竜宮島の飛鳥先輩   作:キョンきゅー

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脱≪はじまり≫出

『同化現象の末期症状、それは全身が結晶化していなくなることだった』

 

医療センターのベッドに寝かされていた柴田小百合と桃瀬徹が相次いで、結晶化し砕け散っていなくなった。その様子は部屋に設置された監視カメラに写っており、医師と医療スタッフの慟哭は部屋の外にいても聞こえた。

 

相変わらず、夜間の戦闘は真が受け持ち、Lボートに損傷が出るものの人的被害が出ていなかったため、同化現象の末期症状による消失は計画に参加している者すべてに衝撃を与えた。

 

そのすぐ後のフェストゥムとの戦闘の最中、蹲って動かなくなったファフナーのコックピットに駆け込んだ僚の目の前で船橋幸弘が結晶化し、いなくなった。

 

作戦の残り時間が表示されるメインモニターの下には、たくさんのメッセージが記されていた。もちろん、それにはいなくなった3人が書いたものもあったが、そのメッセージは赤いペンで新たに書かれた文字で塗りつぶされた。

 

『どうせ みんな いなくなる』

 

パイロットの1人である村上剛が書いたその言葉を見て、激高した将陵僚は彼に殴り掛かった。それを必死に止める生駒祐未と立木淳。僚に殴られた剛は泣いていた。「島に帰りたい。死にたくない」。その思いは皆、一緒のはずなのに。言い知れない不安が、絶望になって僚たちを追い詰めていた。そんな中、何も言わずにいたのが飛鳥真である。焦点の定まらない虚ろな眼差しで、僚たちのやり取りを何をする訳でもなくただただ見ていた。

 

今の真に残されているのは『守る』というたったひとつの思いだけ。

 

もう何のために、誰のために、戦っていたのかさえ、真は忘れてしまっていた。フェストゥムの襲来を知らせるサイレンが鳴れば、誰よりも先にハンガーへ向かい、ファフナーに乗って戦う。そして、乗ったら最後ファストゥムが全滅するまでファフナーから降りない。

 

そのため、ティターンモデルの2号機は真の専用機となっていたのだが、連戦によるダメージからか所々にガタが来てまともに動くことも不可能になりつつあった。このままでは戦っている最中、動けなくことが危惧された。そのため、

 

「2号機を破棄し、4号機を飛鳥に渡す。3号機を残りのパイロットが交代しながら乗るんだ」

 

L計画の指揮官である早乙女柄鎖の決断は僚や祐未たち、生き残ったパイロットたちにとって受け入れ難く、しかし歯を食い縛ってでも納得しなければならないことだった。

 

同化現象の進行によって、大切な者の記憶すら奪われ空っぽになってしまった真が上げ続ける戦果に、残った4人の力を結集しても敵わないのだ。

 

戦闘が終了して、周囲に敵影がいなくなると僚と祐未は真を連れだして外を散歩するようになった。真は僚に手を引かれるまま、連れ回されるだけ。そこに真の意志はない。潮の匂いや雲一つない青空、壊れた施設を修理をする整備員の人たちを見ても、まったく心が動かされない真を見て、祐未は目尻に涙を溜める。僚は真が何の反応もしなくても話しかける。「今日も海が綺麗だ」とか「今日の晩飯は何だろう」とか「島に帰ったら何がしたい」とか。聞かなくてもいい、どうでもいいことを何度も繰り返し話しかける。真に話しかける僚の頬には幾筋もの涙の痕があった。

 

 

そして……その時が来た。

 

残されたのは2機のファフナー。

5名のパイロット。

15名の大人たち。

 

彼らの前に脱出艇が姿を現した。作戦の残り時間が表示されていたメインモニターの下に隠されていた通路。その先にあったのは、作戦参加者40名全員が乗れる脱出艇だった。L計画立案者である生駒正幸は全員の生存を望んでいたのだ。

 

そのことに感極まる祐未の肩を抱いた僚だったが、その場からふらふらとした足取りで立ち去る真の姿を見て、まさかの可能性を考えた。

 

