『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ 作:エクソダス
5
グレンを先頭に、ルミアをお姫様抱っこしてエルレイが全速力で走る…、競技場を目指して。
ルミアを抱えている理由は、ルミアの体力温存のためだ。少しでも母親と言い合いできる体力を残しておこうと、エルレイが半ば強制的に持ち上げた。
「んで、どうすんだ?エルレイ」
グレンが走りながら聞いてくる。
「ルミアを、女王に会わせる」
「会わせるっつったって、どうやってだよ」
「突っ込む」
「状況わかってんのかお前?!今俺ら親衛隊の奴らに追われてんだぞ?!」
「だから突っ込む、反逆罪になって捜索してるなら…女王陛下の警備が少なくなってるはず」
エルレイは目的地である魔術競技場を睨み付ける。
「反逆罪にしたのには絶対裏がある。…護衛を固められる前にケリをつける」
ルミアを死刑になんてさせない、そう心の中で誓った。
「力ずくかよ?!」
「向こうだって力ずくじゃん」
グレンはため息交じりにポケットから半割れの宝石を取り出した。
「それは…。遠隔通信の魔導器?」
「ああ、セリカの奴と連絡とって、親衛隊をどうにかできるか聞いてやる」
「ん、ありがと」
一度三人とも物影に隠れた。エルレイは一度ルミアを下し、グレンはセリカと通信を取った。エルレイとルミアは黙ってそれを見つめる。
「あの……」
「ん」
ルミアが霞んだ声で話しかけてきたので、エルレイは優しい声のトーンで返事をした。
「私が反逆罪ってことは、庇った先生達も反逆罪に…」
「そうかもね」
可能性は無きにしも非ずだった。だからエルレイはルミアのその言葉に否定はしない、ルミアは賢いと知っているからだ。
「そ…そうかもねって、分かってるならなんでっ!私を助けるために親衛隊にを手を挙げたんですか!!」
エルレイは興奮するルミアをなだめようと、ルミアの頭をよしよしと撫でた。
「前に、言ってなかったっけ?」
「え?」
「ルミアを守る、それが私の使命って」
ルミアは思い出したかのように、ハッ目を見開いた。
「それ以上の事は言えないけど…大丈夫、国家反逆罪なんてすぐに取り消してみせるよ」
「…でも」
エルレイはニコッとルミアに笑いかけた。そうこうしているうちにグレンの通信が終了したようだ。
エルレイはグレンに目を向ける。
「なんて?」
「親衛隊くらいならどうにかしてやれるがそれ以上の事は出来ない。女王陛下の前まで来いって言われた」
「セリカ、動けない状況なんだ」
甘かった…。やはり、エレノアを確認した時点で仕留めるべきだった…。
エルレイは悔しそうな顔をした。
「グレン先生、エルレイ先生、私を置いて逃げてください」
「は?」
「?」
「このままじゃ先生方まで国家反逆罪に…」
そのルミアの言葉にグレンは頭を掻いた。
「いやだって、お前見捨てたら白猫に叱られるだろ。あいつの説教は耳にキンキンうるさいから嫌なんだよ」
「追加でセラもね」
「はははっ、ちがいねぇ」
「ふざけてる場合じゃありません!このままだと本当に二人共…」
エルレイは少しため息をついて話し始めた。
「私はもう、親衛隊を追い払っちゃったから…無理」
ルミアはその言葉を聞くと、悔しそうに唇をかんだ。
「ルミアが気に病むことじゃない、それに私はもとから犯罪者」
「元…から?」
「ん、その話はおいおい」
エルレイは、ルミアの口元に人差し指を当てて誤魔化した。
「グレンは?なんでルミアを助けるの?」
「……約束したからな」
「この状況を切り抜けたら、結婚するんだって?」
「ちげぇよ!」
そんな緊張感のない会話をしているグレンとエルレイ、そんな時だった。
ゾクリ、と背中を駆け上がる氷の刃で切り付けられたような悪寒がエルレイとグレンを襲う。
「━━━━━殺気!?」
「!。ルミア…もう少し離れて」
エルレイは手でルミアの目の前をふさぐ。
二人共、殺気の感じた方向へ目を向けた。すると通りの向こうの屋根の上に二人の男女が立っていた。その二人組はまごうことなく、グレンの事を真っすぐ見下ろしている。その二人を見た途端、エルレイの顔つきが変わる。
(あれは…私?まさかホントに会うなんて)
エルレイは必死に昔ここで何をしたのか思い出そうとする。だがアルベルトに打たれた記憶と、髪の毛を引っ張られた記憶しかない。
「リィエル!?それにアルベルトまで!?どうしてここに──まさか、王室親衛隊だけじゃなく、宮廷魔導士団まで動いていたのか!?」
グレンが二人の存在を認識した瞬間。
リィエルは弾かれたように屋根を蹴り、建物の壁を駆け下りた。着地の瞬間、リィエルは何かを口走りながら両手を地面につく。
「!?《万象に願う剛毅なる刃を》!!」
エルレイはリィエルの動きに反応し、錬金魔術を1節詠唱した。エルレイは生成した大剣を構える。そしてなんとリィエルが同じ大剣を生成し、弾丸のように突進してくるのだ。
(こ、こんなこと…私やったっけ?)
