竜宮島の飛鳥先輩   作:キョンきゅー

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帰≪おかえり≫還

艦橋で報告を受けたナタル・バジルールは苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。

 

このファフナー専用運用空母に搭載されている超望遠撮影高倍率ズームビデオカメラで周囲の監視を行っていた船員が、竜宮島に降りるフェストゥムのフィンクス型亜種を視認したのである。加えて、新国連の艦隊に襲い掛かっていたフェストゥムの撃退に竜宮島の戦力が出てきてしまっている。

 

ここで足止めされていては取り返しのつかないことになると判断したナタルは、通信士に連絡を入れさせる。ナタルの意図を完全に把握した通信士は、この空母の所有者であるムルタ・アズラエルへ繋いだ。

 

「アズラエルさま、バジルール艦長より切り札の使用の許可を求められています」

 

『勿論、オーケーです』

 

電話越しであるためにアズラエル本人の姿は見えなかったが艦橋にいる者たちの脳裏にキラキラとした少年のような笑顔を振りまく彼の姿が思い浮ぶ。船員たちは我々も毒されてるな、と思った。

 

スクランブルを示す赤いランプが点灯。甲板に上がってきた藍色の装甲を持つファフナーを見て、甲板で戦っていたファフナーたちが道を開ける。

 

「進路オールグリーン。ティターンモデル・リペア、発進どうぞ」

 

『飛鳥 真。ティターンモデル・リペア、行きます!』

 

飛行ユニットのブースターが点火し、全長50mを超える超重量のファフナーが空母の甲板を滑るように加速していく。そして、あっという間に甲板から飛び出した。空中に飛び出した瞬間、飛行速度が更に上がり、それに連動して飛行ユニットのノズルも適正角度に変化する。

 

行き掛けの駄賃と言わんばかりに真は空母の前面を陣取っていたフェストゥムたちを一匹残らず、その手に握られた大剣型のブレードで真っ二つに切り裂き、何事もなかったかのように竜宮島に向かって真っ直ぐに飛翔する。

 

物凄い速度で遠ざかる影を艦橋で見ながらナタルは苦笑いする。

 

「ふっ……。また戦術の組みなおしか」と。

 

 

 

将陵僚の乗るファフナー・ティターンモデルを守るようにスフィンクス型の亜種の前に浮かぶ未知のファフナーの姿にALvisの司令官である真壁史彦はその目を細めた。未知のファフナーの随所に見られる竜宮島のファフナーにある特有の構造、5年前に島外に出た盟友の顔が浮かぶ。

 

新たなる敵の存在にスフィンクス型の亜種は攻勢に出るが、近寄ればにべもなく蹴り飛ばされ、触手による攻撃はすべて大剣型ブレードで切り落とされる。僚の乗るティターンモデルの手足を捩じ切ったワームスフィアを直撃させても、損傷が全く与えられず憮然とした様子で空中に佇む未知のファフナー。

 

フェストゥムでありながら恐怖にでも駆られたのか、未知のファフナーから逃げようとしたスフィンクス型の亜種であったが、振り返った瞬間に一気に距離を詰めて来た未知のファフナーが所持する大剣型ブレードの刃によって胸部を背中側から貫かれる。フェストゥムは串刺しにされた状態でもがき苦しんだ後に引き抜かれた大剣型ブレードによって頭部から足元に向かって、左右対称になるように両断されて、ようやく消滅という名の安寧を得た。

 

羽佐間翔子の駆るマーク・ゼクスと僚の乗るティターンモデルが手も足も出なかった強敵をまるで赤子の手を捻るかのように討伐した未知のファフナーに、竜宮島の人々は自分たちがしてきたことは正しかったのかと自問自答する。

 

最先端を行くと思っていた自分たちの技術以上の力を発揮する島の外で作られた未知のファフナー。機体性能もさることながら、搭乗するパイロットの腕は現時点での竜宮島の最高戦力である史彦の子どもである真壁一騎よりも上。

 

そんな戦力を新国連がすでに保有している。司令官として島民の命を預かる史彦の額から滲み出た汗が、頬を伝って机の上に落ちた。

 

フェストゥムの討伐を終えた未知のファフナーはしばらくの間、その場に浮きながら竜宮島を眺めていた。それが突然、とある一点を見つめたまま動かなくなる。

 

未知のファフナーは何をしているのか、史彦たちがそう思った時、新国連の艦隊の救出を終えた一騎が操縦するマーク・エルフが戻ってきた。それに気づいた未知のファフナーは、竜宮島に背を向け、沖合に向かって飛翔。

 

