「ヤマッテとガミラス艦、次元断層へ進入して行きました」
メダルーサ級のレーダー手が、報告をした。
「何!? 奴ら、万策尽きて、自殺をはかったか?」
ガレン艦長は、暫しその行動の理由を考えていたが、考えはまとまらなかった。しかし、探していた静謐の星が、次元断層の内部に存在する可能性が否定出来ない。
「巡洋艦に追わせろ! あそこに、静謐の星があるやもしれぬ。残りの艦も、次元断層に近づけろ!」
ガトランティス艦隊は、ヤマトを囲んでいた巡洋艦らが、一斉にヤマトとガミラス艦を追って、次元断層へと突入していった。
そして、ガレンらの残りの艦隊も、一斉に次元断層付近へと近づく為、発進した。
「次元断層内部にへ進入しました!」
北野は、ヤマトの後方を映すスクリーンを睨み、ガトランティスが追ってくるかを確認していた。ガトランティス空母から発艦した艦載機が、バランスを崩しながらも先頭に、そして、先程までヤマトを攻撃していた巡洋艦五隻が追ってくるのが見て取れた。
北野は、歯噛みしてその様子を眺めた。そして彼は、懸命に技術科の席で作業する新米の様子を窺った。
「どうだ? シンマイ」
少しの間返事をしなかった新米が、作業しながら回答をした。
「どうやら、以前ヤマトが遭遇した異次元空間と同じ特性のようです。波動エネルギーの流出が検知されています」
北野は、機関長の徳川太助の方を向いて確認した。
「波動エンジン、波動エネルギーが流出しています。このままでは、あと、五分程度で、航行不能になります」
北野は、徳川に命じた。
「エネルギー流出を避ける為、波動エンジンを止めてくれ」
「了解、エンジンを停止させます」
ヤマトの後部推進口の光が消えた。同じ様に、ガミラス艦隊もゲシュタム機関を停止させ、慣性で前方に進み続けた。
「西条さん、ガトランティスの方は、どうだ?」
「巡洋艦、速度変わらず追って来ます! 彼らは、艦を止めるつもりが無い様です。しかし、先程飛来した艦載機は、動けなくなったようです。巡洋艦の後方で漂っています」
北野は、西条に対して頷き、続いて土門に命じた。
「土門、波動エンジン停止中でも、一式弾と三式弾は発砲可能だ。迎撃、攻撃共に準備しておけ!」
土門は、早速指示を行った。
「了解! 主砲、副砲、照準合わせ! 迎撃ミサイル発射用意」
西条未来が、唐突に叫んだ。
「敵、ミサイルを発射しました。計、十五基のミサイルが接近中!」
「土門!」
土門は、これを受けて、すぐに動いた。
「後部迎撃ミサイル、敵艦隊に向けて全弾発射!」
ヤマトの後部ミサイル発射管から、ミサイルが一斉に放たれた。双方のミサイルが相対して真っ直ぐに飛行し、先に、ヤマトのミサイルが自爆した。敵ミサイルは、ヤマトのミサイルの破片に次々に反応し、数発が爆発すると、一斉に誘爆をおこした。
「ガトランティス艦、更に接近!」
北野は、ガトランティスが、自分たちと同じ様に艦を止めるだろうと思っていた。だが、進軍を続ける彼らの艦隊を見るに、理性的な行動をガトランティスに期待するのは誤っていたかも知れない。しかし、ガトランティスの艦載機が、既に飛行不能になっていることから、じきに停船するはずだ。そう信じた北野は、苦渋の表情でスクリーンを睨み続けた。
「ガトランティス、急激に速度を落としています!」
西条未来の報告で、北野は新米に確認した。
「センサーによれば、ガトランティス艦でも、エネルギー流出と思われる反応があります!」
「土門! 今だ。敵の戦闘能力を奪え!」
