『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ   作:エクソダス

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ジャティスとの戦闘

 

 

「……」

 

レオスの姿をしたエルレイは、夜に人通りのない細い道で、息で自分の手を温めながら歩いていた。

 

「……」

 

準備は万端、後は黒幕をつぶすだけ。そしてこの体でふらついていれば、すぐに接触するだろうと踏んでいた。

 

「…こい」

 

エルレイが夜の道を歩き始めてから数分、エルレイに正面から近づく黒い服を着たハットをかぶっている人影、ジャティスを見つけた。

 

(奴だ)

 

エルレイは相手からの接触を待とうと、何気なくその場を通ろうとする。

 

「ふっ、きちんと殺したと思っていたのにね。一応確認もしたはずだけど」

 

「…!へえ」

 

通り過ぎる直前。

ジャティスがそう呟いた…、バレていると判断したエルレイは、指を鳴らし、セルフ・イリュージョンを解いた。

 

「気付くの、早いね」

 

「その誉め言葉、素直に受け取っておこう。ところで、本物のレオス君はどこだい?」

 

「今は、病院、何の心配もない」

 

それを聞いたジャティスは顔を伏せ、不敵に笑った。

 

「なるほど、どうやってあの状況で生きていたのかは知らないが…、すべて君の手の中で踊らされてたってわけだ。まさかあそこでレオス君を助ける算段をつけているとは、流石に思わなかったよ」

 

「私も、その誉め言葉、素直に受け取っておく」

 

エルレイはそういうと、軽く一礼をしてからジャティスに向き直る。

 

「Project:Revive lifeを滅茶苦茶にして、あのエレノアが一目置いてるだけはある。ついでにもう一つ質問してもいいかな?」

 

「何なりと」

 

「レオス君と君は何か関係があるのかい?それとも偽善で助けようと」

 

「偽善、断言する」

 

そういうとジャティスは目を細めた。

 

「友達が、システィーナと、エレンが悲しむと思った。それだけ」

 

「くくくっ…。君は僕が思っていた以上に面白い存在かもね…」

 

偽善だと断言するエルレイに、またジャティスは不敵に笑った。

 

「使えそうだ…決めた。僕、君を持ち帰るよ──。()()のためにね」

 

 

 

 

「そ、()()()

 

そういうとエルレイは手を前に出し、詠唱を始める。

 

「《万象よ2つの腕手に・剛毅なる刃を》」

 

エルレイは詠唱をし終えると、大剣を両手に1本ずつ持ち、構えた。

 

「反撃してくれたほうが、気が楽」

 

「…驚いた。その複雑な魔術をそこまで早く詠唱できるのか」

 

そう言いながら、ジャティスは笑って。余裕そうに構える。

 

「おそらくあの時も、手加減していたのだろう、しかし…」

 

その時、エルレイの四方八方からタルパが出現する。

しかし前回戦った物ではない、炎に包まれた拳大の赤い結晶体に、一対の翼が付いたような謎の生命体。それらが計10匹。

 

「こいつらは、この間の奴らと比べ物にならないほどかたいよ?」

 

「そ」

 

エルレイはジャティスの言葉をめんどくさそう返し──。

ドスッ!ドスッ!と大剣2つをその場の地面に刺した。

 

「おや、いきなり戦意喪失かい?」

 

「まさか」

 

エルレイはポケットから一枚のカードを手に取り、掲げる。それは執行官ナンバー1《魔術師》のカードだった。

 

「なっ……!?どうして君がそれを」

 

「眷属秘呪、《第七園》」

 

エルレイの周りを炎が囲い、赤い結晶体のタルパが次々と炎にのまれ、消えていく。すべて消えたのを確認してからエルレイは《魔術師》のカードをしまった。

 

「本当に、ただ物ではないみたいだね」

 

ジャティスは冷や汗をかきながらニヤっと笑った。

 

「そっちが来ないなら、こっちからいく」

 

すぐさま大剣を2つ持ったエルレイは、構えて地面を踏みしめる。

 

「っ!」

 

瞬間───、エルレイは足を踏み出し、人間とは思えない速さでジャティスの前に現れて。

 

「やあああああああああああああぁ!!」

 

ジャティスの頭上に頭目掛けて切り付ける、が。

 

ガキンっ!!

