竜宮島の飛鳥先輩   作:キョンきゅー

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改≪ふっかつ≫造

アズラエル財団。

 

アズラエル財閥の御曹司ムルタ・アズラエルが運営する軍需産業で新国連のスポンサーのひとつである。彼は「青き清浄なる世界のために」をスローガンとして掲げる地球保護団体の理事も務めており、その影響力は計り知れない。

 

そんなアズラエルが新国連の本部を訪れ、事務総長であるヘスター・ギャロップに対して要求を突き付けていた。

 

「アズラエル財団が新国連に提供している寄付金の額を年間5%引き上げましょう。その代わり、ドクター日野を貸していただきたい。ああ、勿論ですがこちらの用事が済めばドクター日野はお返しいたしますよ」

 

「……どういう風の吹き回しです、アズラエル理事?」

 

「世界情勢は常に動き続ける。うちも軍需産業ですからね、売れるものは増やしておきたいんですよ」

 

にこやかな笑みを浮かべて、聖人君主のようなことを平気で嘯くアズラエルにヘスターは額に青筋を浮かべた。しかし、アズラエル財団から新国連に流れる寄付金は下手な国よりも多い。アズラエルの機嫌を損ねるくらいであれば、新国連で確保している科学者の1人くらい貸し出すのは問題ないと判断した。

 

フェストゥムと戦える物を作る母体が増えれば増える程、地球上に蔓延るフェストゥムとミールを殲滅するのも夢ではなくなると考えて。

 

「日野洋治には辞令を出しておきます。アズラエル理事、寄付金の件」

 

「ああ、ギャロップ事務総長なら了承してくれると思っておりましたので、今月分と来月分はすでに色をつけて寄付させていただいていますよ。では、ドクター日野を連れて帰らせていただきます。時は金なりと言いますしね」

 

恩着せがましく言って去っていくアズラエルの後ろ姿に、頬を引き攣らせたヘクターは秘書の男を睨みつけて、日野洋治の出向の手続きを命じた。寄付金はすでに振り込まれている以上、日野洋治を新国連が出し渋れば間違いなくアズラエルは新国連のスポンサーから間違いなく降りる。大事な金蔓を逃さぬように、ヘクターは慎重に動かなければならなかった。

 

 

 

竜宮島出身の技術開発者である日野洋治は、出向先となったアズラエル財団が所有する研究所で思いがけない再会をしていた。ファフナー・ティターンモデル。洋治が竜宮島にいたころに開発に関わったフェストゥムによる読心能力を防ぐためにジークフリート・システムを積んだ巨人が佇んでいたのである。

 

今まで洋治に施設の案内を自ら率先して行っていたアズラエルは、その思い入れのあるティターンモデルを前にすると心の底から嫌そうな表情をしながら告げた。

 

「ドクター日野。こいつを貴方の技術力で強化してもらえませんかね?それと予算に糸目はつけませんので、パイロットに危険があまり及ばないように改造して欲しいんです」

 

「なるほど、事務総長たちが喜んだり、嘆いたりしていたのは、これの所為だったか。しかし、アズラエル理事、随分と思い切りますな」

 

「資金なんて余分に持っている連中から搾り取ればいいんですよ。それよりも今の僕たちに必要なのは、フェストゥムとの戦いに赴く兵士たちが1人でも多く帰ってこれるような安全で強力な兵器だ。こいつは僕の理想からとてつもなくかけ離れたパイロット殺す兵器だが、彼には人類軍製のファフナーでは棺桶同然。なら、こいつを強化するしか方法がないんですよ」

 

「……このティターンモデルのパイロットも鹵獲したのか?」

 

「鹵獲ではありません。保護です。何なら、ドクター日野も会いますか?この時間なら恐らく、僕の私兵たちとシミュレーターをしているはず。嬉しい誤算ですよ、彼が参入してくれたおかげで僕の私兵たちは軒並み、その実力を向上させた。強い兵器だけあっても、それを使いこなせる兵士でなければ、その性能は無駄になりますからね」