「了解! 主砲、副砲、攻撃開始!」
ヤマトの主砲と副砲は、一斉に砲撃を始めた。砲弾は、真っ直ぐにガトランティス艦に飛来すると、迎撃されること無く、そのまま艦体に突き刺さった。次々に爆発を起こしたガトランティスの巡洋艦は、一瞬で五隻全てが大破して航行不能に陥った。
「やった、やりました!」
土門が、振り返って笑顔を向けてきた。
「よし、よくやった!」
北野が返事をすると、艦橋にいた士官らは、一斉に安堵の息を吐き出した。
「よ、よかった。一時はどうなることかと」
太田が、安心して皆に笑いかけている。
「太田、今のうちに、民間船をヤマトに引き寄せて、乗員をヤマトに移送させてくれ」
「わかりました!」
しかし、そんな中で、新米はまだ懸命に端末に向かって、異次元空間からの脱出方法を検討していた。
「シンマイ?」
北野が声をかけると、新米は、不安そうな表情で振り返った。
「波動砲で、次元境界面に穴を開けられるか検討していました。ちょうど、我々が入って来た開口部があるため、それをセンサーで調べました。しかし、次元境界面の幅が非常に厚く、少々特性が異なっているようです。それに、内部に引き込もうとする重力場が発生していて、仮に穴を開けられたとしても、我々が入って来たような穴が増えるだけのように思います」
北野は、立ち上がって、新米の席に近づいた。
「それでは、前と同じ方法では、脱出は不可能だと言うのか?」
新米は、申し訳無さそうに頷いた。
「前にヤマトが脱出した際は、波動砲で開けた開口部は、自然と閉じようとしていました。ここは、逆に開口部が、徐々に広がっています。更に穴を増やす意味はないと思います。しかし、時間の経過と共に、開口部の重力が強まっています。このままでは、本当に脱出不可能になります。逆に、もし、我々が脱出方法を見つけたとしても、どうやって穴を閉じるのかを考えなければなりません。放っておけば、異次元空間が、我々の次元に侵入して、何が起こるかわかりません」
これを聞いた北野は、血の気が引いた。皆を救おうと賭けに出たが、結局死期が少し延びただけかも知れないのだ。
「北野くん」
心配そうに、西条未来が背後に立っていた。
「西条さん……」
北野は、不安な表情を消して、ぎこちなく彼女の方を振り返った。
西条は、気丈にも笑顔で言った。
「大丈夫。皆で、解決方法を考えよう?」
北野も、微笑して頷いた。
「ありがとう。そうだね。俺たちは、まだ諦める訳にはいかない」
北野は、気を取り直して西条と新米に言った。
「西条さん、まだ残存ガトランティス艦隊が、更にここに進入するかも知れない。警戒を続けよう。シンマイは、一人で悩まず、技術科のメンバーと連携して、脱出方法を探してくれ」
北野は、周りの皆にも言った。
「皆、いい案を思いついたら、シンマイに伝えて欲しい。我々は、まだガトランティスへの警戒を続ける」
「了解!」
「どうだ?」
ガレン艦長は、レーダー手と科学士官に尋ねた。既に、残存艦隊は、次元断層へ引き込まれるぎりぎりの位置で停船していた。
「レーダー波は、次元断層内部には届かないようです」
「センサーで、かろうじて内部にいる我々の艦隊の位置が捉えられました。しかし、中がどうなっているかは、それ以上わかりません」
ガレンは、苦々しげな表情で、通信士に声をかけた。
「巡洋艦へ連絡は出来るか?」
「駄目です。電波が内部に届かないようです」
ガレンは考えた。自分たちも内部に入るべきか?
