『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ   作:エクソダス

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白金魔導研究所と接触

山登りを始めてから時が流れ、二時間ほどしてようやく白金魔導研究所の前まで来た一行。

ほとんどのものは疲れているようで息を切らしているものが多かった。

 

「つ、疲れた…」

 

「はあ……はあ…、もうだめ…」

 

「さぁ、白金魔導研究所前まで来たよ。皆早く中に入ろ~!」

 

そう言って急かすセラに、グレンはため息をついた。

 

「少し休ませてやれよ白犬…エルレイ、生徒の人数を確認してってくれ、俺も一回数えるから」

 

「ん、了解」

 

エルレイは生徒の人数を指で指しながら数え始める。

 

「ひぃ……ふぅ……みぃ……。大丈夫そう、みんな水分補給はしてね」

 

エルレイは全員いることを確認し、白金魔導研究所を再度見る。

背後に切り立った崖から崖から流れる圧巻の滝、両側は原生林で囲まれていて、研究所というよりは神殿という印象を受けた。

 

「エルレイねえね」

 

「ん?」

 

エルレイは突然服を引っ張られ、引っ張った人物を見てみると、じっとリィエルが見つめていた。

 

「水無くなっちゃった」

 

「……はやくない?」

 

「いちごタルト、いっぱい食べたから」

 

エルレイはその言葉にため息をついた。

 

「はあ…誰?リィエルにいちごタルトいっぱい食べさせたの」

 

「「「「あんただよっ!!!!!!」」」」

 

クラス全員から総ツッコミを受けたエルレイ。エルレイは驚いた後に考え込む。

 

(おかしい、登山してまだ十個くらいしかリィエルにはあげてないはず。おかしい…)

 

十個だけで水分が取られるという発想に…、何故か至らないエルレイは、仕方なく自販機から水を買ってリィエルに渡した。

 

「おまえなあ、リィエルを甘やかしすぎだぞ」

 

「リィエルだけじゃない、みんなにあげた…。もういらないっていうくらいには」

 

「だから生徒みんな、マジ切れ気味でツッコミ入れてたんだね……」

 

エルレイの当然でしょ。と言わんばかりの真顔にグレンはあきれ果て、セラは苦笑いをした。そんなことをしている時。

 

「ようこそ、アルザーノ魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労です」

 

グレンとセラ、エルレイの前にローブに包んだ一人の男が現れた。セラはその男を前にして。

 

「こんにちわ。あなたがバークスさんですね?私はセラ=シルヴァースです。」

 

迷うことなく、笑顔をバークスに向けた。

 

「はい、私がバークス=ブラウモンです。この白金魔導研究所の所長を任されている者です」

 

グレンが登山でかいた額の汗を拭いながら、背筋を正し、バークスに開き直った。

 

「アルザーノ帝国魔術学院、二年次生二組の担当魔術講師グレン=レーダスだ。 本日はうちのクラスの『遠征学修』へのご協力、心から感謝します。生粋の研究方の魔術師であるバークスさんにとっちゃ、ひよこ共が所内をほっつき歩くなんて鬱陶しくて仕方ないでしょうが、まあ、今日明日は我慢してください」

 

「いえいえ、いいんですよ」

 

グレンの微妙に丁寧じゃない物言いにも、機嫌を損ねずバークスは朗らかに応じた。

 

「…エルレイです、本日は、よろしくお願いします」

 

「はい、こちらこそ」

 

エルレイの無表情のあいさつにもバークスは朗らかに答える。その後エルレイは生徒の居るところまで後退した。

 

 

「エルレイ先生どうしたんですか?顔が怖いような」

 

少しの異変に感じたのか。リンがエルレイを心配そうに見つめた。

 

「大丈夫、少し疲れただけ」

 

「…そうですか」

 

エルレイはそう言って、優しくリンに微笑みを見せた。しかしエルレイは登山で疲れているから表情が硬いのではなかった…。

 

どうやって奴をおびき寄せ、仕留めるか──。

それだけを考えていた。

 

 

★★★

 

「白金術……白魔術と錬金術の複合術、この術分野が主に扱うのは、皆様もご存じの通り生命そのもの。ゆえに研究には新鮮な生命マナに満たされた空間が常に必要となります。だからこのような有様になっているのです。まあ、少々歩きにくいのはご愛敬」