 

アズラエルはそう言うと洋治を引き連れて、沈黙するティターンモデルの前から移動する。

 

やってきたのは研究所の上に作られた私設武装組織の本部である。そこに置かれたシミュレーターが稼働している様子を見て、ティターンモデルを見せた時と同じ人物に見えないくらい、にこやかな笑みを浮かべたアズラエルがシミュレーターの様子が映し出されているモニターを指さしながら勝手に紹介を始めた。

 

「我がアズラエル財団でもファフナーを確保しているんですよ。大半はグノーシス・モデルですが、メガセリオン・モデルとベイバロン・モデルも2機ずつありますよ。勿論、後者の2つのモデルに乗るのは僕の有する私設武装組織でもエリートパイロットたちです!聞きたいですか?聞きたいですよね?そこまで聞きたいっていうんなら仕方がないですね!」

 

「……」

 

アズラエルのあまりの変貌っぷりにタジタジになる洋治。彼がまともな返事をする間もなく、アズラエルは私兵たちの紹介を勝手にし始める。そんなアズラエルから洋治が解放されたのは、シミュレーターで訓練していた私兵たちが休憩のために外に出て来た4時間後のことだった。

 

 

 

アズラエルの自慢話にたっぷりと付き合わされた洋治の下に、黒髪に同化現象で紅くなった瞳を持つ少年が連れてこられた。白人が多い中、東洋人の少年はすごく異質だった。しかし、アズラエル傘下の私兵たちに人種差別をするような者たちはいないのか、雰囲気はすごく良い感じであった。

 

「飛鳥 真です。俺に何か用ですか?」

 

目の前に立った少年を洋治はしっかりと見据えた。

 

目に同化現象で見られる色素欠乏が見られる他に、酷い症状がないと考えた洋治は、真が何故ティターンモデルに乗っていたのかを聞いて、開いた口が閉じなくなった。竜宮島の存在がフェストゥムに感知されて緊急回避プログラムとして実施されたL計画。その選抜パイロットの1人として、2か月戦い抜いた。その後、L計画の仲間を竜宮島に帰すために、真はフェストゥムを自分に引きつけて孤島で戦い続けていた。真がティターンモデルに搭乗した時間は優に300時間を超えていたのだ。

 

「あり得ない。ティターンモデルはジークフリード・システムを積んだ影響でパイロット負担が重く、どんなに同化耐性が高くても1回の使用で15分が限界だったはずだ」

 

洋治は自分の常識がガラガラと音を立てて崩れ行くのを目の当たりにした。そして、真の周囲にいた者たちから話を聞いて、更に彼の異常性を知る。同化現象の末期に近い昏睡状態から体を動かしても問題がないレベルまで全快するなど、まずありえない。「フェストゥムとの共生」という新たな可能性を追求すべく竜宮島から出た洋治にとって、真は何かの糸口になるかもしれないと思える存在であった。

 

 

 

「ふぃ~。こちら、オルガ。お前ら、状況はどうよ?」

 

『こちら、シャニ。左手と右足を持っていかれた上に武器を強奪された』

 

『何やっているんだよ!道理でルガーランスを持っているスフィンクス型なんて、おかしなことになっていると思ったー!あ、そうそうグノーシス・モデルのウルフ隊とネネカ隊とラドル隊はすでに全滅しているから、僕らの指揮、よろしくオルガ』

 

「ふざけんな、クロト。いくら何でも全滅は早すぎんだろ」

 

『実際に友軍機のマーカー、消失しているしクロトの言っていること間違ってないよ』

 

『侵略側設定の真ってマジで強すぎー。こんなん無理ゲーじゃん』

 

「見た目はスフィンクス型でも実際にはメガセリオン・モデルだからな。……って、うおぉおおっ!?」

 

上空から振り下ろされるルガーランスによる攻撃を避けたオルガが操縦する人類軍製ファフナー・メガセリオン・モデルは両肩に武装している125㎜2連装プラズマライフルを襲ってきた相手に向けて放つ。

