宇宙戦艦ヤマト2199 ギャラクシー   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「ギャラクシー」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」の続編になります。


ギャラクシー2 素顔のデスラー

 一週間前――。

 

 古代が、銀河中央方面総監部司令官として着任した日、彼に最初に与えられた任務は、目の前にいるガミラス人との会談だった。

「ようこそ、我が家へ」

 そこは、かつてガミラス帝国銀河方面軍基地司令として、ゲール少将が使っていた、この基地で一番大きな部屋だった。

 部屋の奥にあるデスクの向こうの椅子に、その男、デスラー元総統は、腰掛けていた。

「そこに掛け給え」

 デスラーが指し示す木製の椅子が、デスクの前に一脚置いてあった。古代は、会釈してから、その椅子に腰掛けた。明らかに低い椅子で、デスラーから見下される形になっていた。威圧することが目的の椅子だな、とすぐに気づいた古代は、内心困惑していた。

「デスラー総統。基地の共同利用を承諾して頂き、ありがとうございました」

 どうしても、この男の前では誰もが緊張してしまう。かつて、地球を滅ぼそうとしたガミラス帝国の元首は、何もせずとも、近寄る者を圧するオーラをまとっていた。

 デスラーがしばらく黙っていた為、古代は居心地の悪さを感じていた。

「……で? 君は、この基地の半分を寄越せと、そう言うのだね?」

 そう言ったデスラーの瞳は、氷のように冷たかった。

 古代は、まさか、そこから話さなければならないのかと、大いに焦った。

「す、既に、地球連邦政府は、あなたと交渉して合意したと聞いていますが、私の認識が誤っていますでしょうか?」

 古代は、冷や汗を流していた。

 デスラーは、目を閉じると、しばらく下を向いていた。そして、急に不敵な笑いを漏らし始めた。

「ふふふふ、はっはっはっは……」

 古代は、呆気にとられながら、デスラーが大きく笑い出すのを見守った。

 デスラーは、古代が引きつった笑いの表情をしているのを見て、笑うのを止めた。

「ふふふ……。冗談だよ。一緒に来たまえ」

 デスラーは、立ち上がると、マントを翻して、執務室を先に出て行った。古代は、慌てて後を追って行った。

 執務室の入口に立って、様子を見ていたタランは、古代に同情の目を向けて見送った。

「ま、彼もそのうち慣れるだろう」 

 

 古代とデスラーは、基地の中央部の吹き抜けのある場所にやって来た。ここは、最上階に当たる場所で、小さなビルの上階から、地上を眺めているようだった。

「見給え。壮観だろう? 昔、この基地の構築には、少々私も口を出させてもらった。ここを使うのは、狭い艦船で過ごす軍人だ。こんな広い空間があれば安らぐだろうと思ってね」

 そう言うと、デスラーは、さっさと次の場所へ向かった。古代とデスラーは、エスカレーターのような自動階段を使って一つ下の階層へ降りて行った。

 そこには、多数の店舗が並んでいた。古代が辺りを見回して見ると、ガミラス人たちが、ここで様々な店を運営しているようである。

「独自の通貨を発行させてもらっている。部下たちには、給与も支払っているよ。その通貨を使えば、ここで買い物をし、飲食を楽しむことが出来る。君らの通貨と交換が出来るようにしないかね? そうすれば、君たちもここを使えるように出来る」

 古代は、ガミラス人向けの衣服を売る店や、ガミラスの料理や酒を出す飲食店などが建ち並んでいるのを眺めた。彼も、これには興味を引かれていた。

「確かに、これはいいですね。通貨の交換の件は、前向きに検討します。向こうの反対側の区画は、我々が使わせてもらうので、よければ地球側の店も出せるよう、検討してみます」