 

バークスは研究所内にある様々な研究室を、生徒を連れて練り歩く。

あたり一面に様々な品種と効能の薬草畑が広がる。薬草改良を心見ている部屋。

岩や結晶が法陣の上に並ぶ、鉱物生命体を開発している部屋。

多種多様の動植物が納められた、巨大ガラスの円筒が心狭しと並ぶ、生命の肉体構造に関する研究をしている部屋。

そのほかにもいろいろあった。

 

「…」

 

エルレイは元々自分が感情に身を任せ、見れなかったものを再度見て、多少理解できるようになっていた。

 

「熱心な研究所」

 

研究員も作業に没頭していて、仕事に忙殺されているという印象は抱かないし、見れば見るほど興味深いものが多い…。

 

「バークス…。もったいない人」

 

エルレイはバークスのやったことを思い出し、横を向いているバークスを眠たそうな目で、見下すように見つめた。

そしてその後、エルレイと行動を共にしているシスティーナ、ルミア、リィエルを見た。

システィーナ達は勿論、エルレイがそんなことを考えているのには気付かず、展示されているものをじっと見ていた。

 

「私は将来、魔導考古学を専攻するつもりだったけど・…これを見るとちょっと心が揺らいじゃうわね。ルミアとリィエルはどう?」

 

「ん、わたしは自分を信じる、ここは退屈」

 

リィエルは退屈そうに眺めている。

 

「私は、ほら…研究者じゃなくて魔導官僚志望だから」

 

そしてルミアはシスティーナとリィエルにだけ聞こえるように、そっと耳打ちする。

 

「それにここを見てると……なんか、気が引けちゃって」

 

「? なんで?」

 

リィエルは疑問の声を出す。

 

「その……、人がこんな風に命を好き勝手に弄っていいのかなって」

 

「そうね……これが過ぎると外道魔術師とかいうのに墜ちていくのね」

 

システィーナは苦々しく呟き、ため息をついた。

 

「でもやっぱり、あの研究は流石にここでもやってなさそうね。とうぜんと言えば当然なんだけど」

 

「え?」

 

「?」

 

システィーナの言うあの研究、というのが分からず。ルミアとリィエルは首をかしげる。

 

「あの研究って、何?システィ」

 

「あー、うん。えっとね。死者の蘇生・復活に関する研究。かつて帝国が大々的に立ち上げた一大魔術プロジェクトがあったの」

 

「Project:Revive life…。だね」

 

エルレイが咄嗟に口をはさんだ。

 

「さすがエルレイ先生、ご存じでしたか」

 

システィーナはエルレイに賞賛の声をかける。

 

「まさか、生徒が知ってるとは…思わなかったけどね」

 

エルレイがそういうとパチパチとどこからか拍手が聞こえた。後ろを振り向くとそこに立っていたのはバークスだった。

 

「まさか学生さんからその言葉を聞けるとは、エルレイ先生、とても優秀な生徒ですね。いやはや、優秀な若者がいれば帝国の未来も明るいですな」

 

「……どうも」

 

 

エルレイは軽く頭を下げる。

 

「いえ、そんな…たまたまです!すみません、失礼なこと言っちゃって!」

 

システィーナが慌てて恐縮する。

 

「そんなこと。できたっけ」

 

リィエルがボーっとしながら口を開いた。

 

「そうですね、確かに、生命の構成要素は────────それゆえに、この死者蘇生たるProject:Revive life 通称リィ」

 

「「Project:Revive life」」

 

突然グレンとセラがバークスの言葉尻を奪うようにして、割って入ってきた。心なしか二人の顔色が暗い。

 

「要するに、さっきバークスさんが言ってた生物の三要素を別のもので置き換えて、死者を復活させようっていう試みなんだよ」

 

「復活させたい人の遺伝情報から採取したジーンコードっていうのを元にして、代替肉体を錬金魔術で錬成して、他者の霊魂に初期化処置を施したアルターテールを代替霊魂にして…復活させたい人間の精神情報をアストラルコードに変換して代替精神とし、そしてその三つの代替を一つに合成して本人を復活させる……。ま、簡単に話すとこんな感じだ」

 

その後セラとグレンは軽く説明をした。

 

「へえ…ってちょっとグレン先生!セラ先生!今バークスさんがお話してるでしょ?!横から割り込みなんて失礼です!」

 