マーク・エルフの横を物凄い速度ですれ違い、竜宮島の防衛圏外へ飛んで行った。一騎がその後ろ姿を見つつ、ジークフリード・システムを通して総士に話しかける。

 

「島を守ってくれてありがとうって伝えたかったんだけどな」

 

『言う機会は直に訪れる。お前が守った新国連のファフナーだからな』

 

「あんなに強いのに出し渋りする必要があったのか?」

 

『分からない。ノートゥング・モデルを間近で見たかったのかもしれないし、その他にも理由があるのかもしれない』

 

「……そうか」

 

一騎は飛行ユニットのリンドブルムとの接続を切って降りる。竜宮島の山頂付近にフェストゥムの攻撃を受け、倒れ伏したマーク・ゼクスを起こした。

 

湾内に沈んだティターンモデルの引き揚げ作業を眺めつつ、島の各地から上がる黒煙を見て一騎は自分が下した選択によって引き起こされた惨状に下唇を噛みしめるのだった。

 

 

 

『それでは、ノートゥング・モデルを受け渡してはいただけないと?」

 

モニターに映し出された新国連の事務総長ヘクター・ギャロップが画面の向こう側から史彦を睨みつける。その視線に対して史彦は一歩も引くことなく、強い口調で竜宮島の意志を伝える。

 

「こちらは新国連の輸送艦隊を守るためにファフナーを1機失ったのだ。そちらに譲るものなど、残ってはいない!」

 

『しかし』

 

「お前たちはこの島を日本のように生贄にするつもりなのか!もうこれ以上の犠牲を払うわけにはいかん!失礼」

 

ヘクターとの通信を一方的に切った史彦は深く息を吐く。

 

確かにファフナーを1機失ったのは事実であるが、それはノートゥング・モデルのマーク・ゼクスのことではない。凍結処理をしてブルグの地下に封印したはずのティターンモデルの3号機のことだ。手足を片方ずつワームスフィアによって捩じ切られて消失、それに加えて積んでいたジークフリード・システムにもダメージがあり、修理すればまた誰かが暴走する可能性があり早々に破棄することが決まった。

 

それにパイロットの将陵僚が元々杖を使わなければ移動も儘ならない身体であったにも関わらず、今回ティターンモデルで出撃したことによって歩くことが出来なくなった。

 

L計画で帰ってこなかった友人の捜索・救出に行くために色々な根回しをして、頭を下げて大人たちや先輩にあたる者たちに助力を願っていた当人が動けなくなってしまった。史彦が見舞いに僚の下を訪れた際、彼は友人を捜索することを諦めてしまっていた。

 

「真壁司令、俺の我儘にたくさんの人を巻き込もうとして、本当に申し訳ありませんでした。真の捜索の話は白紙に戻してください」

 

「将陵くん。気を落とす必要はない、飛鳥くんを助けたいのは我々も同じ気持ちだ」

 

「もういいんです。……いいんですよ、真壁司令」

 

そう言って僚は掛け布団を頭の上から被って顔を隠した。もしかしたら、あの掛け布団の下で泣いているのではないかと思った史彦はそれ以上を何も言えず、退出するしか方法がなかった。不甲斐ない自分に嫌悪して深々とため息を吐いている史彦に話しかける存在がいた。

 

「真壁、お前に客だ」

 

「……例の空母の連中か?」

 

「ああ。あの未知のファフナーを所有する“民間会社”の代表だ」

 

「信じられん」

 

竜宮島の危機を救った未知のファフナー。

 

新国連が保有するファフナーであるメガセリオン・モデルやベイバロン・モデル、グノーシス・モデルとも違う、竜宮島のファフナーによく似た機構が随所に見られた機体。あれだけ強力な力を持つファフナーを有しているのに何故、ノートゥング・モデルを新国連が欲するのかと思いきや、新国連の輸送艦隊と数十機のファフナーを運用する巨大な空母は所属が別物だった。

 

「メガセリオン・モデルが2機、ベイバロン・モデルも2機。グノーシス・モデルはクロスドックが3つ作れる12機。それに加えて、マーク・ゼクスと同等以上の飛行ユニットを有する新型のファフナー。一企業が有するには過ぎた代物だ。新国連の傘下でそれが許されているとなると、考えられるのはあそことしか考えられない」

 

「どこだ?」

 

「アズラエル財団。軍需産業を基軸に何でも売っているところだ。兵器や食料、生活用品に留まらず、嗜好品など必要であれば“何でも”な」

 

ALvisの特殊工作員である溝口恭介の警戒を促す言葉に史彦はごくりと唾を飲み込む。最大級の警戒を要する相手だ、と竜宮島のすべての島民の命を預かる責任者としての責務を全うしようとした史彦の前に現れた、アズラエル財団の代表者であるその男は想像とかけ離れていた。

