『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ 作:エクソダス
魔術競技祭、準備
事件があった夕方、グレンとセラに誰にも使われていない教室までこいと…。
来てみると、人気のない教室でセラとグレンの二人が待っていた。グレンはもたれ掛かっていた壁から背を離し、エルレイのほうへ向かってくる。どうやらこの教室は防音でできているようだ。セラは椅子に座ったまま、エルレイを見ている。
「悪いな、いきなり呼んじまって」
「ん、事後処理はほとんど終わった、問題ない」
事後処理がようやく終わったところなので、正直に言うと早くベッドにダイブしたいが、その気持ちを抑えて眠たそうな目でエルレイはグレンとセラを見た。
「いきなり本題に入るねレイちゃん」
「ん、何時でもどうぞ」
珍しく緊張したような顔でセラが言ってくるので、エルレイも少し仕事モードで話を聞く。
「単刀直入に言うお前、リィエル=レイフォードか?」
「……はへ?」
突然自分の本名を言われて、エルレイは変な声を出してしまう。
「言ってる意味が、分からない」
エルレイは落ち着こうと深呼吸をした後に、もう一度グレンとセラのほうを向く。
「レイちゃんの大剣錬成した時の詠唱、《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》あれはね、リィエルちゃんしかできないハズなんだ」
「!!」
「セラが見たものが正しければ、それは常人がやったら脳内演算処理がオーバーフローして、廃人確定になる魔術なんだよ」
「……」
「あの詠唱は多分どこを探しても、リィエルちゃんしかできないはずなんだ」
セラは心配そうにエルレイを見つめる。
しまった、いつもの感覚でやってしまったから、この頃も使ってる詠唱をやってしまった訳か…。
現在エルレイは夕日を見ながらサクサクといちごタルトを食べていた。いつもだったら心地良い幸福感が口いっぱいに広がるはずだが…。今日は食べてても全く感じない。
そして濁った目をしたエルレイは、夕日を見ながらため息をついた。
「つまり…グレンとセラは、その子しか使えないものを…私が使ったから、警戒してる?」
「警戒してるわけじゃねぇよ、ただ可能性の一つとしてお前がアイツのクローンの可能性があるんだ」
エルレイはサクサクといちごタルトを食べ終わった後に、言葉を発した。
「黙秘する」
「黙秘だと?」
グレンが顔を顰めた。
「何か事情があるんでしょ?私たちは、レイちゃんの味方だよ?」
「ごめん…どうしても言えない、事情がある」
エルレイはいきなりここへ送り込まれたのだ。自分の恩師とはいえ、まだ敵ではないと断言する事ができないのだ。
味方だという確定的な証拠がない。エルレイ自身も気にくわないが…事態が混乱している間は誰にも事情を話すべきではない。
「でも、グレンたちの邪魔、するつもりないよ」
「エルレイ、俺たちはそういうことを言ってるんじゃなくてだな!」
「イルシアと、シオンの名に誓って…いつか絶対、事情を話す」
「!!」
「イルシアとシオン…?」
グレンは怒鳴ったがイルシアとシオンの名を聞いた途端、静かになった。セラは誰に誓ったのかわからず困惑している。
「それでも、ダメ?」
「……はぁ、わーったよ。そこまで言うなら、今は何も聞かねえ」
「グレン君?!いいの?」
突然のグレンの変わり身に、セラは大きな声で驚く。
「いいんだよ、あの二人に誓えるなら俺は何も言わねえ…でも必ず話せよ?」
「ん、感謝」
エルレイは優しい笑顔をグレンへ送る。
相変わらずグレンには助けられてばっかり…そう思いながら微笑んだ。
「私は何時でも味方になるからねレイちゃん」
頬をぷくーと膨らませたセラがすねたように言った。
私の交流しようとしなかった人は、こんなに優しい人だったんだな…。
と、心から実感した。
グレンとセラの話を済ませ、教室まで行って戸締りの最終確認をしようと思い、足早に教室まで向かった。教室の中には静かで誰もいない…と思いきや、静かだが2人ぽつんと席に座っていた。一人がシスティーナ、もう一人がルミアだ。
「下校時間、何やってるの?」