 デスラーは、にこやかに頷いた。そして、商店と思われる店舗を指差した。

「この近くの星系で出会った異星人の店だ。なかなか面白い物を売っているよ。君らも店を出せば、三カ国のいい交流の場となるだろう」

 異星人の店と聞いて、古代は少々驚いていた。

「我々が、ここに初めて来た時、彼らはここを勝手に使っていてね。追い出そうと少々脅したら、向こうから仲良くして欲しいと言ってきてね。仕方が無いので、店を出すのを許可してやったのだよ」

 経緯を聞いた古代は、苦笑いをするしかなかった。

 デスラーと古代は、更に下の階に移動した。

 そこは、居住区画にも繋がっている階層だった。デスラーは、回廊を少し進むと、おもむろにとある部屋の扉を開けて、中に入っていった。

 そこは、黄金で彩られた、豪華な雰囲気の小部屋だった。更に奥に、二つの扉がついている。古代の翻訳機が、扉に書かれているガミラス語の文字を読み取った。

「デスラー総統。もしかして、ここは……」

 デスラーは、右側の奥の扉を開けると、古代を振り向いた。

「わかるかね? ここは、大浴場だ」

 そう言うと、デスラーは、どんどん奥へ進んで行った。後を追った古代は、脱衣所と思われる部屋を抜け、浴室に足を踏み入れた。

 そこは、プールかと思うほどの大きな浴場だった。

 呆気に取られた古代は、大きな浴槽を眺めて、施設全体を確認した。全体的に、ここは調度品やデザインが豪華なようだった。

「驚いたかね? 私の自慢の風呂だよ。本当は、私専用の風呂にしようと思って作らせたんだがね。スターシャが、皆に開放しなさいとうるさくてね。だから、ここは、皆が使えるようにしたんだよ。こちらは、男性専用。入口のもう一方の扉は、女性専用だ」

 古代は、意外なデスラーの趣味に驚いていた。

「私も、お風呂は大好きですよ。まるで、地球の温泉みたいだなぁ」

「良さを理解してくれて嬉しいよ。今度、一緒に入って見るかね?」

 デスラーは、古代を見て、不敵な笑みを浮かべている。

 古代は、デスラーと二人で裸で風呂に入る様子を思い浮かべてみた。急に背筋が寒くなった古代は、適当に相槌を打った。

「そ、そうですね。そのうちにぜひ……」

 デスラーは、今度は、同じ階層の別の部屋へと、ゆっくりした足取りで向かった。そこには、近くで賑やかに子供の声が聞こえる部屋があった。デスラーは、その部屋へと、どんどん入って行く。

