更に数時間後――。
ムサシと次元潜航艦、そして護衛のガミラス駆逐艦五隻が、亜空間ゲートに入り、次元断層のある場所へと辿り着いていた。
ムサシとガミラス駆逐艦が、次元断層の入口付近で待機している中、次元潜航艦は、次元断層の中へと静かに突入していった。
ムサシとの連絡手段を確保する為、有線ケーブルを次元潜航艦に接続し、それを次元断層内部まで伸ばしていった。そして、内部でケーブルを離し、先端に接続した通信用リレーで、亜空間と異次元空間の間を繋いだ。
古代や雪、そして真田と藤堂早紀は、次元潜航艦の艦橋にいた。
ガミラス人の乗組員が、次元潜航艦を次元断層の内部の異次元空間を奥へ奥へと前進させていた。艦長のジャミルは、腕組みして次元潜航艦の状態を確認していた。
「ゲシュタム機関はどうか」
「ゲシュタム機関、エネルギー流出が認められます」
「よし、亜空間推進機関切り替え」
「はい。ゲシュヴァール機関に切り替えます」
次元潜航艦は、異次元航行用のエンジンに切り替えた。そして、後部の亜空間推進用の二基のプロペラが始動する。次元潜航艦は、そのまま静かに異次元を進んで行った。
「問題ないか?」
「機関、正常。異次元航行可能です」
「実験艦ムサシとの通信回線はどうか」
「通信用リレーとの接続、正常です。映像通信、データ伝送共に可能」
ほっとしたジャミルは、古代たちの方を振り返った。
「行けるぞ。何処に向かうか決めてくれ」
古代も、それを聞いてほっとしていた。彼は、雪の方を見ると、彼女は真剣な表情をしている。目が覚めた美雪は、足元で少しよろけながら雪の手を掴んで立っていた。最近、立てるようになったのだ。
真田は、次元潜航艦の科学士官用の座席に座り、外部の様子を探っていた。
「センサーが、方舟を検知した。テレサと思しき存在は、現在は認められない。まずは、方舟の左舷後方に艦を寄せて欲しい」
「わかった。航海士、航路入力」
「了解。航路設定します」
次元潜航艦は、左舷方向へ向きを変えながら、方舟の左側に回り込むように進んだ。しばらく行くと目標地点に到着した。
「止めろ」
「了解、艦を止めます」
その時、艦橋の出入口から、入って来た人物がいた。
ジャミル以下、ガミラス人の乗員が、一斉に跪いた。
「スターシャさん!」
古代と雪は、入って来た人物がイスカンダルの元女王だったことに驚いていた。真田は、あまり驚きを見せず、スターシャに会釈していた。
藤堂早紀は、まだスターシャには面会しておらず、地球の恩人である彼女の姿に驚愕していた。
「ほ……本物?」
スターシャは、にこやかに皆に会釈した。その足元には、サーシャがまとわり付いていた。
「皆さん、驚かせてすいません。乗艦することを公にすると、アベルトに止められそうだったので、ジャミル艦長に頼んでこっそり乗り込みました」
古代と雪は、デスラー総統が心配して止める様子が目に浮かんで、思わず苦笑いをした。
「さっきのあなたと一緒」
「ま、まぁ、気持ちは良くわかる」
スターシャは、ジャミルに手を差し伸べ、頭を上げるように言った。
古代は、率直な疑問を尋ねた。
「スターシャさんは、何故ここに?」
スターシャは、古代から雪に視線を向けた。
「貴方がたと同じ理由です。テレサが来ているなら、私も行くべきかと思いました。このサーシャも一緒に」
雪は、あのガトランティス戦争の時の最後の戦いを思い返していた。テレサの導きが、ガミラスもイスカンダルも救ったのだ。その彼女との因縁が深いイスカンダル人としての判断なのだろう。
「私は、あの時と違い、イスカンダル人との深い繋がりはもうありません。でも、何か胸騒ぎがして、この子と一緒に、ここに来るべきだと感じたんです」
スターシャはにっこりと笑っていた。足元にいたサーシャは、彼女に聞いた。
「テレサって、だあれ?」
スターシャは、何と答えるか少し考えてから言った。
「私たちイスカンダル人は、すごく昔に、悪いことをしていたの。でも、テレサが、私たちを目覚めさせ、心を入れ替えさせてくれた。だから、とても大切な存在なのよ」
サーシャは、ふーん、と話を聞いていた。
「じゃぁ、良い人なんだね」
スターシャは、笑顔で頷いた。そして、再び古代と雪の方へ向き直った。
「今日は、ユリーシャはいませんが、私とサーシャが、テレサとの接触のお役に立てるかもしれません」
古代は、スターシャに感謝を伝えた。