「あ、エルレイ先生!」
「お、お疲れ様ですっ!」
エルレイを見つけるや否や、二人ともエルレイへと近づいてきた。
「もう帰る時間、玄関に行こう」
「す、すいません…。でも私たち、どうしてもお礼が言いたくて」
ルミアのお礼が言いたいという言葉に疑問を覚え、キョトンとしてしまうエルレイ。
「ルミアを助けてくださり、本当にありがとうございました!」
突然のシスティーナの行動に、エルレイは目を白黒させる。
別にいつも道理、ルミアとシスティーナを助けるための最善策を取っただけだというのに…。
「あのままエルレイ先生が来なかったら私はどうなっていたのか……本当にありがとうございました」
「ルミア…」
ルミアを見ると、少し手が震えているのが分かった。
どうやら相当、怖かったのだろう。エルレイは二人の手を優しく握った。
「…本当に無事でよかった」
「全部、先生がルミアを助けてくださったおかげです。本当にありがとうございました」
エルレイにとって、もう友達を裏切るのも、守り切れないのもたくさんだ。二人が無事で本当に良かったと…。心から安堵している。
「ところで、エルレイ先生」
「なに?ルミア」
「私を守るのが使命と、そう仰っていましたよね?あれはどうゆう事なんですか?」
「今、ルミアが知ることじゃない…。いつか分かる日が来る」
エルレイはニコッとルミアとシスティーナに微笑みかける。
そして、玄関のほうを指さす。
「あと十秒で、下校。さもなくば………単位落とす 10 9 8 7 」
「ちょっ!!エルレイ先生いきなりすぎです!」
システィーナが焦りながら帰る支度をする。
「そ、それではエルレイ先生、また明日!!」
システィーナの隣についたルミアは、エルレイに向かって手を振る。エルレイも軽く振って返す。
「ん、また明日」
エルレイは二人を優しく見守った。
★★★
放課後、競技祭の種目決めで何かが噛み合わないシスティーナとグレンを、眠たそうな目でぼーっと見ていたエルレイは、種目決め終了後。珍しく、図書室に来ていた。
「……」
周りの生徒や先生は、プリントをやっていたり、黙って本を見ていたりしている。
エルレイも何も喋らずに静かに、歴史コーナーへと向かう。エルレイが手に取った本は。『Project:Revive lifeの全貌』という本だ。
「……」ぺらっ……ぺらっ。
エルレイは黙々と読み始める。
エルレイは現在、Project:Revive lifeが何処まで情報が公表されているのか…。それを知る必要があった。場合によってはProject:Revive lifeの成功例であり、時間経過したエルレイの体が、目をつけられる可能性があるからだ。
「…ん、この程度なら、狙われる心配ない…かな」
深いところまでは書かれていなかったため、エルレイは少し安堵し、次の目的の資料を手に取ろうとする……。
その時。
「さっきから勝手な事ばかり・・・いい加減にしろよお前ら!」
いきなり中庭の辺りから怒鳴り声が聞こえた。あの声はカッシュだ。
エルレイは気になり窓から迷わず飛び降り、中庭に直行する。見たところグレン達のクラスと、ほかのクラスの何人かが言い争いをしているようだ。
(相変わらず、話題に事欠かない)
そう思いながら割り込もうとしたが、先にグレンが割り込んだので、エルレイは黙ってみていることにした。
エルレイが傍観を決めて、物陰に隠れてから数分の時間が経過した。
「三か月分だ」
「な、何ィ………っ!!」
「俺のクラスが優勝する、に俺の給料三か月分だ」
グレンの発言に、その場にいたハーレイ先生や周囲の生徒全員どよめいた。エルレイはというとポカンと口を開けている。
「さて、どうしますかね?先輩。この賭け乗りますか?いやあ、三か月分は大きいですよねぇ?もし負けたら先輩の魔術研究が、しばらく滞っちゃいますよね‥…?」
「ぐ……ぅ…ッ!」
グレンがハーレイ先生を挑発する。
エルレイは呆れを通り越して、逆に笑えてきた。笑ってはいるが…、目は誰がどう見ても死んでいた。
(そもそも、先生同士の賭け事、ばれたら即クビ案件)
そう思いながら苦笑いで今の状況を見ていたエルレイは、流石にハーレイ先生はこんな挑発には乗らないだろう…。と思いながら見ていた。しかし───。