しかし、過去に次元断層にはまって帰還できなかった艦隊の噂を聞いたことがあった。
だが、ヤマトとガミラス艦がここを死守しようとしていたことからも、内部に静謐の星がある可能性は、増々高くなっている、と考えていた。民間船の救助活動をしていたことに、彼は気がついていなかったのだ。
「しばらくの間、ここで待機するぞ! 科学士官は、中の様子を探るのを怠るな」
「わかりました」
ガミラス艦隊は、完全にゲシュタム機関を停止した状態で、ヤマトと共に異次元空間を漂っていた。先程、ヤマトがガトランティスの巡洋艦を大破させた後、連絡を取り合って慣性で動いていた艦を完全に停船させていたのである。
艦長のヤリム少佐は、ヤマトでも、脱出方法を考えている状況なのを知り、自分たちの艦隊でも、科学士官に脱出方法の検討を指示していた。
次元断層の開口部の向こうに、残存するガトランティス艦隊が待ち構えているかどうかは、レーダーは役に立たなかったが、センサーで検知していた。脱出しようとすれば、待ち構えているガトランティス艦隊から攻撃を受ける可能性が高い。だが、その心配も、まずは脱出方法を見つけてからだ。
「どうだ?」
質問された科学士官は、少し躊躇しながら、まだ半信半疑のアイデアを語った。
「我々の艦三隻と、ヤマトの四隻で、それぞれ牽引して、一隻づつエンジンを動かし、エンジンが止まったら、次の艦がエンジンを起動する……というのを繰り返して、あの開口部から脱出したらどうでしょう?」
なるほどと思ったヤリム少佐だったが、すぐに感じた疑問を問いかけてみた。
「それで、あの開口部を抜けられるか? かなり重力が強かったようだが」
「そこが難点です。四隻の中ではヤマトの推力が最も強いと思いますが、それでも脱出出来るかどうか……」
ヤリム少佐は、小さくため息をついた。しかし、悪い案ではない。
「通信士! 科学士官の案を、ヤマトにも伝えてくれ。それで脱出可能かヤマトの科学士官にも検討してもらうんだ」
「了解しました」
「なるほど、四段ロケットのようにするということか……」
連絡を受けた新米は、その案を端末に入力して、脱出可能かを検討した。刻々と次元断層の開口部がじわじわと開いていて、重力場は、更に強くなっている。そして、ガミラス艦とヤマトの推力を考慮に入れ、開口部の向こうへ飛び出せるか、電算機に計算をさせた。
「かなりいい案だと思うが、どうだ、シンマイ?」
艦長席から、北野が問いかけた。
「駄目です。既に、ヤマトだけの推力では、あの開口部の重力場を突破して脱出するのは不可能です」
北野は、それを聞いて、他に推力を増す方法が無いか考えた。民間船は、既に推力をほとんど失っていた。この異次元空間に、大破させたガトランティスの巡洋艦が漂っていたが、ヤマトが攻撃を開始した時点で、既に推力をほとんど失っていた。
「ガミラス艦隊と全艦で一緒にエンジンをふかしたらどうだ?」
「それなら、行けると思います。しかし、それでは開口部に接近することが出来ません。それに、時間が経てば経つほど、開口部の重力場は強くなっています。仮に、開口部に接近出来たとしても、いずれの方法も、一時間もしないうちに脱出不可能になりそうです」
八方塞がりだった。北野は、もはや、自分たちだけでは脱出はかなわないかも知れないと考え始めた。
そんな時に、新米は、センサーに新たな発見をしていた。
「開口部とは、別の場所に、空間の亀裂が発生しています」
「何?」
新米は、更に別の事象を捉えた。
「待って下さい。空間の揺らぎの反応が! 方舟がすぐそばにいます!」
「方舟が!?」
「レーダー、真っ白になります!」
ヤマトとガミラス艦隊のそばに、宇宙船シャンブロウが、その姿をゆっくりと現した。
「別の空間の亀裂が、どんどん大きくなっています!」
新米は、ヤマトの各種センサーをフル活用して、艦外の様子を探った。