「ありがとうございます」
そんなやり取りの間、真田は、外の様子の観測を続けていた。
「北野の報告にあった、次元の裂け目は、まだ完全には閉じられていない。確かに、ブラックホールと思われるものが、裂け目の向こう側に存在している」
真田は、更に観測を続けた。
「面白い。次元の裂け目を、本当に方舟が修復しているように見える。想像を絶する技術だ」
真田は、ムサシにいる新見薫たちに、観測したデータを送信した。
「私の推測では、あれは時空連続体に存在する、別の宇宙の銀河系の中心部だと考えられる。今観測されているブラックホールは、その銀河の中心に存在しているものではないか、と考えている。このまま放っておけば、異次元から出現した銀河系同士が衝突し、銀河系全体が被害を受けるだろう。観測したデータをムサシに送ったので、新見くんたちが、この推測が正しいか証明してくれるだろう」
「銀河系同士が衝突!? そ、そんなことが起きたら、我々の銀河系は崩壊してしまうのでは?」
真田は、古代の疑問に答えた。
「確かに、衝突した瞬間に、同じ場所にあった星系は崩壊する可能性が高いだろう。例えば、銀河核を囲むように存在している、ボラー連邦やガルマン帝国は、大きな被害を受けるだろう。しかし、それも出現した最初のタイミングでの話だ。その後は、非常に長い時間をかけて、ゆっくりと二つの銀河が重なり合う。これには、数万年、数億年の時間がかかる。我々の太陽系のような銀河系の外縁部の星系は、すぐには影響を受けないだろう」
再び、真田が観測を続けると、別の発見があった。
「別の場所に、新たな裂け目が出来ているのを発見した。方舟の放つ光が輝きを増している。そちらも修復するつもりかも知れない」
「真田さん、一体何故、こんなことが?」
早紀の質問に、真田は首を振った。
「残念ながら、今はわからない。それでも、別の宇宙の実在が確認されたとすれば、これは科学的な大きな発見となる。そして、ここで起こっている事象を観測することで、我々もデータを集め、研究をすることは出来る」
スターシャは、その早紀と真田のそばに寄って話をした。
「今、わかることは、方舟は、この銀河……いいえ、それどころか、この宇宙を救おうとしているのではないか、ということ。ジレル人と接触出来れば、何かわかるかも知れませんが」
ジャミル艦長は、通信士に確認するが、宇宙船シャンブロウとは、連絡がつかないようだった。
そのまま、しばらく時間が過ぎた。
次元のほころびは、徐々に修復されて、問題が解決しようしているかに見えたが、更にほころびが増え、一進一退の様相である。
スターシャは、その様子を黙って見つめていたが、ふと、何かに気づいたように、目を閉じた。
「どうやら、テレサが戻って来たようです。存在を感じます」
ジャミル艦長は、艦橋の士官に命じて、艦橋のスクリーンに外の様子を映し出した。
そこには、巨大な人影が薄っすらと浮かび上がっていた。徐々に影がはっきりとしだすと、それは女性の姿になった。
「テレサ!」
雪が一言、声を発すると、テレサの身体全体が光り輝き始めた。そして、ゆっくりと手を次元潜航艦に差し伸べた。
その瞬間、雪は、辺りの様子が一変するのを目撃した。次元潜航艦の艦橋は姿を消し、宇宙空間に体が浮かんでいた。
雪は、慌てて周りを見渡した。
「美雪!」
しかし、その美雪は、すぐそばにいた。宇宙空間に体を漂わせているのが楽しいのか、きゃっきゃと喜んでいる。雪は、すぐに彼女を抱き寄せると、再び辺りを見渡した。
「ここは、一体どこなの?」
すると、空間から突然腕が伸びて来た。雪は、真っ青になって美雪を強く抱きしめた。しかし、やがてその腕から先の体全体が現れた。それは、古代だった。彼は、美雪を抱く雪を手を広げて抱きしめた。
「古代くん!」
「雪! 美雪!」
美雪は、両親に抱かれ、嬉しそうに声を出して笑っている。
「ここ、どこ?」
「わからない」
辺りには、何処までも暗い空間が続き、星が瞬いている。
そんな三人を眩しい光が包み、今度は何も見えなくなった。
「これは!?」
光が徐々に弱まると、彼ら三人の目の前に、雪や古代と同じぐらいの大きさのテレサが浮かんでいた。
驚きのあまり、二人とも声も出なかった。
そんな二人を前に、テレサは微笑んだ。
「驚かせてすみません」
テレサは、ゆっくりと右手を上げた。
