『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ 作:エクソダス
「遅い!」
目の前に広がる雄大な地平線を描く大海原と、停泊している大型帆船を前に、システィーナはイライラと機械式懐中時計と睨めっこしていた。
今日は遠征学修当日、クラス全員で白金魔導所があるサイネリア島への定期船が発着する船着場へ集合してるのだが。
「もう集合時間すぎてるじゃない!一体、あいつどこをほっつき歩いてるんだか!」
「ま、まあまあシスティーナちゃん。どうどう」
そう言ってセラがシスティーナを宥める…。
そう、集合時間になってもグレンが船着場に姿を現さないのだ。
「わたし、探してくる」
グレンが居なくてそわそわしていたリィエルが、そんなことを言い残し、街のほうへと向かって歩き出そうとする。
リィエルの手を、ルミアがとって引き留めた。
「待って、リィエル。あまり大きくない街だけど…、人一人を探すには広いよ。行き違いになっても困るし、ここでわたし達と一緒に待っていよう?ね?」
「でも…」
そんな時、リィエルの前にいちごタルトが突然出てくる。
そこにはいちごタルトを持って、リィエルの目の前に出しているエルレイがいた。
「とりあえずこれ食べて落ち着いて。大丈夫、すぐ来るよ」
「…ん」
リィエルは観念したように俯きながら、いちごタルトをもらいサクサクと食べ始めた。
「あああもうっ!!大体、十分前行動が社会人の常識でしょ?!今日という今日は一言ガツンと言ってやらないと!!」
そんな光景を見ていたシスティーナが、声を荒げていると……。
「へ~い、そこのお嬢さん方~?ちょおっといいかな~?」
軽薄そうな声がシスティーナたちの背後から飛びかかってきた。何事かと5人が振り返ると、そこには気取ったポーズをとった青年がいた。
「なに?あまり暇じゃな……!」
エルレイは顔を見た途端。驚きの表情が顔に出かけたが、すぐに平常心に戻り、男を観察した。
(アルベルト…だよね)
そう、アルベルトだ。
アルベルトは変装が得意でほとんどの者は見分けることができないが、エルレイが分かるのは長年コンビでやってきた勘だ、なので確証はない。
「ええっと…何かな?」
セラが不安定な返答を返した時点で、勘は確定に変わった。
(グレンとセラに接触しに来た?…何のために)
「いやあ、こうして出会ったのも何かの縁だよね!出発までしばらくあるんでしょ?その間僕とお茶しない?なんだったら何かおごっちゃうよ?」
「お断りします」
「あはは、そんな冷たいこと言わないでさ~、ね?ちょっとだけでいいからさ~」
エルレイはアルベルトだったとしても、この行動はうざいと感じたので、首に刀でもつき付けてやろうかと思ったその時。
「はぁ~い、ストップ」
いきなりグレンが現れた。
そのナンパ青年(アルベルト)の首根っこを背後から掴んでいた。
「エルレイ、俺とセラはこのお兄さんとちょ~っと『お話』があるからさ。出発までには戻るからクラスまとめ頼むわ」
「……了解」
「じゃあ、レイちゃん、私もグレン君と一緒に行ってくるね!」
エルレイが返事したのを確認したセラは、一言添えてグレンのもとに行った。セラが来たのを確認したグレンは青年の首根っこを掴んだまま、青年をずるずると強引に引きずっていく。
「はあ、まったく…なんだったのかしら?あの人、それにしてもどこにでもああいう変な人っているのね、そう思いませんか?エルレイ先生」
「……」
「エルレイ先生?」
システィーナとルミアの言葉に反応できず、エルレイはじっとグレンたちが向かった方向を見ていた。
(話が気になる、けどばれたら確実に…。アルベルトと敵対することになる)
エルレイは、3人がどんな話をしているのかは気になった。
しかし、ばれたときのデメリットが大きすぎるので、何もしないことにした。
「エルレイ先生!!」
「…ごめん、ボーっとしてた。今のうちに忘れ物チェックする。皆、持ち物出して」
エルレイは大きな声を出したシスティーナに反応し、とりあえず何も考えないようにした。
★★★
二組の生徒たちを乗せ、船着場を出発して数時間、やがて船はサイネリア島に到着する。
「ここがサイネリア島…か」
システィーナは感慨深く周囲を見渡した。
「エルレイおねえさん、ここにはいちごタルトある?」
「…なかったら、またあげるよ」