「あら、アベルト。古代さんも、ようこそ」

 そこには、驚いたことに、スターシャがいた。スターシャは、ガミラス人の民間人の衣服を着て、そこにとけ込んでいた。古代は、内心の驚きを隠して、彼女に会釈した。

「スターシャさん。お世話になります。……もしかしてここは、保育所なんでしょうか?」

「ええ。娘のサーシャを連れてきたところです」

 部屋の中では、所狭しと子どもたちが走り回っている。かと思えば、隅の方で、子供たちに、絵本を読みきかせている女性たちがいた。

「古代くん。あ……。デスラー総統も。今日からお世話になりますね」

 女性たちの一人は、雪だった。赤子の美雪を抱き抱えている。そして、もう一人は、加藤の妻となった真琴だった。

「あれっ。古代さんに……えっ!? そちらの方って、デスラー総統なの!?」

 デスラーは、にこやかに笑って答えた。

「いかにも。君も、子供がいるんだね? ならば、今後は遠慮なく、ここを使ってくれたまえ」

 彼らが集まると、そこへ二人の子供が走って来て立ち止まった。古代とデスラーを眺めている。

「あっ。オジサマ、また来たのね。また遊んでよ!」

 そう言ったのは、前に来た時にも会ったサーシャだった。そして、もう一人は、真琴の息子の翼だった。

「古代のおじさんじゃん。こんにちは!」

 オジサマ、おじさん……。

 古代は、少々引っかかりを覚えていたが、口に出すのを、ぐっと堪えた。

「こんにちは。今は、遊べないので、また後でな」

 デスラーは、微笑して言った。

「別に、少々遊んで行っても構わんよ」

 デスラーは、腰を落として、翼の頭を撫でた。

 しかし、その後ろでは、真琴が顔面蒼白となっていた。古代は、デスラーに気づかれないように、こっそりと大丈夫、と合図を送った。

 それにしても……。

 古代は、子供を可愛がるデスラーの姿を意外に思った。冷酷な侵略者であり、ガミラス帝国をかつて治めていたデスラー。ここで、スターシャと一緒に過ごすうちに、このような優しさを身に着けたのか、昔からそうだったのか、デスラーの人となりを知らない古代は、不思議に思いながら、デスラーの様子を見守った。

 

「さて、古代。次へ行こう」

 デスラーは、子どもたちと少し戯れた後、更に基地の案内を続けるつもりのようだった。

 しかし、デスラーの足元に、サーシャがやって来て、その足に両手で掴まった。

「アベルト、どこ行くの。サーシャも一緒に行く!」

 彼女は、頬を膨らませている。

 その場に居た、古代と雪、そして真琴は、デスラーが一体これをどうするのか、固唾を飲んで見守った。

 デスラーは、怒った顔のサーシャを抱き上げ、何やら耳元で囁いた。それを聞いたサーシャは、満面の笑みを浮かべて、大人しく引き下がった。

「わかった。後でね、パパ!」

 サーシャは、そう言うと、翼の手を掴んで部屋の隅の方へ走って行った。デスラーは、スターシャと一瞬目を合わせると、見たこともない笑顔を覗かせた。そのスターシャも、優しそうな表情で微笑している。

 デスラーは、古代の方を振り返ると、彼を招き寄せ、そのまま一緒に保育所を出て行った。古代は、去り際に、雪の方に「また後で」と一言だけ言い残して行った。

 しかし、デスラーと古代が居なくなった途端に、雪と真琴は、互いに顔を見合わせて、ひそひそと話し合っていた。

「雪さん、ぱ、パパって」

「パパって言ったよね? 言ったよね? それって、やっぱり……。あ、あれだよね?」

 二人は、興奮して話していたが、背後にスターシャが立って聞き耳を立てているので、急に押し黙った。

「どうかなさいましたか?」

 スターシャは、涼しい顔で、二人の方に話し掛けた。

 彼女は、明らかに、自分たちが噂のネタになっていることを分かってる聞いて来ている。雪は、仕方なく、恐る恐る正直に聞いてみた。

「あ、あの。先程、サーシャちゃんは、パパと仰ってましたが……、あれは、どういう……」

 スターシャは、「ああ、そのこと」といった風情で、大きく頷いて説明をした。雪の横で、真琴が息を飲んでいる。

「深い意味はありません。サーシャには、父親が居ませんので、彼をそう呼ばせているのです。私がアベルトと呼ぶので、普段はそれを真似していますけど、甘えたい時に限って、そう呼ぶ時があります」

 真琴は、我慢出来なくなって、勢い込んで聞いた。

「あ、あの! そ、それじゃぁ、お二人のご関係って……?」

 雪は、スターシャに見えないように真琴に振り向くと、笑顔で言った。

「真琴さん? あまり、そういったことを詮索するのは、良く無いと思うよ?」

 真琴は、雪の目が笑っていないのに気が付いたが、どうしても確認せずにはいられなかった。

「構いませんよ。私とアベルトの関係、ですか……」

 驚いた雪と真琴が見守る中、何やら、スターシャは遠くを見るような表情をしている。

「そうですね。大人の関係……、とでも言えばいいのでしょうか」

 それを聞いた真琴が、大きく咳き込んだ。雪は、彼女の背をさすりながら、顔を寄せて小さな声で言った。

「お、大人の関係?」

「雪さん、や、ヤバい……」

 スターシャは、地球人たちがどう思ったのか、わからなかったと見られ、更に話を続けた。

「昔、彼とは、若い頃に、お付き合いしていた時代もあったのです。それはもう、随分と昔のことですが……」

 雪と真琴は、野次馬的な思いに囚われていたが、スターシャの告白を聞いて、話を興味深く、静かに聞くことにした。

「今は、そんな、昔の仲が良かった頃の関係を思い出しながら、少しづつ、距離感を確認し合っているところです。昔のような関係に戻るのか、そうでないのかは、今は私にもわかりません」

