--- 前回のあらすじ ---
化学教師の森近霖之助(25歳)は剣道部主将である魂魄妖夢(17歳)によって、八雲学園の七不思議を解明する事となったのだ。
しかし、その初日は何者かの悪戯で潰れてしまったのだ。
そして今日、一つ目の怪異である『夜中の音楽室で聞こえる琵琶の音を4回聞いてしまうと不幸になる』と言う怪異の解明するのだぁ!
(若本規夫ボイスゥ)
--- 本編 ---
本来ならば午後から始まる眠気との死闘に備えて弁当箱を突っつきながらワイワイと知人友人で騒ぐような時間帯に、薬品と古紙のにおいが充満している空間で青春盛りの女子高生と化学教師が密着していた。
「何やらとんでもない誤解がされそうなことを言われた気がする」
「...急に何を言い出すんですか?
話をそらそうとしたってそうはいきませんよ!
ともかく、森近先生は早くこのセロリを食べてください。
もし自分で食べないのならば、無理矢理口をこじ開けて食べさせますよ!」
「止めてくれ。
いくらボクでも、そんな事をされたら恥ずかしいよ。
そもそも、セロリがどうして苦いかという事を知っているかい?
それは...」
「その話はもう10回近くは聞いています。そんな下手に悪知恵を付けた子供みたいな言い訳はもう効きません!
それにこの前の健康診断で野菜不足だと注意されたと私は理事長から聞きました。
なので、大人しくに口を開けて食べてください!」
はっきりと言ってしまえば、セロリ意地でも食べようとしない霖之助に対して妖夢が無理矢理食べさせようと密着しているのだ。
人生のクオーターラインに差し掛かった
こんな風なありふれた日常を妖夢が送れる事に、霖之助は感謝していたのだ。
霖之助は元々、将来を約束される程の実力と霊力を持っていたのだ。
・・・だが、色々とあって霖之助は霊力の大半を失ってしまう事となる。
その頃の相棒であった八雲紫が経営する学園で化学教師となったのだ
--- 閑話休題 ---
昼休みももうすぐ終わるという時間に差し掛かったところで妖夢は今日の夜に解明するであろう怪異の話を切り出した。
「ところで今日解決する予定の七不思議について、森近先生はどう考えますか?」
「そうだね。
まず明らかに怪しい古道具が沢山有るあの音楽室の事だから、色々と怪しい物はあるけどね。
概ね『付喪神』という存在が起こしているのだろう。
付喪神と言う存在は、永らく時を得た道具に魂が宿るという物だ。
その宿る魂には、二種類あるんだ。
その一つが『神霊』や『精霊』が宿る事によって持ち主に幸運をもたらす存在へと
もう一つが『妖怪』となり、持ち主に害を成す存在へと
これは、簡単な条件が...」
--- キーンコーンカーンコーン ---
「森近先生!
続きはまた夜にお願いします!!」
慌てて小走りで化学準備室から出ていく妖夢に呆れながらも、それでも微かに笑みを浮かべる霖之助であった。
--- キングクリムゾン ---
異常事態であることから総ての人間が学校から居なくなり結界が張られた学び舎に、二つの人影が現れた。
皆さんお察しの通り、複数の地域の伝統的な衣装を複合した様な衣装を纏い宝剣を腰に帯びている森近霖之助と白のワンピースに緑のノースリーブドレスを纏い短刀と長刀を背に帯びている魂魄妖夢である。
「霖之助さん、お昼に話していた付喪神について続きをお願いします」
「そうだね、何処まで話したかな・・・
ああ。確か、どうやったら変化する先が分岐するのかという事についてだったね。
それは簡単な事だよ。
永く大切に扱われた道具は持ち主に恩を介したいと宿った魂は『神霊』や『精霊』が宿り、永らく放置されていたり粗雑な扱いをされていた道具は持ち主に対して害成す為に『妖怪』へと変化するんだよ。
だから、今回の怪異は十中八九で『妖怪』と化した古道具が起こしている者だろう。
そこで妖夢に聞きたいのは...」
--- ベンッ ベンッ ベンベン ベンッ ---
霖之助が妖夢に何かを聞こうとした時、突如として鳴り響いた琵琶を奏でる音。
それは琵琶の名師が奏でる様な艶やかな音色で、心を揺さぶり引き付ける。
更には、奏でている者の傍に行きたくなってしまう魅了のような...
「妖夢、それ以上ボクから離れてはダメだよ。
相手がどの様な性質をしているのか分からないのだから、下手に近寄ってしまっては絡め捕られてしまうよ」
「ッ!?
わ、私は一体何を…」
「このお守りを持っていると良い。
これを持っていれば魅せられる事も無くなる。
...というか、白楼剣に手を当てていれば防げると思うんだけどね」
付喪神が奏でる音色によって魅せられてしまった妖夢と音色を響かせる音楽室の間に入り込んだ霖之助にお守りを首に掛けられて正気を取り戻した妖夢は霖之助が苦笑しながら漏らした小言を聞いて赤面するのだった。
そして、苦笑しつつも相手がいるであろう音楽室を睨む霖之助に対して、透き通るような声をした人物がお道化て話しかけるのだった。
「あら、そんなに睨まなくっても良いじゃない。
ただ一緒にお茶をしようとお誘いしただけなのだから」
「仮に本当にお茶会するにしても、魅了を掛ける必要はあるのかな?