 

しかし、ルガーランスを装備したスフィンクス型はそれを地面に突き立てた勢いで前方に宙返りをして砲撃を華麗に避けた。目の前で起きた珍光景に頭が一瞬だけ真っ白になったオルガの駆るメガセリオン・モデルに衝撃が走る。直後、メインモニターに赤い字で『YOU DEAD』の文字が浮かびあがる。

 

「だー、くそっ!無理だろ、あんなもん見せられたら!!」

 

オルガはそう言って頭を掻くと、端末を操作して俯瞰モードに移行する。残っているのはベイバロン・モデルを駆るクロトとシャニの2機のみである。

 

天国で見守っている設定のオルガたちは2機の奮闘を見ながら感想を言っている。

 

『あんなスフィンクス型ばっかりだったら、人類はとっくに全滅しているっつーの!』

 

「ありえねぇ。何をどうしたら、このメガセリオン・モデルで前宙とか出来るんだ?」

 

『いや、メガセリオン・モデルよりも軽量のグノーシス・モデルでも無理だからな。というよりも、あの動きで実力の半分も出し切れてない真ってどういうことだよ?』

 

『うちの研究員に聞いた話によれば、真が元々乗っていたあの怪物。操縦するんじゃなくて、ファフナー自体が自分の体の延長線のようなものになる感じらしいぜ。つまり、損壊すればその分のダメージがダイレクトに伝わるっていうね、もう素直に馬鹿じゃねぇのって思うんだけど』

 

そうこうしているうちに、元々戦力を削られていたシャニが撃墜された。クロトは何とか逃げ遂せているが、真には直観力という武器がある。ファフナーによるかくれんぼは、そう長く続かないだろう。

 

現に、建物の影に隠れていたクロトの機体の背中から胸を貫通するように突き刺さるルガーランス。建物越しの的にピンポイントで当てるってさ、と傍観者全員が真の馬鹿みたいな強さにげんなりするのだった。

 

 

 

戦闘訓練シミュレーターを見学した洋治は真の実力を前にして頬を引き攣らせていた。そんな洋治を見てアズラエルは満足そうに頷きながら言う。

 

「戦いについて門外漢である僕にも分かるくらい真くんは異常だ。それと同時に人類の救世主になり得る存在でもある。フェストゥムはこれから色んなことを学び、強大化していくことが予想される。なら、こちらもそれに対抗できる強さを持つ兵器がいるんだ。だから、ごちゃごちゃ考えずに頼みますよ。ドクター日野」

 

「……ああ。私ができうる限りのことはすると約束しよう」

 

「頼みましたからね」

 

そう言ってアズラエルは洋治に向かって手を差し出した。それを見て、洋治もその手を握って応える。

 

 

 

洋治がアズラエル財団への出向を終えて新国連の参謀本部へ帰る時、真が駆ったティターンモデルはその姿を大きく変えていた。

 

濃い赤色だった装甲は濃い藍色へ変更され、ジークフリード・システムは機能を制限することでパイロットの負担を減らした。武装面ではできうる限り真の希望を取り入れて作られた。

 

特に背面のサイレーン装備を外して増設された飛行ユニットはカタログスペック上、空を飛ぶフェストゥムを軽々と捉えることが出来る。武装はフェストゥムをぶった切るための大きな剣型のブレードと連射性能を上げたプラズマアサルトライフルが用意された。

 

 

アズラエルがティターンモデル改の初お披露目はどのような場所がいいかなとウキウキしているところに、新たな情報が舞い込んだ。フェストゥムと新国連の目から長年逃れ続けて来た竜宮島の場所が分かったという報せが。アズラエルはその知らせを受けて、すぐにメリットデメリットを計算して、にやりと笑った。

 

「皆さん、南の島へバカンスへ行きましょう!」

 

アズラエルの鶴の一声で決まった竜宮島へのバカンス。

 

それは結果的に島を守ろうと犠牲になろうとした少女の命を救うこととなる。

 

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