 

それを読んでいたかのように、ジャティスは持っていた杖を盾にして両方の大剣を受け止めた。

 

 

「遅い」

 

「速さはっ……ね!!」

 

その後両手に力を入れ、バキバキと杖を壊す。

 

「っ!」

 

「やああああああああぁぁぁ!!!!」

 

杖を破壊し、振り下ろされた大剣2つをジャティスは避けようとしたが──。一歩間に合わず、ジャティスの両肩に命中し、そこから血が流れ出る。

 

「ぐっ!!!」

 

「…浅かった。次は仕留める」

 

エルレイは大剣に滴る血を見ながら、片方の大剣をジャティスに向ける。

そして。

 

 

 

 

 

 

「…くっくくくっ。どうやら僕だけでは無理らしい」

 

 

その後、エルレイが攻撃を連続で繰り出すがすべてジャティスに防がれてしまい。

ジャティスもまた、早すぎるエルレイに攻撃を当てることができずにいた。戦って数分、攻撃が当たらないので相手が悪いと思ったのかジャティスは諦め、後ろへ下がった

 

「今回のところは、引かせてもらうよ、悪いね」

 

 

 

「諦め早いね、貴方程度、すぐに倒せるから問題ない。次私の、友達においたしたら、これじゃすまないよ」

 

「ご忠告どうも、君が死んだときのグレンとセラの顔が楽しみだったんだが…当分、先になりそうだね」

 

そういうとジャティスは暗闇へと姿を消していった。

 

 

 

★★★

 

「レイちゃああああああああああああああああああああああん!!!!」

 

「く、くるしい…」

 

エルレイが久しぶりにセラの家に帰ると、エルレイをセラが見た瞬間に抱きしめてきた。

 

「もうっ!!すっごく心配したんだよ?」

 

「ごめん、でも置手紙はちゃんと置いた」

 

「え?!そうなの?」

 

「うん、そこにちゃんと」

 

「あ、ホントだ…」

 

どうやらセラは焦りすぎて周りが見えなくなり、青い手紙すら目に止めることなく学院まで駆け出したらしい。

 

「ごめん。でも有休も普通に取ったし、もうセラたちにも知らされてるとばかり…」

 

「じゃあ、私に愛想つかして出て行ったんじゃないんだね?」

 

「違う、どうしたらそうなるの」

 

エルレイはため息をついた。

心配させてしまったのは申し訳ないが、奴らと接触するのにはグレンやセラがいるとどうにもやりずらいのだ。

 

「よ、よかった~」

 

「ここを出てったら、私住むところなくなっちゃう」

 

エルレイはそんなジョークを言いながらキッチンに立ち、エプロンを取り出して着用する。

 

「お詫びに、何か作る、リクエストは?」

 

「しいて言うなら…、レイちゃんの愛情かなっ」

 

セラは、そういたずらっ子のように微笑んだ。エルレイは少し苦笑いをする。

 

「愛情ね、分かった…。血でも入れるね」

 

「え?!?!」

 

「冗談」

 

エルレイはセラにしてやったぜ、という顔を向けてから調理を開始した。

 

(…これで、最悪の状況は。無くなったはず)

 

これでエルレイの知らない間にグレンとセラに危険が及び、どちらかが死んでしまうという可能性。

そして、レオスが生きている事によってのエレンの負の緩和、問題はない…、ハズだ。

 

「あ、そういえば、グレン君がレイちゃんと私に決闘申し込むって」

 

「…え?」

 

突然のセラの発言に、エルレイは困惑した。

すべて終わったはず、なのになぜまた喧嘩を吹っ掛けられなければいけないのか。

 

「…何故?」

 

「なんか逆玉があきらめきれないみたい…。本心じゃないハズなのにね」

 

そんなことを言いながらセラは苦笑いをし、エルレイはため息をついた。

 

 

 

 

★★★

 

次の日、エルレイは今回の件が無事に誰も犠牲を出すことなく済んだことを安堵しながら教室へ向かった。

 

「よおおおおおおおおおおおぉぉし!!エルレイ!!セラ!!勝負じゃああああああああああああああああああ!!!」

 

何事もなかった(この後何も起こらないとは言っていない)と思い老けながらエルレイは、叫ぶグレンを見ながら冷たい目線でため息をつく。

 

「…どうしてこうなった?」

 