「私も、私のクラスが優勝するに、給料三か月分だ!」
おぉ!と野次馬とそのクラスの生徒たちがどよめき出す。
(バ カ し か い な い)
エルレイは決して、グレンの気持ちがわからないわけではない。実際さっきまでの言い争いは、ハーレイ先生側が横暴でエルレイ自身がイラっとしていたのは事実だ。しかしまさか賭けを挑むとは、夢にも思わなかった。
「そんなの、許されない」
エルレイは我慢できずその場に出ていく。
「あ、エルレイ先生」
エルレイが来たことにシスティーナが反応する。システィーナを一度見た後、ハーレイ先生とグレンの前に立つ。
「なんだ?臨時講師分際で、何か文句でも?」
「生徒の前で、賭け事をしているのを見逃すほど……私は落ちぶれてない」
エルレイはバッサリと吐き捨てた。
「だ、だけどなエルレイ…(いいぞもっと言ってやれ!!!)」
「教育に悪い、やめて」
そう言いながら、エルレイはグレンとハーレイ先生を睨みつけた。二人とも黙ってくれたのでエルレイはその場を立ち去ろうとする……しかし。
「エルレイ先生、お言葉ですが」
エルレイを引き留めたのはギイブルだった。エルレイはすぐにギイブルのほうを向く。
「なに?」
「これは先生としての賭けではなく、一個人としての賭けのハズです。エルレイ先生に止める資格がありますか?」
…まさかギイブルが乗ってくるとは思わなかった。しかも反論の余地がない…。
エルレイはがりがりと頭を掻き。
「…もちろん、ない、だからこれは忠告、ばれても知らないよ?」
忠告だと理解した瞬間──、周りが騒ぎ出し、『望むところだ!!』と言わんばかりの熱気に包まれたグレンたちのクラスも大盛り上がり、一方でグレンとエルレイはorz、な状態になっていた。
「どうすんだよ…これ…」
グレンが絶望の声を上げた。
「自分から仕掛けたんじゃん………。バカグレン、金欠になっても助けない」
「こうなったらてめえらああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!マジで優勝狙いにいくぞおらあああああああぁぁぁぁ!!!!」
「「「「「「「おおおおおぉぉぉぉ~~~~!!!」」」」」」」
クラス全員がある意味一致団結した瞬間であった。途中から騒ぎを聞きつけたであろうセラが足早にエルレイの近くまでやってきて。
「ええっと……、どうゆう状況?」
「バカグレンが、バカなことして、そしたらみんなバカだった」
「どうゆう意味?」
これで生徒の保護者に『うちの子が賭け事に目覚めた』ってクレーム入れられても、包み隠さずグレンのせいにしてやる…そう心の底から思うエルレイだった。
★★★
暗くなって、生徒が帰った時間、エルレイはもう一度図書室に来ていた。とても暗く小さな星光や、月の光しか照らさないその場所で、エルレイは明かりもつけずにある本を手に取った。
「……」
エルレイが手に取ったのは、魔術の呪いの事が書かれている本だ。
そのままパラパラと読み進める。エルレイはこの後に、魔術競技祭で何が起こるかを知ってるので、焦らずに呪いの類の魔術を頭に叩き込んだ。エルレイのたどった歴史ではグレンがどうにかしたが、こちらではどうなるかわからないので、常に万全の状態を整える必要があるのだ。
「こんな暗い時間に教師とはいえ図書室に入るのは、関心せんな」
「……っ」
エルレイが驚いて振り返ると、そこには金髪ロングの胸が大きい女性が立っていた。
「セリ…、アルフォネア教授」
セリカ=アルフォネア、グレンの育て親で、この学院屈指の実力を持つ女性だ。
「何を読んでいたんだ?見せて見ろ」
セリカの言葉に従い、今持っている本を渡した。すると本の表紙を見た途端、セリカが苦笑いした。
「この時間に呪いの本を読書とは、肝が据わってるな」
「光栄、です」
エルレイは頭を下げた。セリカは笑いをこらえながら本をエルレイに返す。
「セラが連れてきた時、何か面白いことになりそうだとは思っていたが…。いやはや、期待道理だよ」
「…呪いの本、読んでただけです」
「何かの準備のために読んでいたのだろう、目を見ればわかる」