その直後、フェストゥムの襲来を知らせるサイレンが鳴り響く。それと同時に脱出フェイズが起動され、Lボートの自爆用に用意されたフェンリルのタイマーが起動した。真の行動がフェストゥムの襲来を察知したものであることに気付いた僚はハンガーに向かおうとした祐未を剛や淳に任せ、自らファフナーの下へ走った。

 

僚は2か月もの間、共に戦場を駆けて来たファフナー・ティターンモデルの3号機に乗り込み、クロッシングで真の乗る4号機と同調する。真はすでに外でフェストゥムと交戦中だった。システムで脱出艇がLボートから出発したことを確認した僚は真の乗る4号機の手を引いて海面に飛び込み、共にLボートから離れる。直にLボートはフェンリルで自爆してしまう。その爆発に呑まれる訳にはいかなかった。

 

『僚、脱出艇に急げ』

 

その時、僚の脳に直接言葉が響いた。久々に聞いた真の声に驚いた僚がクロッシングを通して4号機の彼に視線を向ける。しかし、クロッシングで右隣に浮かぶ真はぼんやりとした表情のまま、僚に向けて喋りかけた様子は見られなかった。

 

幻聴だったのか、僚はそう考えた。しかし、そんな考えをすぐに振り払って、僚はファフナーを脱出艇に向かって進ませる。後方でフェンリルの発動を感知したが、脱出艇の下へ急ぐ僚には関係のないことだった。

 

真の言葉に従い脱出艇へ追いついた僚が見たのは、海中にも関わらず結晶化せずに脱出艇へ触手を伸ばそうとしているフェストゥムの姿だった。僚は真が乗る4号機の手を離し、ファフナーを急加速させてフェストゥムと脱出艇の間に割り込ませる。脳に直接届いた真の言葉がなければ間に合わなかったタイミングだった。

 

ティターンモデルには戦闘中に海中に逃げ込む用に背面にサイレーン装備がある。今までフェストゥムの弱点とされてきた海水を克服するフェストゥムが現れたことは人類にとって脅威でしかない。他にもいる可能性を考えた僚だったが、目の前のフェストゥムの抵抗が無くなったことを不思議に思っていると胴体を切り裂かれていた。

 

僚は急いで胴体が切り裂かれたフェストゥムから距離を取った。その直後、ワームスフィアで消滅するフェストゥム。その先にいたのは、ガンドレイクを構える4号機だった。その4号機はすぐにサイレーン装備を起動させて、海面から降りてくるフェストゥムを迎え撃つ。

 

僚も加勢しようとしたのだが、クロッシングを通して真に睨まれた。いや、真は相変わらず無表情だが気迫のようなものを感じ取った僚。

 

「何の真似だ、真!」

 

『……』

 

「どういうことだ!俺にお前を置いていけとでも言うつもりか!」

 

『……』

 

僚の問いかけに真の反応はない。だが、僚がフェストゥムと戦おうとする度に真からプレッシャーを掛けられる。僚はファフナーのニーベルングの指輪を握り締める。下唇を噛みしめて、ぎゅっと瞼を閉じて思考を整えた僚は渋々、真の思いを受け入れた。

 

フェストゥムと戦う4号機に背を向けた僚はサイレーン装備を起動させて、その場から離れる。その際、クロッシングを通して、真に呼びかけた。

 

「俺は諦めない。必ず、お前を迎えに来る。だから、真。死ぬな!生きろ!」

 

『……』

 

真からの返事はなかった。けれど、僚はその場を離れる際に背中を押された気がした。

 

僚は振り返ることなく、脱出艇の後を追う。竜宮島に向かう3号機を駆る僚や脱出艇に乗る祐未たちへフェストゥムの追撃はされなかった。

 

 

 

L計画に参加した40名の内の1名が島に帰還できる確率はたったの5%だった。

 

