銀河間空間――。
バラン星ガミラス軍基地より、地球連邦民間船の捜索部隊として派遣された五隻の駆逐艦艦隊は、バラン星の銀河系方面の亜空間ゲートを抜け、銀河間空間を航行していた。付近の宇宙域を捜索して、既に一日が経過していた。
「艦長、長距離レーダーに感!」
ガミラス駆逐艦艦隊のヤリ厶少佐は、すぐに確認をおこなった。
「探しものが、やっと見つかったか?」
「……」
艦橋のレーダー手の士官が、黙っているので、ヤリム少佐は、少し苛立ちながら再確認をした。
「どうした? ちゃんと報告しろ」
その士官は、振り返ると、彼を手招きをした。
「見て下さい。信じられないものがレーダーに感知されました」
ヤリム少佐は、レーダー席に近づくと、レーダーが感知した物を自分の目で確認した。
「これは、艦隊じゃないか。艦種識別……!」
ヤリム少佐は、自分の目を疑った。
「ガトランティスだと!?」
長距離レーダーが捉えたその宙域には、ガトランティスの駆逐艦、巡洋艦、空母からなる二十隻余りの艦隊が航行していた。ガトランティス艦隊は、ガミラス艦隊の接近を探知したのか、急速に速度を上げ、そのまま、次々にワープし始めた。
「ガトランティス艦隊、ジャンプして行きます!」
ヤリム少佐は、レーダーに映っていた光点が次々に消え、その宙域から艦影が無くなったのを目撃した。彼は、急ぎ足で艦橋中央の艦長席に向かうと、指示を出した。
「バラン星基地に亜空間通信。至急、この事実を報告して、応援を要請しろ。それから、空間航跡の解析急げ。奴らを追いかける」
ヤリム少佐は、頭の中で考えを巡らせた。
ガトランティスは、母星へ撤退したはずだ。それが、何でこんなとこにいる――?
同じ頃、ヤマトも銀河系ゲートを抜け、銀河系外縁から銀河間空間へと移動して捜索活動をおこなっていた。しかし、民間船の痕跡が途絶えてしまい、一日経っても見つけることが出来なかった。
「シンマイ、何か案は?」
技術科の席にいた新米は、北野の方を振り返って言った。
「波動エンジンの空間航跡を辿るのが、唯一の方法ですが、それが見当たりません。今の所、他の捜索方法はありません」
北野は、太田にも声をかけた。太田は、諦めたような表情をしている。
「一旦、バラン星方面のゲートへ向かうべきかと思います。ガミラスの捜索部隊と合流し、両者で捜索方針を決めてはいかがですか?」
北野は、腕組みをして考えていた。
「そうだな。やっぱり、それが一番か」
「艦長! 見て下さい、レーダーが真っ白に……」
西条未来が、突然大きな声で言ったので、北野は、彼女の席を覗き込んだ。確かに、レーダーの表示がおかしい。
「シンマイ!」
新米も、既にセンサーをいろいろと切り替えて確認をしている。
「微かに空間の揺らぎを検知。肉眼では何も見えませんが、大きな物体が、近くを通過しているようです」
「あっ!」
再び、西条が叫んだ。
「元に戻りました。表示は正常です」
北野は、新米に確認した。
「物体は、本艦の左舷を通過し、天の川銀河系方向へ移動したと思われます」
北野は、一瞬考えたが、このまま放っておくことは出来ないと判断した。
「手掛かりかも知れない。後を追えるか?」
新米は、神妙な表情で言った。
「恐らくは……」
「太田! シンマイと連携して、今のやつを追いかけてくれ」
「了解!」
北野は、艦内通信のマイクを掴んだ。
「これより、謎の空間の揺らぎを追う。総員、警戒態勢に移行せよ!」
その頃――。
実験艦ムサシが、ギャラクシーに到着していた。
迎えに出た古代は、基地に残っていた相原と、ギャラクシーに接舷したムサシからの乗員が降りて来るのを待った。
「真田さんたちが来たら、第一艦橋の士官がほとんど揃いますね。いないのは、山崎さんと南部ぐらいだ」
相原が、感慨深げに言った。
「そうだな。しかし、あの二人は、土方さんの太陽系防衛艦隊からは離してもらえないだろうな。でも、徳川さんは来ると思うぞ」
「そうか。そうでしたね。防衛軍を退役後は、ムサシの機関長をやってましたもんね」
古代と相原は、そんな話をしながらしばらく待っていると、藤堂長官の娘の藤堂早紀を先頭に、真田ら、ムサシの乗員たちが通路をやって来た。
「ようこそ。ギャラクシーへ」