「いやね?確かに2組が勝ったけど、結局システィーナちゃんをどうするかでグレン君と私で揉めちゃって」

 

「あの時は、血が上ってたから仕方ないけど…、今は流石に落ち着いて話しよ?」

 

すべての今回の件が終わり。エルレイが安堵して肩の力を抜いて疲れているところをこれでは、疲れも取るに取れない。

 

「簡単に玉のこしを諦めてたまっかよ!!」

 

「私だって、システィーナちゃん娘にほしいもん!」

 

「エルレイでも娘にしてろ白犬!!」

 

相変わらずの謎の喧嘩に、エルレイはため息をついて、システィーナの元へ寄る。

 

「ごめんね、システィーナ、なんだかんだで、変な事巻き込んじゃって」

 

「あ、いえ!?エルレイ先生に謝られると…何も言えませんよ」

 

エルレイは苦笑いをしながら、ふと疑問に思ったことをぶつけてみた。

 

「そういえば、この3人の中で、一緒に暮らすとしたら誰?適当でいいよ」

 

「えっと…、そう…ですね」

 

まあ、自分のいた世界ではシスティーナとグレンがくっついてるからどうせ……。あれ?

 

(セラもいるから…グレンって、誰とくっつくんだろ)

 

見ている感じだとセラとくっつきそうではあるが、エルレイからして見れば自分の知るシスティーナとグレンがくっついてるのが自然なわけで…。

 

(…ロクサスがいないし、ルミアって可能性もある。でも、イヴの弟のシュウがいないから…イヴの可能性も無きにしも…)

 

エルレイは、よくわからない他人の恋路を考えていると。

 

「エルレイ先生…ですかね?」

 

「…ふぇ?」

 

エルレイの名を出されるとは思わなかったので、エルレイは変な声を上げてしまう。

 

「えっと…。魔術の事詳しく教えてくれそうだし…かっこいいし…」

 

そんなことをシスティーナが俯きながら言った。

百合はエルザだけで十分…。そんなことをエルレイは思ったがなぜか悪い気はしなかった。

 

「ありがと、うれしい」

 

そういうとエルレイはシスティーナの前にいちごタルトを差し出す。

 

「ありがとタルト…ですか?」

 

「そ」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

そういうとサクサクとシスティーナは食べ始めた。

リィエルがじっとこちらを見てるので、とりあえずいちごタルトをあげたらサクサク食べながら黙った。

 

「エルレイ先生って…、ホントに気品があるというか…憧れます」

 

そんなことをルミアが笑顔で言ってきた。

 

「私にあこがれても、ロクな事ないよ?」

 

「そうですか?とっても大人っぽくて。時には小動物みたいで可愛くてって、すっごく生徒の評判いいんですよ?」

 

…この際、小動物で怒るのはやめよう…。自分のクラスメートにも言われたことあるし。

 

「…ん、ありがと」

 

「ふふっ、少し赤くなりましたね」

 

「______!///////」

 

どうやら自分でも気が付かないうちに小動物みたいで可愛い、ということに照れてしまったようだ。

エルレイは必死に隠すように、即座に喧嘩をしているセラとグレンに手袋を投げる。

 

「わっ!!」

 

「あぁ?!」

 

二人とも手袋に驚き、エルレイのほうを反射的に見る。

 

「システィーナは二人の物じゃない、私の物」

 

「お前あんときの決闘休んだくせに!!」

 

「それとこれとは話が別、さぁ、やろう」

 

エルレイは素晴らしい笑顔で(目は笑っていない)二人を見つめて微笑んだ。

 

(ぐ、グレン君…どうしよ?)

 

(お、俺らじゃエルレイ、もといリィエルに勝てないことは目に見えてるからな)

 

(じゃあ…)

 

(ああ…)

 

その後数秒の沈黙の後…。

 

 

 

「「にいげるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」

 

二人は一目散に逃げた。

 

「システィーナは渡さない、たとえ二人であっても…死」

 

エルレイはそう微笑みながら、(目は笑っていない)教室にすぐに戻るから自習をしているようにつげてから、二人を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「ほほぉ、こりゃまた…」

 

バーナードはエルレイとジャティスが戦闘していた場所を見ながら唸った。

 

「まさかジャティスをたった一人で食い止めるとはのぅ…」

 

「自分の騎士長様です、これくらいは当然ですっ!」

 