その著しく低い帰還する可能性を覆し、4名のパイロットと15名の大人たちが竜宮島に帰還した。竜宮島のALvisの司令官である皆城公蔵はそのことを喜ばしく思ったが、生き残った全員が暗い面持ちであることに気付いた。特にパイロットたちの憔悴が激しく、激戦を物語っていたのだがどうにも様子がおかしかった。同化現象の症状が見られるパイロットたちを医療チームに任せた公蔵は、指揮を執った柄鎖を呼び事情聴取する。そこで語られたのは、1人の少年の犠牲の下で成り立ったL計画の全貌だった。

 

「39日間でフェストゥム500体以上を単独撃破って……」

 

「それに見てみろ。1人だけ搭乗時間がおかしいことになっている」

 

フェストゥムが海中にも現れたこと。戦闘においては核となる部分に確実にダメージを負わさなければ、倒すことが出来ないなど、ALvisがL計画から得られたデータは山のようにあった。特に真が乗り続けた2号機のブラックボックスからは、あらゆる状態でのフェストゥムとの戦闘記録とガンドレイクとウェポンベイの使用についての詳細なデータが残っており、ノートゥング・モデルの武器製造に使えそうなものばかりであった。

 

「司令。帰還したパイロットの将陵くんより、飛鳥くんの捜索と救出の許可を求められています」

 

帰還したパイロットの治療とメンタルケアを任されている医療チームのリーダーである遠見千鶴より、公蔵へ出された要望書。それは帰還したパイロット全員から、真の救助を嘆願するものであった。L計画成功の功労者は間違いなく、真であることは生き残った参加者からの聴取で分かっていたことだったが、公蔵は竜宮島を守る責任者のトップとして、それを許可することはなかった。

 

 

 

母親が亡くなってから、1人で住んでいた家には戻らずに俺は真の家の前に来ていた。

 

俺たちが帰還した日、息子の姿が帰還者の中にいないことを知った真のお母さんは顔を両手で覆ってその場に崩れ落ちた。それ以後、家に篭って仕事に出てきていないという話を遠見先生から聞いた俺は杖を突きながらやってきた訳だが、どうやら島を離れている間にこの家への入り方を忘れてしまったらしい。

 

玄関のノブに手を伸ばそうとする度に、途中で手が止まってしまう。口の中がカラカラに乾き、視界がぐるぐると回り始めた頃、庭先の方からすすすっと音もなく忍び寄ってきた影が俺の足にまとわりついた。深呼吸をしてゆっくりと足下を見れば、そこにはプクの姿があった。俺は杖で倒れそうになる身体を支えつつ、ゆっくりとしゃがんでプクと視線を合わせる。「遅いぞ」と言わんばかりに見つめてくるプクの頭を撫でていると、視界がぼやけてくる。

 

最初の涙がこぼれてしまうと、あとはもうとめどなかった。

 

玄関先で子どものように泣いていた俺を見つけたのは家主である真のお母さんである麻由さんだった。彼女も辛いだろうに、俺の姿を確認すると同時に「おかえりなさい」と帰還を喜んでくれたのだった。

 

 

 

 

太平洋のど真ん中でフェストゥムが群れを作っている。

 

そんな与太話、いつもであれば聞き流したのですが、何故か気になった僕は自費で高い金を払って戦闘機を飛ばして詳細な映像を手に入れた。それには見たことのない艶のある濃い赤色の装甲を持つファフナーが小さな島を陣取って近寄ってくるフェストゥムを討伐している映像が撮られていた。機体の所々に同化現象による緑色の結晶が生えているのが気になったが、パイロットの腕は超一流であることを僕は見抜いた。

 

ちなみに戦闘機のパイロットは僕の反応を見て、新国連の連中に映像が売れると考えたらしく、僕が気付いた時にはアーカディアン・プロジェクトに関する機体に違いないと新国連の上層部は色めき立っていた。

 

映像は戦闘機のパイロットが文字通り命がけで撮ってきたものだ。僕がコピーを取った後、映像は好きにしていいとは言ったがそれを新国連に売りに行く辺り中々強かだ。縁が合ったらまた彼に頼むことにしよう。とは言っても、映像が撮られた場所にはもうその機体もパイロットもいないけれどね。

 