やったことを覚えていないエルレイは、とりあえずグレンに向けて声を荒げる。
「グレン!!ルミアを安全な場所に!」
そういう頃にはもう手遅れ。リィエルはエルレイを無視し、グレンの近くまで突進していた──。
恐るべきスピードだ。
「くっ!グレンっ!ルミア!」
二人に向けて大声を張り上げたのもつかの間。
ビリィ!!!
「ぎゃう!!」
誰かが遠距離の魔術でも放ったかのような攻撃を、リィエルは後ろから受けて倒れてしまう。
誰が打ったのか確認するために打たれた方向を見回すと、アルベルトが指をリィエルに向けて立っていた。
(あ……なんとなく、思い出した)
エルレイは、昔のとりあえず『グレンと決着をつけにいこう』という。今思うと狂気と言い表すほかない過去の出来事を思い出し、顔から火が噴きそうになった。
★★★
「こんのおバカ!!」
「グレン、痛い」
「こっちは死ぬところだったんだ!!」
グレンがリィエルの頭をグリグリしている。リィエルは目を瞑って少し痛そうだ。
「あの、先生、この方達は?」
恐る恐る、ルミアがグレンに聞いた。
「俺の帝国時代の同僚だ、信頼できる連中だから安心──。できるハズねーよな」
「ん、アルベルト迂闊、街中で軍用魔術を打つなんて、その子怖がって─」
「お前もだよ!お前も!!」
グレンはまたリィエルの頭をグリグリする。
「遊んでいる場合ではないぞ。王室親衛隊は…女王陛下を監視下に置き、そこの元王女を始末するために独断で動いているようだ」
「陛下も、監視下に」
「ああ」
それを聞いたエルレイは頭を抱えた。監視下に置いているということは…。こうなることを見越して人数が多くいるということになる。
「しかし、貴様は何者だ?リィエルと同じ錬金魔術を使うとは、普通の人間ではないな」
鋭い目のアルベルトに、後ろめたさからなのか…、目をそらしてしまう。
アルベルトに情報を求めようと思ったが、どうやら無理そうだ。元々敵の可能性があったから期待はしていなかったが。
「……」
「すまん。アルベルト、こいつは今訳アリで何も喋ってくんねぇんだよ」
「…そうか」
「にしても、わっかんねえな。なんであいつら、わざわざこのタイミングでルミアを狙うんだ?」
「現時点では不明だ」
むずかしい顔で考え込むグレンと冷淡な表情を貫くアルベルト。そして少し俯いているエルレイ。そんな光景をルミアは心配そうな表情で見ていた。
「考えても仕方ない」
話し合いの膠着にしびれを切らしたのか、突然リィエルが割って入る。
「いや、お前はもう少し考えような?」
「だから、わたしは状況を打破する作戦を考えた、グレンがいるならもう少し高度な作戦が可能」
「ほう、いってみろ」
「まず、わたしが敵に正面から突っ込む、次にグレンが敵に正面から突っ込む、最後にアルベルトが敵に正面から突っ込む、どう」
「英断」
エルレイはリィエルに向けてサムズアップをした。リィエルも見て真似て、サムズアップする。
「お前はいい加減能筋思考をどうにかしろ!あとエルレイは甘やかすな!!」
「痛い」
グレンはまた一度リィエルの頭をグリグリする。さっきより力が入ってそうだ。
「お前が居なくなった後の俺の苦労、少しは理解したか?」
「…うん、ごめん、マジでごめん」
「……心が痛い」
アルベルトとグレンの話を聞いていたエルレイは、罪悪感で心が潰れそうになっていた。
「ふふっ、仲がよろしいんですね」
「え、どこら辺?」
ルミアの驚愕の一言により、エルレイは目を丸くした。
「ルミア、エルレイ、俺達はどうにかして、陛下の前に立たなければならない」
「…はい」