エルレイの事をまるで自分の事のように胸を張るエザリー。

 

 

「しかし、ここまで痕跡がないとは…」

 

クリストフは地面を触りながら苦笑いをいた。

そう、戦闘していた痕跡はどこにもないのだ。あるものと言えばジャティスの血ぐらい…、どこも破壊された箇所はないし、クレーターができてもいなかった。

 

「流石、未来の人形ってとこね」

 

ふんとイヴは鼻で笑った。

おそらく未来のリィエルだとしても、リィエル1人を危険な目に遭わせたのが気にくわないんだろう。エザリーは苦笑いをした。

 

「それ、基本的に、リィエルに言っても嫌味ととらえてくれませんからね?主にイヴさんの言葉では…」

 

「…ふん」

 

また鼻を鳴らしたイヴ。エザリーは座り込み、地面を確認する。

 

「リィエルの…。血はない、見たい、よかった」

 

「安心している場合ではないぞ。味方であるなら頼もしいが、敵だとするなら厄介だ」

 

「かあぁ~~、アル坊や、頭が固すぎるわい…」

 

「でも確かに、エザリーさんは我々の仲間として動いてくれてますけどこの方は…」

 

そんなエルレイの疑惑を打ち消すように、エザリーはぱんぱんと手を叩いた。

 

「大丈夫ですよ。うちの騎士長様は、だれにも悟られることなく敵を倒し、悟ったころにはもう、後の祭り───。そんな芸当ができる自慢の上司ですから♪」

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「結局何もなかった…」

 

エルレイは教室のすみに座り込み、妙な胸騒ぎが特に何も引き起こさなかった事に安堵していた。

 

(…)

 

終わった、終わったはずだ。

しかし何か引っかかりがある、それが分からない。

 

(…考えても仕方ないか)

 

そう思いながら、エルレイは自分のポケットからいちごタルトを取り出して、頬張る。

 

「頂戴」

 

「え……。わっ!」

 

また突如いたリィエルに驚いてしまったが、いつも道理落ち着いていちごタルトを渡す。

 

「そいつ、お前が渡したいちごタルトしか最近食ってねえんだよ」

 

「ん、そうなの?」

 

「うん、学食だと最近ほとんどリィエルちゃん食べないから」

 

「それは めっ」

 

エルレイはぺちっとリィエルの頭を叩いた。

 

「痛い」

 

「それって、リィエルが夢中になるなんか薬でも入ってんの?」

 

「Project:Revive lifeの、精神安定薬が……一応」

 

「…すまん、マジで入ってたのか」

 

まさかホントに入ってるとは思わなかったのか、グレンは苦笑いをした。

 

「ところでレイちゃん。何か考えごとにふけってる、みたいな感じだったけど大丈夫?」

 

セラが心配そうに顔を寄せてくる。

 

「大丈夫」

 

そう、大丈夫。

システィーナにドレスを着せられなかったのは悔やまれるがそれだけだ。

それ以外には何もないはず、何もないはずなのに、こわい、こわいこわい……肉体生成をした反動がまだ残ってるのだろう、エルレイは体を少し震わせた。

 

「体、震えてるよ、大丈夫?」

 

「……!」

 

そういうと、セラは優しく抱きしめてくれる…、心地いい。

フワフワする…、今まであったもやもやが一気に吹っ飛んだみたいだ。エルレイは軽くため息をついた。

 

「……ちょ…と」

 

「…なに?」

 

「もうちょっと…、抱きしめてて…ほしい」

 

これは子供としての感情だとはわかっている。

分かっているが、心地よさにはあらがえなかった。

 

「!うん、ぎゅううううううううう!!!」

 

「…」

 

前言撤回。抱きしめるのはいいけど苦しい、死ぬ。

 

「ごめん…やっぱやめて…」

 

「さっきレイちゃんが抱きしめてって言ったんじゃん!!」

 

「お前な…抱きしめるにも限度あるだろ。軽く白目向いてたぞ…。エルレイ?大丈夫か?」

 

そう言いながら、グレンはエルレイのもとに駆け寄ってくる。

 

「ん、大丈夫、何かに満足した…。苦しかったけど」

 

「苦しかったけどな」

 

「二人して苦しいを強調するなあああああああああああああああぁぁ!!」

 

 




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エルレイ2「アンケートしてくれた人、協力ありがと」

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