新国連の連中は例の機体を確保するために人類軍を艦隊で派遣するらしいが、相変わらず動くのが遅いなぁと内心で笑った。情報を手にしたら、考える前に動く。ビジネスの基本だよ、ヘスター・ギャロップ事務総長。

 

 

 

財団で所有する研究所の地下深くの倉庫に佇む全長50mを超えるファフナーを見て、お抱えの科学者たちが狂喜乱舞していたが、僕の興味はファフナーよりも助けられたパイロットの方にあった。

 

機体に残されていたデータによれば、『飛鳥 真』という名前の少年らしい。出身に関するデータは念入りに消されていたが、こうまでするのは数が限られる。十中八九、竜宮島の出身だろうと僕は当たりをつける。

 

「アズラエルさん。機体から戦闘データの抽出が終わったんですが、フェストゥムの討伐数が4桁を超えてますね」

 

「それはまた、良い拾いものをしました。ふっ、僕の慧眼はやはり捨てたものではないですねぇ」

 

「それなんですが、機体を一度起動させてみようと思いまして。その、研究員を載せて起動してみたんですが、起動して10秒もせずに結晶化しました」

 

「……は?」

 

科学者が提出してきた資料に目を通した僕は、フェストゥムによる読心能力を防ぐために積まれているジークフリート・システムのことを知り、怒りの感情が沸き立った。

 

「僕はですね、地球を我が物顔でのさばるフェストゥムを一匹残らず駆除したいんですよ。確かに強い兵器があれば、その分だけ早くフェストゥムを屠ることが出来るかもしれません。しかしね、搭乗するパイロットを殺す兵器なんてもってのほかなんだよっ!ただでさえ、遺伝子を弄ることでしか、子供を残すことが出来ない状態にも嫌気がさしているっていうのにさぁ!」

 

「お、落ち着いてください。アズラエルさん!」

 

「はぁはぁはぁ。……すみません、取り乱しました」

 

床に投げ捨ててしまった資料をしゃがんで回収しつつ、パイロットを何だと思っているんだと見も知らずの竜宮島の連中を心の中で僕はこき下ろす。討伐数が4桁を超えるような実力を持つパイロットを捨て駒にするなんて、いかれていやがる。僕は床に散らばった書類をまとめつつ立ち上がると、科学者が拾った分もまとめて貰い小脇に抱えた。

 

「で、飛鳥くんの様子はどうです?やはり、目覚めませんか?」

 

「ええ。同化現象がかなり進んでいるようです。医師によれば結晶化していないのが奇跡だと」

 

「そうですか……」

 

科学者の言葉に肩を落とした僕だったが、廊下の向こう側から知った顔が近づいてくるのを見て、背筋を伸ばす。やってきたのは僕の私兵であるオルガ・サブナックとクロト・ブエルという名の青年たち。アズラエル財団で作っている私設武装組織に所属するエリートパイロットたちだ。もう一人、シャニ・アンドラスという青年もいるのだが、彼は協調性に欠けるからいなくても仕方がない。

 

「なぁ、おっさん。トランプ持ってねー?ないなら、簡単なボードゲームでもいいけどさー」

 

「は?」

 

「あいつ身体が思うように動かせないんだってさー。リハビリもかねてボクが少し遊んでやろうと思って」

 

「いや、誰のことを?」

 

「クロト、色々と省き過ぎだ。えーと、保護したパイロットが目覚めた。受け答えも出来る。でも、身体の自由があまり効かない。医者が身体を動かすにはリハビリが云々と言っていた。クロトが「ならボクとあそぼーぜ」と言ったが、肝心の道具がない。という訳で、トランプかボードゲームをくれ。ないなら、金をくれ。買ってくる」

 

僕は資料と懐から取り出した財布を丸ごとオルガに押し付けると、医務室へ向かった。すれ違う者たちが会釈してくるがひとつひとつに反応している暇はない、息を整えて入った医務室のベッドにその少年はいた。

 

パイプ椅子に腰かけ背もたれにもたれ掛かるシャニが持つ音楽プレーヤーから流れるクラシックをBGMに、重度の同化現象に苛まれていた飛鳥くんが医師と会話する姿がそこにはあった。

 

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