古代と相原は、右手を顔の横まで上げて敬礼をして待っていた。それに対して、真田と新見、そして徳川彦左衛門の三人は、民間人の服装だったが、にこやかに軍隊式の敬礼を返して来た。その様子を見た藤堂早紀は、戸惑いながら、彼らを真似て敬礼をした。
「初めまして。私は、実験艦ムサシの船長の藤堂と申します」
古代は、敬礼していた手を下ろし、彼女に右手を伸ばした。
「古代です。藤堂長官には、いつもお世話になっております。今後とも、どうぞよろしく」
古代と早紀は、笑顔で握手を交わした。
相原はというと、早紀を見て、何やら固まっているようだった。古代は。その様子に気がついて、相原の脇腹を肘でつついた。はっとした相原は、慌てて右手を差し出した。
「相原です。えーと……、ヤマトとギャラクシーの通信長を務めています。よろしくお願いします」
そう言うと、二人は、にこやかに握手を交わした。
「こちらこそ。相原さんですね。地球の科学技術省との交信は、私たちにとってはとても重要です。何かあれば、相談にのって下さいね」
ぎこちなく、握手を続ける相原の姿に目ざとく気が付いた新見は、彼に近づくと、耳元でそっと言った。
「相原くん? その手、そろそろ離した方がいいんじゃない?」
相原は、慌てて手を離した。
「し、失礼しました。これから、よろしくお願いします」
古代は、真田とも握手を交わした。
「真田さん、新見さん、徳川さんも。よく来てくれました。つもる話もありますが、今日は、荷を降ろしてまずはゆっくりして下さい」
「古代、それでは、世話になる」
「久しぶりじゃなぁ、古代。お前さんも、随分と偉くなったもんじゃな」
「そうですね。あの初々しかった古代くんが、こんなに立派になるなんてね」
古代は、徳川と新見に冷やかされて、少し照れていた。
早紀の部下の神崎、市瀬、日下部の三人も、古代らにお辞儀をして挨拶した。古代は、彼女たちに同様に敬礼で返した。
「藤堂さんと同じ部署の方々ですね。皆さんも、初めまして。これから、よろしくお願いします」
一頻り、挨拶が済んだところで、古代は相原に言った。
「相原、皆さんを居住区まで案内してくれ」
「は、はい。それでは、皆さん、こちらへ……」
相原は、ムサシの乗員を先導して、居住区へと歩いて行った。
それを見送った古代は、明日にでも、真田にいろいろ相談しようと思っていた。やはり、彼にとって、真田の存在は今でも大きかったのである。
再び、銀河間空間――。
「ガミラス艦隊、追ってきます」
「何だと!?」
ガトランティス艦隊旗艦のメダルーサ級の艦橋では、艦長のガレンがレーダーの表示を確かめていた。
「ジャンプで振り切ったと思ったが、忌々しい奴らめ。たかだか、駆逐艦四隻の小隊だ。恐れる事など何も無い。全艦戦闘配置につけ!」
「艦長、敵艦隊は、五隻いたはずです。一隻見当たりません」
「それがどうした。ガミラスの駆逐艦一隻など、我らの眼中に無いぞ」
ガレンは、艦橋中央で、腰にぶら下げていた長剣を引き抜くと、それを前方に突き出した。
「全艦、回頭! 火焔直撃砲発射用意! 目標は、あの忌々しいガミラス艦隊だ。一撃で仕留めろ!」
「艦長、ガトランティス艦隊は回頭中です。センサーによれば、武器システムを起動しています」
「確か、メダルーサ級が一隻混じっていたな」
ヤリム少佐は、艦長席から立ち上がると、指示を出した。
「全艦戦闘配置! 敵、火焔直撃砲を警戒し、センサーで重力振に注意しろ」
ヤリム少佐は、艦橋にいた通信士に確認した。
「奴らに、連絡はついたか?」
「まだです。引き続き、呼びかけを続けます」
ヤリム少佐は頷いた。
やはり、連中は、話し合いが通じる相手ではなかったか――。
ヤリム少佐にも、駆逐艦五隻程度では、ガトランティス艦隊に歯が立たないのはわかっていた。しかし、彼らをこのまま放置することは出来ない。
ガミラス駆逐艦には、ガトランティス艦隊にはない高速な機動性能があった。彼は、それで時間を稼ぐつもりだった。その間に、バラン星基地か、ヤマトに連絡をつけられれば、対処は可能だと考えてのことだった。
「艦長、火焔直撃砲、発射準備完了しました!」
艦長のガレンは、にやりと笑った。
「よし。火焔直撃砲……」
「艦長、待って下さい! 艦底部より、ガミラス駆逐艦が一隻急速接近中!」
「何?」