ヤマトとガミラス艦隊のすぐそばに現れた宇宙船シャンブロウは、その巨大な船体をゆっくりと動かして、空間の亀裂の方へ近づいていた。その空間の亀裂からは、ゆっくりと眩しい光が差し、何かが亀裂から異次元空間に侵食しようとしていた。
「艦長! 亀裂の向こう側に、巨大なブラックホールと思われるものが観測されています!」
北野は、新米の席に走り寄って、センサーが捉えた反応を確認した。
「これは一体……」
「かなりの速度で、亀裂が広がっています。このままでは、この異次元空間もブラックホールに飲み込まれてしまいます。そうなれば、あの次元断層の開口部からも、ブラックホールが侵食して、亜空間ゲート自体も飲み込まれてしまうと思います」
新米が、冷や汗をかいて、青ざめた表情をしている。北野も、立て続けに起こった事態に、驚きを隠せなかった。
その時、宇宙船シャンブロウ全体が、強く光を発し始めた。ヤマトの艦橋の窓に、強い光が差し込む。
「何が起こっているんだ!?」
艦橋内が騒然とする中、市川純は、その光に気を取られていたが、突然、異次元空間の外に通信が繋がった事に気がついた。
「艦長、何故か通信が回復して、イセと繋がりました! 島艦長と通信出来ます!」
北野は、外部への通信が繋がった理由はわからなかったが、この機会を逃すまいとすぐに指示をした。
「スクリーンに出してくれ!」
ヤマトの艦橋の頭上のスクリーンに、大写しで島の姿が浮かび上がった。
「北野! 大丈夫か? そっちはどうなってる?」
「島さん、よかった! こちらは、亜空間ゲート内部に発生した次元断層内部の異次元空間にいます」
北野は、民間船の発見や、ガトランティスとの交戦、そして宇宙船シャンブロウや、別の空間からのブラックホールのことを手短に伝えた。
「何だか大変な事になっているみたいだな。なかなか亜空間ゲートから、誰も出て来ないので、こっちもしばらく前にゲートに入った。そちらの、現在のゲート内部での位置を説明出来るか?」
これには、太田が回答した。
「島さん。銀河系外縁部側のゲートから、約三時間の位置です。恐らく、そちらからなら、二時間ぐらいの位置だと思います」
島は、イセの艦橋にいる自艦の科学士官の方に、状況を確認していた。
「ちょうど、近くにいるみたいだな」
「島さん、我々は、まずは、ここから脱出します。次元断層から飛び出す時に、ガトランティスに攻撃を受ける恐れがあります。これを何とかしてもらえませんか?」
島は、にやりと笑って頷いた。
「任せろ! ブラックホールの件は、無事に脱出してから、一緒に考えよう」
「お願いします!」
島は、最後に太田に声をかけた。
「太田、ヤマトを頼むぞ」
「任せて下さい!」
太田は、笑顔で島に応えた。その太田に、島は握りしめた手の親指を上げて、ウインクして応えた。
通信を切った後、島は全艦に指示した。
「総員、戦闘配置! レーダーとセンサーで、ガトランティス艦隊の索敵急げ! 近くにいるはずだ!」
北野も、すぐにガミラス艦隊に連絡し、地球連邦防衛軍の援軍が接近していることを話した。
ガミラス艦隊のヤリム少佐は、北野に自艦の状況も話した。
「実は、こちらも、突然バラン星の基地に連絡がついた。我が軍の救援部隊も、銀河系外縁部のゲート付近に向かっている最中だ」
「それはありがたい。もしかしたら、方舟が何らかの方法で通信を回復させたのかもしれませんね。しかし、残念ながら、こちらの救援には、間に合いそうもありません」
「北野艦長、接近中の地球連邦の援軍が、何とかしてくれると信じよう。代わりに、ガトランティスがゲートから逃げた時に、我軍の援軍がそれに対処出来るだろう」
北野は、真剣な顔で頷いた。
「では、我々は脱出準備を行いましょう。ガミラス艦の牽引ビームで、全艦を接続可能な位置に移動しましょう」