 

「これが失われた日本の風景!なるほどなるほど」

 

「……溝口、どういうことだ?」

 

「俺にも分からん」

 

状況が理解できない史彦と恭介は、空母から1人やってきた白人の男性ムルタ・アズラエルに島の案内を頼まれ、ここにいた。

 

てっきり、新国連のヘクターのように島の戦力であるノートゥング・モデルを見せろとでも言ってくるかと思えば、その男は違った。竜宮島にある駄菓子屋「西尾商店」で漫画雑誌を手にしたかと思えば、堂島食堂で日替わりランチを食べたり、島を守るために散った者たちが祀られている神社で手を合わせて札束を賽銭箱に入れようとしたり、ALvisとは関係ない日本の文化を残す表面の部分を満喫した。

 

竜宮島の中腹にある高台で夕日を見ながら「たーまやー」と言うアズラエルに日本の文化を間違って認識してやってきた外国人のような印象を抱き始めた史彦と恭介に彼は振り返りながら告げる。

 

「いやー、今日はとても楽しかった。あなた方、日本人が世界やフェストゥムの目から隠れてまで守ろうとしたものが見れて、とてもよかった。僕たちも今後の活動に、救援する場所の文化を出来る限り残す努力をしようと思ったくらいに。しかし、この島の存在を世界は知ってしまった。今まで通りは難しいでしょう」

 

「何が言いたい?」

 

「担当直入に言いましょう。僕はあなた方の技術が欲しい」

 

「……やはり、貴方もノートゥング・モデルを」

 

「ああ、それはいらないです」

 

「狙って……は?」

 

「僕が欲しいのは、あくまでフェストゥムと戦える武器の技術。乗り手を殺す可能性が高い兵器なんて、僕はいりません。ギャロップ事務総長と一緒にしないでもらいたいですね。何故、パイロットの安全を気にするのかなんて、下らない質問はよしてくださいよ。戦えない僕にとってフェストゥムを倒せる技量を持ったパイロットたちは大事な資産なんですから」

 

史彦は話が違うと言わんばかりに恭介を睨みつける。言い方はあれだが、アズラエルはあくまで人の心を持った経営者だった。アズラエル財団に属するすべての者を守り、企業の長として利益を追求する。経営者の鏡。

 

史彦は10歳は年下であろう若き経営者に尊敬の念を抱いた。

 

 

 

『世界最大級ファフナー専用運用空母バジルール級の艦内ツアー』

 

その話を俺は見舞いに来てくれていた一騎から聞いた。

 

先日の出撃で神経のどこかをやられてしまったのか、まったく動かなくなった下半身。自分で選択したこととはいえ、ショックが大きかった。しかし、あの出撃があったから、俺は真が生きていることを知ることが出来た。何故、あのまま竜宮島に降り立たなかったのか、ずっと疑問に思っていたがこれでやっと確かめられる。

 

参加者を募集しているというので、一騎に車椅子でも参加できるかを尋ねてもらっていたら、額に青筋を浮かべつつ怒りながらも笑顔を浮かべている祐未に何のつもりなのかと問い質される羽目になった。

 

俺の目的は空母内にいる真に会うためだが、祐未には違う風に映ったようで彼女は胸の大きさやくびれ云々を気にしていた。

 

「なぁ、一騎。なんで祐未は体のこと気にしているんだ?」

 

「たぶん、このツアーの話を持ってきたのがあの空母に乗っているファフナー部隊の女性パイロットたちだったからかな。俺も羽佐間や遠見にそんなにナイスバディの女性がいいんだって、変な誤解をされたし」

 

「俺はあくまで一騎からしか、このツアーの話を聞いていないんだが。下手に何か言うとまずい気がするから黙っておくか」

 

そんなやり取りをして、ツアー当日を待った。

 

結局、ファフナーのパイロットと候補生は全員参加、それに渋々ついてきた総士くんとALvisのメカニックが数人。メカニックチーフの小楯保さんの姿もあった。ちなみに俺の介助が必要だって言って祐未もいたりする。

 

ヘリコプターを使って、島から空母に移動した俺たちは船員たちに歓迎された。その後、何班かに分かれて艦内を案内される。代表の人に艦内であればどこへ行っても構わないとお達しがあったようで、男子とメカニックたちはファフナーの格納庫へ、女子は船内に設けられた船員たちが船旅を苦に思わないように作られた施設を回るとのこと。

 

「さて、君たちはどこを回りたいんだい?」

 