リィエルとエルレイのそんな優しい会話に、システィーナは微笑みながら優しい潮風に包まれていた。
「グレン君大丈夫?」
「ああ…うぅー……」
「先生、しっかり…」
セラとルミアに両脇を支えられたグレンが、ふらふらしながら降り立った。
そのグロッキーな姿は、システィーナにとってもエルレイにとっても雰囲気ぶち壊しである。
「もう…本当に浸らせてくれないっていうか、デリカシーないんだから…」
「う、うるせー…白猫め…お前にこの苦しみが分かるか…うぅ…」
そんなグレンの様子にエルレイはため息をつき。
「乗る前に、酔い止め飲まないほうが悪い」
「うっせー…忘れてたんだよ……」
グレンのその情けない姿に、生徒たちもくすくす笑うしかない。
「大体な!生来、人は大地と共に生きる生物なんだ!人間は大地の子なんだ!大いなる大地から離れては人は生きていけないんだ!」
「船酔い一つで、なんかやけに大げさになるわね」
そんなグレンの屁理屈に、エルレイはもう一度ため息をつく。
「先生…、そんなに船酔いがお辛いのでしたら遠征学修は違う場所にすればよかったんじゃ…」
ルミアは苦笑いでそう言った。そんなルミアにかつてないほど真剣な顔でこう答えた。
「美少女たちの水着はあらゆるものに優先する……決まっているだろ─────ぐぇっ!!」
そんな最低な言葉を口にしたグレンを、セラが容赦なしに腹パンした。
「あのね?そんな目的で来たんじゃないでしょ?ね?学ぶためだよ?ていうか先生の立場がそんなこと言っちゃダメでしょ?」
「がっ……た、たとえ、ここが紛争のど真ん中だったとしても…俺はここを選んださ…」
腹パンされても尚、グレンはそんな話を続けた。
「先生…アンタ…漢だよ!」
「俺、先生に一生ついていきます…っ!」
そんなグレンのセリフは一部生徒の心にクリティカルヒットしたらしく、感極まった一部の生徒が熱い涙をはらはらと流していた。
「レイちゃんレイちゃん!ちょっと重いものを海に投棄したいんだけど手伝ってくれない?」
「海はだめ、ちゃんとグレンのご要望道理、土に還そう」
「俺を殺す前提で……話すんなお前ら…おえ…」
★★★
1日目は移動で消費し、エルレイたちはホテルへとチェックインしていた。エルレイはルミア、システィーナ、リィエルと一緒に屋上テラスから、外の夜景を眺めていた。
「三人とも、今日は移動で疲れてない?」
エルレイは三人に優しい言葉をかける。
「大丈夫ですよ、私はあの程度では疲れませんから!」
「あはは、システィはまだ元気だね」
「お腹すいた」
三人とも特に疲れていないようだ。エルレイは新鮮な空気を吸おうと大きく深呼吸した。体の疲れが一気になくなる感覚にリラックスしていると。
「そういえばエルレイ先生ってなんで先生に?」
そんなことをルミアが聞いてきた。
「あ、それ私も気になってたのよ。あんな錬金術の使い手が、ただの学院の講師してるなんて考えられないから」
エルレイは手を顎に付け、考え始めた。
「うーん……と。まあ、いろいろ」
私は未来から来て、就職先がないから臨時教師をしている。なんて口が裂けても言えないので、軽く誤魔化す。
「…先生も色々大変だったんですね」
「いつもお疲れ様です、エルレイ先生」
「…軽く誤魔化しただけで二人とも深読みしすぎ」
「?」
特に他意はないのだろうが、そこまで深読みされると申し訳なくなり、エルレイは苦笑いをした。リィエルだけはよくわからなそうな顔をしている。
そんな時────。
「行くぜ皆!!俺に続けぇ!グレン先生をやっつけろおおおおおおおお!!」
「ふっ…、かかってこいお前らぁ!!呪文詠唱技能が、魔術戦における戦力の絶対的な差ではないということを教えてやる!!!」
そんな声と共に、ショックボルトの電撃音が聞こえてくる。4人共下を見下ろすと、男子とグレンが撃ち合っていた。
「男ってバカね」
「同意」
システィーナもエルレイもジト目で男子とグレンを上から見ていた。
「エルレイおねえさん、あれなにやってるの?」
「あんな、ばっちいの見ちゃダメ」
エルレイが即座にリィエルの目を隠した。ルミアはその光景を見ながら苦笑いをする。
「ア、アルフゥゥゥゥゥ!!!!!しっかりしろ!?アルフゥゥゥ!!!」
「か、カッシュ、俺はもう…だめだ」
「馬鹿野郎!傷は浅いぞ!?目指すんだろう、エデンを!!!こんなことでくたばっている場合じゃないだろう!?」