「えへへっ。ごめんごめん、興味がそそられる話してたからつい」

 

怒って見せるシスティーナを、セラはニコニコと宥める。

 

「エルレイ、大丈夫か?」

 

「…何が」

 

グレンがエルレイへと話しかける。エルレイは元気がなさそうな声で答える。

 

「お前がリィエルの、なんかの関係者だってことはわかってる。気分悪くなってないかと思ってな」

 

「ありがとう」

 

エルレイは俯いたまま言葉を返す。

 

「大丈夫だ。この研究は断念されたってお前も知ってるだろ?どんな生い立ちかは知らんが、お前が苦しむことはもうない」

 

そうグレンが言うとエルレイはニコッと笑った。

 

「グレン、元気出た…ありがと」

 

「そのいきだ。エルレイねえね」

 

「撤回、殺意がわいた」

 

 

★★★

 

現在。エルレイ、システィーナ、ルミア、リィエルの三人は、白金魔導研究所の見学が終わったので、自由時間となり日が落ちかけた頃…、街のレストランで食事をとっていた。

 

「でも、コピーを生成するってどうなんでしょうね」

 

「う~ん、確かに死んだ人への悲しみは和らぐとは思うけど…」

 

そんな話をしているシスティーナとルミアを他所に、リィエルがスパゲッティを食べていた。

 

「おいしい」

 

エルレイが注文してあげた品だったが、どうやら口にあったようだ。

エルレイは安堵する。それと同時に、リィエルを見ながら考え始めた。どうやっておびき寄せるかを…、あの頃はこの時間にエルレイが一人で浜辺に行き、ライネルに見つかった…だから今もついてきてるはず。

 

(一か八か、やるしかないのかな)

 

エルレイは食べていたパンを食べ終わり、その場を立った。

 

「じゃ、後は生徒だけでごゆっくり」

 

「エルレイねえね、行っちゃうの」

 

「もう少しゆっくりしててもいんじゃないですか?」

 

「生徒同士で話したいこととかあるでしょ、禁断の恋とか」

 

リィエルとルミアが軽く止めてくるので、エルレイはからかい口調でシスティーナの事を見ながら言った。

 

「はあ?!?!そ、そ、そそそそそそんな話あるわけないじゃないですか!!!」

 

「きんだんのこいがんばれ~」

 

「だからそうゆうのじゃないですってばあああああああ!!!!」

 

システィーナをからかうのは楽しいなと、エルレイは心の中でほくそ笑んだ。

そしてエルレイは全員分の代金を出し終えて、扉の前に立つ。

 

そして───。

 

「《刮目せよ・我が幻想の戯曲・演者は我・我は彼の声で歌わん》」

 

エルレイの周囲の空間が一瞬、ぐにゃりと揺らいで…エルレイの姿の焦点があやふやになり、再び焦点が戻った頃には。

 

「よし」

 

エルレイは過去の自分を真似たセルフイリュージョン、つまりは現在のリィエルと同じ体型、格好になっていた。

エルレイの作戦はこうだ。

まず自分がセルフイリュージョンでリィエルの姿になり、その後浜辺まで走る、そこでライネルの言葉にわざと乗っかり、基地をぶっ潰す。

 

「問題は、店の近くにいるかどうか」

 

店の中を見渡してもいなかったので、ライネルは外にいると踏んだが…外にもいなく、そのままエルレイが帰るまでにルミアとリィエルに接触されたら即アウト。

 

「やらないよりはやろう」

 

そう思い、一目散に店を飛び出し。昔座り込んだ浜辺の近くまで走り出した。

 

★★★

 

周りはすっかり夜になり、エルレイは件の浜辺へと足を運んでいた。

 

(……足音はした、間違いなく来てる)

 

エルレイは浜辺の波の音を聞きながら木影に腰かけた、そこで軽く持ってきた水を飲む。

 

(…状況はほぼ前と同じ、さあ、こい)

 

エルレイは波の音を聞きながら静かに待った。優しい風がざわざわ木を揺らし、優しい音色へと変わる。そしてエルレイが夜になった星々が輝く空を見上げた……。

 

その時────。

 

「ここは落ち着く場所だね、リィエル」

 

  ──かかった──

 