「んで、なんか策ないか?エルレイ、今すぐ考え付くやつ」
「一応、ある…。でもこの策は、この二人にも手伝ってほしい」
そういうとエルレイは、アルベルトとリィエルのほうを見た。
「構わん。内容によっては手伝おう」
「グレンがやるなら。私もやる」
エルレイは軽く微笑む。
「感謝、説明するよ」
★★★
競技祭はいまだ衰えぬ熱気に包まれている。中央の競技フィールドでは一喜一憂のドラマが次々と生まれていき、そのたびに観客は熱狂に包まれている。
「…遅いなあ」
その活気とは裏腹に、システィーナは不安げに呟いた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ!ルミアちゃんはグレン君が連れ戻してくれるって!」
システィーナを元気づける様に、セラは両手を上下に激しく動かした。
「そうですけど…」
システィーナは俯いた。
「やっぱり先生方は全員いないと……」
「…ふふっ、そうだね、盛り上がりに欠けるよね」
そう言ってセラは、システィーナの肩に手をのせる。
「大丈夫、三人ともすぐ帰ってくるはずだよ」
「…はい!でも本当にどこ行ったんでしょうか?まさかアイツ、ルミアに何か邪な事を…」
「あっはっは。いやいやまさか…グレン君さっさと私の前までこぉぉぉおおおおおおおおおおおおい!!!!」
「じょ、冗談ですよ。セラ先生」
急にマジ切れしたセラを見ながらシスティーナに笑顔が戻る。
その時だった、背後にふと覚えのある気配を感じ…。システィーナとセラは振り返った。
「やっと帰ってきたの!?遅いわよ、先せ…あ、あれ」
システィーナが振り返るとそこには見知らぬ男女がいた。その男女を見たセラがすぐに反応する。
「あ!リィエルちゃんとアルベルト!?どうしてここに?」
「あの、セラ先生この人たちは?」
「私とグレン君の帝国時代の同僚だよ、リィエルちゃんと、アルベルト」
「アルベルトだ、よろしく」
アルベルトが挨拶をし、リィエルはこくこくと頭を下げた。セラは何かを感じた気がしたが口には出さなかった。
「…?。まあ気のせいか、それでどうしてここに?」
「今日は、魔術競技祭の後、旧交を温めようとグレンの奴にこの学院へ招待されてな。この通り正式な許可証もある」
アルベルトは懐から箔押しされたカードを取り出して見せた。
「うん、確かに拝見しました!それでグレン君見なかった?」
「奴は今、突然の用事に少々取り込んでいるようだ」
セラは少しため息をついた。
「そっか」
「でだ。唐突な事で悪いのだがあの男はしばらく手が離せないらしい、ゆえに俺はこのクラスの事をグレンに頼まれた。セラ、今から俺が代わりにクラスの指揮を執る、いいな」
「アルベルトとリィエルちゃんの言う事なら信じるよ」
セラは疑問に思ったことはあったが、割とすんなり受け入れた。
★★★
そして、魔術競技祭の終盤、どうにか2組は1位を手にして、表彰式に移行していた。
『それでは表彰式を行います、優勝した二年次生二組』
その言葉と同時にステージに上がる人物は、二組の人間ではなかった。
「アルベルトと、リィエル?」
「来たか…」
困惑する中、アルベルトが喋りだす。
「今年の魔術競技祭で、優勝したクラスの代表と担任講師は女王陛下から直接勲章を賜る栄誉を得る。待ってたぜ、このタイミングを」
するとアルベルトとリィエルの周囲がぐにゃりと歪んで───
再び焦点が結像し、そこに現れたのは。
「グレン先生!!ルミア!!!」
グレンとルミアだったシスティーナが二人を見て力いっぱい叫ぶ。
「き、貴様ら!!」
「遅いっ──!!」
ボンっ!!!