すると、また大きな光が輝き、それが徐々に弱まると、足元の様子が変化した。それは、二つの銀河が、衝突している様子だった。
「銀河系が……」
テレサが口を開いた。
「これは、あなた方のいる宇宙とは、別の宇宙の出来事です。天の川銀河に、ある時突然別の銀河が現れました。その結果、銀河同士の衝突で、多くの命や文明が失われたようです」
古代と雪は、美雪を挟んで抱き合って、恐れを感じながらその光景を見つめた。
「先程の次元の亀裂は、放っておけば、このような事態を引き起こします。この宇宙では、アケーリアス文明の信じがたい程の科学力で、このような事態を今まで避けることが出来ていたのです」
古代は、独り言のように呟いた。
「多元宇宙……? やはり本当に平行世界が実在するというんですか?」
テレサは頷いた。
「そのように捉えてもらって構わないと思います」
古代は、気を取り直して、テレサに聞いた。
「どうして、僕たちをここへ?」
テレサは、古代と視線を合わせた。その瞳は、この世の者とは思えない深い哀しみに満ちていた。
「私は、かつてイスカンダル帝国に滅ぼされた存在です。既に肉体は失われ、私の記憶と心は、あなた方が存在する世界から見て、高次の世界に存在しています。あなた方が、魂と呼ぶ存在。それが今の私です。しかし、その私も、あくまでもあなた方と同じ世界の住人ですが、他の世界は、高次の世界で繋がっていて、こうして観測することが出来ます」
テレサが手を動かすと、別の世界のテレサと思しき存在の姿が現れた。そのテレサは、手を合わせて祈りを捧げている。
「別の世界では、私自身と思われる存在もいます。これは、あなた方も同じ。別の世界の古代さんや、雪さんが、無数に存在しています。もちろん、いない世界も無数に。邪悪な存在が支配する世界もあります。これらの世界は、本来は、決して交わることはありません。しかし、そのような交わりが世界を跨いで起こりやすい特異点のような場所が、この世界には存在しています。まさに、それがこの場所です。先程見せたように、別の宇宙のガルマン帝国は、この特異点から出現した別の世界の銀河との衝突で滅んでしまいました」
古代と雪は、顔を見合わせて、この途方も無い話を咀嚼しようと懸命に考えを巡らせた。
「そうすると、古代アケーリアス文明は、この宇宙を救おうと遠い昔から活動しているのでしょうか?」
古代の質問に、テレサは明快に回答した。
「そうです。この宇宙の特異点を見つけて修復する。その為に必要な、銀河間ネットワークの構築。それに、それが失敗しても、生命が失われないように、銀河のあちこちに種を蒔くこと。それらを使命として活動していました。今は、彼らの子孫であるジレル人たちが、その跡を継ごうと活動を始めています」
テレサは、再び手を動かした。辺り一面が様変わりし、夜の海岸線と思われる場所に古代と雪、そしてテレサは立っていた。海が穏やかな波を作って、海岸線に打ち寄せている。
「ここは……?」
テレサは、ただ微笑んでいる。
「何故、ここに呼んだか……という質問にまだお答えしてませんでしたね。今のあなた方と同じ様に、この高次の世界に迷い込んでいる別の世界の人がいます。その人を助けてあげてもらえませんか。生きている人間は、この世界に来てはいけないのですから」
そう言うと、テレサの姿は薄っすらと消えていった。
「テレサ! ちょっと待って!」
雪が呼び止めようとするが、テレサの姿は消え失せてしまった。
二人がテレサを探している間に、美雪が、よちよちと歩くと、海岸線の方へと嬉しそうに歩き出した。しかし、途中で転んで、砂の上に倒れた。慌てた古代と雪が、美雪の元に走り寄って抱き起こすが、彼女はそれでも嬉しそうに笑っている。
「もう、勝手に歩いちゃ、危ないよ」
古代は、美雪が目指そうとしていた海の方を見つめた。
「そうか。美雪は、海を見るのが初めてだったね」
「そういえば、そうだったね。もしかして、海に入りたかったの?」
古代も雪も、しゃがんで美雪を抱いて、穏やかな夜の海を見つめた。海を眺めていると、心が洗われるような気持ちになっていた。その海の向こうには、光の柱のようなものが立ち上っていて、神秘的な光景だった。
その時、微かに、女性の泣き声が聞こえて来た。
古代と雪は、その声の方を探して見回すと、少し離れた海岸線に、一人の女性が立っている。その女性は、ヤマトの制服と同じデザインの服を着ている。古代は、その姿によく見覚えがあった。