「了解。ヤマトを中心に、左右に二隻、一隻を次元断層開口部へ牽引する艦として、ヤマト前方に配置する。これから、艦の姿勢制御用スラスターを使って位置を変える」
「お願いします。こちらは、既に、民間船の乗員は救助して、ヤマトに移乗させました。少しでも質量を軽くする為、これから民間船を放棄します。最後にエンジンをふかす二隻のガミラス艦は、ヤマトのロケットアンカーで接続しましょう」
「わかった。北野艦長、では始めようか」
「はい。僚艦が、ガトランティスへの攻撃可能位置につき次第、脱出を開始します。また後で。通信終わり」
ガトランティスのガレン艦長は、次元断層内部の変化について、報告を受けていた。
「艦長、内部に静謐の星と思われる反応を検知しました」
「やはりそうだったか!」
ガレン艦長は、次元断層内部に進入するか思案した。既に、中に送った巡洋艦が、動かなくなっており、自艦を侵攻させても、無事で済むか判断出来なかった。
ガレンがそうして決断を迷っているうちに、新たな報告があった。
「艦長! 遠距離レーダーが、接近中の新たな艦隊を検知。艦種識別出来ません。大型の艦船が一隻、他に、小型の艦船が五隻」
「何?」
航宙空母型巡洋艦イセても、ガトランティス艦隊をレーダーに捉えていた。
「ガトランティスを発見した。戦闘機隊、攻撃機隊は、すぐに発艦しろ!」
イセの飛行甲板で、コスモタイガーとコスモイーグルに乗機して待機していた加藤ら航空隊の面々は、コックピットの窓から手を振って合図した。
「了解。野郎ども! 行くぞ!」
甲板から、次々にコスモタイガーとコスモイーグルが飛び立って行く。総数四十機の機体が、複数の編隊を組んで、ガトランティス艦隊の上方、下方、左右から急速に接近して行った。
「敵、艦載機多数接近中!」
報告を受けた艦長ガレンは、慌てて艦隊の空母に指示をした。
「いかん、向こうには、空母がいるのか! こちらも艦載機をすぐ発艦させろ!」
しかし、ガトランティス艦隊の判断が遅く、加藤らの部隊は視認できる程近づいていた。
加藤は、コスモタイガーを飛ばして、対艦ミサイルを搭載したコスモイーグル部隊を先導していた。
「奴ら、慌ててるな。よし! コスモイーグル部隊、攻撃を開始しろ!」
コスモタイガーの後方にいたコスモイーグルは、対艦ミサイルの照準をガトランティス艦隊につけ、一斉にミサイルを放った。ミサイルの航跡は、航空隊から真っ直ぐにガトランティス艦隊へと向かって行った。
「攻撃を終えた部隊は、全機反転して退避!」
加藤の指示で、航空隊は、大きく旋回して、ガトランティス艦隊から離れて行った。
四方八方から、対艦ミサイルの攻撃を受けたガトランティス艦隊は、必死に迎撃ミサイルを放ち、艦隊の防衛を行った。
「北野。ガトランティス艦隊に攻撃を開始した。すぐに脱出しろ!」
島からの通信を受けた北野は、敬礼で応えた。
「わかりました。これより、ヤマトとガミラス艦隊は、協力して異次元空間から脱出します!」
ヤマトの前方に配置したガミラス駆逐艦は、ゲシュタム機関を起動して、ゆっくりと進み始めた。牽引ビームが、ヤマトの舷側を捕えており、ヤマトもゆっくりと動き出した。そのすぐ両脇をガミラス駆逐艦二隻が固める。至近距離からロケットアンカーで接続し、ヤマトの移動と共に曳航されて行った。
ヤマトとガミラス艦隊の後方では、増々宇宙船シャンブロウの光が、強くなっている。そして、亀裂が走っていた空間が、非常にゆっくりとした速度だが、徐々に閉じられて行く。
新米は、センサーでその様子を確認していた。
「艦長、方舟は、空間の亀裂を閉じようとしているようです」
「方舟が?」
新米は、暫し考えていたが、その思いを語った。
「どうやって、それを実現しているのかはわかりません。科学的な分析ではありませんが、もしかしたら、あの空間の亀裂を閉じる為に、方舟は姿を現したのではないでしょうか?」