突然兵士の目の前にエルレイが現れ、エルレイが煙幕呪文を唱え、ルミアとグレンを隠した。
「くっ!!!」
霧が晴れたころには、グレン達は誰かが作ったであろう絶壁結界に閉じ込められていた。
★★★
「へえ、断絶結界か、気が利くなセリカ。てかエルレイ、誰に隠れてたんだ?」
「ハーレイ先生、気絶させてセルフ・イリュージョン」
「ハー何とか先輩気絶させたのかよ!」
そしてグレンがアリシアに向けて話しかける。
「さてと、僭越ながら陛下、そのおっさんと親衛隊どもは、陛下の名を不当にも語って罪もない少女を手にかけようとした。だがルミアは無事に保護したし、親衛隊は結界の外…。陛下、奴らにこれ以上の暴挙をやめるよう、どうか勅命を」
「…」
エルレイは知っている。過去に同じことがあったから知っている。実際には聞いただけだが、この時にアリシア陛下のネックレスに…呪いの類が付いていることを。
ゼーロスは何かに耐えるように言った。
「それでは…それではならんのだ…事が終わればすべての責を負って自害する。だが陛下だけはこの国を背負う陛下だけは…」
「うるさい」
いつの間にか、ゼーロスの背後に立っていたエルレイが、ゼーロスを大剣を使って楽々と気絶させる。
「な?!なにやってんだよ?!」
「…」
エルレイはポケットから何かのカードを取り出し、アリシアのネックレスに向かって投げた。
「!!」
丁度
アリシアのネックレスにあたり、カードが地面に落ちた。それを見たセリカが驚愕する。
「!?愚者の…アルカナ?!」
そう、グレンが持っている愚者のアルカナを、あろうことかエルレイが取り出し、使用したのだ。
その結果、ネックレスについていた呪いの類が消滅するのが目視で分かった。グレンは慌てて自分の愚者を確認するが、グレンのポケットにも愚者が存在していた。
「お前どこでそれを…!」
「そんなことどうでもいい、陛下」
エルレイはアリシアを冷たい目で睨みつける。
「ルミアは陛下と話に来たんじゃない…ルミアのお母さんに話にきた。この国背負う前に。娘の感情を…背負おうよ」
エルレイはそれだけ言って、セリカが作った絶壁結界の一部を破壊し、外に出て行ってしまった。
「部外者は口を挟まないよ、ルミア、頑張って」
エルレイは結界を出る前に一人ごとのように呟いた
★★★
その夜、エルレイはグレンとルミアにもう一度合流し、事の一部始終を聞いた。
どうやらどうにかなったようだ。エレノアをそのまま逃がしたのは、エルレイにとって失敗だったが、今回は良しとしよう。
「んでエルレイ、お前はなんであの時すぐに出てったんだ?」
「?愚者の事はいいの?」
「どうせ聞いても話さんだろ?」
「よくお分かりで、出てった理由は……辛くなるから、かな」
エルレイのその言葉にルミアは頭にはてなマークが浮かぶ。
「辛くなる?なんでですか?」
「……」
自分には家族がいないから羨ましい──。
なんて口が裂けても言えない。
「それで、どうだったの?母親と話して」
「色々お母さんと話せて,すっきりしました。全部先生方のお陰です」
「俺たちは何もやってねえよ」
グレンはプイっと顔を背ける。
「グレン。あの帝国軍の二人に…。手伝ってくれてありがとうって、伝えといて」
「おー、機会があればな」
「絶対、伝える気ないよね」
「ふふっ」
グレンとエルレイの会話に、ルミアはクスっと笑った。
「あ、そうだ…。はいこれ」
そういうとエルレイは、ポケットからいちごタルトを取り出す。
「お疲れ様タルト」
「え?」
急な事に困惑するルミアにグレンが説明する。
「こいつのルールなんだと、頑張った奴には誰も見てないところでご褒美としてあげてるらしい」
「おたべ」
「あ、じゃあ頂きます」
ルミアはサクサクと食べながら歩いていく。
エルレイとグレンはその光景を見ながら微笑んだ。
「そういえば、今日のパーティー。グレンのおごりだったよね」
「おう、今日ぐらいは労ってやらねえとな」
「…一応聞いとく、負けたら三か月分、私とセラの給料からも引こうとした?」
「……」
「おい目をそらすな」
エルレイはマジトーンで言った。
「さ、さぁ!!ついたぞ!!みんなもうついてるはずだ!!!今日は宴会じゃあああああああああああああああああ!!!!!」
誤魔化したグレンは店の中に入ると、みんなワイワイやっていた。
グレンがセラやシスティーナにじゃれつかれている間に、エルレイは使われた額がどれほどか確認する。
「給料三か月分、とボーナスくらいか…」
エルレイはお会計のところまで行って店員さんに。
「支払い全部…。あの男性に、お願いします」
容赦なしで会計を押し付けた。
「ちょっ!!!エルレイ先生?!」
ルミアが驚愕の声を上げる。
「こっちはうるさいから、向こうで飲もう?おごるよ」
「あっ…ええっと……」
「飲んでるときにお母さんと、どんな話したのか、聞かせて?」
「!……はい!」
こうして魔術競技祭が幕を閉じた。
その後エルレイはグレンに多少シバかれたのだが、それはまた…、別の話。
良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「あの会計、グレンが、エクソダスに背負わせるって」
え?