「あ、あれは……!」
雪は、まだわかっていないようだった。
「誰……?」
古代は、複雑な表情で、雪に言った。
「あれは……。君だ。たぶん。別の世界の君だと思う」
雪は、そう言われて、彼女の姿を確認した。言われて見れば、確かにそうかも知れない。
「わ、私!?」
「テレサが言っていたのは、彼女のことかも知れない。行ってみよう」
古代と雪は、そっと彼女に近づいて行った。
泣いていた彼女も、古代と雪の気配に気がついたようだ。
「え……?」
もう一人の雪は、目の前に立っている人物に、大きく目を見開いて見つめた。
「古代くん!」
もう一人の雪は、そう叫ぶと、古代に走り寄ろうとした。しかし、その腕に抱かれる子供の姿を見て立ち止まった。そして、その横に立つ人物を見て、もう一度驚いていた。
「だ、誰!? あなたたち……」
雪は、ちょっと照れたように顔をほころばせて言った。
「た、たぶん、あなたは、私……、だと思う……」
古代は、後を続けた。
「えーと、雪……と呼ばせてもらうよ。僕は、見ての通り古代進。僕たちは、君とは別の宇宙から、テレサの導きでここにやって来た。テレサから、助けがいると聞いてるんだけど、どうしたのか、話してくれるかい?」
もう一人の雪は、大粒の涙を流していた。
「古代くんが……戻って来てくれないの。もう、これ以上、失いたくないって……」
もう一人の雪は、両手で顔を覆って、泣き続けた。
古代と雪は、何があったのか、これではわからない、と困惑して顔を見合わせた。
すると、その時、古代の腕の中にいた美雪が暴れてぐずりだした。
「ど、どうした、美雪?」
「どうしたの美雪?」
美雪は、古代の腕から出ようともがいているようだった。古代は、仕方なく、美雪を砂浜に降ろした。その彼女は、よちよちと歩いて、もう一人の雪に近づいた。そして、彼女の足元に抱きついた。
古代と雪は、あ然として、美雪の様子を眺めた。
もう一人の雪は、足元に絡み付いた子供の姿を見て、涙を拭いながらしゃがんだ。美雪は、彼女に倒れ込むように抱きついている。
もう一人の雪は、涙を拭いながら尋ねた。
「この子はもしかして……。古代くんと……あなたの子供?」
雪は、穏やかに微笑んで言った。
「そう。私たちの子供だよ」
美雪の体を抱く、もう一人の雪の左手の薬指には、婚約指輪が光っていた。あなたたちはいないの? と続けて聞こうと思っていたが、雪はそれに気づいて、それ以上言うのをやめた。
「そう。……かわいい子」
美雪は、もう一人の雪に抱き寄せられて、嬉しそうに笑い声をあげた。
もう一人の雪は、真剣な表情になって美雪を抱き上げて立ち上った。そして、雪にそっと大切そうに美雪を引き渡した。
「ありがとう。もう一度、彼を説得してみる。こんな未来が、こんな可能性があるって、彼にも知らせなきゃ」
もう一人の雪は、視線を美雪から、雪に、そして古代の方に移した。
古代は、もう一人の雪と見つめ合って言った。
「君の事情はよくわからないけど、頑張って。きっと、もう一人の僕も、君のことを、誰よりも大切だと思っているはずだよ」
もう一人の雪は、満面の笑みで大きく頷いた。
「わかってる。私も、古代くんを誰よりも愛してる」
彼女は、大きく手を降ると、その場から消えていった。最後に、大きく「ありがとう!」と叫んでいる声だけが響いた。
後には、静かに打ち寄せる波の音だけが響いていた。
古代と雪は、一連の出来事が、本当にあったことなのか、不思議な感覚に陥っていた。
「こ、これで、よかったんだろうか?」
「わからない。だけど、もう一人の私を元気づけられたのは確かなんじゃない?」
すると、辺りが光り輝き、再び宇宙空間へと戻って行った。
そして、虚空にテレサの声だけが響いた。
「ありがとう。これで、あの二人も救われることでしょう」
「テレサ……!」
「私は、ずっとこの世界を見つめています。またいつか、お会いすることもあるでしょう……」
「待って!」
古代と雪は、はっと気がつくと、そこは次元潜航艦の艦橋の中だった。
困惑して古代と雪が顔を見合わせていると、スターシャが声をかけた。
「おかえりなさい」
スターシャは、何もかも見通すような表情で、二人を見つめていた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。