それに、ご丁寧に吸精まで付け加えてるんだ。
そんな戯言を真に受ける訳が無いだろう?」
からからと笑いながら霖之助に対して軽口を叩く美女。
それに対して理詰めで軽口を捻じ伏せる霖之助。
二者の間には剣呑な雰囲気が漂い始め、今のも戦いの火蓋が斬られそうな雰囲気だ。
「はいそこまでー。
お姉ちゃん、その似合わない演技止めてくれない?
私が恥じかしいから」
「ちょ、八橋!
今良い処なんだから邪魔しないでよ!!」
「だって、このままだと此処で喧嘩しそうだったんだもん。
というか、まだマトモに力を制御できていないのを如何にも狙ってやりました読みたいに言わないでよ」
「...一体何なんだいキミ達は」
明らかに戦うという雰囲気じゃなくなったのを感じ取ったのか、霖之助は宝剣の柄頭に手を添えながらもその雰囲気からは険しさが薄まっていた。
また、それを感じ取ったのか姉に文句を言いながらも霖之助を警戒していた八橋からも最低限の注意を残してその大半が柔らかな雰囲気となっていた。
「愚姉がごめんなさね。
私は九十九八橋って言うの。
最近になって付喪神になった新参者よ。
後ついでにコレは私の姉という事になってる九十九弁々」
「紹介がかなり雑な気がするわ...
まあいいわ。私は九十九弁々。
由緒ある琵琶の付喪神よ!」
「ご丁寧にありがとう。
ボクは森近霖之助。
この学校の化学教師をしている
・・・何時まで呆けてるのかな、妖夢。
自己紹介だよ」
「へ?
あっ、はい。
私は魂魄妖夢と申します。
この学園では、剣道部の主将を任されていますっ」
急に剣呑とした雰囲気が緩み、自己紹介となった場に付いて行けずに呆けていた妖夢に対して霖之助は軽く頭に手を置いて妖夢に声を掛ける。
(妖夢からしたら)その急な動作によって嬉しいやら恥ずかしいやらが綯い交ぜになった妖夢に対して自己紹介を促す霖之助。
・・・実際のところは、未だに九十九姉妹の事を完全に信用していなかった霖之助が何か変な術に掛けられていないかを確認する為に頭に手を置いて確認しただけなのだが、言わぬが花であろう。
「それじゃあ自己紹介も済んだことだし、どうしてこんな事をしていたのかを聞かせてもらえるかな?
納得出来ない様な理由なら退治するだけだから、細かい事は気にせず話して良いよ」
「...そんな事を言われたら気にせずに話すとか無理でしょ。
というか、それを自然体で言うとか鬼畜だわ」
「何か?」
「いいえ、何でもないわ(人間って怖いわぁ)」
ナチュラルに退治するといった霖之助に対して八橋が小声で愚痴を吐くと、それに対して丁寧に反応した霖之助。
それに対して、どこぞの狼女のセリフだけが予期せず先んじて出てくるのだった。
「...まあいいわ。
私達って生まれたばかりの怪異だから、まだ存在が安定してないの。
だから、適当に怖がらせて存在を安定させようとしてたのよ。
私達が生きる為だから、他の人間は殺さないようにしてるわ」
...生徒達の精気を吸い尽くして絞り殺しちゃったら貴方みたいな退治屋に逆に私達が殺されちゃうもの。
と先ほどの事に対しての愚痴も付け加えながらも理由を説明する八橋に対して、霖之助は何かを考える様に瞑目する。
ほんの少しの間とはいえ、瞑目して深慮する霖之助の姿を見て妖夢もようやく彼女たちが敵ではないと気が付いたのか、柄頭に常に置いていた手を離して肩の力を抜いた。
「・・・つまり、君たちは存在が安定すればこの学校から去るなりなんなりするという事で良いのかな?」
「ええ、そうよ。
とはいっても私達はつい最近に昇華したから何処にもツテが無いから、しばらくは此処でお世話になるかもしれないけど?」
「はぁ。わかったよ。
当面の間は家に来ると良い。
とはいえ、人の世の常識を叩き込んである程度やれると思ったら追い出すからね」
「助かるわ」
明らかに強請ってきている八橋に対して、霖之助は自分の家に来ると良いと言う。
それに対して、飄々とお礼を言う八橋。
この二人がやり取りをしている間、弁々は蛇に睨まれた蛙の様にガタガタと震えていたが何があったのだろうか?
「とはいえ、これで今日の怪異は解決だね。
ほら、さっさと帰るよ」
「えっ!
霖之助さん、良いんですか?
このまま彼女達を此処に居させたら解決にならないんじゃ...」
「何を言ってるんだい妖夢。
彼女たちは今日からボクの家に来て貰う予定だよ。
そもそも、このまま置いて於くよりも直ぐに対処出来る処に置いて於く方が都合が良いからね。
まだ彼女たちを信用したわけじゃないから、拒否権は無いよ」
...それにどうせ休日を挟むんだから、彼女たちに常識を教えるのに丁度良いからね。
妖夢にだけ聞こえる様に小声で伝えた霖之助に、妖夢は冷や汗を流していた。
(これって、霖之助さんを取られちゃう可能性があるんじゃ。
でも、休日に霖之助さんの家に行くのはハードルがかなり高いし...)
悶々としながらも、帰路に就く妖夢。
それを不思議に思いながらも、式のヒトガタに護衛を陰ながら頼みつつ霖之助もまた帰路に就く。
--- 音楽室の謎:解明 ---
休日のお話は、本編では触れる事はありません。
ただ、後日譚として書くかもしれません