北野は、後方を映した頭上のスクリーンを見つめて、新米に返事をした。
「確かに、そう考えるのが自然だな。なら、彼らにこの問題は任せて大丈夫そうだな」
「そうですね。あれの対応は、今の地球の科学力では難しいと思います。恐らく、ガミラスでも、難しいでしょう」
北野は、宇宙船シャンブロウのことに思いを馳せた。今はジレル人が乗る古代アケーリアス文明の遺産。
こうやって長い年月、人知れず宇宙を救ってくれていたのかも知れない……。
「ああっ!」
「な、何だあれは!」
頭上のスクリーンに、巨大な人影が薄っすらと現れていた。
西条未来が、一言言った。
「て……テレサ?」
北野たちの眼前で、その姿をはっきりと現した巨大な女性。それは、前に二度目のガミラスへの旅で出会ったテレサに違い無かった。
「な、何が起こっている?」
巨大な女性の姿のそれは、ゆっくりと動き、手を差し伸べた。そして、宇宙船シャンブロウと同じ様に、光に包まれ、後光がさしていた。
その、テレサは、何か口を動かしていたが、その言葉を聞けた者はいなかった。
北野は、集中力が途切れた艦内の様子に気がついた。
「皆、今はここから脱出するのが最優先だ。周囲の警戒を怠るな!」
北野の言葉で、我に返った第一艦橋の士官は、再び各人の持ち場に集中するようになった。その間も、先頭を行くガミラス駆逐艦は、次元断層の開口部へと徐々に近づいていた。
ガトランティス艦隊は、イセの航空隊の攻撃を受けて、防戦に手一杯の状態となっていた。既に、艦隊の三隻の艦船が大破炎上している状態だった。
島は、その機会を逃さなかった。
「航空隊は、射線上から退避した。金田、主砲、一式弾装填。準備出来次第、砲撃を開始しろ!」
「了解、主砲発射用意!」
イセの艦橋の下に配置された第一主砲、第二主砲が旋回し、ガトランティス艦隊に照準を合わせた。
「自動追尾設定完了。撃て!」
イセの主砲が一斉に火を吹き、砲弾が一直線にガトランティス艦隊に迫った。加藤らの航空隊に翻弄されて混乱していたガトランティス艦隊は、これを迎撃することが出来なかった。砲弾は、艦隊の駆逐艦や、空母に突き刺さり、爆発を起こした。
イセは、更に連続砲撃を続け、ガトランティス艦隊は、計、五隻の艦が大爆発を起こして残骸を亜空間に漂わせた。
一方、ヤマトを牽引していたガミラス駆逐艦は、エネルギーを使い果たして、完全にエンジンが停止していた。
「北野艦長、前方の艦を上方に移動させて進路を開ける」
前方を進んでいたガミラス駆逐艦は、スラスターを噴射して、ヤマトの上方に移動して行った。
「徳川、今だ。波動エンジン始動!」
「了解、波動エンジン、始動。全力航行に移行します!」
ヤマトが波動エンジン噴射口から光を放つと同時に、ロケットアンカーで牽引されていたガミラス駆逐艦二隻もゲシュタム機関を起動した。三隻は、速度を上げて、一気に次元断層開口部に進んだ。最初にエンジンが止まったガミラス駆逐艦を追い抜いて、それは後方に飛び去って行く。ヤマトに繋がっていたガミラス駆逐艦から、牽引ビームが発射され、置いて行かれそうなその艦体を捉えた。そして、三隻が全力運転を開始し、牽引された艦を含めた四隻は、一斉に次元断層開口部を飛び出そうと前に進んだ。
しかし、四隻は、次元断層開口部の重力に捉えられて、徐々に速度が落ちてしまっていた。それでも、ゆっくりと前に動き、少しづつ次元断層を抜け出そうと前に進んだ。
「太田、どうだ? 行けるか?」
太田は、操縦桿を思い切り引きながら、北野に答えた。
「大丈夫です! これなら、行けます」
ヤマトとガミラス艦隊は、ようやく次元断層から、亜空間ゲート内の空間に姿を現した。
すぐ近くにいたガトランティス艦隊でも、この様子を捉えていた。
「艦長、ヤマッテとガミラスの艦隊が次元断層から出て来ました」
「何い?」
既に、自軍の艦隊は、壊滅的な打撃を受けていたが、艦長ガレンは、ヤマトらを憎々しげに睨んだ。