セリカの真っすぐな瞳に目を合わせ、エルレイは少し照れる。
「どうだ?この学院の教師をやった感想は」
「…感想」
少し考えて、エルレイは言葉に詰まることなくポンポン出していく。
「副担任は天然だし、担任はロクでなしだし、生徒も難癖ある。だから疲れる」
エルレイは大きくため息をついた後。
「でも。とても楽しい」
「そうか、よかった」
セリカは、ニッとは見せながら笑った。エルレイは本を棚に返し、本を整える。
「そういえば、なんで部外者の私を…臨時教師にしてくれた、んですか?」
セリカに敬語を使ったことがないので、つい片言になってしまう。片言なエルレイを見て、苦笑いしながらセリカは答えた。
「さっきも言っただろう?何か面白いことになりそうだからだ」
「……」
「実際、この前の事件は私も帰れない状態でヤバかったから、感謝しているぞ」
「教授の面白そう=強そう、なのです、か」
「まあ、否定はせん」
セリカはカッカッカと大きく笑った。エルレイは眠たそうな目ではあるが笑っていた。
「それでは若人よ…。うちのグレンをよろしく頼むぞ」
「ん、任された」
勢いよくサムズアップするセリカをみながら、エルレイは優しくピッとサムズアップした。
「そういえば、最近のグレンはどうだ?」
「ロクでなし、です」
「それは今に始まったことじゃない」
★★★
エルレイが家に帰ると、玄関前でセラから出迎えた。
「おかえり!」
「ただいま、セラ」
「ご飯にする、お風呂にする?それとも、私?」
「セラで」シャキンッ!
「ちょっ!急に刀抜くの禁止〜!」
「冗談、早くご飯食べよ」
そんな他愛もない雑談をしながら、エルレイはセラが用意してくれた食事を食べる。相変わらず料理も美味しい。
「相変わらず美味しい」
「ふふっ、ありがとう」
「女として、負けた気分だけど」
「そういえばレイちゃんって料理できるの?」
セラが突然そんな質問を投げかけて来たので、普通に答える。
「できる、出来るといろいろ便利だから」
「今度食べてみたいな、レイちゃんの手料理!」
「うん、是非」
そこで一旦会話は止まった。特に気にせず、エルレイは黙々と食べ進める。
「くどいと思われると思うけど…、私はレイちゃん味方だからね」
「え…?」
突然の発言で少し驚いてしまうエルレイ。
「何が、言いたいの?」
「私は頑張りすぎて潰れちゃう人をよく見てるから、レイちゃんにはそんなことになってほしくないだけだよ」
優しさが胸に苦しい、エルレイはそのまま笑って返す。
「大丈夫、コントロールは出来てる、つもり」
「でも、辛くなったらいつでも言ってね?」
「ん、了解」
昔はあまり印象に残らなかったが、この人は予想以上のお人好しのようだった。食べ終わったエルレイは手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
セラはニコッとエルレイに向かって微笑みかけた。しかし突然少し考えているような表情になる。
「そういえば、あの時話に出たイルシアとシオンって誰?」
「…誰」
誰と聞かれても困るが……。
エルレイはうーんと頭を悩ます。
「もう一人の私と兄、かな」
「???ごめんよくわかんない」
「そだね、私も…よくわからない」
なんとか誤魔化せたエルレイは、軽くため息をついて、今は亡き二人の事を思う……。
Project:Revive life……。一般的な情報は手に入ったけど、闇の部分の情報はまだ見ていない…、そこにはエルレイの知らない情報もあるかもしれない。でもこんなことを知っている情報通は私の知り合いにいるわけが……。
「………アルベルト?」
「……ん?アルベルトがどうかした?」
いた………割とあっさりと、Project:Revive lifeのことを知っていて、裏の情報を持っている。そしてリィエル=レイフォードを知る者…、恐ろしいほど都合が良すぎる。
「ま、まぁ、競技祭の時に、会えたら、会う」
エルレイは『アルベルトはやっぱりやばいな……』と思いながら軽く苦笑いをした。
良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「セラにご飯、食べてもらうときの料理、何にしよう」