エルレイは一瞬不敵な笑みを浮かべた。顔を無表情に戻した後に、振り向くとそこには青色の髪をした青年が立っていた。

 

「……兄……さん?」

 

「…覚えててくれたんだ。うれしいよ、リィエル」

 

そう微笑みながらライネルは話を続けた。

 

「ずっと会いたかったよ、リィエル」

 

「生きてたのなら……今まで…何であってくれなかったの?」

 

エルレイの演技は恐ろしいものだった。

エルレイの元コンビのアルベルトは演技が上手く、それを多少かじっているので、驚きの表情や悲しみの表情を出すことなど容易いことだ。

 

「二年前、僕は奇跡的にうまく宮廷魔導士団へ亡命でき自由を手にすることができた。でも僕は失敗して…今でも奴隷だ」

 

「そん……な…」

 

エルレイは驚きの表情を見せる。

 

「わたし…なんでもする……だから……ずっとそばにいて…!」

 

「僕を助けてくれるのかい?ありがとうリィエル、それじゃあ、あることを一つ頼みたいんだ」

 

「うん……なんでも言って……」

 

「今、組織はとある計画を動かしている。その計画にはルミアという少女が必要で…そして彼女を守る魔術講師が邪魔だ、排除しなければならない」

 

「…」

 

「僕に協力してくれ、リィエル、あれから従順に組織に尽くして二年…組織は僕にチャンスをくれたんだ。ルミアの身柄を抑えてとある作戦を成功させれば…僕に自由をくれると約束したんだ」

 

「あぁ……あ…」

 

「僕を手伝ってくれ…リィエル。おいで、僕たちの新しい家に案内するよ」

 

───釣れた、完璧に釣れた…。これでもう逃がさない…、絶対に。

 

エルレイは心の中で不敵な笑みを浮かべた。

 

★★★

 

「グレンく~ん、レイちゃん知らない」

 

「んあ?しらねー、白猫たちの部屋にいるだろ」

 

ホテルに戻ってきたセラは、エルレイがいないことに気付き、ホテル内をウロついていた。

 

「行ったけどいないってわれたんだよ~」

 

「ま、そのうち帰ってくんだろ。もうすぐ夕飯だしな」

 

「そんな適当なー!!レイちゃんが心配じゃないの?!」

 

「少なくともお前よりは信頼できるわ」

 

「何を~!」

 

そんな喧嘩をしていると、突然グレンの魔導器が鳴り始めた。

 

「誰だよこんな時に…」

 

グレンはイラつきながら通信接続した。

 

「俺だ」

 

『グレン、今いいか』

 

声の主はアルベルトだった。また面倒なことになりそうだ…、グレンは頭をかいた。

 

「お前かよ…何の用だ」

 

『エルレイがライネルと思われるものと接触した』

 

「…何?!」

 

グレンは驚きの声を上げる。セラは話しについていけず放心状態だ。

 

「なんでンなことになってんだよ!!!」

 

『あいつは変身し、リィエルに成り済ましてライネルと浜辺で接触し、連れてかれた』

 

「変身だと?なぜあいつがそんなこと」

 

グレンは怒りの声を出した。アルベルトは淡々としゃべり続ける。

 

『おそらく、リィエルの狙っている連中の事を知っているんだろう、その手口もな』

 

「自分が囮になってそこを奇襲ってわけか……。今アイツはどこにいる」

 

『今すぐ俺の元まで来い、話はそれからだ』

 

そう言い残すと、アルベルトは通信を切ってしまう。

 

「行くぞセラ。エルレイの元までアルベルトが案内してくれるってよ」

 

グレンはすぐに軍の黒いローブに着替える、セラも気付いた時には着替え終わっていた。

 

「レイちゃん、無事だといいんだけど…」

 

「……無事じゃねえと色々困るだろうが、仕事とかリィエルの世話とかよ」

 

そんな素直とは言えないグレンを見て、セラは微笑んだ。

 

「ふふっ、そうだね。じゃ、久々に特務分室…。執行官ナンバー3《女帝》と執行官ナンバー0《愚者》のコンビで行こうか!」

 

「おう、って俺はもう特務分室じゃねえけどな?」

 

そんな談義をしながら、グレンとセラはアルベルトのいる場所へと駆け出して行った。




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エルレイ「ついにここまで来た、絶対ぶっつぶす」
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