したアルバムには、自分でも可笑しくなるくらい、よく笑っている私と、澄ました微笑みのアトランタが写っていました。

 

「それで、この後はどうするの?テウテウドールは、飾ったりするのかしら」

 

 ロイテル作のてるてるパースを大事そうに抱えながら、パースが尋ねます。そういえば、てるてる坊主は本来、雨除けのおまじないでした。作るだけ、ではなく飾るまでがおまじないのはず。

 パースの質問に首肯して、ロイテルはさらっと答えます。

 

「首のとこを紐でくくって吊るすんだよ」

「吊るすの!?」

 

 パースが明らかに怯えた様子で後退ります。てるてるパースを胸元に抱き締めて、そんなことさせないと言わんばかりに守っています。

 

「し、集団絞首刑……?」

「ち、違うよぉ。ごめん、言い方悪かったってー」

 

 怯えるパースを宥めるように、ロイテルがどうどうと慎重に距離を縮めます。完全に犬と仲良くなろうとする新人飼い主です。

 

「雨除けだから、窓枠に並べるんだよ。頭が下にならないように気をつけて、ね」

「……そ、それだけ?」

「それだけ、それだけ」

「それなら……」

 

 ようやく警戒を解いたパースに、ほっと胸を撫で下ろす、ロイテル。苦笑いを堪えながら、私はまた別のことを尋ねます。

 

「どこに飾ろうかしら」

「それぞれの部屋でいいんじゃない?」

「んー、やっぱり執務室でしょ。あそこが一番見晴らし良いし」

「ロイテルに賛成よ。提督に相談しましょう」

 

 ロイテルとパースの意見には、私も賛成です。クリスマスツリーや鏡餅も飾っていたことがありますし、てるてる坊主もいいかもしれません。

 乗り気な私たちとは裏腹に、アトランタだけが微妙な表情をしています。

 

「あー……どう、だろう」

「四人並んで飾るには丁度いいじゃん。――そ、れ、に、」

 

 ニヨニヨと怪しい笑みを浮かべたロイテルは、今サッとアトランタが後ろ手にしたものを見つめています。見た目からすると、てるてる坊主でした。そういえばアトランタは、てるてるヒューストンを作るより前に、別のてるてる坊主を作っていました。どんなてるてる坊主だったのか、真っ先に完成したロイテルだけが知っています。

 

「そのてるてる坊主も一緒に飾ろうね」

「……ぜ、絶対にイヤ」

 

 アトランタの拒絶に反応することはなく、ロイテルは笑顔で柏手を打ちました。

 

「それじゃあ、早速執務室へ行こー!」

 

 おーっ、と答えて、たじろぐアトランタの背中を押しながら、執務室へと向かう私たち。

 

「ちょ、押すなってば」

「いいじゃん、いいじゃん」

「吊るさない、わよね?」

「クッキーのお礼も言わないとね」

 

 相も変わらず、賑やかに会話をしながら、執務室を目指します。手作りのてるてる坊主を、各々の手にして。

 ふふ。こんな風に過ごせるのなら、雨の季節も悪くないと、私は思うのです。

 

 

 

 それからというもの、執務室には、私たち四人分のてるてる坊主と、提督のてるてる坊主が、仲良く並んで、飾られていました。




パースさんの梅雨ボイスから妄想を膨らませました。

1番器用なのはロイテル
でもって、なんだかんだ卒なく作るのがアトランタ
ヒューストンは不器用ではないけど器用でもない
パースさんは不器用だし上手くできなくて拗ねる
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