「た、頼む……カッシュ……俺達が追い求めたエデンを……俺の分までエデンを……見て……来…」
「アルフゥゥゥゥゥぅあああああああああああ!!!!!!!俺は───っ!いったいなんのために戦っているんだあああああああああ!!!」
「「「「………」」」」
「…ねえ」
「…何ですか?エルレイ先生」
エルレイの小さい声に、システィーナが反応した。
「エデンを見たいんだってさ」
「…はい」
「エデン=あの世……。見せてあげてくるね」
「素晴らしき英断かと」
「ちょっと二人とも?!」
恐ろしい話をしているエルレイとシスティーナに、ルミアはつい声を荒げた。今にも刀でも持って飛び出しそうな勢いだ。
「……まだ見ちゃダメ?」
ずっと目隠しされているリィエルだけは、どんな状況かわからないのであった。
★★★
そんなこんなで二日目、サイネリア島のビーチに来た一行は水着に着替え、ビーチを満喫していた。
エルレイも水着に着替え、周りを監視していた。
「やっほ~レイちゃん!」
目の前に水着姿のセラが飛び出してきた。
「昨日、電撃みたいな音がずっとしてたらしいんだけど何か知ってる?」
「…バカがばかしてた」
「?」
どうやらセラは一足先に寝てしまっていたらしく、現場を見ていなかったらしい。ちなみにエルレイは昨日の深夜、生徒の魔術使用の書類、つまるところの始末書を書いていたため、少しご機嫌斜めだ。
「あっちでビーチバレーするんだけどレイちゃんもどう?」
「……審判くらいなら」
エルレイはそう言って審判の椅子に座った。現在バレーをしているのはグレン、ギイブルチームと、システィーナ、リィエルチームだ。
「どおおおおおおおおりゃああああああああああ!!!」
ネットを大きく上回る見事な跳躍、弓なりにしならせた身体からグレンは全身のばねを余すところなく使い、スパイクを叩きつけた。
「どおおおおおおだ!!このグレン=レーダス大先生様の力を思い知ったかああ!!!はあああああああああっはっはっはっは」
そんな高笑いをするグレンを無視して、ギイブルが、審判のエルレイに身体を向ける。
「エルレイ先生、点数を入れてください」
「……」
「エルレイ先生?」
「すう………すう……」
相当疲れがたまっているらしく、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。グレンがエルレイのもとに近づく。
「あ~、寝ちまったか…。そういや始末書書いてくれたのこいつだったからな」
「グレン先生、起こさないでくださいよ?エルレイ先生疲れてるみたいですから」
「わかってるよ、白猫」
白猫が声を小さめでいうとグレンはいはいと小さな声で言った。
「…にしてもエルレイ先生の寝顔…やばくね」
「ああ…、マジでヤバイ」
「普段クールな人ほど、こういう時のギャップってやべえよな…」
「やっべ、カメラ持ってこればよかった」
「…レイちゃんにおいたしちゃだめだよ?」
男子の話を聞きながら、セラは割とマジトーンで言った。
★★★
エルレイは現在、外を散歩していた。ビーチで眠ってしまったらしく、気付いたらホテルで夜を迎えていた。エルレイはため息をつきながら散歩した。
「せっかく、ビーチだったのに…台無し」
そんなことを思っていると、目の前に一人に少女が立っていた。その少女は───。
「リィエル?」
「あ、エルレイおねえさん、おはよ?」
この世界のエルレイ、リィエルだった。
「なにしてるの?こんなところで」
「グレンに会いたくて」
「なるほど」
エルレイはここにきてようやく思い出した。遠征学修の二日目は、エルレイがカンシャクを起こしてしまい、そのあとに事件に巻き込まれたことを。
「ねえ…。ルミアとシスティーナは、敵?味方?」
「!どういう意味?」
突然、リィエルがあの二人を敵味方で判断しようとしていることに驚き、エルレイは少し顔を歪ませる。
「あの2人に…グレンを取られてる気がして……奪われてる気がして…」
「なるほどね」
「おねえさんなら、分かるかなって」
エルレイはため息をついた。
「前に言ったこと、忘れた?」
「?」
「君が敵だと思ったら敵、味方と思ったら味方って」
「…そう…だけど」
リィエルは暗い顔で俯いた。エルレイはリィエルの頭を撫でてやる。
「あの二人と、一緒に居るのは、嫌い?」
「ううん………」
エルレイの言葉にリィエルは頭を横に振った。
「あの二人は、リィエルの大切な人を奪う極悪非道?」