 スターシャは、にっこりと笑顔を向けた。

 雪は、以前ガミラス星で囚われた時に、初めて出会ったデスラーの様子を思い出した。あの時は、冷酷で非情な独裁者にしか見えなかった。そして、イスカンダル信仰は、ガミラス臣民を扇動する道具として利用していたように思われた。その彼が、どのような経緯があって、あのような事を行っていたのだろうか。もっと親しくなれば、真実を知ることもあるだろう。

 雪に分かるのは、あの時と、今現在の二人の立場の違いだ。

 総統と女王。

 二人は、互いにその立場を捨て、自由の身になった。国家を一身に背負い、がんじがらめとなっていたのは、もう既に過去の話である。彼と彼女は、今は自分の心の思うがままに発言し、行動することが出来る。雪は、スターシャのこれからを想い、これ以上は聞かないことにした。いつか、真実を聞くことが出来る時がやって来るかもしれない。

 そして、後で真琴には、もう一度釘を刺さなければ、と思っていた。

 雪は、話題を変えようと、別の話を振った。

「そ、そういえば、スターシャさんは、サーシャさんが火星で救助されたこと、ご存知なんでしょうか?」

 スターシャは、静かに頷いた。

「ええ。私たちが何処にいるかは、しばらく内緒にしていたので、私も最近知りました。この前、あなた方と接触した時に、居場所をガミラス政府に知られてしまったので、いい機会だと思い、ユリーシャにも連絡をとりました。そこで、初めて妹のサーシャが生存していたと知りました」

「そうだったんですね。私も、本当に良かったと思っています。彼女は、地球の恩人ですから」

 スターシャは、憂いに満ちた表情をしている。

「ありがとう。しかし、今もまだ昏睡状態が続いていると聞いています。元のように、話が出来るようになるのか、まだわかりません。こちらの色々な事が落ち着いたら、一度、イスカンダルには帰ろうと思っています。ユリーシャは、こっちに遊びに来ると言って聞きませんでしたが……」

 雪は、ユリーシャの様子が目に浮かんだ。そうだろう。彼女のことだから、すぐにでも、来てしまうかも知れない。

 スターシャは、それで思い出したのか、話を続けた。

「そう。亡くなったと思っていた彼女を想い、私はその名を娘につけました」

 スターシャは、翼と何やら楽しそうに話している娘のサーシャを見ながら言った。

「サーシャの父親の守は、娘が出来た事を生前知っていました。彼は、その時に地球人としての名を考えてくれました。サーシャの名は、正式には、サーシャ・ミオ・イスカンダルと言います。彼の生まれた地球の日本という地域では、異なる国の人の間に子が生まれると、両方の国の名を付ける事があると聞きましたので」

 古代の兄、守が、娘が出来た事を知っていた。

 これには雪も驚いていた。

 ミオ――。

 恐らく、「澪」という漢字だろう。

 雪は、その字を思い浮かべると、サーシャが遠いイスカンダルと地球の絆なのだと痛感した。その字は、神に願い、雨が降って水が流れるという意味がある。転じて、人助けが出来る優しい人になって欲しいという願いを込めて名付けられることがある。イスカンダルの血を引く彼女には、とても相応しい名だ。守の最後の願いが込められているのだろう。

 その後も、それぞれ子供がいる三人は、子供の話題を中心に、いろいろな話をした。そこで、雪と真琴は、高貴なイスカンダルの元女王が、自分たちと同じ、普通の母親である事を知ったのである。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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