車椅子の俺と祐未の2人を案内してくれるのは、レナ・イメリアという日系アメリカ人の女性。彼女はファフナー部隊の小隊長を務めているらしく、他の班を案内している女性たちは皆、彼女の部下であることを教えてくれた。俺はこのツアーに参加した目的をレナさんに告げた。

 

「俺や島を助けてくれたパイロットに会いたいんですけれど、それは可能ですか?」

 

「……ええ、可能よ。この時間なら談話室にいると思うわ」

 

そう言って先導するように歩き始めたレナさんを追うように俺と祐未は動き出す。行き交う人たちは皆が気さくで、車椅子姿の俺に奇異の視線を寄こす者はいない。目的地である談話室に近づいていると思う度、ドキドキと脈打つ自分の心臓の音が耳に響く。そして、その時は訪れた。俺の車椅子を押してくれていた祐未も両手を口に当てて驚いている。

 

レナさんに案内された談話室で、老若男女様々な外国人たちが好きに過ごす空間の中に真はいた。年上の人たちに囲まれ、冗談を言われてコロコロと笑う、俺が知らない笑顔を浮かべる真がそこにいたのだ。

 

「シン!ちょっと来てくれる?」

 

レナさんが呼ぶと、周囲にいた人たちに一言告げて駆け寄ってくる真。視界に俺や祐未の姿が映っているはずなのに反応がない。それはつまり、真に俺たちと共に過ごした記憶はないということだった。意気消沈する俺の気持ちを理解したのか、祐未もキュッと口元を真一文字にした。

 

「何ですか、イメリア?」

 

「彼が助けてくれた礼をシンに言いたいんだって」

 

真のまっすぐな瞳が俺たちに向けられる。同化現象で赤く染まった瞳。俺たちと同じはずなのに、澄んだ鮮やかな赤に俺は何も言えなくなった。そんな俺と祐未に向かって、何も知らないはずの真が口を開く。

 

L計画の時、同化現象の後遺症で記憶障害を発症していた真に「アンタ、誰だ」って告げられた時、本当に心が軋んだ。他人行儀で話されるくらいなら、声を聞きたくない。そう思って俺は俯く。

 

「俺がお前を助けるなんて、当たり前のことだろ、僚」

 

「「……。へ?」」

 

「竜宮島を見た時、忘れていたことを全部思い出したよ。ごめんな、心配かけて」

 

「……っ!?真!!」

 

俺は自分が歩けなくなったことすら忘れて真に飛びついた。祐未は大粒の涙を流しながら俺と真の再会を喜んでいる。感動の再会に気を取られていたが、ここは談話室。俺たちの他にも人がいることを思い出した俺たちはしばらくの間、船員たちから囃し立てられることとなった。

 

 

 

ツアーの日から数日後、ALvisの格納庫のティターンモデル3号機が置かれていた場所に、藍色の装甲を持つ真の専用機「ファフナー・ティターンモデル・リペア」が搬送された。

 

真の竜宮島への帰還に関してはアズラエル財団の代表らしい金髪の人と真壁司令との間に色々とあったが最後に「これは貸しですからね。大きな貸しですからね」と強く念押しして金髪の人は去っていった。

 

真に本当の所はどういうことなのかを聞いたら、「パフォーマンスだよ。アズラエルさんは仕方なく、竜宮島とのコネを残すために俺とティターンモデル・リペアを手放したっていうね」という答えが返ってきた。

 

新国連にも晒したこともあり、追及は免れないのでいっそのこと竜宮島に。という訳ではなく、アズラエル財団の目的は武装の技術供与ということもあったが、最初から真を島に帰すことを視野に入れていたらしい。

 

ただし、記憶を失っていることもあり、もしも竜宮島で何も得られなければそのまま連れて帰っていたんだと。

 

「あのツアーがなかったら、どういう風な感じになるはずだったんだ?」

 

「技術供与の見返りとして、大量の物資と一緒に『とっておきの戦力』として渡すつもりだったんだと。……それよりも僚。母さんをどうにかしてくれ」

 

「好きにさせておいてやれよ。1年と半年近く行方不明だった息子が帰ってきたんだから、仕方がないだろう?」

 

真の母親である飛鳥麻由さんが息子の胸に縋りついて大人げなく泣いている。かれこれ1時間くらい経つが落ち着く気配がない。最初こそ母子の感動の再会的な雰囲気だったが、流石にこうも長いと真も呆れ果てている。

 

「……そういえば、言い忘れていた。真、おかえり」

 

「ああ。ただいま」

 

ちなみに麻由さんが落ち着いたのはさらに2時間たっぷりと泣いた後のことだった。

 




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