ガトランティス艦隊に艦底部から接近中のガミラス艦一隻は、艦体の向きを、ガトランティスに対して平行になるように向きを変えた。
「上部ミサイル発射管開け!」
その指示で、ガミラス駆逐艦の上部ミサイル発射口が、一斉に開口した。
「ミサイル、一斉斉射!」
ガミラス駆逐艦から、次々に六発のミサイルが発射された。
「次弾装填、連続斉射開始!」
ガレン艦長は、少しの間考えていたが、凶悪な笑みを浮かべて言った。
「艦隊の陣形を変更し、艦底部に我が方の駆逐艦を集めてこの艦を死守させろ」
「艦底部から接近中のガミラス艦から発射されたミサイル、急速接近中! 現在、駆逐艦が迎撃を開始しています!」
ガレンは、改めて持っていた長剣を振るった。
「構うな! 前方の四隻へ向け、火焔直撃砲、発射!」
メダルーサ級の艦首に巨大な光球が生まれていた。そして、その光球が、勢いよく前方に向けて発射された。
そして、光球はワープして消えた。
「艦長! 重力振を探知! 着弾予想地点は、艦隊中央です!」
ヤリム少佐は、通信マイクを掴んで、通達を発した。
「全艦、散開して高速機動開始!」
ガミラス艦隊四隻は、一斉に散らばり、高速機動で移動を開始した。そのすぐ脇を、火焔直撃砲の強大なエネルギーが通過して行く。しかし、うち一隻の駆逐艦が被弾して航行不能になっていた。
「駆逐艦一隻が大破しました!」
「怯むな! 艦の動きを止めるな。行くぞ!」
ガミラス艦隊は、散開して、側面からガトランティス艦隊に急速に接近して行った。
「火焔直撃砲、避けられました。しかし、ガミラス駆逐艦一隻、大破しています! 残りの艦は、こちらへ急速接近中です」
ガレン艦長は、砲術士を睨みつけると、彼の元に近づいた。恐れおののく彼を冷酷に見下ろすと、躊躇なく長剣を彼に突き刺した。小さく悲鳴が響いたと思うと、すぐに彼の体は、力なく床に崩れ落ちた。彼の倒れた床には、彼の流した血溜まりが広がった。ガレン艦長は、剣を勢いよく振った。剣にこびりついていた彼の血液が、艦橋の床に飛び散った。その様子を見ていた艦橋士官らは、次は自分じゃないかとびくびくしていた。それを見たガレンは、大きな音を立てて床に剣を突き刺すと言った。
「不意打ちに失敗した。我らは、こんなところで足止めを食っている場合では無い。本来の任務に戻るぞ。天の川銀河方面に向けて、連続ジャンプを敢行しろ! これで、奴らを振り切る!」
ガトランティス艦隊は、再び回頭すると、高速に移動を始めた。そして、次々にワープを開始して行った。
ヤリム少佐は、再びワープを始めたガトランティス艦隊に戸惑っていた。彼らは、何か目的を持って行動していることが、これではっきりしたのだ。
「駆逐艦、一隻を残して大破した艦の救助に向かわせろ。残りの三隻で、ガトランティスの追撃を行う。至急、準備を始めろ!」
その頃ヤマトは、まだ空間の揺らぎを追っていた。
「駄目です。引き離されて行きます。相手の艦は、光速を突破しました」
太田は、ヤマトを亜光速で全力航行させていたが、徐々に引き離されていた。
北野は、苦い表情を浮かべていた。
あれを追って、行方不明の民間船が発見出来る保証は無いのだ。さっき太田に言われたように、一度ガミラス艦隊と合流してから、捜索範囲を広げる方が現実的かも知れない。このまま諦めて、ガミラス艦隊の方へ向かうか。それとも、追跡を続けるか。北野は、艦長としての選択を迫られていた。
西条未来は、彼が迷っている様子に気がついていた。彼女は、彼が自信を失わないように、良い選択が出来ることをそっと心の中で祈っていた。
「シンマイ、追跡する方法はあるか?」
「特殊な方法で航行しているようなので、空間航跡などの痕跡を辿るのは難しいと思いますが、あれが移動する方向が、あのままだと仮定すれば、恐らく天の川銀河系方面に到着するはずです。ワープで先回りする方法もあると思います」
北野は、目を閉じて、しばらく考え込んでいた。そして、目を開けると、決意した表情で、前方を見つめた。
「よし、皆、俺はこのまま追って見ようと思う。反対する者は?」
第一艦橋の士官たちは、皆振り返って艦長席の方を見ていた。土門と太田が、にこにこと握った手の親指を上げている。そして、徳川太助も、真剣な眼差しで、黙っている。西条未来も、微笑して北野を見つめている。新米も、ただ黙ってセンサーと格闘していた。