「違う…気がする」
「じゃあ、それでいいじゃん」
エルレイは、リィエルの頭を優しくポンポンと叩く。
「自分の事を信じればいいの、どんなことにおいてもね。いい人の見分け方も、悪い人の見分け方も」
「…」
リィエルは少し黙ってから。
「じゃあ、エルレイおねえさんは、いい人なの?」
エルレイは頭を横に振った。
「ごめん、私はいい人じゃない」
「…」
「急にグレンの横にいた変な人、これが一番正しい」
「!……ふふっ…」
急に自分の事を変な人というエルレイ。それが面白かったのか、リィエルは少し噴き出した。
「ん、笑ってるの一番、元気出た?」
「…うん」
「じゃあ、ルミアとシスティーナはどう思ってる」
「大切な友達……だと思う」
エルレイはニコッと笑ってリィエルを抱きしめた。
「良く出来ましタルト」
エルレイは抱きしめながら、リィエルにいちごタルトを渡す。
「…」
「なに?」
「いちごタルトをくれる変な人」
「…それ一番合ってる」
「お~い、何やってんだ~」
そんな話をしていると、少し顔を赤くしているグレンが話しかけてきた。おそらく酒飲んだのだろう…。
「飲酒?先生なのに」
「うっせーなエルレイ。息抜き程度にいいんだよ…、んで、何の話してたんだ?」
エルレイはニコッと笑い、リィエルもつられて微笑んだ。
「ちょっと変な人の話してただけ、ねー」
「…ねー」
「…はい?」
★★★
次の日の朝…グレン達のクラスは、目的地の白金魔導研究所がサイネリア島の中心に設置されているため、登山をしていた。
「るんっるんっるんっるん♪」
「お前は楽しそうだな…白犬……」
「グレン君も元特務分室なら、これくらいは楽々登れるようになろうよ」
エルレイはそんな先生ズ二人を見た後に、リィエルの様子を見ていた。
「リィエル、大丈夫?この辺足場悪いから注意してね?」
「ん、ありがと」
「ルミアは心配しすぎよ、この子は一番息切れしてないじゃない」
「システィーナ、少しつらい?」
「だ、大丈夫よ!!大丈夫!!」
どうやら昔の自分のようにカンシャクを起こして、ルミアの手を払うことなく、普通に楽しそうに話しているようだ。しかも昨日よりも仲がよさそうに…だ。
「…よかった」
これでリィエルを見失って、ルミアが連れて行かれるという自分が起こした最悪の状況を回避できそうだと、心の底から安堵した。
(あとはあいつらの場所)
あの時は混乱していたこともあり、どこに首謀者がいたのか覚えていないが、それさえ思い出すことができればエルレイの完全勝利と言えるだろう。
「エルレイねえね、大丈夫?」
「…ん、大丈夫」
リィエルの言葉にエルレイは優しく返す、自分の心配までしてくれるのはうれしい限りだった───。
「…ん?」
何か…、エルレイは何かに違和感を感じた。何かはわからない、しかし確実に引っ掛かりがあった。
「ねえ、リィエル」
「?」
「さっきのセリフ、もう一回、いって?」
突然のエルレイの言葉に特に困惑することもなく、リィエルは復唱する。
「大丈夫って、言った」
「その前」
「エルレイねえね」
「それ」
「?」
「? じゃない」
エルレイは確かにおねえさんでいいよ、と言ったはずなのだが…。
気恥ずかしさからなのか、エルレイは髪の毛をいじる。
「その言い方は……やめてほしい」
「自分の事、信じればいいんでしょ?」
「……うぅ!」
「だから呼びやすい名前を信じた」
リィエルはほめて?と言わんばかりに頭を出してた。
「それ言われると……言い返せない」
エルレイはリィエルの頭を撫でた。エルレイは、みんながいるのにそんな呼ばれ方をされたのが恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になっていた。
「まさか、あのリィエルがここまで懐くとはな…これからもよろしく頼むぞ?エルレイねえね」
グレンはからかうようにそう言った。
「もう!グレン君!からかっちゃダメでしょ?大丈夫?………エルレイねえね?」
セラはそんなことを言いながら、結局エルレイをからかった。
「……ホントに……やめて……」
尚、反応が面白かったので、ほとんどの人からこの名前をいじられたのだが…それはまた別のお話。
良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「男子、全員地獄に送った、あとは作者だけ」
え?