「ミサイルで撃沈しろ!」
ガトランティス艦隊は、ガレンの号令で、残存艦艇から、ミサイルが一斉に放たれた。
「ガトランティス艦隊が、ミサイルを発射しました。計、二十基、来ます!」
ミサイルは、次元断層の重力に捉えられて、その殆どが、ヤマトとガミラス艦隊を外れた。しかし、数基がヤマトに迫っていた。
近くを飛行していた加藤は、ミサイルを銃撃しようとしたが、次元断層に引き込まれる恐れがあり、攻撃を思い留まった。
「くそ! 撃てねぇ!」
「ミサイル三基、後十秒で命中します!」
「土門!」
「了解! 撃て!」
土門は、主砲の発射装置のトリガーを引いた。
ヤマトの主砲は、三式弾が装填されていた。ヤマトの第一主砲、第二主砲が火を吹き、砲弾が撃ち出された。重力を計算に入れて、少し上方に撃ち出された砲弾は、重力に引かれて弧を描き、ガトランティスが放ったミサイルの手前で爆発した。迎撃用の榴散弾を弾頭にセットされていた砲弾は、その破片を宙空にばら撒いた。ミサイルは、その破片によって、ヤマトとガミラス艦の至近距離で大爆発を起こした。
「迎撃成功!」
「よし!」
その時、イセの守りを固めていた無人駆逐艦艦隊が、ガトランティスに向けて突進していた。
「全艦、ミサイル攻撃を開始!」
島の号令で、無人艦隊を遠隔操作しているイセの士官が、ミサイル攻撃の指示を艦隊に送信した。
高速でガトランティス艦隊に迫っていた無人駆逐艦艦隊の前部ミサイル発射口から、二十基のミサイルが一斉に放たれた。
「ガレン艦長! 敵艦隊がミサイルを撃ちました! ミサイル二十基、急速接近中!」
ガレンは、苦渋の表情で、全艦に指示した。
「もはや、これまで。全艦、回頭! 一旦撤退し、亜空間ゲートから退避する!」
ガトランティス艦隊は、全艦が一斉に回頭して、来た道を戻り始めた。
しかし、放たれたミサイルは、逃げ出すガトランティス艦隊の後方の艦に命中し、三隻の艦が大破した。
結局、ガトランティス艦隊は、空母とメダルーサ級の艦と、駆逐艦が二隻が残存しているだけだった。艦隊は、高速でその場から退避して行った。
「艦長、追いますか?」
イセの戦術長の金田は、後ろを振り返って、艦長の島の方を見た。
「必要無い。今頃、ゲートの外で、バラン星から来たガミラス艦隊が待っているからな。奴らに、もう逃げ道は無いさ」
島は、スクリーンに映る、ヤマトの様子を窺った。
「航空隊を帰還させ、艦を次元断層のそばに寄せろ!」「了解、艦長」
ヤマトとガミラス艦隊は、重力に逆らって、少しづつ進んでいたが、脱出速度が弱まっていた。
「徳川、もっと速度を上げられないのか?」
太田が、苦悶の表情で、機関長の徳川に叫んだ。
「既に、波動エンジンは限界まで回転数を上げています。これ以上は無理です!」
「どうやら、計算より、重力場が強くなって来ているようです!」
北野は、苦渋の表情で、このやり取りを見守った。
ここまで来て、駄目なのか?
北野が、そんなことを考えている最中に、艦体に、何かが、ぶつかった大きな衝撃があった。
「な、何だ?」
西条未来が、確認して言った。
「ロケットアンカーです!」
その時、イセが放ったロケットアンカーが、ヤマトに命中し、その舷側に突き刺さっていた。
「艦長、イセから通信です」
スクリーンに、島の姿が映った。
「どうにか間に合ったな。この艦は、主力戦艦二隻を繋ぎ合わせて建造されている。今から、二基の波動エンジンのパワーで、引き上げる。ちょっと待っててくれよな」
島が、にやりと笑っている。
北野は、安堵して言った。
「よかった。ありがとうございます」
北野と島は、互いに敬礼した。
そして、しばらくして、ようやくヤマトとガミラス艦隊は、次元断層を抜け出した。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。