北野は、心の中で、皆に感謝した。
「よし。では、このまま追ってみよう。太田、航路を作成出来るか?」
「任せて下さい。少しだけあれを迂回するコースで、連続ワープで、天の川銀河系方面に向かいます」
北野は、大きく頷いた。
「わかった。頼んだぞ」
ヤマトは、しばらくその宙域に留まっていたが、コースが決まり、波動エンジンを再び咆哮させた。そして、高速に移動を始めると、ワープしてその宙域から姿を消した。
その頃、ギャラクシーでは、古代が、真田と話し合いを行っていた。
「私が、この基地の副司令官だって?」
古代は頷いた。
「はい。ガミラス側は、タラン司令官が、今後は、副司令官でいいと言っていますが、彼らには、我々と共同で活動する義務もありません。彼らは、本国との関係も無いので、いざという時に頼りにすることは出来ませんし。かと言って、私たちの方の人員は、基本的にはヤマトとイセの運用を行ってもらう必要があります。司令官の役割を担うには、現在の任から外す必要があります。そこで、真田さんでしたら、適任でもありますし、なにより、私がそれを望んでいるからです」
真田は、黙って古代を見つめている。
「ふむ。そんなに大変なのかね?」
「実は、民間航路が出来たことで、思ったよりやることが多いのです。ここで、ボラー連邦とガルマン帝国の監視を行うだけでしたら、北野と島にも分担させればいいんですが、それ以外にも、基地自体の運営の問題などもありますし。仕事が意外と多いんです」
真田は、古代の表情を見て、何があったか推測を始めた。
「それだけではないのでは? 例えば、敵性国家の侵略に対する戦略の検討だったり、あのデスラー総統との交渉だってあるだろう。君は、一人で仕事を抱え込んで、仕事に没頭するあまり疲弊し、その上奥さんにも少々責められた……と、そんな所じゃないのかね?」
古代は、目を丸くした。
「こ、困ったな。真田さんには」
真田は、微笑していた。
「少し、効率的に仕事を分担して進めるやり方をアドバイスしてあげることは出来ると思う。アドバイザーとして、君に、ここの運営のやり方を提案しよう。そんなところでどうだね? 何しろ、私は、防衛軍の人間ではないからね。正式に副司令官に任命するなんて、藤堂長官に報告したら、だったら軍に戻れと言われてしまうだろう」
「そ、そうか……。確かにそうですね。真田さんにご迷惑をおかけしてしまいますよね……。真田さんは、今の仕事が気に入っているんですよね?」
「まぁね。私は、軍にいた時からそうだったが、軍人である前に科学者だ。やっと、戦争が終わって、好きなことをやれる世の中になったのだから、当然の希望をさせてもらっているということだ」
「……わかりました。では、アドバイザーとして、ご協力頂けますでしょうか?」
「もちろんだ。君の仕事の負担を、軽くできるように協力しよう」
「すいません。ありがとうございます」
そこで真田は、話題を変えた。
「ところで、美雪ちゃんは元気かね?」
古代は、娘の話題になって笑顔になった。
「ええ。元気ですよ。子供って、本当に元気を分け与えてくれますよね。子供のことを思うと、もう少し頑張ろうかな、なんて思います」
真田は、困惑した表情で言った。
「なるほど。すまないが、私には、子供はいないので、未知の分野だよ。そのうちに、研究できるといいんだがね」
そう言われて、失礼なことを言ったと、古代は少し後悔した。
「すみません。で、では、ご結婚の予定はいかがですか?」
そう言ってから、更に余計なことを言ったことに、彼は気がついた。しかし、当の真田は、神妙な表情をしている。
「残念ながら予定は無いよ。しかし、最近は、よく考えるようになったよ。私は、一体、どんな女性と結婚したらいいと思うかね?」
今度は、古代が困惑する番だった。
「科学の知識がある方でしたら、お互いに議論し合えて、楽しいんじゃありませんか?」
真田は、古代に言われたことを、反芻しているようだった。
「ふむ。それは、一理あるかも知れないね」
二人は、その後しばらく結婚についての議論を続けた。しかし、朴念仁の二人の会話は、少々ピントがずれており、新見の名前すら上がらない始末なのであった。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。